ルビーの軌跡 |
<<一覧に戻る | 作者コメント | 感想・批評 | ページ最下部 |
美しいオルゴールの音色が鳴り響く。暗がりに古めかしい絡繰り小箱が、消えかけの蝋燭に浮かび上がる。 少女がレースワンピースを広げ座る絨毯に、回転して影を踊らせる絡繰り人形をぼうっと見つめて、小さな指に触れた。 次第に旋律は調子を外し、人形の踊りは鈍くなる。ついには蝋燭の小さな灯火が一度ゆらりと揺れたと思うと、煙の残り香を一筋残し、辺りは闇に閉ざされてしまった。 少女は途端に怖くなって泣いた。一気に背後から近づいた何者かに抱きすくめられ、少女は口を覆われ意識を失った。 とある城址。古木に囲まれ崩れた塀のなか。 灰色の空は、烏が寂しく鳴いて木から飛び立つと、冷たい雨は雫を降らせ始めた。 カアカアと鳴く烏は、小高い城址の丘の上から周りを囲う黒い森へ、雨を避けるように羽ばたいていった。 塀のなかは城の基礎だけが残り、地面はだんだん雨跡がついていく。 だがよく見ると、基礎の隅の地面に石の蓋がある。それは雨に濡れることで、他の地面の色よりも灰黒く、四角に切り抜かれたように浮かび上がったから、発見できたのだった。 その石の蓋が上げられ、暗がりの地下から黒いフードローブの人間が現れた。 フード下に覗く青白い口元は、雨にもぴくりとも動かず、石階段を上がりきると、蓋を閉ざした。 ローブには先ほどの少女が包まれていると見え、膨らんでいる。 指笛をしんと鳴らすと、塀を囲う木々の先から、一頭の馬が現れ、フードの人物の前に雨の雫を毛に跳ねさせやってきて停まった。 硬い蹄の音にも少女は目覚めた気配もなく、フードの人間は馬に乗り、ローブのなかの少女を片腕に抱え、片手に手綱を引き、一気に馬を走らせて行った。 夜。 雨はとうに止み、月さえ黄色く挙がっている。酒場の多い城下町は、あのかつて栄えた城址から、森を越えた先に広がる。近郊の山で輝石が採れるので、宝石職人が多く、周辺から商人が訪れては、酒場へと立ち寄って行った。 そんな中心地の路地裏の陰から、ローブは脱いだ黒いフードマントの先ほどの人間が顔を覗かせた。 約束の時間は、月が南南東のこの位置からちょうど教会の天辺の塔にある鐘と重なるころ。 教会の向かいの酒屋の二階。木の窓がふいにあけられ、青年が顔を出した。その顔は月に照らされ頬は黄金に光った。あの場からは鐘に隠れる月もよく見えるのだろう。 約束通り、数日前に港に到着し、この城下町へとやって来たのだ。 フードの人間は、マントのなかの少女をしっかり抱え、こちらをちらりと見た青年を見上げてから、角から引いて路地を暗がりへ歩いて行った。 青年は教会裏の墓地を進み、石造りの霊廟に入っていった。 外気よりひんやりとした石壁の暗がりに、ランタンの暖色が広がり、装飾彫りの石棺の影が揺れた。 「お待ち申しておりました」 凛とした女の声が、静かに石の空間に響いた。 フードの人間が現れ、被り物を下すと、美しい金髪の若い女が現れた。恭しく青年を見上げる。 「エルフェイオ様」 青年貴族エルフェイオは頷いた。 「お待たせをしました。ディアーナ嬢」 少女をマントのなかに抱えたディアーナは、マントの併せをひらいた。 そこには、眠ったままの少女が抱かれている。 その瞼は、あのオルゴールの絡繰り人形と同様、精巧な作り物であるのだと分かる。 「これで、二日間だけでも彼らの目をごまかす事が出来れば、ルビーお嬢様を亡命させられるはずだ」 「はい……きっと。屋敷より連れ出したルビーお嬢様は、現在、わたくしの借りた宿屋で、侍女と共におります。あの秘密の場所で職人に制作させましたこの人形のことも、知られてはおりません」 百年前に崩された城の城主等の生き残りが、城下町を離れ、各所へと逃げ延びていた。なかでも、この少女の祖母である城主の姉妹と大叔母の二人は当時若く、顔が知られていなかったため、城下町に残った。親しかった貴族主にもらわれ、少女の母と少女が生まれた。 それも三年前より、元の跡取りの子孫が再び力を有していたなかで、再び城と権力を取り戻すため、各所や城下町に残る血筋を手にかける、との話が出たのだ。 もとはと言えば、場内での争いが端をなして始まったいざこざが、他貴族を巻き込み、ついには城の崩壊にまで繋がった。当時は鉱山の権利が他国に取られそうになっており、裏切り者の大臣が出て問題が起きていた。その上色恋沙汰で大臣は一族の女性に手を出していたのだ。 目下、二人はルビー様を守り、この小さな国から逃がすべく好機を狙った。大人しい姫が跡目争いに巻き込まれることが無いように。 一族には昔より、奇妙な噂が町貴族間で密かに囁かれ続けていたためだった。 とある専属の職人に依頼し、鉱物から跡継ぎを作らせてきた、と。妃に産ませて、早くに亡くなってしまった世継ぎを、鉱物に宿る力と融合させ、生き返らせる悪魔と契約していると。 その生き返った赤子の瞳は、そのとき使われた鉱物の色になる。それが知られないよう、妃の瞳の色に合わせた鉱物が使われるが、やはり輝石なので、より色濃く、魅惑的な色であり、男女をも惹きつけ止まなくなるので、崇拝の目で見られるのだった。 または、世継ぎが出来ない場合は、精巧な人形を作らせ、奇跡の瞳を嵌めさせ、悪魔契約で人形に命を与え、世継ぎにしていたのだとか。 いずれにしろ、一族の血の半分は人間。半分は鉱物や人形であるのだと、貴族間で噂されていた。 というのも、王家に娶られた貴族令嬢や関わりのあった者が、どうしても愛し合うときに人間味が無い、異様妖し気に瞳が光り、陶酔を越えた夢心地に陥るのだと。 それらの噂を知った大臣が、そのために争いになったのではと。人間でない者の支配権力を無くすためにも、正当な人間間の血族を再形成すべく、現在残る貴族出の妃やその血筋に権威を移すべきだと。その大臣の行動から争いになったのだと。 ルビーお嬢様に関しては、やはり通常の子供らしからぬ、大人しく、無口で、お人形のようなお子なのだ。一度眠ると長く眠り、それを知るために屋敷から宿へと連れ出すことも出来た。 エルフェイオもディアーナも、ルビーお嬢様の母を知るが、片目はサファイア色の水色。片目はそのまた母の婚姻した貴族青年と同じ深緑の瞳である。ルビーお嬢様の大叔母も見事なサファイア色の瞳だった。 ルビー様の瞳は両目とも淡い水色と黄緑色の虹彩であった。 何故か、妃や王や女王が淡い瞳では、なかなかにして世継ぎに恵まれず苦しむそうで、それも鉱物の力が薄まった証拠だと云われている。 もしもルビー様も再び城へ招かれることもあれば、世継ぎに難航してその子供は生きた人形に変えられてしまう。普通の幸せな生活など出来ずに。 ディアーナは、幼いころよりルビー様を身近な女性護衛として見守って来た。エルフェイオは、ディアーナの生まれた里で騎士をしている。その里に移り住み、一貴族として生き残っていた元亡命者の一念発起を知ったのだ。 そしてエルフェイオは、ルビー様とディアーナの亡命に手を差し伸べた。 ルビーの母ヘメラルドは、影から影へと駆け、娘の匿われる宿へ来ると、その灰色のフードローブを脱ぎ、侍女と顔を見合わせ、狭い部屋のベッドに眠る娘を見た。 ヘメラルドの夫である貴族主は、まだ元王家亡命者が再び百年で地下で力を取り戻し、本国へ戻ってこようとしている報せを受けていない。 エルフェイオからディアーナへ、ディアーナからヘメラルドへと知らされたのだった。 ルビーと護衛ディアーナの失踪を裏付けるためにも、ヘメラルドは夫へと一芝居なるものを演じなければならない。森で二人は失踪したのだと。影で生き延び他国で二人で生きさせるため。 元王家の一族は、エルフェイオの国で地下で妖しい呪術をして、美しい令嬢、貴公子を作り出し、その国の貴族へと嫁がせ、少しづつ元の権力と結束を蓄え固めてきていたというのだ。ヘメラルドは母である元第三王女が云い伝えてきた話が、他国でも囁かれ始めたことで、危機感を感じた。 ヘメラルドは、ナイトテーブルにルビーの大好きなオルゴールを静かに置いた。 そして蓋をあけると、絡繰りオルゴールが小さく鳴り始める。酒場横は外の軽快な音楽に紛れ、外には漏れない。 「ルビー」 ルビーはヘメラルドの声とオルゴールの旋律に、すうっと瞳をひらいた。 無言のままぼうっと見つめてくる。ヘメラルドは優しく微笑み髪を撫でた。 ルビーは、まるで誠に人形の血でも入るかと不安になるほど、このオルゴールの音色なくば、滅多に目覚めないのだ。まるでそれは、鉱物の効力も薄まれば、ただの人形へとなってしまうかと思われる恐怖。 ヘメラルドはまだ血が濃いから症状が現れてはいなかっただけで。 これらの同じ症状が、他の国へ逃れた子孫らに早く現れたがために、呪術を急ぎ、この国の城へ戻りたがっているのではないか。鉱山からもたらされる血脈を再び手にするため。 「ルビー。これよりあなたは、母とは別々に暮らすのです。ディアーナの言うことをよく聞き、正しく慎ましく生きるのですよ」 はじめは了見を得なかったルビーの瞳は、ただ首をかしげ、意味も分からぬまま頷くだけであるのが、無口なルビーを見続けてきたヘメラルドには、よく分かっていた。 不憫なルビー。あまりにも理解が及ばないに決まっているのだ。 「これからは、見知らぬ場で、あなたはディアーナと二人きりで生きるのです。この国にも、お屋敷にも、お父様とお母様とも、さようならをしなければならなくなったのです」 ルビーの目は少しずつ潤み、静かに瞼をとじると、ぽろりと頬を涙がこぼれた。それはまるで水晶の珠のようだった。 「ごめんなさいね。本当にごめんなさいね……」 ヘメラルドは幼いルビーをひしと抱き、しばし熱い涙を流し続けた。 ヘメラルドの夫は仕事から帰ると、毎夜のようにお人形のように眠るルビーの部屋を訪れ、その夜、眠るルビーの人形を見つめ、うんうんと微笑み頷くと、寝室を静かに去って行った。 その顔を見て、ヘメラルドは心が痛んだ。夫は優しい。そして、時にほかの貴族主に押され気味でもあるほどだ。その夫にこれから、「ルビーが森へとディアーナを伴い、散策中に失踪しました」と、言わなければならないのだから。 翌朝、いつもの馬上にディアーナは精巧なルビー人形を前に跨らせ、霧煙る森へと散策に出かけるのだ。 いつもの習慣。いつもの朝。目覚めが遅いルビーの頭をゆるやかに覚醒させるための日常。 緊張をしたヘメラルドは、戻って来た侍女と顔を見合わせた。 「ルビー様は、既にエルフェイオ様と共に先に国をお発ちになりました。ディアーナ様は明日、あちらのお人形と共に森を抜け、その先でルビー様、エルフェイオ様と落ち合い、そのまま二手に分かれ、エルフェイオ様は母国へ戻られる予定でございます」 「ええ、ええ」 何度もヘメラルドは深く頷き、ハンカチで目元の涙を拭った。 エルフェイオは前にルビーを乗せ、馬を駆けさせていた。山を二つ越えた先に、使われていない今の季節は小屋がある。そこまで行き、翌朝に人形を連れたディアーナと落ち合うのだ。 そこでディアーナはルビーを連れ、身代わりを悟られないため、人形も連れて行く。 「!!」 闇からいきなり松明が現れ、エルフェイオはマントにルビーを隠し睨み見た。 まず、目も疑うほどの済んだ白水色の瞳の青年に、思わず息を吸い込み、その横に狼と、その背後に子供がいることに気づいた。 馬は狼の姿に驚き暴れかけたので、必死にルビーを抱き脚で馬の胴体をがっしり掴み、手綱を強く引き寄せてならさせた。 暴れだした馬に驚いた青年も子供も叫んで、狼は馬をものともずにその前に立ちはばかり、馬が落ち着くまでを静かな目で待っていた。 ようやく馬が落ち着くと、エルフェイオにまで伝わるルビーの震えと早鐘の鼓動をしっかり抱きしめた。 エルフェイオは狼を護衛に連れる青年と子供を見た。 「……セイル様」 エルフェイオは驚いた。母国のあの亡命貴族の青年だ。 まさか、追手か。一族からの刺客。 エルフェイオは馬から降りることなく、腰元のサーベルを確かめた。 しかし、相手はもっと驚いた顔で、エルフェイオを慄き見上げて震えている。セイルは女のような顔で、長い黒髪にアクアマリンの色の瞳をしているのだ。ルビー同様、王家の血筋のあの一族のセイルに間違いない。 子供は真っ蒼になって、エルフェイオと馬を見上げ、狼の背の毛を掴んだ。その瞳は、まるでダイヤモンドの輝き。松明に不思議な虹彩を放った。 「どうか、見逃してほしい」 セイルは口早く言い、エルフェイオは辺りを見回した。すると、木と木の間に暗い色の幕が張られ、一時の寝床にでもしていたのか、いきなり松明が現れた理由も分かった。 「ご安心を。あなたを捕まえはしない。もしや、国を逃れて?」 「シ、」 青くなったセイルは、よく辺りを見回して声を潜めた。 「僕は従姉妹と共に逃げるのです。従姉妹……と呼べるかは不明ですが」 初めて見た子供だ。一族の秘密の子供なのだろう。あの国の出ならば、呪術で子供を作っている噂は知っているだろう、と、セイルの目は訴えていた。 まだマントのなかで震え続けるルビーの背を抱えたまま。 「エルフェイオ殿は、依頼され我々を追ってきたのだと」 「いいえ。断じて違います」 相手も疑り深い目を変えず、実に不安げだ。 しかし、エルフェイオも彼らを信用して良いものかは、まだ分からない。 ルビーも隠れたまま静かにしていた。 「僕らは普通に生きていきたい。これ以上、あんな惨たらしい儀式を見るのも御免です」 白い顔は、松明を横にしても白く強張っている。 子供は狼にしがみつき、震えていた。 だが、これが演技だったら? 本当はどちらも陰で殺人術を仕込まれてきた追手。もしくは、この子供を暗殺するために連れ出したのだとしたら、と、様々な疑惑が浮かぶ。 しかし、王権を取り戻すために動く一族が暗殺をするとも思えない。だが、もしもより良い血筋を選りすぐるために動くとすれば、後者のように動くのではないか。 ただ、セイルは例にもれず、美男なうえに令嬢からも引く手あまたにあるが、痩身に加えて文学的な青年のため、争いは嫌っている性質だ。 「とにかく、ここに長居は危険です。参りましょう」 この山は、南方海沿いにエルフェイオの国があり、北に大河に沿ってルビーの国がある。エルフェイオはルビーを連れ、東へ向かっていたのだ。その先の東の森に小屋がある。そこからディアーナはルビーを連れ、森に抜けるのだ。 なので、信用の不明な今は、このままルビーを連れて落ち合う約束の小屋に行っていいのかも分からない。 夜明けはまだ先だ。 松脂の爆ぜる音と匂いと煙の出る松明を消させ、エルフェイオの持つカンテラの明かりだけになった。 セイルの連れる子供は、セイルとエルフェイオが幕を片付ける木の下で、ルビーと共にうとうととしていた。 ルビーが何者なのかは、まだセイルには話していない。血の強いセイルとその従姉妹の瞳とは違い、目に一族の特徴は見られず、ただ変わったオッドアイだということが見て知られたのみだ。ルビーの膝の上の袋にはオルゴールが入り、彼女はそれを抱きかかえるように座って、ずっと狼を見ていた。 幕をたたみ、縄と共に背に担ぐと、セイルは言った。 「さすが、騎士殿は手際が早い」 馬は狼が怖いので、離れたところに手綱を括り付けてある。 エルフェイオは、大して力も無いのに、ぼろぼろになりながらも逃げて来ている貴族のセイルに関心していたが、一歩間違えればそれがどんなに危険なことか。それほどに命懸けで出てきたのだろう。街で見かけたときよりも、セイルは随分と頬がこけてしまっている。 経験があれば、馬が落ち葉を踏んで歩いてくる音に、能天気に松明をもって出て来はしない。悪ければ煙もあがって、人がいることを知られ、逃亡もままならないのだから。 本当の追手もいるのかも知れないことを考えると、とにかく早く山を離れなければ。 「その狼は?」 「僕らの祖父、元国王が山を越えて向こうの国へ亡命するまでに、怪我をしていた子狼がいて、医者に介抱させていると、その母狼が父を訪れてお礼をするようになり、子狼は森に帰って成長すると、自分の子狼まで紹介しに来るようになったのです。街に来られると人間が怖がるから、山の麓に僕の父の青年時代に小屋を作って、山へ来る際は狼が僕らを団体で警護するように。そのなかの一匹です。他の人間には懐かないので、注意が必要ですが、僕らと親しいと判断した人間には危害を与えません。きっと、子供の匂いがしたから、この子も何もしなかったのでしょう」 「なるほど。それで」 「全ての狼が懐いているわけじゃないから、僕らも注意をしていますが」 エルフェイオは頷き、ルビーが目を閉じたのを見て、その横に来た。 「今のうちに動かねばなりません」 ルビーは頷いた。馬の上にルビーとセイルの従姉妹を乗せ、エルフェイオは手綱を引き、少し離れてセイルは狼と共に歩き始めた。 馬は時々落ち着かなげにしていた。 「狼は影から付いてくることが出来るので、離れて歩かせましょうか」 エルフェイオも、背後を取られているのは危険だと思っていたので、頷いた。狼は闇の茂みへと歩いて行った。 「儀式というのは?」 セイルは横顔を強張らせながら言った。 「噂でも聞いているかと存じますが、屋敷の地下に貴族の赤子、特に双子の片割れが集められ、生き血を僕ら一族の赤子に与え、その後はどちらも成長させ、一族の病気になった際に臓器を移植させるのです。それが一つ目の施術。二つ目は集められた輝石、宝石からの守護を受けられるよう、僕もよく分からない呪術で死にそうな赤子を生き返らせる。あれは、どういった術が使われているのか、悪魔の所業としか思えません。とてもじゃないけど、医学の領域を超えている。僕も小さなころに虚弱で何度か危険だったらしく、臓器も使われ終わると、眠らされたままに鉱石呪術の儀式に挙げられ生き延びた。装飾職人が身代わりの体に合った人形を作り、心臓や内臓を移し、悪魔と契約した呪術師が鉱物を使い、魂を憑依させるのだとか。その人形と、眠らされた僕が融合し、一人の僕となるのだと。そんな信じがたい儀式が行われて一部の一族が生かされてきたなど、噂だけでまっぴらです」 それは、エルフェイオにも信じがたい話だった。 「様々な宝石はそれぞれが健康に作用すると言われています。サファイアは熱を冷ますとか、そういう具合に」 「確かに」 「僕までも将来、四男として、その道へ進まされるところだった。従姉妹としているこの子も、とある貴族の双子の片割れを犠牲に命が助かった呪術の子です。本当に僕らが人なのかなど、分からないことじゃないですか」 苦々し気に言うと、幼い従姉妹は馬上から初めて言葉を発した。 「逃げた先でなら、わたくし共は、魔女扱いもされず、恐れられず、太陽を浴びることができるのです。わたくしのために犠牲になった魂も、心置きなく弔えるのです。ともに体のなかで生きてあげられるのです。じゃないと、わたしは、生まれたことを恨むしか無い、憎むしか無い、到底許されない一族の悪縁を絶たなければなrないのです」 ルビーは背後の少女を肩越しに振り返り、少女のダイヤモンドのような不思議な瞳を見た。その少女は泣いており、五歳ほど年が下のルビーの体を、ぬいぐるみを抱くように抱きしめた。 「今は、逃げる外は無いのです」 セイルは言い、彼らは再び沈黙して歩き続けた。 ザッ ザッ 「!!」 木の幹に矢が二本刺さり、一気に暴れかけた馬にエルフェイオは飛び乗り、子供二人を抱え込んだと共に、闇から鋭い声が聞こえた。 「ぎゃああ!!」 「ガルルルッ」 「うああああ!!」 「ガアアアッ」 子供二人はエルフェイオに必死にしがみつき、エルフェイオが剣を構え操る馬の前に、二人の男が倒れ込んだ。狼がなおも生きて暴れる男に噛みつくと、もう一人、血の出る腕を押さえた目の血走った男が歯をむき、セイルの方へ走っては行く。 「させるものか!!」 エルフェイオが剣を振るい、その男の背を切りつけた。 男はその場に倒れ、もう一人の男も狼に首元を噛まれて倒れた。 セイルは白くなってがたがた震え崩れており、馬からエルフェイオは降りて、男二人の顔を確かめた。 「ジャグ。それにザリオ。一族の護衛ですね。セイル様」 「……やはりだ。王権を取り戻すには、弱い者を残さないつもりだったんだ。そしてこの子を取り戻しに来たのでしょう。健康的で、術も成功したから」 セイルは腕で涙を乱暴に拭った。美しいセイルの顔はどんなに悔しさに歪んでも美しい。澄んだアクアマリンの瞳がどんなに涙に濡れても、清流に見えるほどの。 エルフェイオはセイルを立たせ、抜けている腰を叩いて気をしっかり持たせた。 「早くここから離れましょう」 「はい」 ルビーはずっと震えていて、セイルの従姉妹はルビーの髪を撫でてあげていた。 この前まで、あたたかな屋敷で暮らしてきた子だ。何もかもがいきなりの事で、混乱しているのだ。 「よくやってくれた」 エルフェイオは狼に言い、狼は口の周りの血をなめてきれいにしていた。 狼は歩き出した一団の背後で、一匹引き返し、二つの死体の服をくわえ引っ張った。 「ああ、そうか。死体は隠さなければ気づかれてしまいます。狼は獲物を土に埋める習性があるんです」 「なるほど。確かに。丁寧にする時間は無いが、土と落ち葉を被せるだけでも、発見の時間稼ぎにな」 なにか凄い勢いで狼が爪手で土を掘り返しており、一気に二つの死体を引っ張り込んで、後ろ足でざっざっと土を被せてしまった。 「これは見上げたものだな」 土を掘ろうと腕をまくり、腰を折った格好だったエルフェイオは、腰を伸ばした。つい狼の頭を撫でようとした。途端に狼が顔を険しく牙を剥いたので、「すまない」と、エルフェイオは手を引っ込め眉を上げた。 代わりにセイルが「どうもありがとう」と、狼を撫でた。 「行きましょう」 「ええ」 先を急いで彼らは進んだ。 「まだ手が震えている。こんなで僕は彼女を守れるだろうか」 「男は鍛えられます。女性でも同じように」 エルフェイオの言葉に、セイルはまだ頼りなげに微笑み頷いた。 小屋に到着すると、子供二人を小さなベッドに寝させた。狼が小屋の周りを偵察して帰ってくると、一通り小屋のなかの匂いを嗅いで回り、子供の眠るベッドの足元に丸まった。 エルフェイオとセイルは小窓の星明りだけになったなか、灯の消えたカンテラを無言で見つめていた。 まだセイルはショックを隠せずにいる顔だった。 「一番上の兄がけしかけたんでしょう。あれはそういう血も涙もない性格なんです」 セイルは悔し気に声を絞り出して言った。 「僕はみすみす言いなりになどならない。既に兄は儀式を執り行っている」 「逃げた先でどうやって隠れ住むつもりで?」 「なんの準備も無い……情けないけれど、ただ国を出なければと思い出てきた」 落ち込むセイルの横に狼が来て寄り添った。 セイルは微笑んで狼の頭を撫でた。 「この子も、僕らが森を抜けたら戻らせなければ。狼は結束力が強い」 窓の外をセイルは見上げた。 「どこかの小さな村にでもいって、出来る限り精一杯働きます。この子がそこで成長して、誰かにもらってもらえるまで僕は諦めない」 覚悟のある横顔は興奮で震えていた。恐くて仕方が無いのだろう、生きることはそれだけで難しいことを、まだ貴族出のセイルは知らないのだから。 しばらく考えてはエルフェイオは言った。 「海を越えるべきです。一族の噂さえ届かぬ異国まで」 小屋の中は冷え込み始めた。エルフェイオは二人の少女の布団をさらに引き上げて、二人の顔を見つめた。 「私は明日には戻らねばなりません」 「その女の子とは、何故あの山に?」 エルフェイオはセイルの顔をしばらく見ていたが、言った。 「この子を遠い国まで連れて行くのです。お付きの女性につかせて」 「養子……ですか?」 「そのようなものだと」 セイルは頷き、いきなりエルフェイオの腕を強く掴んだ。 「僕と従姉妹もどうか、どうかその国へとお供させてもらえませんか。ご迷惑はおかけいたしません。その国に着いたら、僕らはその養子先の方々と関わることなく、ひっそりと暮らします」 「その一存は私には出来かねる所だが、どうしたものか」 実際は養子でもなく、ルビーとディアーナも、セイル同様見知らぬ土地へと逃れるのだ。明日、ディアーナの到着後、真実を話すべきかを決めたほうがいいだろう。 エルフェイオは寝ずの番を続け、ベッドにもたれかかり一度も動かない人形のように眠り込んでいたセイルは、小鳥の鳴き声で目覚めた。 夜、幾度もセイルの静かな寝息を確かめたほどに、人間を離れたものを感じた。やはり、それはルビー同様のもの、魂の危うさを感じて。 器。 そういった悲しい言葉が、エルフェイオの心の中に浮遊した夜だった。 その魂の美しい容れ物。それは、泣いて、震え、微笑むのだ。 セイルは硬い床で眠ったことに慣れずに、強張る全身をさすってから、長い髪をかき上げて顔をあげた。 「おはようございます。セイル様」 「おはよう。エルフェイオ様」 狼はベッドに上がり込んで二人の子供をあたため眠っていたので、顔を上げた。 エルフェイオは狼を見て、不思議に思っていたことを言った。 「元来、一族は優しいのではないのか。狼を助け、代を越えて慕われている」 「狼は僕らの守護神であり、気難しくも良き友です。僕ら一族の存亡と血族とは、相容れない崇高な場所にいるのです。信仰する神が生活の横にあって、それでも人間には愚かにもしがらみがあることと同じ」 窓の外を薄く流れる霧を透かして、朝日がゆっくりと帳を降ろす。 セイルの瞳は輝き、静かな口元は息をついた。 「そんなしがらみから脱却しても、愚かにもまた人間はしがらみを新しく作るでしょう。それでも、血の薄くなったしがらみは、きっとあの霧のように薄いヴェールのように、少しは柔らかなはずです。そうしなければならない。僕自身で、何かを守るために心の輝石を本物にしなければ、僕が生きてきた意味は何になろうか……」 馬のいななきが聞こえ、エルフェイオはセイルを座らせたまま、窓から様子を伺った。 ディアーナだ。人形を抱えている。 彼女は辺りを見回し、扉へ歩いて行った。 ノックだけがされる。 エルフェイオは外に他に追ってが無いかを十分気配を探ってから、静かに扉に近づいた。 ベッドの下にセイルを隠れさせ、狼の上にも布団をかけたのは、万が一にディアーナがセイルと従姉妹の追手につかまり脅迫されていたり、ディアーナ気づかぬ内に隠れ連れて来ていたら困るからだ。 少し扉をひらくと、ディアーナはエルフェイオに頷いた。小さく聞く。 「追手は」 「追手? いいえ。気配すら」 「入って」 「はい」 ディアーナはさっと隙間から入り、精巧な人形はやはりルビーお嬢様に見えた。 もう一度、エルフェイオは窓から外を確認した。 「すぐに経った方がいい。しばらくは私がつく。一つ報告も」 「心強うございます。報告、とは。追手というにも」 「僕らを追っての者です」 「あ、セイル様」 ディアーナはベッド下から出てきたセイルに驚いた。 「あなた様も国を逃れて?」 「というのは? その子は今眠っている少女の双子で? まさか、双子の儀式を逃れて?」 「いいえ。セイル様。彼女らはあなた方一族が戻ろうとしている国の者です」 「え? てっきり、エルフェイオ殿が着いているから、僕らと同様に同じ国から養子のために来たとばかり」 「養子」 ディアーナは人形を抱えたまま、首を傾げた。 「小屋から出ながら説明を」 まだ眠ったままの二人の子供を、二頭の馬の前にそれぞれ乗せ歩き出す。 ディアーナが人形を背に括り付けて馬に乗るので、セイルは不思議そうに見た。狼は狼で人形の匂いを嗅いで、正体が分かっていた。 エルフェイオも狼も様子を探りながら進んでいき、朝日を縫っていく。 「それでは、ルビー嬢も一族を逃れて」 「はい。確かに、どこかにご縁があり、養子に出せるのであればよろしいのですが、貴族間の繋がりは恐ろしくございます。実際、お声をかければ誰かしらの秘密裏の保護を十分受けられるのでしょうが、確実な内密は難しい」 「僕らは田舎の村に行き、ひっそりと暮らそうと。エルフェイオ殿も海は越えたほうがいいと」 「ええ。それが確実です」 ディアーナもセイルに言った。 「我々も女二人。男手があるほうがいい時もあります。エルフェイオ様はじきに戻られるのですから」 「僕は足手まといになることが怖い。昨夜はあなた方との同行を願い出たが」 「わたくしも女騎士のはしくれ。セイル様、従姉妹様、ルビー様をお守り申し上げます」 強い瞳でディアーナは言い、微笑んだ。 随分と東の森を歩き、木陰に隠れる場所を見つけると、彼らは一度止まった。 子供たちは目覚めており、ディアーナは持ち寄った食べ物を袋から出し、均等に分けて皆に食べさせた。 馬は草を食べ、狼は自分で獲物を食べた。 そこで初めてセイルは双子ではなく、片方は人形なのだと分かった。 「精巧ですね。美しい人形だ。やはり一族が母国の職人の技術を愛し、戻りたがる気持ちも頷ける」 「私は国に帰ったのち、一族の様子を伺います。ディアーナ嬢がルビーお嬢様をお連れし、どこまで行けるかは分からないが、出来れば一族の内部の護衛として騎士が出来れば探れる」 「その為には、城の再建を目前にする今、募集がかけられる事でしょう」 セイルが言うと、ディアーナは人形の衣服をまくり、人形の背中に描かせた緻密な地図を表わした。 「わあ」 セイルは何事かと目を覆っていたので、驚きの声を上げた。さきほども、人形の腕が片方が水筒になっていたので、皆も驚いたのだ。 言ってはいないが、脚は隠し剣が仕込まれている。頭の中は乾物の食べ物。胴の中は着替えなど。腿には七つ道具。さすがに今は、カツラを取れば頭部は琺瑯鍋、顔下は蓋になることなど言えないが。人形はバラバラにして馬の担ぐ鞄にも収納できた。 彼らは再び経つ準備をし、歩みを進める。 気候は落ち着いていた。脚も進めやすいが、もし追手があるなら相手側もそれは同じ。注意をしながら森を抜けなければ。 セイルは唸っては馬上の二人を見上げて言った。 「しかし、ルビー様のお父上にもまだ話が通っていない事は気がかりです」 「貴族にも種類はおります。我が主様は、今後要点を得るだろう領主、資材運びをまとめる主、以前より大臣を受けていた主、それらとは枠が違い、一角の小店舗を取りまとめている商人上がりのご家庭です。ルビー様のおばあ様であられた元第四王女も、将来の王族との関りを危惧して、直接王侯と関係の薄い貴族との縁談をし、保護をしていただいたのですから」 「他の主要となる貴族には話が通っているかもしれませんね」 「ええ。わたくしも注意を怠り、城址の地下を使い、人形を職人に作らせたのは、今思えば間違っていたかもしれません。それでも町の者が定期的に城址の管理や落ち葉拾いをしてきていたので、怪しまれなかったのかも知れません。これと言って城を偵察する目は無かったと思っても、話の通った貴族方が管理の時分に見回っていれば、秘密裏に準備を行っていても不自然に思われず、城下町の者も気づきませんもの」 「併せて私が偵察しよう」 「お願い申し上げます。エルフェイオ様」 彼らは東の森の端まで来ると、エルフェイオは馬から降りセイルと変わり、彼らはエルフェイオと狼を見た。 「どうか、ご無事で」 彼らは深く頷き、馬で颯爽と山へと駆けあがって行った。 山を二つ越え、谷を進み、小川で水を汲み、河になって平原を行き、湿地帯を慎重に抜け、丘を越えると、森の奥へと入って、ようやく彼らは馬を止めた。 ディアーナは琺瑯鍋で乾いた肉と麦を茹で、人形の五本の指を連ねた棒でかき混ぜていた。火の間から人形の逆さの瞼が見てくる。 それを何ともつかずにセイルはそれを見ていて、人形のボブカットのカツラを被ってみている金髪ボブカットのルビーは、冑をかぶったようになって、従姉妹とにこにこ笑い合っていた。 一体しか用意が無いから仕方がないが、ディアーナは子供二人の暗い色のマントを脱がせ、人形の胴体の背面と前面を外し、それぞれの胴体の前に、硬質の鎧のように縛り付けた。 「本来はルビー様の胴を前後から囲うように作らせた鎧ですので、寸法はどうかと思いましたが、どうにか従姉妹様にも間に合ったようでございますね」 ディアーナは嬉しそうに頷き、目をきらきらさせているので、セイルはドキドキして、耳を赤くしていた。セイルは貴族令嬢に言い寄られても初心で、文学にしか興味を示さない性質だったので、このように自分から女性を可愛い、と思うことは珍しいな、と自身でも思うのだった。 共に、自分がそんな女性に守られる側なのが実に恥じ入ることだと改めて認識する。自分身付いてくると頷いた従姉妹も、さぞかし不安で怖かったことだろうに。山や森では狼が彼らを守ってくれたから、まだ心強かったろうものを、あの時、どんな巡りあわせか、血が導き合ったのか、ルビーとエルフェイオが現れなかったら、追手にもっと危険な目に合わされていたのだ。昨夜泣いても、まだ癒えない心の弱さに、セイルは自分の男気をもっと上げたいと切に思った。 ディアーナから剣術を教わろう、そう思った。 自身は唯一の男であり、どんなに強がっても女性は女性なのだ。紳士として守るべきを護る術を手にしたい。 いきなりセイルが「ぐぐぐぐぐぐぐ」と綺麗な歯をむいて腕立て伏せを始めたので、女衆は目を丸くしてセイルを見た。従姉妹はきゃっきゃとよろこんでその背に乗って、ルビーはぱちぱち手を叩いた。 男なのでなんとか5回は行ったが、そのまま崩れて落ち葉が舞った。湿った香りと冷たさが全身に伝わる。従姉妹が重い。十歳にもなると抱っこすら無理だ。図書室で重い美術書を抱え運んできた日々がどうにか役立って5回か。この様だ。先が思いやられる。セイルは思いながら、ルビーがにっこりと大きな楓の葉の上に麦飯と肉を包んでよこしてくれたので、背を降りた従姉妹と共に有り難く頂いた。 一方ディアーナは、無茶をしてまで一若者が一念発起し、小さな子供を連れて逃げてきた勇気に、心なしか微笑ましく思い二人を見た。 手袋を取って食べ始めたその手は、真っ白で柔らかいのにすでに傷がいくつもできている。 「セイル様はおいくつになられたのでしたか」 「十七です。この子は十歳」 「わたくしは、五です」 ルビーはいつものように、立ち上がってマントの裾をつまみ、可愛らしくお辞儀をしながら、拙い言葉で言った。あどけないルビーの声に、誰もが微笑んだ。 「よろしくお願いいたします。ルビー嬢」 「よろしくお願いいたします」 そうして握手を交わし合った。 セイルはようやく安心したように、従姉妹を見た。 やはり、まだ互いに信用を本当に置いてよいものか分からなかったのだ。それはエルフェイオやディアーナも、セイルらに対して同じだったことだろう。どちらかがどこかで裏切り、どちらの国へ連れ戻すか、刺客として差し向けられたか知らぬ者同士なのだから。ディアーナは女騎士。セイルは危険思想を持ち合わせる一族の一員だったのだから。弱気を襲おって刃を向けないとも言えないのであれば、エルフェイオも森で別れるのは不安だっただろう。 それでも、本当にセイルにはそんな力も筋力も無いことは、エルフェイオが腕を掴み立ち上がらせたり、馬に乗せるのに背後から腰を持ち引き上げた点でも分かっていた。本当になんの筋肉も無い、内向的青年なのだと。逆にセイル自身の言う通り、足手まといになるのも不安だった。子供より経験がある分、恐怖に慄きやすいし、子供の方がまだ無頓着でどうとしている場合もある。 ディアーナは子供が三人と思って行動しているのだが。なので、セイルがディアーナに惚れても、しばらくは恋愛にもならず、男として見られる事もないだろう。 第一、明らかにエルフェイオとディアーナは夫婦かのように思えた。だからこそ、エルフェイオもディアーナに協力し、ディアーナもエルフェイオを信用したのだと。 「この子の名前はディアマンテ。ディアーナ嬢とお名前が似ている。儀式で使われた宝石と、瞳の色にちなんでつけられた名です。セイルの名も、アクアマリンの水色から、穏やかな海のごとく、シエル、空の高みのようにと名付けられました」 「素敵でございます。セイル様。ディアマンテ様。ルビー様の名は、お体の弱いものですから、名から力を得ようと名付けられました。遠い昔の王家の鉱物の習わしは古い、呪わしい過ち。名称のみを鉱物からお借りするのに抑えることがせめてもの行いだと」 「元第四王女は見事なサファイア色の瞳と聞きました」 「はい。わたくしも幼い時分にはお会いしていたようなのですが、幼かったゆえに覚えがなく。お美しかったとのお噂は拝聴いたしておりました。旦那様が昔の王族時代、その先代が子供のころに実験的にエメラルドの呪術を試され、瞳に受けつがれていたことで、ルビー様の瞳の片方が、エメラルドを引き継がれました。当時、まだ力の弱かった貴族は子供が餌食にされ、研究に提供されてきていたものと聞いております。あの国の貴族はどの方もそうだったのです。美しい王家の血筋のため、捧げられた城下の貴族らだったのです」 「それが再び、あの国で起きようとしているのですね。僕らの移り住んだ国でも行われてきた魔の行いです」 セイルは焚火に水の欠けられ白い煙が細く上がり、重なる木の葉にかき消された風を見上げながら言った。 「僕に力があれば、もうそんなことは止めさせられるというものを。僕は逃げたのだ」 「セイル様。これは危険からの避難です。弱きが立ち向かうは命を落とすだけのこと。それを本能的に分かって回避できたことが、まず一歩踏み出せたことなのです。手を拱いてみているだけでは、変えられない。ディアマンテ様も政治に使われていたことでしょう。心も失くし、儀式に誰ぞがあげられる恐怖の時間が来ることを、セイル様は海に魚を放つがごとく、空に鳥を放つがごとく救い出したのですから」 ディアーナの真っすぐの目を見て、セイルは耳から頬、首筋まで真っ赤にして、うつむいてしまった。 明るい森を越えると、小さな田舎の村に出るが、そこも通らずにその先の森と山を越え、海のある村に出るつもりだ。本来は通行場所として警戒される港のある町は避けたかったので、小さな村に向かうのだ。河は一方通行なので、発見されやすく危険だった。 顔が知られていないディアーナだけがフードを被り、食料調達のために一度村へ向かった。 のんびりとした村ではあるが、この村も古い昔は国から男爵が土地を与えられ統治していた歴史がある農村でもあるので、貴族に顔の知られたセイルが来るのは危険だ。 ディアーナが食料と用品を手に入れると、すぐに皆の野営している場へ向かった。 「……、ルビー様?! セイル殿、ディアマンテ様!」 森の野営の場所は、暴れたあとがあり、木の幹には剣の傷があった。 「ルビー様! ディアマンテさ……」 ディアーナは、ぞっとした気配を背後に感じ、手に下げる袋を強く掴んだ。 背に何かが飛びつき、首筋に刃物が向けられた。 「……ディアマンテ様」 ふわっと波打つ金髪が視野端に現れ、ディアーナは横目で睨み見た。ダイヤモンドで出来た短剣。身軽な体。子供と思っても、十歳にもなれば十分殺人術など、地下で秘密裏に仕込める。 「黙って。殺しはしません。あなたが本当に危険じゃ無いか、問うのです。わたくしは本家のセイル様をお守りするため、幼き頃より父から護身術を叩きこまれてきたのです。我々分家の兄弟はそれぞれが、一人ずつ本家のお方を護るために育てられ生かされてきた守護人形」 顏を向けると、ディアマンテは顔を歪めて真っ赤に泣いていた。ぼたぼたとディアーナの首筋に涙が落ちていたのだ。 「何故、お泣きになられるのです」 ディアマンテは嗚咽をもらし、言った。 「さきほど、初めてわたくしは、人を、人を殺しました、知らない顔の追手でした、セイル様とルビー様は、森の奥へ逃がしました。わたくしは、怖くて、何を信じたらよいのか、わからなく」 ディアマンテの涙と洟だらけの顏は、それでも可愛らしかった。ディアーナは、人を殺して震えるディアマンテを背からゆっくり降ろし、ダイヤモンドの短剣を鞘に戻させて抱きしめた。 腕の中でディアマンテの小さな体が震え切っている。かわいそうに、こんな弱い立場の少女に殺人術など仕込む一族の命令に、ディアーナは硬く目をつむった。 「分かります……恐ろしかったことでしょう。ディアマンテ様。わたくしももっと隠れた場に野営をしなかったことが愚かだったのです。本当にごめんなさい。今すぐ二人のもとへ急ぎましょう」 ディアマンテの顔を拭い、まだディアマンテは鼓動の激しく興奮してひらききった瞳孔のまま、泣きながら頷き、共に走って行った。 野営の横の木の裏に、男の死体があり、木の裏と落ち葉には血が飛び散っていた。暗い色で見えなかったが、ディアマンテのマントも返り血で濡れていた。 「ここまで追手が来たということは、きっと東の森からずっと付けていたのかもしれません。平野や湿地では姿は見えなかったのに、しつこい連中……。わたくしが離れて、あなた方が三人になるのを待っていたのでしょう」 ディアマンテは急いで歩きながら頷いた。 その風で頬は涙が乾き、逆に怒りのこもった目でまっすぐを見て、ディアーナの横を大股で歩いていく。 「要人や貴族、刺客や護衛の顔は小さなころからたたき込まれておりましたけれど、知らない顔ということは、誰かに依頼させたのでしょう。きっとセイル様の長兄筋の刺客です。いくらなんでも、わたくしのことを他の兄弟もセイル様の長兄についている護衛も手にかける依頼は断ったと見えて、他の者に依頼したのだと」 「わたくしの国でも見かけない男だったので、そうなのかもしれません。これでは海の村も危ない。どうにかして巻かなければ」 ディアマンテは立ち止まり、ディアーナは振り返った。 「わたくしが囮になります。その内に、三人でお逃げください」 「ディアマンテ様。セイル様はあなたをお守りするために、普通の生活をさせたいがために共に逃げて来なすったのですよ」 「セイル様のそのお言葉だけで、わたくしはどんなにか救われ、うれしかったことか。セイル様は本当にお心が優しく、たおやかなお方です。セイル様をお守りするためならば、日々受けてきた辛い特訓さえ、意味があったことなのだと」 「それならばなおさら、共に生き延びるのです。あなた様の体に生きる身代わりとなった子供たちを、あなた様の金剛の心と生きさせてあげたい。わたくしは、そう思うのでございます」 ディアーナはディアマンテの頬に手を当て、優しく微笑んだ。 「だから、さあ、行きましょう」 ディアマンテの手を引き、走っていく。 海の村を避け、彼らは進んだ。 闇のうちに灯りも消し、海に詳しい者と共に舟で出られればと思ったが。 陸路をしばらくは行ったほうがいいだろう。 「彼らの目的はなんなのか」 ディアマンテが実は自身の護衛だ、と初めて知ったセイルは驚いていた。 「僕のことはもし生かして返すとすれば、儀式を執り行う技術・医師にする目的でしょう。ディアマンテは守護の役以外にも、もとより本家ほど優れた血を持つと言われて来ていたのです。女性兄弟が本家にはいない今、十分に政治的に婚姻で使うことが出来ます。ルビー様に関しても、すでに失踪ではなく、逃走なのだと知られていることと思います。王家の目的の一つには、輝石の目を持つオッドアイの人間を作ること。そのためにも、母国でオッドアイで生まれたルビー様のお母上も、ルビー様も、奇跡の血筋なのです」 「母上」 「大丈夫です。ルビー様のお母上はすでに婚姻を結ばれている。我々が引き入れるのは、未婚の貴公子や処女の令嬢なのです」 「よかったです」 ルビーは小さな手の甲で目元をぬぐった。 最近、片目が見えづらいのだ。いつも室内にいたから、お外に慣れていないのかもしれない。 大好きなオルゴールを聴きたくなったが、今は恐い人から逃げているからいけなかった。 最近、手首や足首もちょっと硬い……。 ルビーは不安だったが、それを言えずにいた。もしかしたら、皆の言うように、本当にお人形になってしまうのではないか。と。 心配をさせたくなくて、言えなかった。 「移動手段を変えるべきか、それとも馬は目立ちますが、そのまま一気に駆けさせるべきか」 ディアーナは渋くうなり、馬は向こうで馬同士で鼻で会話をしあっていた。 「子供がいる以上、移動は馬の足の速さは必要ですね。それに足で追ってくる追手からも高さでいなせる」 ルビーの胴に括り付けた、鎧代わりの人形の背に描かれている地図を見て、皆は経路を練り直していた。 ルビーはそれを自分でも見下ろしているうち、心臓がとくとくと鳴って、次第に、とく、とくん、と、と変わり始めていた。 こういったときは、いつも眠くなって眠ってしまう。そしてオルゴールの音色で目覚めてきた。 まるで、蓋を開けたら現れ踊りだすオルゴール人形のように。 ルビーはうとうととしだし、瞼を静かに綴じた。 ディアーナは気づき、ルビーを横たえさせて自身の腕を枕にした。 「今日は眠りましょう」 「はい」 皆も頷き、穴に入り、蝋燭を消して辺りを見回してから小さくなり、眠りについた。 ここは、倒れ掛かり他の大木に幹をかける木の下の土を掘り返した穴のなか。その上に幕を敷いて落ち葉で覆ってある。 馬はそれぞれ、目立たない場所に括り付けてあった。馬が動物に襲われないようにと、周りの木にセイルが狼の毛や尿を瓶から出して振りかけてある。これで動物は一次の縄張りとなって近づかない。この辺りの狼も見知らぬ狼の匂いに警戒して、一晩様子を見て馬に手を出さないことを祈る。 目を覚ました暗がりのなか、ディアーナな眠ったままのルビーを抱き上げ馬に乗り、セイルも前にディアマンテを乗せ馬に乗った。 普段使わない乗馬筋肉で全身は強張っているが、まだ全身は緊張して、痛くはならないのが幸いしている。はじめ山を馬が走りだしたときは、セイルは死に物狂いで手綱ごとたてがみにしがみついて、鐙を踏み込む土踏まずも足全体も痛くなったが、今思えば、胴の下で小さくなっていたディアマンテが、強くセイルのベルトを掴み引き付けて、落馬しないようにしてくれていたのだ。 現に今も馬の鞍に括り付けた鉤爪を、セイルのベルトに通してくれてあった。ディアマンテは乗馬も慣れたことだ。鉤爪は回転させればすぐ外れるとうにもなっていた。 月明りさえも注意しながら進む。 ディアーナは、コンパスを見ながら地形を読み進み、追手の気配も探りながら馬で先を急いだ。 彼らの目は月の光りにも花やいで輝く。フードを深くかぶり、走らせて行った。 そうやって、平野を避けて三日間移動し続け、そんななかでも一切ルビーは目覚めなかった。 浅い呼吸は変わらずし続け、頬はほんのり温かいが、手足は冷たい。 ディアマンテは不安げに顔を覗き込み、ディアーナを見た。 「人形化です。血が薄くなる末端は、次第に硬化してしまう。これも、我らがさだめ……」 「どうにかできませんか」 「それには、今のところでは再び鉱石の儀式を行って、ルビー様の心臓にルビー鉱石の力を与えなければ。しかし、それは他の犠牲は使わないとしても、鉱石との融合施術がルビー様の体で耐えられるか、本人がそれを望むかが問題です。それには、国に近づく危険を冒さなければならないのですから。このまま生きさせて、いつまで体がもつかはわたくし共にも分かりません。血が薄くなった者は、直ちに儀式に挙げられ、生きながらえておりましたから」 「……っく、普通に生きさせるにも、儀式が必要などと」 ディアーナは歯ぎしりをして、目を固く閉じた。 ルビーは幼気な顔で眠っており、呼吸をしている。 「そろそろ目覚めさせ、お食事を召し上がっていただかなければ」 「ディアーナ嬢。地図に確か、滝がありましたね。そこでなら、目覚めのオルゴールの音も紛れるのでは」 「セイル様。そう致しましょう」 彼らは滝に向けて馬をすすめる。 滝までつくと、ルビーも食事をして、しばらくはいつものようにボウ、としていた。 いつか、この子が動かなくなり停止し、安心した村でバラバラになって崩れてしまうことが恐い。せっかく幸せを手にした先。それは村に着いたすぐかもしれない。美しく成長できたあとかもしれない。愛しい人を見つけ、頬を染めるということも知らぬままに、安住の地で。 誰もが目を閉じ、そんな不安を振り払った。 「もしかしたら……」 セイルは滝を見ながら考えていたのを顔を向けた。ルビーはぼうっとしながら回転する絡繰り人形の踊りを見ている。 「ルビー鉱石の装飾品を血脈の近くに身につけたり、その粉末を胸部に塗れば、効果が何かしら得られるかもしれない。僕らは他の人々よりも、鉱石への反応が著しいのです」 「どこでルビーを手に入れるべきか、が問題です」 セイルもディアマンテも所持金はそ宝石を手に入れられるほどは持たない。 「鉱石……奥様がこれをと」 セイルとディアマンテがディアーナを見ると、彼女は人形の片腕を袋から出した。左腕は水筒になっていたものだ。 ディアーナは、その人形の右下腕をひねりあけて、筒状のなかから鉱石をたくさん出した。上腕からは装飾品が漏れ出てきた。その全てが、ルビーとダイヤモンド、サファイアだった。 「これらはルビー様がお生まれになり、名付けられた時より力を得るため与えられたルビーと、そして元王女とルビー様のお母上から譲り受けたサファイアでございます」 「それを使えるかもしれない」 「旅の道中、危険と思い身につけさせることはございませんでしたが、屋敷では常にルビーの指輪と、ルビーの首飾りをお下げになっておいででした。まさか、本当に効力が適っていたとは」 ディアーナはさっそく、ルビーの身に着ける鎧代わりの人形の背面の下に、ルビーの首飾りを下げさせた。それは以前から、ちょうど心臓の高さにルビーか来るようになっていたのだ。それに留め具で長さも変えられるのは、成長に合わせて一生身につけられるためだった。 「きっと、効力はあります。僕らには不思議にも鉱石の血脈が流れているようなものなのですから」 「本当に不思議です」 ディアーナはルビーの背中を撫で、ルビーも慣れた首飾りの心地に、ディアーナを見上げて微笑んだ。 一行がゆうに三ヵ月もの放浪を続ける内、国から相当に離れたからか、追手が来ることは無かった。 その内にも、セイルは日々をディアーナとディアマンテから訓練を受け続けていた。ディアーナは村の酒場で肉とパンを買ってはセイルに食べさせ、体力をつけさせていった。 その甲斐もあって、森で動物が襲ってきても馬を操って上手に逃げきれるようになったし、山賊が現れた時は飛び上がることもせずに、ルビーをしっかり抱えて剣を片手に馬で離れさせていった。二年、三年もすれば、剣を扱えるようになる素質もあるかもしれない。 その内にも、手先の器用な女性軍は手芸品を作り、売ったり物々交換などをして行動資金を作っていた。 ディアマンテは歌が得意なので、それでも十分その日ぐらしに金を得られそうでもあるが、姿はまだ人前に出すのは危険だ。特に、ふとした時にフードがとれ、特徴的なオッドアイを見られたら、噂になることもある。 「そろそろ、海を越える手はずを整えてもいいのかもしれないわ」 ディアーナは呟き、セイルとディアマンテも頷いた。 「その前に、国が今現在どうなっているのか、それを少しでも知ることが出来ればよいのですが。エルフェイオ様はどうなさっておいでかしら」 「偵察に入ることは出来たでしょうが、城の復興や貴族との関係修復はそう早くは進むものでもありません」 「ええ。酒場でも、市場でも誰かが噂をしている言葉を聞いたことはございませんでした。年も明けて二か月目。春には一気に動き出すことも」 「今は裏から根回しをするなどしている準備期間でしょうね」 「はい。きっと」 ディアーナはセイルの横顔を見た。 女性にも見えるほど繊細な美貌の青年は、この三ヵ月で顔立ちがしっかりとし、瞳の光りが強くなってきていた。腕も少しずつだが、筋肉の筋が着き始めている。 ディアーナは微笑み、うれしくなった。 エルフェイオと子供時代に、共に修行と訓練に励んだ日々を思い出すようだった。 時代も違えば、もし国につくなら第四王子でもあるセイルでもあるが、彼の気質は元来やはり穏やかで、王宮で立ち回りより、静かに文学に親しんでいる方がよく似合う。今のうちに、どこか村にでもつけば、花でも育て出すと思われた。 「我々は村へと住まずとも、森のどこかに居を構えることも出来るかもしれない。以前、他国の災害復興時に、みなで丸太で小屋を作ったり、石を積んで家を作ったことがあったので」 「それもいいかもしれない」 そこでディアマンテは、木の実つみから帰って来て、ルビーに二粒食べさせながら話を聞いていたのを言った。 「しばらく数年、森に姿をくらましていれば、わたくし共も成長して姿かたちが変わり、セイル様も二十代となれば、鍛えようにより、立派になられます。鶏も育てれば、お肉も得られましょう」 「ディアマンテ様。そうしましょう」 山脈の麓の木々に囲まれた崖の近く。 川は崖から渓谷に流れ込み、岩場は風よけにもなっていた。 人が一切、足を踏み入れない場所。 かれらは岩場から石を集め続け、赤土と砂と水を練って、それらを積み上げていき、ドーム型の小屋を作り上げた。 村からディアーナは鶏と山羊も買ってきて、野菜の種も買ってきた。戻るまでの森では花の種も持ってきて、周りに植えた。 日々、ディアーナとディアマンテから訓練を受け、農作業をし、野菜は失敗してもめげず、山羊の病気で二度ほど残念なことになってしまったが、ディアーナが夜に村の医者に通いつめて学び、山羊に備えて、乳しぼりや、チーズを作れるようになったりしていた。 そうやって五年の歳月が過ぎていた。 十歳になったルビーと、十五歳になったディアマンテ。二十二歳になったセイルと、二十八歳になったディアーナは、逞しく暮らしていた。 ディアーナは姿こそは優美さに加えた冷静な勇ましさは変わらないままだが、二人の子供と、男であるセイルは、見違えるほど変わった。 雄美となったセイルは肌が浅黒く焼け黒髪に映え、白肌で神秘的だった頃から、野性的で魅惑的な風になっていた。 十五の年頃の乙女になったディアマンテは、顔立ちが派手な作りで気が強そうになり、時に山の動物を従えて遊び回るなどして、自身の身体能力をいかんなく発揮している。 十歳になったルビーは、子供のころは分からなかった繊細な声の美しさが、ディアマンテの吹く笛とよく合い、よく共に歌っていた。顔立ちも少しずつ大人びて、実に愛らしい。 すでに男のセイルには、女二人では敵わなくなっているし、嵐や大雪で壊れる小屋部分も一人で修復できる。小石を積んで作った初めの小屋などは、村に出ているうちにそぼ年の冬に雪で潰れてしまっていて、一人残ったルビーがあたふた潰れた小屋の前で立ち往生していたので、驚いて駆けつけたのだ。 なので、どうにか冬越えのためにも、小石のなかから日用品を引っ張り出し、洞窟に逃げ込んだが冬眠中の熊を発見してしまい、あえなく引き下がった。馬に乗って、顔をフードと首巻で隠して村に入ると、寒空の下、割れた窓の前で困って立ち尽くしていたおばあさんをルビーが発見し、ディアーナが木板で窓を作ってあげると、おばあさんが皆に食事をご馳走してくれた。彼女がどうも盲目らしいと分かると、おばあさんも、今年は子供が遠くの国へ出稼ぎに出て、半年は帰って来ないというので、冬があけるまで共に暮らしてくれたならこちらも助かる、という事だった。彼らは感謝して冬越えをさせてもらったのだった。 ディアーナがいつものように花に水を撒いていると、山羊と鶏の柵に肘をかけたセイルが、山脈の岩壁に反射する太陽の眩しさに目を細め、美しいディアーナを見つめていた。 ディアーナは笑顔で水を撒いていたのを、ふとセイルに気づいて顔を向けた。 「………」 「………」 二人とも頬と耳を染め、顔を反らした。 「わ!!」 「うわあ!」 「きゃあ!」 「っぷー!」と木の上から、豊かに波打つ金髪を翻させディアマンテが降り立ち、ダイヤモンド色の眩しい目で笑いながらやって来た。 この五年間で、令嬢であった言葉遣いもちょっと変わり、軽快になっていた。まるで太陽を味方付けたような美貌に圧倒させられる。 「わたしがお二人の心内を語り歌って差し上げます」 「まあ、結構でございます。D嬢」 真っ赤になってディアーナは言い、セイルは急いで小麦の麻袋を持ちに行った。 「N様もS様もおかわいらしい。まるでS極とN極のよに違いましたのに、今ではわたしには向き合っておられるか、どちらも同じ方向を見てらっしゃるようよ」 「D。大人をからかうのではない」 セイルも咳払いをして、倉庫小屋から担いできた小麦袋を、小屋へ運んで行った。 「R嬢はとんと疎いから、まだ分からないのね」 木の幹の裏側に座り、膝に鶏とお花を乗せていたルビーは、幹に背をつけて聞いてきたディアマンテをオッドアイの淡い瞳で見上げ、黒いリボンを飾った金髪ボブヘアの小首を傾げた。 「ほら。パンをこねるから皆も手伝うように」 「はーい」 ディアマンテも言い、ルビーもうれしそうに鶏を放って走って行った。 「困ったお方ね」 ディアーナは苦笑して、自分も小屋へ入って行った。 すっかりここでの生活に慣れてしまっているが、そろそろ居場所を変えることを考えなければならない。 海を越えて、全く違う土地へ行くのだ。 思いのほか、十歳になったルビーは身長が高くなっており、首や手足が細長い。五歳のころは本当に三歳ぐらいの小ささだったのだ。 村では一年前から噂を聞き始めていたのだが、母国では新しい城の建設が続いているという。その後も幾度もディアーナが様子を見に行っていた盲目のおばあさんの子供というのも大工で、招集や募集がかかって城の建築に向かっていたのだ。 今のところは噂は、百年前の王侯貴族が亡命国から母国へ戻り、城を立て直している、まだ商人からは値上げなど税金の上がり下がりの話は出ないから、商売に支障は来してはいないらしい、ということだが、資材運びで運河の船は往来が多くなったので、新しい通行手形を取る手間が増えた、という。きっと、その裏でも鉱石の流通を百年前のように管理しはじめているのだろう、とのことだ。 ルビーが心配してることだが、ルビーの家族が今どうしているか、商店地区をまとめている家庭だから、その点で何か変わったのか。忙しくなっているだろうが、限定的な噂を聞き込むわけにもいかない。元王女の血を強く引くオッドアイの母上ヘメラルドは、築城されたのちに王宮へ呼ばれるのではないか。流通に関して父上は手を貸すように王から打診されるのではないかと、様々が考えられた。 そこには必ず裏で鉱石を使った儀式が行われ、城下町の者を美しくし尽くそうとしているのだ。 この世は我らが自然の帳を有した巨大な宝石部屋であるというように。 国全体の国民・職人技術の美の水準を上げること。美と輝石は交易を担うから。彼ら自身が美の体現でありながら、美の魔力に魅せられ、美の魔物に魅入られているのだから。 美は狂気であることを、今でもセイルは震えながら語って聞かせてくるのだった。 ディアーナはその魔の手が伸びる前にも、三人をもっと遠い異国へとお連れするのだ。 彼らは硬パンをたくさん作り、硬チーズを作り、鶏で干し肉を作り、馬を一頭売り、山羊を三頭のロバに変えた。 農民一家を装って、家畜と共に船へ乗り込んだ。水色の片目をルビーは隠していた。農民は裕福ではないので、怪我をするとすぐには治せないから、目立つことも無くオッドアイを隠せた。ディアマンテはどうしても瞳が目立つため、すっぽりとフードを被っている。 船は他の人間も乗せ、海上を滑っていく。 言葉も通じなかった異国に来て二年目。あの王国の紋章が押印された装飾品が、この国にまで出回り始めていた。 噂では、ルビーの家族は元王女の家系として位が与えられ、管理する店舗が国の三分の一にもなったという。勇健なる美しい王も、花やぐ美麗なる妃も有名だ。だが、セイルの長兄であったあの底意地の悪かった第一王子は一年前に何者かに暗殺されたという。あとの二人の王子は一人が亡命していた国の姫をもらい子供もおり、もう一人は医学の方面に明るいそうだ。 元第四王子だったセイルは、それらの噂を異国のこの地で聞きながらも、情報を集めていた。 エルフェイオの噂は聞かない。一騎士でもあるし、商業の国であってその上もとより領地に帰って来た種類の王族だ。亡命先の国での繋がりも強固であり、争いをけしかける国も無い。むしろ、上等品を欲して貿易をしたがる国が多いのだ。 長い金髪を全てしまって帽子を目深にかぶったディアマンテは、「ほーい、ほーい」と言いながら、ぴしぴしと山羊のお尻を枝で叩き歩かせていて、薄衣に包まれる豊満な胸元は、太陽に照らされている。町へ行くときは国にならって、女性たるもの肌をすっぽり隠さなければ、国に逮捕されてしまうのだが。 ディアーナは一頭ずつ手際よく乳しぼりをしていた。番犬はその横であくびを吐き出して藁にまみれてごろごろ転がって遊んでいる。 ルビーはりんごの木陰で原色の糸で、小鳥や山羊の刺繍をしている。ルビーは身長が伸び続けていて、十二歳にして美しく二十歳ほどに見えた。 バザールと町から帰って来たセイルは、荷と香辛料をロバから降ろして行った。 すっかり流浪癖も板について、誰もが彼らは多くの流れ者一家の一つだ、と認識するばかりだった。 夜、皆が小屋に入ると、夕食を頂いた。 「今のところ、聞かないな」 「ええ。見かけはするけれど」 地下儀式の噂ももとが貴族間での密やかなものに限られたし、一農民が知りえる事でも無いが、有名貴族や交渉先の王族に死者が出たりすると、儀式が執り行われたことも示唆されるのだ。 この二年間で怪しまれる敬語を話さないように癖をつけており、誰もがそうだった。この国の言語は、皆が元が教養のある者だけに習得が早く、生活できている。多少乱暴なほどの言葉遣いの方が自然で、母国の訛りを消すのにも役立っていた。母国語は語尾が放物線を描くように声音が落ちる。よくディアマンテが掛け声で「ほーい、ほーい」というが、それだ。 名前も偽名を使っていた。ルビーはリラ。ディアマンテはマーガリー。セイルはルゴール。ディアーナはマルチェと名乗り、バミーチ一家となっている。 そんなこともあって、山脈麓にこもったり、異国で酪農一家をしていたりで、この七年間を一切エルフェイオは彼ら四人を見つけられずにいたわけだった。 てっきり田舎の村で慎ましやか静かに暮らし、頬を染めて結婚相手を見つけ、お付きのディアーナは涙を流し、と生きていると思って探していたら、思わず野性的に逞しく生活しているのだから、今も見つけられずにいる。 エルフェイオの報告で、ルビーの家族には国を出たことが伝えられ両親も安心した。城では一切彼らの姿も確認できず、捜索者も見当たらないと言い、戻ってきた試しが無い所を見ると、どこか危ない場所でもろとも行方不明になったのでは、とようやく諦めをつけたようである。 エルフェイオは休暇ごとに様々な村や町を探しまわるが、当然ディアーナは見つからなかった。真っ青だったセイル青年も、幼い二人の少女も。 四人の姿を確認するだけでもいい。 エルフェイオは空を見上げ、遥か上空の鳥を見つめた。 「……?」 エルフェイオは、店舗の軒先に並ぶ、異国情緒漂う刺繍の施されたスカーフに視線が釘付けになった。 エキゾチックな花の刺繍に囲まれて、灰色の狼の刺繍。その周りに、赤い小鳥、白い小鳥、金糸の馬、水色のロバ、それらの刺繍が施されていた。 それは紛れもない、ルビーの刺した刺繍だった。言葉もましてや手紙も無く、異国の地でルビーも、ディアマンテも、ディアーナも、セイルもいる証拠。いつか両親に刺繍が届くようにと、エルフェイオに無事を伝えられるようにと、ルビーが願いを込めて、エルフェイオにしか分からない形で、糸に紡いで想いを乗せたのだった。 ルビーとディアーナ。ディアマンテとセイル。その』二組が出会って行動を共にしていることも、今となってはエルフェイオしか知らないのだから。 外国の品も扱っている刺繍の店に入ったエルフェイオは、同じ系統の刺繍を目を巡らせ探した。 シャツ、スカート、ハンカチーフ、スカーフ、手袋、それらが店内には点在し、同じ作者と思われるに等しい刺繍が刺されていた。それほど特徴的で、色使いも決まっていた。山を背景にした山羊と馬と鶏の刺繍。りんごの木の下に座る青い目の横顔の少女の刺繍。金髪少女が山羊の群れのなかで笛を吹く刺繍。鍬を担いだ黒髪の農夫の刺繍。花を抱えた女の笑顔の刺繍……。 エルフェイオは笑顔の女の刺繍ハンカチを指に触れ、一粒涙を落とし、微笑んでいた。ディアーナ。 「いらっしゃい。今日は誰に祝いの品を?」 エルフェイオは友人の祝いによく店を訪れているのだ。 「このスカーフと、ハンカチを。スカーフは夫人用に包んでくれ」 「毎度あり」 店主はそれらをレジへ持っていった。 ハンカチは自分用に、スカーフはルビーお嬢様のお母上、ヘメラルド様へと、その夜まで気がはやって仕方がなかったが、屋敷を訪れた。 「まあまあ。素朴で愛らしいスカーフ。あなたもご覧になって」 「ああ。本当だね。愛らしい」 ルビーの親は微笑んで、エルフェイオの顔を見た。 「……見つかってございます。そちらが、その証拠と相成りますことに、相違はないでしょう」 二人は目をみひらき、スカーフの刺繍を見つめた。 「ああ、あの子……!」 ヘメラルドはスカーフに頬を寄せ涙を流し、ルビーの父上も妻の肩を持ち、涙ながらにうんうん何度も深く頷いた。 エルフェイオは礼をし、二人は彼に感謝をした。 |
紫 09SquFN9wU 2022年12月08日(木)16時03分 公開 ■この作品の著作権は紫さんにあります。無断転載は禁止です。 |
|
この作品の感想をお寄せください。 |
---|
2022年12月23日(金)06時36分 | 紫 09SquFN9wU | 0点 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
柊木なお様 拙作への感想、アドバイスをいただき、どうもありがとうございます! そして、返信が遅れてしまい、申し訳ございません。 登場人物、とくにセイルを気に入ってくださりどうもあいがとうございます。キャラの個性や魅力の伝え方も今回それぞれ分けらる勉強も出来ればと思っていたので、これからも精進いたします! 読み辛い書き方について、本当に申し訳なかったです汗 実は私の苦手としている部分が、一つの文の構成が変だ、句読点の場所が分からない、一文が長い、という部分なのです(お恥ずかしながら、これでもまだマシになった方で) もう一度全文に渡って、読みやすいようにいたします! 例文まで書いてくださって恐縮です! 読みやすいです! せっかくの部分(儀式、ディアマンテの攻防などなど)を書けていない点、三人称視点なのだから書ける、というのは目から鱗でした! 儀式内容は山小屋でセイルの見た夢で再現してみます。創作として大切な基礎要素が抜けていたのですね汗 キャラクターの心を見てくださりありがとうございます! 確かに、物語には対となる悪もしっかり描く力が必要ですね、視点を変えて、王族側もかけたらと思います。正邪の差で生まれる美しい物語、頑張って書こうと思います! たくさんのお褒めのお言葉と感想、そしてアドバイスをどうもありがとうございました! とても参考になりました! これからも精進させて頂きます!
|
2022年12月22日(木)21時34分 | 鱈井元衡 | 0点 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
残酷ではあるんですけどどこか白昼夢のような雰囲気があります。耽美な情趣が漂っています。人名にもこだわりが感じられます。 鉱石の儀式にまつわる話はおどろおどろしくて面白いのですが、それを中心にした話を見てみたかったです。後半になると彼らの放浪と成長の旅が主になってしまうので、序盤にあった妖艶な空気が退いてしまうんですよね。彼らが元々のしがらみを脱して自立していくのがテーマの話として見れば辻褄が合いますが。鉱石の儀式についてはもう少し登場人物の間で問答が交わされても良いのではと思いました。 ディアマンテがいつから登場していたのか分かりにくいです。道中の描写が込み合っているので、誰が何をしているか紛らわしいきらいはあります。
|
2022年12月18日(日)05時40分 | 柊木なお | +30点 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
はじめまして。柊木なおと申します。 作品を読ませていただきました。 冒頭から惹かれるものがありました。 凝った設定やイメージ豊かな文章も良いですが、それ以上にキャラクターに魅力を感じました。タイトルにも名前が入っているルビーが一番、と言いたいところですが、個人的にはセイルが好きです。彼がいきなり腕立てを始める場面が、それを見守るディアーナたちを含めて、笑えるほど愛おしく感じました。 気になった点でいうと、ひとつは文章について。想像力も表現力も優れているのは間違いないですが、初読では引っかかる箇所も結構ありました。たとえば、 >>少女がレースワンピースを広げ座る絨毯に、回転して影を踊らせる絡繰り人形をぼうっと見つめて、小さな指に触れた。 何が何にかかっているのか分かりづらく、この一文だけで3回ぐらい読み直しました。あまりに多くのことを一度に伝えようとしていて、さすがに無理があるように思います。少なくとも「回転する絡繰り人形が絨毯に影を踊らせている」と「少女が人形の小さな指に触れた」は順を追って描写したほうが良いでしょう。 不要とは思いますが、一応例文も載せておきます。 >>少女がレースワンピースを広げて座る絨毯の上に、回転する絡繰り人形が影を踊らせている。少女はその動きをぼうっと見つめ、人形の小さな指に触れた。 同じように、詰め込みすぎて直感的に分かりにくい文章が散見されます。「何は(が)〜した」という最小単位を意識すると、読み手にとってより親切な文章になると思います。 もうひとつ気になったのは、重要な出来事がことごとく画面の外で起こっているということです。 たとえば、セイルが一族の儀式について説明する場面がありますが、せっかく複数視点をとるならば、実際に彼が目の当たりにした儀式の凄惨さ、残酷さをリアルタイムの場面として書かないのはもったいないように思います。セイルの感じた恐怖の度合いや、その経験が彼に及ぼした影響などが、あまり差し迫って伝わってきませんでした。ディアマンテがセイルの護衛だと判明する場面も同様で、彼女が初めて人を殺したことが事後的に発覚するだけなので、キャラクターの設定を情報として得ることはできても、物語に深く関わる要素として体感することは難しいです。 こうした描写は、単にキャラクター個人にとってドラマチックというだけでなく、物語や世界観の基礎になるものだと思います。ふたつ例を挙げましたが、作品全体を通じて、そのような葛藤(設定から生まれる物語の旨み)が間接的にしか描かれていない傾向があると感じました。 本作のメインキャラクターはいずれも魅力的ですし、彼女らの温かな交流や心身の美しさ、気高さといったものは十分に伝わってきます。反面、そうした物語の正の側面と対をなす負の要素、人間の汚さや残酷さについては単なる背景設定として伝えられるだけで、具体的な場面を通じて克明に描かれることがなかったので、いい感じに不穏な序盤からするとその後の緊張感が薄く、若干肩透かしな感が否めませんでした。そのあたりの釣り合いがとれると、より力強く美しい物語になるのではないでしょうか。 以上です。あくまで個人の感想ですので、合わないところは切り捨ててください。 今後も応援しております。それでは。
|
2022年12月15日(木)19時10分 | 送りまぜ | +10点 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
返信は不要で、ご質問がありましたので恐縮ですが回答をば。 『図南の翼』は小野不由美先生の作品、中世でなく中華風のファンタジー小説で、十二国記シリーズのひとつですね。しかしこの一冊だけでも十分にひとつの物語として成り立っております。ご興味がございましたら調べてみてください。 一癖も二癖もある登場人物たちや、冒険のハラハラ感、そして主人公の活躍や成長物語としても素晴らしい作品です。 では、横やり失礼いたしました。
|
2022年12月13日(火)19時31分 | 紫 09SquFN9wU | 0点 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
送りまぜ様 拙作をお読みくださり、どうもありがとうございます。 送りまぜさまに筆力をお褒め頂くなんて光栄です……! 比べるに、私の文などは、てをにはや接続詞など様々な点で無駄が多いと気づかされたからです。 描写や情景の綺麗さをお褒め下さってとってもうれしいです! どうもありがとうございます。 本作は現実世界とプレファンタジーの間、という、微妙に会話でしか非現実が出てこない内容なので、ファンタジーと捉えてくださって畏れ多い事でございます! 城址は城跡でも良かったですが、あえて初めて城址という言葉をつかってみました。 視点転換、やはり多いですよね……。私も思っていたぐらいなので、読みづらさに繋がり申し訳ないです。ルビーの逃避を軸に周りの人間が動く姿を描いていますが、三人称に甘え過ぎました汗 それをまだ視点をあまり変えず描き出すまでには実力が無く、修行したいと思います! 三人称での固定された視線は昔から苦手で、私の課題です。一人称なら特に難しいけど、それとくくれば、作品の時代によっては近状手紙、ラジオ、TV、噂話などのツールを使おうとすれば使えるのですものね。 もしかしたら「共感の無さ」は、過去や親密なエピソードが全くと言っていいほど描かれていないからでは、と、送りまぜ様の言葉に、今更ながら気づかされました。現在進行形の逃走にのみをピックアップしすぎていたのですね、反省です! 盛り上がりと言えるかは分かりませんが、書き直しでは最後のエルフェイオの段で、自分なりに情感を込めて書き直してサイトにアップしたのですが、こちらではアドレス間違いで投稿しなおせず汗 「各々の視点が収束するように作られた作品」とても興味があります! オムニバス形式をうまく全体に同時進行で織り交ぜる感じでしょうか? 危機に関しては自覚があります汗 私の気力とガッツ不足が出ていると思います。追手は森で一度接触しただけ、二度目はディアマンテの時だけ、という、ファンタジーや小説では、危険シーンが少なすぎるし、お互いがっ敵か味方か分からないうっすらした不安、人形化、噂でしか分からない遠くの儀式恐怖しか盛り込めなかった力不足がありからです。物語にしては安全を取りすぎましたね汗 海賊、宿屋の密偵など、思いもつかなかったので「おお!」と思いました! それはハラハラしますよね! 切り抜け方が創造できれば、いつか取り入れたいです! ヒロイン(ルビー)が5歳でも何か出来る能力……、ファンタジーに振り切ったら人形の血ならではで何かあるのかもしれません。 けど、読者様からすると、きっと誰が主人公か分からないですよね汗 ルビー中心の行動といえど、ルビー視点が無いからです。あくまでガーディアンのエルフェイオとディアーナ視点だから。これも勉強ですね。 「感情移入」に関して、確かに難しいものだと私自身の性格から見るに、めちゃくちゃ頷けます汗 一人好きだから人の感情に疎くて、描き切れない面が多いはずです。筆者たるものに必要な感情移入の隙を作れないから伸び悩むにかしら、と汗 『図南の翼』は近年の本でしょうか? 実は恥ずかしながら、私は子供のころから縦書きの本が苦手で、本屋に行くことはありません。読書はもっぱら、横書きだからでしょうネット小説や、又は、最近になってようやく横書きでなおかつ著作権の切れている明治・大正・昭和初期の作品が読める「青空文庫」にほぼ限られております汗 朗読か映像になっていない限り『図南』の内容は分かりませんが、ウィキで調べようと思います! 子供時代から唯一続く長年の創作活動でもあるのですが、筆力は低いと自分では思っていたことなので、有り難いお言葉です! そしてもっと精進します! 静謐で美しい、と仰ってくださり、うれしくて笑顔が止まりません! 甘えることなく、もっと様々な表現ができるように精進いたします。 送りまぜ様の完成された独特の世界観の風も好きですので、お互いに執筆頑張りましょう!! 感想とアドバイスを下さり、どうもありがとうございました!
|
2022年12月12日(月)23時41分 | 送りまぜ | +10点 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
僭越ながら拝読させていただきました。 拙い内容ではありますが、こんな感想もあるよ、という気楽な気持ちで読んでいただけると幸いです。 最初に、うまくファンタジー世界を表現されていると感じました。描写も素晴らしいです。ぶっちゃけ自分より筆力あるなと思いながら読んでいました。また時折、自身の日本語力のなさからグーグルで検索しながら読んだ箇所もありました。主に城址など。 ただ個人的な感想として、短編作品において視点が転々としていることが多いこと。物語の盛り上がりがいまいち欠けているように感じたこと。描写は美しいのですが、登場人物に強く共感できる箇所がなかったこと、でしょうか。 長編であれば視点が転々としているのはありですが、短編はなるだけ一人に絞ったほうが読者の感情移入がしやすいと思います。しかしこれも例外として、各々の視点が収束するように作られた作品などもあります。一概にはいえないことで(滝汗) また、物語の描写が淡々として危機が少ないと感じました。海を渡り亡命するのならば海賊に襲わせたり、宿屋で敵の密偵に気づいた際にどう切り抜けたか、その際にどんな気持ちであったか、ハラハラしたか、あるいはバレそうになった時にヒロインが機転を利かせて助けてくれた箇所などがあれば、盛り上がりがあったかもしれません。 そして感情移入なのですが、ファンタジー世界と現代で生きる自分たちをどう結び付けるのか、なかなかに難しいところだと思います。自分も明確な答えを提示できそうにないので、好きなファンタジー作品の『図南の翼』を挙げておきます。作者様の筆力からして、もう読破済みだとは思いますが……。 以上です。ただ、静謐で美しいファンタジーを望む読者もいらっしゃるので、あくまで個人的な意見として留めてくださると幸いです。すべて私自身へのブーメランであることも(血反吐)。 それでは、執筆、お疲れさまでした。失礼いたしますね。
|
2022年12月09日(金)22時14分 | 紫 09SquFN9wU | 0点 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
謝辞 アドレスを間違え、発見しました誤字脱字や、最後のエルフェイオの段の足りなかった描写の加筆の完成しました分を、投稿しなおせなくなりました。読みづらい文になり、大変申し訳ございません。
|
合計 | 4人 | 40点 |
作品の編集・削除 |