完全犯罪
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 一
 剛太から、その電話が掛かって来たのは、龍田勇(たったいさむ)が地元海山市に帰って来て1年近くも経った頃だった。勇は、東京でレストランチェーンに就職したのだが、コロナが大流行したため、たった1年で解雇されてしまったのである。
 勇と剛太は小学校、中学校、そして高校も一緒で、おまけに高校卒業後の進学先も、学部は違うが、おなじ東京の三流大学だった。
 剛太は卒業後建築現場で働いていたのだが、正社員ではなく、いつも重い資材の積み下ろしのような雑用ばかりさせられていたらしい。そして全く正社員になる見込みも無く、出世の道は閉ざされていることが分かって、半年前に帰ってきたようだった。
 「おい、勇、元気か、いま何をしてる?」
 「ああ、剛太か、俺こっちで就職先を探してるんやけど、なかなか厳しくて、まだ今はコンビニのアルバイトで食いつないでいるだけや。お前こそ何をしてるんや?」
 「おれも似たようなもんや。
 ところで、今日の海山新聞のミニ広告見たか? なんかよう分からんけど高収入確約、委細面談って書いてあったぞ。俺はとにかく行って見ようかと思って電話したんやけど、何を聞いても
 《電話では答えられません。交通費として1,000円をお支払いしますから来てください》
 っていうばかりやから、明日10時に行く事にしたんや。お前も行って見たらどうや」
 「そうか、分かった。その新聞、見てみる」
 と言って電話を切った。その日は深夜勤務の予定だったので夕食を済ませて8時にバイト先のコンビニへ着くとすぐにその新聞を取り出してみた。剛太の言う通りだったので、電話をして翌日の午後3時に、面談場所である市役所裏にある三栄ビルへ行く事にした。
 翌日、夜勤明けで家に帰って寝たばかりという時に剛太からの電話で起こされた。それによると、
 「一応、履歴書も持っていったんやけど、それはチラッと見ただけで、ただ、歩いて‼ 回れ右‼ 屈んで見てくれ‼ 後ろを振り返って‼ などというばかりで、何を聞いても答えてはくれず、スマホの番号だけ聞かれて、後はただ連絡待ちっていう事で1,000円貰って帰って来ただけや。なんかよう分からんけどお前どうする?」
 「いや俺も一応、申し込んでおいたぞ、今日3時の約束や。そやけどその面談相手っちゅうのは、どんな人やったんや」
 「うん、35歳ぐらいやと思うけど、徳島という、背の高い、真面目そうな人やったぞ。名刺も何もくれんから、どういう仕事なんかさっぱり分からんけど……」
まあ、少しでもヤバイと思ったらその時点で断ればいい、と思ったので、とにかく、勇も行って見ることにした。
 二
 剛太から聞いて想像していたのとはちょっと違って、徳島というその人は、良家のお坊ちゃん風の男だった。勇の持って行った履歴書を見ると、
 「ほお……レストランに勤めていたのですか? うん、それはいい」
 とだけ言ったが、仕事の説明は何もなく、あとは剛太に聞いていた通り、ただ連絡待ちという事で1,000円だけ貰って帰った。

 それから5日ほど経って、忘れかけた頃に、電話があって、
 「詳しい説明をしますからもう一度来てください」
 と言われたので、何か分からないまでも行って見ることにした。それによると
 「大阪のボスの所へ面接に行ってくれませんか。そこで仕事の説明があります」
とだけ言われた。それ以外は何を聞いても
 「ここでは答えられません。大阪へ行けば説明があるでしょう。行かれるのなら、大阪への交通費として10,000円をお渡しします」
 という事だった。なにやら気持ちが悪いが、聞かなければ何も分からない。話を聞いて、嫌なら断ればいいという事だったので行って見ることにした。
 「分かりました。行きます」
 と言っただけで10,000円はその場で払ってくれた。
 剛太に聞いてみたら、彼の方にはその後何も連絡が無かったらしい。どうやら審査に落ちたようだ。

 二日後、10時のサンダーバードで大阪へ行き、指定された午後2時に、道頓堀にある、道頓堀坂田ビルという、その雑居ビルの13階に向かった。大阪へ行くのは久しぶりだった。
行って見るとボスという人は現れず、三栄ビルで会った徳島というその人だけが待っていた。そしてそこにあった新聞の求人広告を見せられて、
 「取り敢えず、この、ウエイター募集に応募してくれませんか?レストラン勤務の経験があるあなたならきっと採用になる筈です。その後のことはまた、いずれ話をします。
 あなたにはアパートの部屋が用意してあります。それと、向こうでのウエイターの給料のほかに、こちらからも日当1万円を1か月分、前渡しします。いかがですか?」
 と言われた。なんか、気持ち悪い話だが、アパート代も払ってくれて、おまけにウエイターの給料のほかに30万円をくれるというなら悪い話では無い。
 その後の話というのがどんな話なのか分からないが、都合が悪ければ、その時点で断れば いいと言われたので一応、
 「分かりました。取り敢えず、やって見ます」
 と言ったらすぐに30万円が渡されて、おまけに履歴書と、新しい連絡用の携帯まで用意してあったのには驚いた。
 その履歴書には、東京のレストランチェーンの経歴はそのままだが、出身地は海山市の隣の森川市となっていて、名前は≪田口大助≫という、聞いたことも無い名前が書いてあった。そして言われたことは、
 「あなたは今日から田口大助という人物になってもらいます。そのため携帯電話や免許証などは仕事が終わるまで、こちらで預からせて頂きます」
 「ええっ、仕事って何をするのですか?」
 「いや、それはそのうちお話ししますが、危険な仕事ではないし、法律違反のようなことは一切ありません。私もボスから詳しいことは聞いていませんが、ボスというのは実は有名な推理小説作家なのです。その人は、ある小説を完成させるためにその小説のストーリーと同じ条件で実証実験をするらしい、とだけ申し上げておきます」
 なにかおかしな事件にまき込まれるのではないかと、最初は心配したのだが、徳島というのは悪い男ではなさそうだし、推理小説の実証実験という話を聞いて、なにやらわくわくしてきた。そしてもう、その時には断れない雰囲気になっていて、不安ながらも、やってみよう、という気持ちになっていた。
 三
 その日から勇は田口大助として暮らすことになり、翌日、大阪第百ホテル内にあるそのレストランの面接会場に行った。
 面接官はスーツを着た管理職風な男と、小西という、50がらみの蝶ネクタイをした男だったが、質問はほとんど小西という男からで、東京で働いていた頃の仕事の内容などをいくつか聞かれただけで、二人でなにかこそこそ話していたかと思うと、
 「では明日から来ていただきますか?」
 と言われてすぐに仮採用になった。そして制服が渡され、勤務シフトの表を見せられ、翌日からしばらくは小西と同じ時間帯に、見習いとして勤めることになった。給料は残業代込みで30万円ぐらいになるようだ。
 それまでの経過を剛太に電話しようと思ったのだが、自分の携帯は徳島に取り上げられてしまっていたので、出来なかった。どうやら仕事の内容をむやみに誰にでも話さないように、という事ではないかと思われた。
 勇、いや、田口大助は少し不安になってきた。レストランのウエイターなら彼にとって不満はない。だが、それだけで終わるわけではなさそうだ。
 大介は剛太に電話をして見ることにした。勇の実家には認知症の母と、いつも怒ってばかりの頑固な父がいるだけなので、実家に電話をする気にはなれなかった。
 剛太のスマホの番号は分からないので自宅へ掛けて呼び出してもらった。
 「剛太か?俺や、今大阪にいる」
 「大阪? 何してるんや」
 「それがなあ、なんか気味が悪いんやが、三栄ビルで会ったあの徳島という人から大阪へ行ってボスに会ってくれと言われたんや。そやけどボスという人は現れず、徳島さんからは、大阪第百ホテルの中にある «マッケンジー203» というレストランでウエイターを募集しているからそこへ面接に行ってくれっていわれたんや。
 それで、行ったら採用という事になって明日から勤めることになったんや。なんか気持ち悪いけどウエイターの給料のほかに1日1万円くれるっていうから、取り敢えず行って見ることにしたんや」
 「おい、大丈夫か? なんか怪しいぞ」
 「うん、けどな、辞めたいときはいつ辞めてもいいっていう条件やからしばらくは行って見ようと思ってるんや。ただそのあと、なんか別の仕事を言われるらしいから、まずいと思ったらその時断ればいいと思うんや。徳島さんもそう言ってるし……」
 「そうか、わかった。気を付けろよ」
 「うん、分かってる」
 四
 大阪第百ホテルというのは4年前に出来た客室数300余りの高級ホテルである。その併設のレストラン≪マッケンジー203≫というところが、勇、いや田口大助の新しい勤務先となった。
 マッケンジー203の仕事は前に勤めていた東京のレストランの仕事とほとんど一緒で楽しかった。お客さんの前ではかしこまって丁寧に受け答えしていたが、裏へ回ると同僚とふざけ合ったりすることも前の職場と一緒だった。

 田口がマッケンジー203に勤め始めて10日ぐらい経った頃、大阪では全世界で信者数を伸ばしているKM神霊協会の、年に一度の世界大会が開かれるという事で、約2千人の幹部信者たちが世界中から集結することになった。信者の中には多額の献金をした者もいて問題になっている団体だが、教会側は、すべて信者からの自主的な献金を受け取っただけだと主張して、法廷で争われていた。
 大阪第百ホテルでも大会開催中、東京ほか全国から3日間の連泊の予約を申し込んで来た日本人十数人が関係者ではないかと思われた、そのうちの一人は、これまで毎年、特別室に泊っている、教団幹部と見られていた安田という老人だった。
 失礼があってはいけないので、安田が朝食に来た時には責任者の小西が担当することになっていた。安田は毎朝、日替わりのモーニング定食を注文し、コーヒーは食後に持って行くようになっていた。
 何事もなく毎日が過ぎて行った。徳島が、なんでこの仕事を田口に言いつけたのか分からなかったのだが、安田が宿泊するようになった2日目の夜、徳島から電話があった。
 「薬嫌いの安田さんの奥さんから頼まれたので、明日の安田さんのコーヒーをお出しするとき、こっそりとコーヒーの中に奥さんから預かったお薬を入れて下さい。お薬はいまから君のアパートへ持って行きます」
 という話だった。
 なんだかおかしいと思ったのだが、田口としてはアパート代のほかに30万円も貰っている立場上、出来ませんとも言えず、
 「はい」
 と答えると10分もしないうちにドアがノックされ、徳島から何の変哲もない胃薬のような粉末を一袋渡された。
 「これは心臓発作を抑える薬なのだが、本人は大丈夫だと言って飲もうとしないので、いつも奥さんは本人には内緒で、ときどきコーヒーに入れているらしいんだよ。だけど3日も家を空けるので心配になって、こっそり入れてくれと言って頼まれたのだよ。君は何も心配しなくていいから……」
 というのであった。徳島は悪い人ではなさそうだし、そういえばあの安田という人も頑固そうなので、そういう一面もあるのかと、徳島の話を信じる気になった。
 そして翌日、安田氏の食事が終わりかけたころを見計らって、小西に
 「安田さんのコーヒーをお持ちします」
 と言ってトレーに乗せてコーヒーを運んだ。粉末の薬はトレーに乗せる時に、誰に見咎められることも無く振りかけた。そして食事が終わるといつもの通り、ごちそうさまでした、と言って安田は席を立っていった。
 その日の夕方、仕事が終わりかけたころ、また徳島から電話があった。
 「ボスが君に会いたいと言ってきているので、帰りに私のオフィスまで寄ってくれないだろうか」
 というのであった。
 いよいよ何か本当の大事な仕事の話かと思ったのだが、田口はもう、本当に絶対安全な話でなければ断ろうという気になっていた。どうしても断れないのなら貰った30万円は返してもいい。マッケンジー203は自分が望んでいたような職場だし、毎日の仕事は楽しかったので、給料は安いが、このままここで働けるのならそれで不満は無かった。

 徳島のオフィスは最初の面接に行った道頓堀の雑居ビルの13階である。行くと、
 「ボスの部屋は1階なので一緒に行きましょう。なお、ボスは話し中に携帯音が鳴るのを嫌うので、携帯はこの部屋に置いて行ってください」
 と言われたので携帯を預けて、今、乗ってきたばかりのそのエレベーターに戻った」
 田口大助、いや、龍田勇の人生はそこで終わった。
 五
 翌日の新聞には二つの大きな事件のことが報じられていた。一つはKM神霊協会の日本代表の安田健作氏が、宿泊しているホテルの部屋で亡くなっていたというニュースだった。約束してあった夕食会場に現れなかったので仲間が確かめにいった所、冷たくなっていたそうである。死因は持病の心臓発作であったらしい。
 そうしてもう一つは道頓堀の古い雑居ビルでエレベーターが故障して、突然13階から地下1階まで落下して二人の身元不明の男性が亡くなったというニュースである。
 エレベーターの管理会社には直ちに業務停止命令が出され強制捜査が入った。
 管理会社は毎週1回、保安検査に訪れていたのだが、3日前に来た時には異常は無かったそうである。
 しかしその日、地下1階の保安室には厳重に鍵がかかっていたにも拘らず、間違いなく、何者かが外部から侵入し機械を操作して安全装置を解除したことがわかった。
 機械の性質上、安全装置が解除されればエレベーターは動かなくなるので、13階まで田口が上がった時までは正常に作動していた筈だ。ところが、田口と徳島が乗ってドアが閉まったその瞬間に、何者かが安全装置を解除してエレベーターを落下させたことが明らかになった。
 しかしその時間、管理会社のスタッフには全員、社内にいるか、他のビルの保安業務に出掛けているかしていて、アリバイがあった。退職した社員の仕業かとも思われたが、保安室に入るには鍵のほかに暗証番号を打ち込む必要があり、社員が退職したときには必ず暗証番号は変更になるので、合い鍵を持っていたとしても侵入は不可能の筈だった。
 捜査は困難を極めた。死亡した二人の男性の身元が分かればそこを糸口として捜査を開始することが出来る。だが二人は身元を特定するようなものは何も所持していなかった。二人の指紋は警察の犯罪履歴者の情報にも一致するものは無かった。
 管理体制に不備があったとは認められず、犯人は不明のまま、動機も分からないまま、10日間の営業停止期間が過ぎて間もなく営業再開された。
 安田氏の死因は奥さんからの証言もあり、持病の心臓発作と認められたので、事件性は無く、単なる病死とされた。エレベーターの落下事件との関連性を疑うものはいなかった。
 六
 推理小説の作家、糸川ゆりは神戸で不動産業を営む糸川エステートの社長の一人娘だった。自宅は芦屋の高級住宅地にあり、小、中、高までは地元のエリートの一貫校に進み、卒業後は有名作家を多数輩出している東京の慶文館大学の文学部に進み、在学中から作品を発表して注目されていた。彼女の作品は実証主義を貫き、必ず作品の舞台となる現場に足を運び、その事件が実際に起こり得るものかどうかを検証してから執筆にかかるという創作姿勢で評価を得ていた。
 父はすでに亡くなり、不動産業は母と社員に任せていたが、神戸市内にアパート3棟と商業ビル5棟を所有し、高収入を得ていたので、彼女は作家としての収入を気にすることも無く、金に糸目をつけず、思うままに実証実験を続けることが出来た。
 糸川ゆりには高島幾次郎という幼馴染のボーイフレンドがいた。高島貿易という会社を営む高島家の次男坊で、父親は、順調に会社の業績を伸ばしていたのだが、彼が高校3年生のときに突然、両親そろってKM神霊協会に入信してしまったのである。
 それからの高島家は、協会にいわれるまま、次々と多額の献金を繰り返し、崖を転がり落ちるように没落していったようだ。
 「幾次郎君、なんか最近、元気が無いようね、なんかあったの?」
 「ああ、ゆり、俺んち、いま大変なんだ。俺の親父とお袋がほら、あのKM神霊協会っていう所に入り浸っているって言っただろ……あそこが酷いところで次から次とお金をつぎ込んで、もう金がないからと言って兄貴は大学を中退してしまったんだよ。俺も高校卒業したら、もう家を出て就職しようかと思っているんや。もう、お前とも付き合えなくなるわ」
 「ええっ、そんな……でも大丈夫よ、あんたの生活費や学費ぐらい、なんでもないわ。私に任せて」
 「そんな訳には行かないよ。ゆりは糸川エステートの後継者で、俺は落ちぶれた高島家の次男坊だ。悔しいけど、もうお前とは高校卒業までの付き合いだ。あとは自分で何とかして生きていくよ」

 「なに言っているのよ、中3の時、約束したじゃない。私は一人娘だし、養子を貰う立場だから幾次郎君に来てもらおうって、両親とも話が出来ていたのに、今さら断るなんて卑怯よ。
 だけどKM協会ってそんなにひどいの? 何とかならないの?」
 それからしばらく経って、新聞に小さな記事が出ていた。なんと、幾次郎の兄、高島家の長男が前途を悲観して投身自殺をしてしまったのだ。
 だが協会側は、これは家族が一致団結して信仰の道を歩まなかったからだと言って一層の精進を勧めた。長男の死にショックを受けた母はもう、とてもついて行けないといって教団を離れようとしたのだが、父はますます協会にのめりこんで行って、家族は断絶状態になった。母は幾次郎や妹の世津子と、父との間に入って苦しんだのだが、とうとう発狂してしまったのである。
 「幾次郎がゆりに電話をかけてきたのはそれから数日後であった」
 「ゆり、もう、俺の家は滅茶苦茶だ。何とか仇(かたき)を討ちたいんやけど、協力してくれないかな」
 「もちろんよ。でもどうすればいいのか、逢って相談しようよ」
 七
 糸川ゆりが推理小説作家を目指すようになったのはその時からである。高校生の二人には、いったいどうやって仇討ちをすればいいのか、さっぱり分からなかった。ただ刃物を持って襲えばいいという訳ではなく、自分たちが疑われないようなやり方で、証拠を残さず、しかも確実に、敵を葬り去る方法を考えなければならなかった。そこでゆりは東京の慶文館大学の文学部を目指すことにした。幾次郎には大学の機械科を受けて貰うことにした。そして幾次郎の2歳下の妹・世津子には薬科大学への入学を勧めた。それは二人の計画を進める上で必要な知識を得るためだった。
 もちろん、ゆりにとって幾次郎とその妹の学費ぐらいはどうにでもなる金額だった。
 幾次郎が仇とする相手はKM神霊協会の幹部とされる安田賢作という人物だった。人のいい幾次郎の父に、マインドコントロールをかけて多額の献金をさせた張本人である。
 ゆりは慶文館大学に入学すると、世界各国の推理小説を読破して、自分たちが目指そうとする完全犯罪の筋書きを組み立てる研究を始めた。幾次郎にはエレベーターの操作技術をマスターするように指示した。手っ取り早くターゲットを狙い撃ちさせる最も効果的な手段だと思ったからである。そして世津子にはもちろん、証拠を残さないように薬物を用いて安田を殺害する方法を探るためであった。
 ・・・・・・・・・
 それから5年後、いよいよ計画実行の時がやってきた。
 ゆりは、複数の私立探偵を雇って、安田の身辺を徹底的に調査した。

 その結果、彼が心臓病の薬を欠かせない事や、年に一度のKM神霊協会の世界大会が大阪で行われていること、そして安田もその大会には必ず出席し、4年前に大阪第百ホテルが出来てからは必ずそのホテルの特別室を予約している事、などを突き止めた。そしてさらにゆりは、そのホテルでの安田の一挙手一投足までを徹底的に調査して報告させた。
 ・・・・・・・・・・・・・
 高島幾次郎は計画通り、大阪の関西工科大学機械学科へ入学して昇降機等検査員の資格を取ってエレベーター管理会社へ就職した。
 ゆりは最初、ターゲットの安田氏本人をエレベーターの事故に見せかけて殺害する方法を考えていた。だがそれでは真っ先に疑われるのが被害者の幾次郎である。そこで考えて、安田を病死扱いされる方法を選び、その実行者には犠牲になってもらうことにしたのであった。
 そして事件当日、幾次郎は道頓堀坂田ビルの1階に待機している糸川ゆりにその日の暗証番号を伝えた。ゆりは前もって預かっていた合い鍵を使って保安室に入り、エレベーターが13階に止まり、一旦、田口大助がエレベーターから出て、再び徳島と共にエレベーターに乗り込んだのを確認すると、高島幾次郎から聞いていた通りの方法でエレベーターを落下させることに成功した。
 徳島と田口大助は何の疑いも持たず、糸川ゆりとの面談のため、エレベーターに乗り込んだところで一生を終えた。
 徳島と田口大助が部屋を出た後、別の部屋で待機していた世津子は合い鍵を使って徳島の部屋に入り、二人の携帯や、その他部屋に残されていたすべての品々を回収して、リュックに詰め、階段を降りてビルを離れた。

 妹の世津子はまだ学生だが、ゆりたちの計画を進める上での必要な知識は学んでいた。
 心臓疾患といってもいろいろな種類があり、その薬についてもさまざまなものが出回っていた。だがいずれも発作を抑える対症療法のみで、完治させることは出来ないとされていた。しかし治すのは難しいが、症状を持った人を死に至らせる薬は簡単に出来る。問題はそれが無味無臭で、水に溶け、そして効果は数時間後に現れるというものでなければならなかった。世津子はその研究に没頭した。
 ・・・・・・・・・・・
 糸川ゆりはこの計画の実働スタッフとしてホストクラブで働いていた徳島を協力者に選んだ。彼は人当たりも良く、金のためには何でもする男だ。学生時代から頭角を現していた糸川ゆりの小説の熱烈なフアンでもあり、実証実験のお手伝いが出来るという事で、喜んで、張り切って、彼女の指示通りに動いていた。まさか、彼に与えられた最後の仕事が、田口大助と共にこの世から消えること……などとは知らずに。

  了

中小路昌宏 

2023年02月14日(火)16時03分 公開
■この作品の著作権は中小路昌宏さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
 こんな話は実際にはあり得ないと思います。小説の世界ならいいかなと思って書きましたが、いろいろとおかしな所もあるかと思います。何が問題なのか、どう書けばよかったか、皆様のご意見をお聞かせください。


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