2人で夢をなぞれば
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なんで正直になれないんだろう…
それが私の今の悩みだった。
私の趣味は踊ること。特にダンスが好き。
あんまり人には言ったことないけれど将来の夢はダンサーだ。
けれど、私は誰にも夢を打ち明けるつもりはいっさいない。

「わぁ!六条さんダンス、うまっ!」
学校が始まって数日後のダンスの時間。突然聞こえた感嘆の声に、ふとそちらを見ると、ダンス室の真ん中に
視線が集まっていた。
「本当だ!」
「プロみたい!」
「プロって、ダンサーってこと?さすがにそれは難しいんじゃない?」
そんな声に思わず聞き耳を立てる。
私が自分の夢を打ち明けない理由の一つがこれだ。
「ダンスやってるんだ。でも、ダンサーになんかなれるわけないのに。」
そんなふうに言われるだけだと言うことはわかってるから。
私はダンスの時間では、本気でやらない。上手じゃないふりをする。
本当は一生懸命やりたいけど…
ダンス室を出ようとした時、やっぱり六条さんのことが気になった。
六条さんとは違う小学校出身なのであんまり知らない。
だけど、クラスの誰かと仲良く話してる姿を見たことはなく、独りぼっちでも気にしない、どちらかというと一匹オオカミだろうか。
近寄りがたい空気を常にまとっていて、私はまだ一度も六条さんと喋ったことがない。
あれほどみんなが褒めていた踊りはどれほどなのか興味にそそられ、私はダンス室から出ようとした向きを変え、六条さんを見た。
「うわっ!すごっ!」
思わず漏れてしまった言葉に、六条さんの体がピクッと反応したが、その後は何事もなかったようにたんたんと踊っている。
キレがある動きはプロのようで誰もが感心するような踊り。
私は六条さんのキレのある踊りに目を奪われた。
一緒に踊ったらどんなにすてきになるだろう!
六条さんのダンスを見ながら、そんな妄想をしていた。
ピタッ、と六条さんの動きを止める音に、私はハッと我に返った。
踊り終わった六条さんは、さっさとダンス室を出て行ってしまった。
「あっ!ちょっと待って!六条さん!」
慌てて六条さんの背中を追いかけた。
「ねぇ、六条さん。お願いがあるんだけど!」
そんな私の声なんか聞こえてないように六条さんはすたすたと教室に向かっていく。
「ねぇ、六条さん……私と一緒に踊らない!?」
気づいたら、そんなことを口走っていた。私の言葉に六条さんが足を止めると、少しだけ振り返って私の方を見た。
「踊る?」
六条さんが無表情な顔つきでポツリとつぶやいた。
その顔を見た瞬間、自分の言ったことを後悔した。
突然、友達でもない、ただのクラスメイトから「一緒に踊ろう。」と言われて、
「うん。踊ろう。」なんて答える人がいるわけない。
しかも、「一緒に踊る?」なんて内心笑っているかもしれない。
それでも……笑われてもいい。六条さんの踊りに、わたしはそれだけの魅力を感じたんだから。
「そう!踊ろう!私ね、ダンスを練習してダンスコンテストに応募してるんだ。それで今度のコンテストがあるんだけど、六条さんと一緒に踊ったらすごくいいダンスになるかなと思って!」
ダンスの教科書をぎゅっと握りしめると、一気に言い切った。
「なんで?」
六条さんの温度のない声が、2人だけの廊下に響いた。
「えっ?なんでって……六条さん、ダンスが上手だから?」
六条さんの思いもよらぬ反応にオロオロしながら答える。
「なんでダンスが上手だからって坂井さんのためにそんなことしなくちゃいけないの?」
「えっ?なんでって……」
「ひょっとして坂井さん、ダンサーになりたいの?」
六条さんの言葉にドクンと心臓がはねる。
『坂井さんってダンサーになりたいんだ。』
小学生の時に言われた言葉に「それなの無理に決まってるのに。」と言う意味が含まれているなんて、
あの頃は気づきもしなかったけど。
今はちゃんとわかっている。
「お、思ってないよ。やだなぁ、そんな夢みたいなこと、思うわけないじゃん。ただの趣味だってば。」
引きつった笑みを浮かべながら六条さんにそう返した。
そんな私に、六条さんは顔をしかめた。
「そう。だったら、坂井さんの趣味に付き合ってる暇なんかないから。私、本気でダンサー目ざしてるの。」
そう言うと、ふいっと顔を背けて六条さんは行ってしまった。
私はその場に突っ立ったまま、呆然と六条さんの背中を見送ることしかできなかった。
今、六条さんはなんで言った?
『私、本気でダンサー目ざ出してるの。』
本気で、と言うことは、本気でなろうとしてるってことだよね?
思わず教科書を抱きしめる手に力がこもる。
そんなの、みんながなろうと思ってなれるわけじゃないのに。
夢を見るだけ無駄なのに。
誰かに夢を語ったってそんなふうに思われてるだけのことを六条さんはまだ、知らないんだ。
そんなことを考える自分に気づいて、ふっと、卑屈な笑みがこぼれる。
私も、他の人たちと変わらないじゃない。
今の六条さんの言葉を聞いてそう思わなかった?
私自身がそう言われて傷ついたはずなのに。
小さく息をはくと、人気のない廊下を重い足を引きずりながら教室に向かって歩いていった。

その日の夜、ベッドの上にごろんと仰向けになると、書きかけの新しいダンスの内容が書いてあるノートを両手で開いた。
もう、内容は大体決まってる。あとは練習するだけ。
なのに体が動かない、
原因はわかってる。六条さんの、あのダンスだ。
一緒に踊るところを思わず妄想してしまう。
ううん、あのキレを最大限に活かすには、この内容じゃダメだって言うことがわかってるからこそ、体が動かないんだ。
ダンスの一つ一つをもっと具体的にイメージしなきゃ。
がばっとベッドから起き上がると、私は机の前に座り直した。
デスクライトをつけると、書きかけの内容に大きくバツ印をつけ、新しいページを開く。
最初はアクロバットで登場した方がいいだろうか?最後は……。
ダンスを思い浮かべながら、私は一生懸命書いていった。
「できた!」
大体内容を書き終えると、ノートを頭にかかげた。
「ふぁ〜」
そのまま大きなあくびをすると、時計に目を向ける。
「うわっ!もう12時過ぎてる!」
そりゃあ、眠いわけだ。
私はノートをそっと置くと、ベッドにばふっとダイブした。
明日、学校に行ったら、六条さんに嘘をついてしまったことを謝って、この内容を読んでもらおう……。
そのまま、私は深い眠りに落ちていった。
その夜、私は夢を見た。
コンテストで一緒に楽しく踊っている2人をー。

水曜日、教室の手前で立ち止まり、大きく深呼吸してから教室へ入り、その足で六条さんのもとへ向かった。
「六条さん、ごめんなさい!」
「何が?」
本を読んでいた六条さんが、少しだけ視線を上げると、私の方をちらっと見た。
「昨日、私、六条さんに嘘ついた。あの……まずはこれを見てほしいんだ。」
そう言うと手に持っていたノートをぐいっと六条さんの目の前に差し出した。
「これは?」
ため息を一つつくと、六条さんがひと言ぶっきらぼうに言った。
「昨日言ってた、ダンスのこと。」
「だから……」
「とにかく見てみて。お願い。」
六条さんの言葉を途中でさえぎると、頭を下げた。
六条さんは無言でじっとノートを見つめたあと、ノートを受け取ってくれた。
「放課後までに読んでおく」
そう言うと、六条さんはノートをそのまま机にしまい込んだ。
「うん。ありがとう。」
私は自分の席まで行くと、カバンを置いてすとんと腰を下ろした。
心臓がまだドキドキと大きく打っている。
この前は「坂井さんの趣味に付き合ってる暇なんかないから。」なんて言われてしまったけれど、六条さん、ちゃんと私のノートを
受け取ってくれた。
それだけで、私の気持ちを受け取ってもらえたような気がしてすごく嬉しかった。
私の思いはあのノートの中に全部詰め込んだ。がんばれ!私のダンスの内容!

放課後、みんなが帰った後の教室で、私にノートを突き出した。
「で?」
「『で?』って、あの……見てみてどうだった?」
恐る恐る六条さんに問い返す。
「私なら最後はアクロバットで終わるんじゃなくて、すごいポーズでフリーズする。」
と言った。
「ああ、やっぱそっちかぁ!」
「うん。こっちの方がいいと思う。」
「本当!?じゃあ……」
そう言いかけて、いったん言葉を飲み込んだ。私、まだかんじんなことが言えてないよ。
「あのね、六条さん。昨日の火曜日のことなんだけど、私、思わず嘘ついちゃったんだ。」
六条さんは黙ったままじっと座っている。
しんと静まり返った教室には、運動場で練習の始まった運動部の元気な声が遠くの方から聞こえてくるだけで、
それが教室内の静けさを余計に際立たせている。
「えっとね……私ね、昨日はそんなんじゃないって言っちゃったけど、本当はダンサーになりたいんだ。」
「だから……一緒にコンテストでおどりたいです!」
「いいよ。」
「えっ?いいの!?」
「うん。」
「ありがとう!」
「で、内容は大体あれでいい?」
「うん!」
「じゃあ、今からダンス室行くわよ。」
「ダンス室?」
「そこの方が作業しやすいでしょ。」
「そうだね。」
すると、六条さんは立ち上がってさっさと歩き出した。
「ああっ!ちょっと待ってよ。」
「で?何分の演技なの?」
ダンス室へ歩きながら、六条さんが訪ねる。
「えっと、演技は5分だって。」
「結構多いわね。今日から練習しなきゃ、ギリギリぐらい。」
「オッケー。」
「あと、ダンス室のタブレットで動画撮るから。それで練習して。」
「う、うん!」
六条さんとダンス室で練習できるなんて、昨日まで思ってなかった。全部、先にカミングアウトしてくれた六条さんのおかげた。
「私、ちゃんと本当のこと言えてよかったよ。」
「一緒に踊ってくれることになったから?」
「ううん。いや、もちろんそれもだけど、それだけじゃないよ。こうやって一緒に踊れる友達がいるなんて、今までいなかったから。」
「それ言ったら私も同じ。坂井さんが夢のことちゃんと打ち明けてくれて嬉しかった。」
「本当?」
「ふつうさ、ダンサーになりたいなんて夢、『そんなの無理に決まってる』って思われるじゃない?だけど坂井さんの話を聞いて、
『ひょっとしたら坂井さんはダンサーになりたいのかも。』って期待したんだよね。なのに笑って否定されたから『ああ、この人もか』
って思ったら、本当はあの時、ちょっと悲しくなっちゃったんだ。」
「あの時は本当にごめんね。私も、本当のことなんか言ったらばかにされちゃうかもって思って、言えなかったの。」
すると、六条さんはちょっと笑みを浮かべた。

それから、私たちは毎日、六条さんと一緒に放課後のダンス室へと通った。
ダンス室はダンスが好きな人がたくさん集まっていて、とっても賑やか。
先輩からいろいろなアドバイスをもらえてどんどん上手くなってると思う。
「すごい、すごい。坂井さんのような人を乾いたスポンジみたいって言うんだね。きっと。」
「そんなにすごくなんかないですよ。先輩の教え方が上手いだけですから。」
2年生の吉川先輩に褒められ、にやついていると、六条さんがすかさず先輩に言い返す。
「そうですよ、先輩。あんまり褒めるとツケが上がるんで、やめてもらえますか。」
「あはははは。六条、あんた、なかなか言うようになったね。」
「……坂井さんにだけですよ。」
不服そうに言う六条さんに、吉川先輩はまた笑った。
そんな充実した毎日を送る中ーーー事件は、突然起こった。

「あれっ、タブレットの動画がない!」
いつも使っている写真のアプリには2人で撮った練習用の動画がなくなっていた。
この動画には今まで考えてきた全ての振り付けが入っている。
どうしよう。なくなった。
私はその場にへたり込んだ。
私たち、一生懸命やってきたのに…
誰がこんな酷いことを…
「坂井さん、どうしたの?」
床に座り込んだ私の方へと足早にやってきた六条さんがタブレットを見た瞬間、ごくりとつばを飲み込んだ。
「六条さん。誰がこんな酷いことを…」
かろうじて出たかすれ声に、我慢していた涙が一粒頬を伝った。
今日は火曜日なので、私たちの他には誰もいないのが、救いといえば救いだった。
「これからどうするの?」
先に口を開いたのは六条さんだった。
「どうするって?」
ぼうっとした頭で私は繰り返した。
「コンテストまで、あと2週間しかないけど。」
「だから……もう間に合わないよ。」
「そう。じゃあ、私帰るね。」
そう言うのと同時に六条さんはすくっと立ち上がった。
「えっ」
驚いて六条さんを見上げる。
「今日はできないんでしょ?だったら、ここにいたってしかたないし。」
そう言い残すと、さっさとダンス室を出ていった。
その後ろ姿を、呆然としたまま見送る。
そうだよね…。もう、できない。
ダンスの内容はほとんど覚えてない。少ししかやってないから。
でも、もう一度六条さんと一緒に踊りたい!

「六条さん、お願い。もう一度一緒に踊ろう。」
翌日。帰りのホームのあと、教室を出て行こうとする六条さんを必死に呼び止めた。
「だって、もう間に合わないんでしょ?やるだけ無駄じゃない。」
足を止めた六条さんが、ちらっと私の方を振り返るとそっけなく言う。
「無駄じゃない。わたし、昨日、必死に内容を思い出したの。自分で書いた内容だから。だから、結構思い出せた。で、思い出せなかった所は一緒に考えればいいでしょ?だから……」
六条さんは呆れた顔をして、一生懸命喋っている私に言った。
「ほら、早く行くよ」
「えっ?」
私は六条さんの背中を小走りで追いかけた。
ダンス室に着くとすぐ、六条さんはもくもくの準備を始めた。
「六条さん。あの……ありがと!」
「まだ撮ってないけど、できるだけのことはやるんでしょ?」
「うん。」
あくまでそっけなく言う六条さんに、嬉しくてにやにやしそうになる口を必死に引き結んでこらえると、私も一緒に作業した。
これならひょっとしたら間に合うかもしれない。そんな期待に胸が膨らんだ。

キーン、コーン、カーン、コーン……
「今日はここまでかぁ。」
私は両手を天に突き上げると、ぐいっとのびをする。
「そろそろ帰ろうか。」
そんな六条さんの声に合わせて2人はダンス室をあとにした。

次の朝、早く練習したくて、いつもより30分早く学校に着くと、練習するため、ダンス室の鍵を取りに、職員室へと向かった。
「鍵なら、もう持っていったぞ」
ダンス室の管理人の佐藤先生の言葉にほっとする。
「六条さん、さすが。早いなぁ。」
「うん?六条じゃなくて吉川だぞ。」
私の独り言に佐藤先生が首をかしげる。
「吉川先輩っていつもこんなに早いんですか?文化部でも、朝練なんかあるんですね。」
「はっはっはっ。ダンスに朝練なんかあるもんか。昨日、ダンス室に忘れ物をしたと言っていたぞ。」
先生の言葉に悪い予感が頭の中をよぎる。
昨日、吉川先輩はダンス室に来てない。
ひょっとして….ううん、そんなはずがない。
悪い予感をかき消すように頭を左右に振ると、ダンス室へとかけ出した。
「こら、坂井!廊下を走るんじゃない!」
佐藤先生に怒られたけど、構わず全力で走った。
ダンス室のドアを開けると、吉川先輩がハッとした顔で私を見た。
吉川先輩は私たちのタブレットを開き、私たちのダンスを消そうとしていた。
「吉川先輩、何してるんですか…?」
震えた声で言う。
「何って……。坂井さんには関係ないでしょ?」
私の問いかけに、先輩の顔つきが怖くなる。
「関係あります。この前の私たちの動画を消したのって吉川先輩ですよね?」
私ははっきりと言った。本当は疑いたくなかったけど。
「だったら、何?」と、冷たく言った。
「先輩はおどること楽しいですか?」
「なに?」
「今の先輩は楽しくなさそうです。イタズラして。」     
「別にいいでしょ」
「よくないです。私は先輩の踊りが好きですから。」
私の言葉を聞いた先輩が突然しゃがみ込むと、ひざの上に組んだ腕の中に顔を沈めた。
「ごめんね…私、上手に踊れなくて…。」

吉川先輩がダンス室を出た後、しばらくして六条さんが来た。
「で?どうだった?」
相変わらず、無表情で訪ねせてきた。
「解決しました。よかったです。」
「そう。」
すると、六条さんは少し笑ってこう言った。
「コンテスト、もうすぐでしょ?頑張るわよ。」と

それから、私たちは必死に練習をした。楽しく。

そして、コンテスト本番。
「あぁー!緊張する!」
待合室で待っている私は今までにないほど緊張している。
「大丈夫だって。緊張しないで。」
相変わらず冷静すぎるよー
「そろそろ行かなきゃ」
「そうね。」

「28番ー坂井まなさんと六条あすかさんの2人ダンスー。」
ああ!ついに呼ばれた!
「行くよ!」
「うん。」
最初はアクロバットで登場!
クルリンッ
2人はぶつからないように器用に回り着地する。
観客席から歓声が上がる。
うん!いい調子!
そのまま、演技は終わった。
ふぅいい感じだったかな?
「六条さん!よかったよ!」
私は笑顔で言った。
「そうね。結果を待とう。」

「結果発表をします。一位はー」
お願いっ!
「28番ー坂井まなさんと六条あすかさんの2人ダンスーです!」
「「えっ?」」
2人揃って間抜けな声を発した。
マジっ?1位!?
「やったーーー!」
「嬉しい…!」
あぁ!嬉しい!嬉しい!頑張ってよかった!
本当に、本当に、本当に…
我慢していた涙が1粒、2粒と頬を伝った。
本当によかった…!
これからは正直になろう。
ダンスだって一生懸命やろう。
ダンサーの夢だっていつかは…きっと…!
ゆり 

2023年05月23日(火)19時45分 公開
■この作品の著作権はゆりさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
こんにちは!
作者です!
この小説、書くの大変でした!
でも、私にとっては上出来なので、感想よろしくお願いします!


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