宇宙の果てのどえりゃーお宝
<<一覧に戻る | 作者コメント | 感想・批評 | ページ最下部
 私の名前は大宙咲、宇宙の宙と書いて『そら』と読む。誰もが夜に見上げればそこにある宙に咲き誇るような存在、そんな人になってほしいと願いを込めて父に名付けられた。
 だけど、苗字とセットの名付けってどうなんだろう? いつか魅力的な男性と出会い結婚をしたら、苗字は変わり『咲』に込められた本来の意味も失われてしまうのではないか……。
 って、まともに恋を知らず二十六年間生きてきた私には、過ぎた悩みか。
 天文学や量子力学、地球科学などの座学を乗り越えて、私は今宇宙飛行士として日々辛い訓練を積んでいる。
 宇宙飛行士になったのは、なにも自分の名前に引っ張られたからじゃない。いや、それも少しはあるかもしれないけれど。
 私が山形のとある中学に上がった頃、宇宙科学者の父が言っていたのだ、「宇宙の果てには何があんのか……。きっとどえりゃーお宝が隠してあるに違いねぇんだ」と。
 私も一緒になって山形県の星空を仰いで目を細めてみた。もちろん答えは出るはずもないけど、もし本当にお宝があるのなら、お目にかかってみたい。
 ――きっと壮絶な過程を超えた先に辿り着くのだ、素敵なものであるはずだ。
 健康そのものだった父は、書斎で論文の執筆中に心臓麻痺でぽっくりと逝ってしまった。十年も前の話だ。葬式は盛大に執り行われた。
 最期に献花をする時、煌びやかな満天の星々を背にして笑う遺影は、まるで私を呼んでいるように思えた。


 私が訓練施設の休憩室のテーブルで一息ついていると、誰かが向かいの椅子を無遠慮に引いて腰を下ろした。
 実はさっきから向かってくるのを、視界の隅で捉えてた。茶色みがかった金色の短髪と、若い笑顔が印象的なアメリカ人のケビンだ。
 暇があると、なにかと私に話しかけてくるので分かりやすい。
「さっきのロケット打ち上げ訓練は最高だったな。お陰で、煩わしかった肩凝りが良くなったぜ」
 直後はふらついてまともに歩けないでいたのに、楽し気に良く言うね。
「それは良かったね。私はいつも、つわりってこんな感じなのかな? って、想像しちゃうよ」
 吐き気、めまい、頭痛……いまだにクラクラする感覚が抜けきらない。
 候補生だった時の、振るい落としが目的の過酷な訓練を思い出す。私にだけテレビの密着取材があって、毎日くたくたに疲弊してたっけ。長ったらしい黒髪を失恋よろしくバッサリと切って……自分が女であることを忘れたのもあの時だった。
「なんだ、子供に興味があるのか? 君は良い母親になれそうだよな。なんたって、忍耐強さじゃ宇宙飛行士随一! だし。子育てには結構大事らしいぜ」
「さすが独身のケビンが言うと、説得力が違うね!」
 私の笑顔たっぷりの皮肉を、ケビンは待ってましたとばかりにニカリと笑い飛ばす。
「これがマジなんだって!」
「ほんとに?」
「テレビに出てたじぃさんばぁさんが、口を揃えてそう言ってた」
「あはは! ケビン発信の情報じゃないみたいだし、信じてあげてもいいかな」
「ひでぇ。俺だって結婚願望はあるし、そしたら子供だって。そうだな……二人はほしい、かな」
 その、恥ずかしいことを言っちまったぜチラチラ、という態度はなんなのだろうか。
「もしかして、私に色目を使ってるの? 私を射止めようだなんて、ケビンはきっと相手が女性なら誰でもいいのね。宇宙飛行士になったのも、それが目的だったりして」
 ケビンは図星を突かれたような顔をしたが、すぐに立て直した。
「そういう君はどうなんだ?」
 私が宇宙飛行士になる切っ掛け、か。
「――星を見るが好きだから、かなあ?」
 ケビンに微妙な顔をされてしまった。そんな単純な理由でよく過酷な訓練を耐えられるな、とおかしみを含んだ目が口ほどに物を言っている。
「それで? ケビンはどうなの?」
「うーん、そうだな。自分がどこまで苦境に耐えられる人間なのか、試してみたかった……からかな」
 顎に手を当ててもっともらしい顔をするから、どんな高尚な志望動機が聞けるのかと思ったら、とても内向きな理由だった。
「それならスポーツとか、他の道もあったんじゃない?」
 私が訊くと、ケビンは屈託のない笑みを浮かべた。
「かもな」
 言葉にしないだけで、ケビンにも秘めたる理由があるのかもしれない。私が印象深い父との会話をはぶいたように、自分の中にだけあるささやかだけれど確かな理由が、彼にも。


 二〇六五年九月五日、私は何度目かになる宇宙へと飛び立った。
 宇宙ステーションの窓から窺える地球の景色は壮観だ。
 夜時間の地球は、無数の光一つ一つが人が集まってできた光だと思うと、自分がちっぽけな存在に思えてくる。さらに角度をずらして奥の宇宙には、地球がちっぽけに思えてくるほどの無限の奥行きが広がっている。
 宇宙飛行と聞くと、ロマンチックに感じる人が多い。きっと一九六九年の七月に、アメリカの打ち上げたアポロ十一号を思い浮かべるのだろう。
 たしかにアポロ十一号はロマンチックだと思う。
 もう私の生まれるずっと昔の出来事だけど、アームストロング船長が私たちに残した言葉は、同じ宇宙飛行士として今でも胸に響くものがある。
 しかしながら実際のところ私たちの仕事は、心身を鍛え上げ、満を持して宇宙に飛び立ち、地球の側を回る宇宙ステーションで何でもない日々を送る……これである。
 月の裏側を確かめに危険を承知で目指すでもなく、火星に住むと噂される火星人の調査に出向くでもない。そういう仕事は無人機に取って代わられて久しい。
 人類が宇宙で暮らせるか確かめるための実験体、それが昨今の宇宙飛行士の実態だ。
 六名の船員の状態と船の状況の簡単な定時連絡、あとは船の保守管理が主な仕事となる。

 宇宙ステーションでは絶えず大小様々な事件が起こる。
 人間ドラマの枠に収まる問題であれば可愛いものだが、トイレが壊れたり、給水装置が壊れたりの事故だと笑えない。
 起きている者が対処に当たるが、そういうのが得意な通称メカニックが眠っていると逆に状況が悪化したりして、そこから皮肉の応酬が始まり険悪な雰囲気になったりする。
 船員がトイレを修理するそばから、トイレに繋がっていたホースが無様に外れた。
 それを見た誰かの吐いた皮肉が、ウィットに富んで弾みを得、他の誰かの悪口となる。稀にみる嫌な空気が漂いはじめた。
 ここは退屈しないとっても楽しい職場です、としれっとため息交じりに揶揄したのはケビンかな?
 広いとは言えない空間で、男女六名の数か月に及ぶ共同生活が強いられる。普通であればストレスも溜まろう。この生活にいかに適応できるかが、宇宙飛行士に求められる一番の適正だといえる。
 幸か不幸か、私の適正は生まれ持って高く、ストレス自体に強い抵抗があるらしい。人間関係で悩まない。狭いところ平気。暗いところも平気。高所も余裕。孤独にも強い。他の船員と比べても、精神面での弱点が圧倒的に少ないらしい。
 喧嘩が起きそうになれば年下の私が下手に出ながら仲裁するのが、我らのお決まりとなっている。その結果、貧乏くじを引かされることが多い。
 今回だってどうしたことだか、対岸にいたはずの私が叩き起こされたメカニックと一緒に、壊れたトイレと悪戦苦闘している。でもこれが誰かの役に立つのなら、まったく苦に思わない。
 せっせと働く私を気遣ってか、トイレを使えず不服そうにしていた船員の一人が、バツが悪そうに手伝いに戻ってきてくれた。
 彼らもプロだ、一時感情的になることもあるが、空気を読む術をよく心得ている。今回の事件も小事で済みそうで良かった。

 トイレの件が一息ついた頃に、管制官から緊急の通信が入った。
 どこかの国が打ち上げたシャトルが失敗して、すぐ近くで宇宙ゴミをまき散らしたらしい。
 ゴミといえど侮れない。物によっては時速数百キロを維持して移動する。それが硬いネジやナットであれば、弾丸のごとく宇宙ステーションを襲うことになる。数も一つや二つじゃないだろうし。
 最悪な事態が脳裏をよぎる。
 総員がコントロールルームに集まって事に当たった。一にも二にも危険から距離を取るのが最優先だ。

 ゴミの集団が過ぎ去ったと思われた頃、赤い非常灯が騒がしく明滅した。警告を知らせるアラームが鳴り響き、辺りは今までにない緊迫感で騒然となる。
 舌打ちや、激しい憤りからくる深いため息が漏れ聞こえてくる。
「状況は!?」
「おぅジーザス! 右舷が被弾した。――ホーリーシィィット! 中央にも一発きたぞ。オーマイゴオォォーーーッド!」
「管制官に報告と、光っているアラームの確認を頼む。そっちにマニュアルあったろ。悪いが取ってくれないか」
 船員の苛烈な声が飛び交う中、顎下に伸びるカール髭がダンディな船長は、至って平静に私に手を差し伸べた。
 緊急対応マニュアル、たしかこの辺に……あった!
「また被弾した! それも二か所同時だ!」
 誰かが叫んだ。
 中央にあるモニターに警告を知らせる明かりが増えていく。
 中に『火災』がある。
 火災は起こり得る事態の中でトップクラスで危険だ。大切な酸素を消費して内側から施設を破壊していく。質が悪いのが延焼で、早く対処しないと次から次へと破壊されてしまう。
「みんな! 落ち着いて聞いてくれ」
 船長の沈痛な一言で、場は打って変わって静まり返った。
「今後さらに被弾する可能性を考えると、状況が悪すぎる。非常に残念だが、この宇宙ステーションは放棄する。……幸運なことに緊急脱出装置はまだ無事だ。総員、速やかに移動すること」
 気の早い決断のようにも思えるが、宇宙ステーションが穴だらけになってからでは遅い、という判断だろう。今後被弾が増えていくと考えると、留まるのはハイリスクに思える。
 みんな思い思いに離席して、コントロールルームを出た。
「脱出装置、無事だといいが……あっ、すまない」
 通路を滑空しながらケビンはぼやいて、要らないことを言ってしまった、という顔で振り返る。
「最悪の事態を想定して、宇宙ステーションが盾になるよう脱出装置の位置を調整してある」
 船長が答えた。宇宙ステーションの形を鳥に例えるなら、脱出装置は尾の先端にある。予め頭や体で凶器と化した宇宙ゴミを受け止めるよう、体勢の角度を調節していたらしい。
「流石です。あなたが船長で本当に良かった」
 逼迫した状況下にあるが、誰一人取り乱さずにいる。少なくとも、表面上はそう見える。
 私も緊張しているけど、心は至って冷静だ。どんな困難も、私たちなら乗り越えて行ける。大丈夫だ。

 脱出装置に辿り着くと、早速メカニックが壁パネルを指で操作していく。私も操作手順は教え込まれていて知ってるが、彼ほど早く操作できる自信はない。
 各個格納されている脱出装置の扉が重たく開いていく。すべて同じ規格で、一人用だ。
「みんな、また地球で会おう」
 船長の酒の席でよくする柔らかなスマイルに、みんな笑顔で呼応する。
「トイレで大と格闘するのに比べたら、きっとあっという間さ」
 楽観的なケビン。
「ざっと計算してみたんだが、宇宙ゴミと脱出装置が接触する確率は、宝くじの二等が当たる確率と同じくらいだ。……つまり、当たったら超嬉しいってことだ。ハハハ!」
 お調子者のフランス出身の船員は、こんな時でも変わらない。二等なところが地味にリアルだ。
「宝くじも良いけど、地球に戻ったら真っ先にシャワーをこれでもかってくらいに浴びたいわ」
 女宇宙飛行士が首を捻りながら続けた。同じ女性としてその気持ちは良く分かる。節水が基本の宇宙ステーションにはシャワーが無くて辛かった。
「…………」
 寡黙なメカニックは無言で頷いている。彼はインド人で、とてもインド人っぽい性格の良い奴だ。
「私はお風呂かなー。贅沢は言わないから、夜食は米沢牛をコシヒカリで食べたい」
 米沢牛は高級食品だろいい加減にしろ、という突っ込みを期待したけど、ダメだった。故郷山形の特産品である米沢牛だが、海外ではあまり知られていないのだろうか。
 それにしてもこんな時だというのに、一帯を包み込むこの高揚感はなんなのだろう。
 したり顔の船員たちと一頻り目配せし合って、込みあがってくる変な笑いが噴出する前にと、私は口元をこらえて脱出装置の扉をくぐった。
「総員、自動で閉まる扉に気をつけろ。特に男衆! ……くれぐれも挟まれないようにな」
 船長の注意に、どこかから失笑が返ってきた。
 椅子に座った状態で扉が閉まると、狭くて両手以外ほとんど動かせない。更に四点式シートベルトを締めると強制的に姿勢が正され、まるで磔(はりつけ)状態だ。話には聞いていたが、想像以上に体勢がきつい。
 液晶が光り、日本の管制官の映像が映し出された。
「こちら大宙咲。私は無事です。心身ともに問題ありません。それより……米沢牛って海外だとあまり認知されていないのでしょうか?」
 私の場を和ませようとした質問に、一様にぽかんとした表情をされてしまう。
 わかっている、こんな時になんてお馬鹿なことを聞くのか、と。けれど言い訳をさせてほしい。知的かつ個性的で国際色豊かな面々と過ごすと、何かあった時それはもう反射的に、つい冗句や皮肉の類が出てしまうようになるのだ。職業病といっていい。
「神戸牛や和牛は知られていると思うが、米沢牛という品名ではどうだろう……あまり知られてないんじゃないかな」
 お偉いおじさんに愛想笑いで答えてもらえた。鼻で笑って皮肉を言われないあたり、すごく日本だなって感じがして落ち着く。
 遮るように脱出装置が駆動音をあげて、私は地球に向かって射出された。
 貴重な空気を利用して、手動で移動することも可能だが、基本的にはオートに任せればいいようにしてくれる。
 目の前の小さな覗き窓が右から左へ何度も地球を映しては見切れる。脱出装置に変な回転がかかっているようだ。すぐに自動で空気が噴出され姿勢は安定した。
 夜明け前の地球に吸い込まれていく……。手前には、他の船員の脱出装置が並んでみえる。
 後はただこの美しい景色に見惚れていればいい、と思っていた私を赤いランプの光が現実に引き戻した。
「うそでしょ?」
 どうやら宝くじの二等に当たってしまったらしい。
「聞いた話と違って、全然嬉しくないんだけど?」
 しかも運悪く、空気噴出装置を損傷したようだ。漏れ出た空気の勢いで、私だけ地球の外に向かって飛んでいく。
 電気系統も一緒に故障したのか通信が途絶え、詳しい状況を確認しようにも狭くて無理。増えていく警告ランプを眺めていることしかできない。
 恐れていた空気漏れを伝えるランプも赤くともった。
 酸素は呼吸用と両用の仕様だ……。ほとんどが呼吸用だから無駄な消費はしないようにと、念を押されて教えられたのを思い出す。
 呼吸に必要な空気がどんどん機外へと抜けていく。これは本格的にヤバい。
 少しでも消費を減らそうと脈拍を下げて呼吸を減らすも、急激に減っていく酸素計器に思わず笑けてしまう。流石の私もこれには堪える。
 このまま宇宙に放り出されて死ぬのか?
 焼死や溺死、色んな苦しい死に方があるが、これほど精神にくる死に方ってないのではないか。
 宇宙で窒息死って、なによそれ。しかもそのまま宇宙葬って。私は山形に骨を埋めることもできないのか。
 ふと、遺影の父が脳裏に浮かんだ。こっちへおいでと、笑顔で私を呼んでいる。
 一つの脱出装置が、大切な空気を噴き出してこっちに向かってきていた。一瞬見えた、ケビンの真剣な眼差し。
 操縦が慣れていなかったのだろう、結果的に互いの脱出装置が衝突し、私はさらに勢いを増して外に飛んでいく。
 酸欠で朦朧とする意識の中で、ケビンの嘆き声が聞こえた気がした。音声は繋がってないから、きっと気のせいだ。
「ケビンってば大切な酸素をあんなに消費して……。あなたって意外と勇敢なのね。もっと早くに知れれば良かったよ」
 みんなの脱出装置が、みるみる小さくなって、すぐに見失う。
 無情にも酸素は無くなり、ついには私の呼吸も止まってしまう。


 ――凄く苦しかった気がするけど、のど元を過ぎればなんてことはない。……で、今の私はなんなの? 死んだはずなのに意識がある。
 でたらめに回転する脱出装置を、外から眺めている。見え隠れする覗き窓の奥に、目をつむって動かない私がいる。
 死んだ私を見ている私。幽霊、になってしまったのだろうか。
 今一つ実感のこもらない、不思議な感覚だ。
 呼吸していないのに苦しくない。宇宙空間を変幻自在に移動できる。いや、脱出装置から三メートルも離れられない。上手く言えないけど、とにかく何故か離れられない。
 ……死が人間の終わりだと思っていた。じゃあ人間って、いつになったら『終わる』の?

 ――。

 ――――。

 ――――――――。


 どれほどの時間が経過したのか分からない。一年か、二年か、たぶんそれぐらいは経ったと思う。
 なんの変化もない。強いて言うなら、地球が少し小さくなったか。
 退屈で、孤独だ。
 このまま行けば宇宙の果てに辿り着けるだろうか。着けたところで、伝える相手がいないんじゃ意味がないのではないか。
 ……寂しい。
 生まれ持ってストレスに抵抗があり、さらに心を鍛えに鍛えた私でこれなのだ。自慢じゃないが、普通の人間ならとっくに気が狂っていると思う。


 更に十年、あるいは百年。
 年の単位もここではもはや馬鹿らしい。だってここは宇宙ぞ? 宇宙に年という単位はない。実に人間本位な考え方だと思い知らされる。
 人間はこんなにもちっぽけだというのに。対して宇宙は、あまりにも大きすぎる。
 人間ってなんなのだろう?
 宇宙ってなんなのだろう?
 私って……なんなのだろう?
 その時、何かが脱出装置と接触した。反動で反対方向に弾かれる。
 なんだ? なにとぶつかった? なにも、無いぞ。
 脱出装置を弾くほどの質量のある物質であれば、気付かないはずがない、目に見えないはずがない。
 なのに。
 だけどたしかに『それ』はそこにあった。プラズマのように青白く光る――宇宙の壁、としか形容できない何か。なにもないはずなのに、たしかにそこにあるのだ。
 この表現が適切かは分からないけど、一つだけ似たものを知っている。
 RPGゲームでたまにある『見えない壁』というものだ。世界はこの先にも続いているはずなのに、ゲームの製作者によって進行できないよう意図的に作られた見えない境界線。それに、似ている。
 青白く光る壁に、極々小さな『0』と『1』の配列を見てしまった。
 あれはなんだ……この世界が何者かによって作られたシミュレーションゲームだとでもいうのか? うっそでしょ。絵空事に思っていた量子力学の説は、本当だったのか……。
 境界線の奥には星々の輝きがあり、ちょうど月が巡ってきている。アームストロング船長を乗せたアポロ十一号は、過去この壁の先へと行ったのだろうか?
 私とアームストロング船長の違い、それは生きているか死んでいるかだろう。
 この宇宙の壁は、本当なら人間が観測していいものじゃないはずだ。だからきっと生きている人間が壁を超えようとすると、一時的に移動可能範囲が広がって行けるようになる……。なぜわざわざそんな面倒なことをするのか、それは宇宙には省エネが必要だからだ。
 オープンワールド系のゲームが、遠くの景色の描写を張りぼての映像で表現してごまかすように。世界にあるすべての物質を均等に存在させると、負荷がかかりすぎて処理が追い付かなくなってしまう。それを防ぐために、誰も触れられない所、直接観測できない所はあたかもそこにあるように見せかけてエネルギーの消費を抑えているのだ。
 私の存在はゲームでいうとこのバグといえる。本来なら死んでいて意識などありようもない私が、宇宙の壁を観測できようはずがなかった。
 けれど私は幽霊となって、出くわしてしまった……出会うはずのない宇宙の壁に。いや、宇宙の果てに!

 ――はっ、ははは!

 感動している! だけど心からの喜びではない。複雑な心境だ。誰かとこの気持ちを分かち合いたい、共有したい。その欲求ばかりが高まって、肝心の相手がいないのがもどかしい。
 いつの日か人類は知るのだろうか、この切ない真実を。残酷な現実を。いや、この場合現実とはなんなのだろう。土台からして作り物の可能性が高いこの世界で、現実と呼べるものなどあるのだろうか?
 青白く光った宇宙の壁は、なんの変哲もない宇宙空間に戻っている。
 私の体は弾かれた脱出装置に引っ張られていく。もうどこに壁があったのかも分からなくなってしまった。
 父は言っていたっけ、宇宙の果てにはどえりゃーお宝があるって。これがそうなの?
 ……さて、折り返しだ。
 次はいつ宇宙の壁に遭遇するだろうか。そして私はいつまで私であり続けるのだろうか。
 この世界が誰かの作ったシミュレーションゲームなら、もう十分楽しんだから、私のデータだけサクッと削除してはくれまいか。
 ぐるぐる回る私の死体を乗せた脱出装置が、ピタリと停止した。まるでその場で釘で打ち付けたられたかのように、その位置で固まったのだ。
 私と向かい合うように、覗き窓から目を瞑ってくしゃくしゃのミイラとなっている私がいる。
 何かが決定的に変だ。
 そう思うのと同時に、私は目を見開いた。私であって私でない、死んでいたはずの私の目が開いていた。
 口を通って大量の空気が肺に流れ込んでくる。手足に電気が流れて、びくんと跳ねて強く痺れた。私はいつの間にか脱出装置の中から私を見ていた。私であって私でない、宇宙空間にぽつり漂う驚いた表情の私が白い靄となって消えていく。
 瞬間、無数の閃光が視界いっぱいに飛び込んできた! 頭の中でドラゴン花火を点火したかのような、乱舞する光と激しい音の群れ。
「――――はぁぁぁぅっ!?」
 私は脊髄反射的にどっと息を吐いた。肺の一滴までひり出す。
 白く霞む視界に、白い壁が見えた。茶色い机に、置かれた花瓶。白い天井に、光沢のある茶色い床。窓があって、星々の輝きが遠く見える。
 私、手足がある!? 顔には頬っぺたがあるし、頭には髪の毛もある!


 病院の個室で目覚めてから、駆け付けた医者に今までずっと植物状態だったことを告げられた。
 そんなことより私、人とお話ししている! 積年の欲求がようやく満たせた気がして、初めてこんな気持ちでじわりと涙が出た。
 それから二日。
 私は生きている。泣いて食べて笑って飲んで、ついさっきには一人でトイレにも行ってきた。
 病室のベッドで上体を起こして、今日の新聞を広げて読む。日付は二〇六六年九月二五日。私が最後に宇宙へ飛び立った日から、ほぼ一年が経過していた。
 窓に差し込む柔らかな陽光が妙に懐かしく感じられるのは、今までずっと植物状態だったから、なのだろうか。
 私が遭遇したと思っている宇宙の壁はなんだったのだろう……。思考が混濁してしまって、現状を上手く整理できない。
 ドアがノックされ、横に開かれていく。
 見知ったアメリカ人が嬉しそうに手を翳して入ってきた。
「本当に目を覚ましてくれたんだな! ワォ、驚いた! この時をずっと願ってたんだ。夢みたいだよ」
「ありがとう、ケビン。私が寝てた間、なんども見舞いに来てくれたってお医者様から聞いたよ」
「ああ、君は大切な仲間だ。仲間を気に掛けるのは当然だろ?」
 ケビンは本当に嬉しそうだった。目に涙を溜めちゃったりして、なんだか大きな子供にみえる。
 私が植物状態になった経緯を、ケビン視点で教えてもらった。
 二〇六五年九月二五日に宇宙ステーションで活動を開始したのは、私の記憶とも一致している。
 ある時トイレが故障し、それが原因で船内が若干気まずい雰囲気になったのも、お互いに覚えていた。
 食い違いがみられたのはここからだ。
 トイレの件が収まった後に、私の記憶では管制官から緊急の通信があったが、ケビンによるとそういった事実はないらしい。宇宙ゴミ騒動が丸々消し飛んでいた。
 その代わり、私は突然奇声をあげて暴れだし、呼吸困難に陥った末に意識を失ったのだとか。暗くて狭く隔絶された状況下で起こる、一種のパニック発作だったという。
 もちろん私は覚えていない。というか、この私がパニック? 独りで宇宙空間を何十年と彷徨っても自分を保てていた私が? 信じられない。
 ケビンのでっち上げ……という感じではない。至って真面目に話してくれている。
 意識を失ってしばらくしても目覚めない私に危機感を募らせた船長が、脱出装置を使って地球に強制帰還させたのだとか。
 それはいいとして、やはり納得がいかない。私の中で同じ時間軸に二つの異なる真実が、同時に存在してしまっている。
 私がこうして生きている以上は、この世界ではケビンの語る真実が本物なのだろう。
 だけど、私の体験したアレが私の作り出した幻覚だとは到底思えない。
 みんなと通じ合った高揚感、その後に味わった恐怖、孤独、絶望、そして驚き――嘘なはずがない。一年間の植物状態だって? いやいやいや、下手したら百年は宇宙を彷徨ってましたよ? 私。
 あの時の災厄は一挙手一投足、一言一句違わずリアルに覚えてる。独りでなんども思い返した記憶だから。


 一週間足らずで私は退院した。
 心身ともに脆弱となった私は、宇宙飛行士を自らの意志で辞職した。というか、こんな状態でも辞めさせられていなかったことに驚きだ。資金面で私のいいように融通を利かしてくれていたらしい。優しい人たちばっかりかよ。
 宇宙の壁についてはケビンにしか話していない。管制官で働くみんなにも話したかったけど、折角良くしてくれたのに私が妄言を吐く女になって生還したと知ったら、流石に相手が可愛そうだ。
 この世界で生きる以上は、この世界の真実に従って生きるのが、理というものだろう。
 一つだけ、どうしても解せないのが、『海外で米沢牛の認知度は極めて低く、また、神戸牛の認知度はとても高い』という後で調べてみて分かった驚愕の事実だ。
 私はなにも、出身地の特産品の認知度の低さに腹を立てているわけじゃない。私の体験したもう一つの真実が幻覚だったとしたら、知りえない事実を、私はこの世界で知っていたことになる。いわゆる矛盾だ。
 もし宇宙の壁に遭遇したことが原因で、急遽作られた今の世界に差し替えられたのだとしたら、宇宙の果ては私に第二の人生を与えてくれたと考えられなくもない。
 なるほど、これが父の言ってた「どえりゃーお宝」か。
 こうなると宇宙科学者の父って、本当は何者だったんだろう? たまたま言った言葉を私が拡大解釈しているのか、あるいは、こうと知っていて遠回しにお宝と表現したのか。
 答えは墓石の下で固く口を閉ざしてしまっている。
「お盆は少し過ぎちゃったけど、たまにはお墓参りに行ってみようかな」
「ん? どこに行くって?」
 ケビンが私の独り言に反応した。スーパーで買った二人分の食材を車の荷台に置きながら、さわやかな顔を向けてくる。
「久しぶりに父のお墓参りに行こうかなって、思ったの。ケビンも来る?」
「いいのか! もちろん行く! 君のダディは、俺のことを良く思ってくれるかな? やっぱりスーツでばっちし決めた方が印象良い?」
 死んだ相手に好印象を抱かせて、いったいどうしようというのか。まったくケビンは、隙あれば冗談を飛ばしてくる。
「そうだね、私服のままでもハンサムで凄くいいと思う」
 私は適当に答えて助手席に座る。
 ご機嫌なケビンが運転席について、二人の車は山形県の街中を走り出す。
 このままいけば私の苗字は変わるだろう。色んな苗字になることを想像したけど、まさかアメリカナイズされるとは、父もビックリして墓の中でぶったまげるに違いない。
「この日が来るのを、俺はずっと待ってた気がするよ」
「なに? 急に」
「実はさ、俺が宇宙飛行士を目指した本当の理由は……君なんだ」
「わたし?」
「ディスカバリーチャンネルで、候補生として頑張っていた君を知って、一目で惹かれたんだ。体格で優れているわけではないのに、過酷な試練で好成績を叩き出して、日本にはアメージングな少女がいるなって思った」
「それが宇宙飛行士になった理由なの?」
 呆れでそれ以上の言葉が出てこない。
「変かな? 容姿も好みだったよ。もちろん性格も。あとファッションセンスとか、笑い方も。ぜんぶジャパニーズ『カワイイ』ってやつだ、うん。あーでも、過酷な訓練内容も個人的に興味があった。自分はどこまで苦境に耐えられるのか、ってさ」
 聞いているだけで、なぜか両耳が熱くなってくる。
 あの頃の私って化粧もせず、服なんて纏えれば何でもいいって思ってなかったか? 毎日課される厳しい訓練で手いっぱいだったはずだ。
「でも、本当に付き合えるとは思ってなかった。同じ宇宙飛行士になってからも、君はなんていうか俺に……」
 ケビンは言葉を濁したけど、そこまで言ったのなら言ってどうぞ。
「ケビンを異性の対象としてみているようには思えなかった?」
 私が飾り気もなく訊くと、ケビンは苦笑した。
「俺の献身的なお見舞いが功を奏したのかな?」
「それは……どうだろう」
 お見舞いは嬉しかったけど、ほとんどが植物状態でのことだ。意識を取り戻して一週間と経たず退院して、内来てくれのは三回だったか。それでも仕事で忙しい中、良く来てくれたと思う。
「あれ? 決め手は俺のお見舞い攻撃じゃなかったの!?」
 凄く驚かれてしまった。あれは攻撃だったのか……。いいけど前、前はちゃんと見て運転してね。
「詳しくは言わないけど、ケビンはいざって時に身を挺して私や家族を助けようとしてくれる、そう思ったの」
 ケビンが私を助けようとして脱出装置を衝突させたことは、秘密にしておく。
「助けるよ。いつだって、何度だって」
 いつか見たケビンの真剣な眼差しが、すぐ傍で遠く前方を見つめている。あの時は不覚にも一瞬だけ、恰好良いと思ってしまった。その後すぐに息ができなくなって――。
 トクン、とふいに私の胸は高鳴った。感じたことのない感覚に体が自然と熱くなってくる。なんだ、これは。
「ん? 俺のイケイケな顔になにかついてる?」
 私の視線で勘違いしたケビンが、ルームミラーの角度をずらして自身の顔を確認しだした。
 ケビンの顔に問題はない。問題があるのは私の心の方。
 私はこの歳になって、ようやく恋というものを知ったかもしれない。脈拍が上昇する。まるで抑えられない……。この、この私が。
 ケビンのことは好きだ、この先もずっと一緒にいたいと思ってる。だから付き合うことにしたんだ。でもその好きは、友人の延長線上にある好きに過ぎなかった。
 今になって恋を知ってしまった。心が激しく動じてしまった。どうやら私は、現役時代と比べてだいぶ弱くなってしまったみたいだ。
「わ、わたし、時間をかけてでも宇宙に関する論文を書きたいと思ってるんだけど、いいかな?」
 ケビンに悟られるのも癪だから、気付かれる前に話題を変える。
「あー、うん。いいけど、それなら一つ絶対に守ってほしい条件がある」
「え? ……なに?」
「宇宙人を発見した時は、まず俺にこっそり教えてくれるかい? その後だったら、いくらでも論文として発表していいからさ。ハハハ!」
 気を抜くとすぐにこれだ。悔しいが、一緒にいて飽きたことがない。
「ええ、もし発見したらね。でも、私が論文にしたいのはもっと科学的なことだから、期待はしないでね」
「宇宙の壁についてか?」
 さすがに勘付かれた。
 隠す必要もないから、私は小さく首肯した。ここで皮肉を言われても、当然だと思う。
 どうすれば証明できるのか、どうすれば他人に説明できるのか、まるで分かっていない。
 私自身、時の流れとともにあの時の光景が少しずつ曖昧になってきていて、本当に幻覚でなかったとは言い切れなくなってきている。
「俺には難しいことは分からないけど。その宇宙の壁ってのがあったから、今の俺と君があるんだろ?」
「うん。私はそう思ってる」
「だったら、俺も信じるよ、君の言う宇宙の壁。神様ってのはどっかにはいるもんだ」
 そんな簡単に、と思ったけど、その軽々しさが思った以上に嬉しかった。
日暮れ 

2022年09月05日(月)01時30分 公開
■この作品の著作権は日暮れさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
一言あらすじ:
女宇宙飛行士が、宇宙の果てでお宝(?)を見つける話です。
備考:
不思議体験系です。ジャンルは一応SF。恋愛も少し。
SFは初めて書きました。
後書き:
久々に一作書き上げて、こうも衰えるものかと驚いた……筆が全然進まない(汗)。
これ以上時間をかけても大して良くならない気がして、全力は尽くしましたが、半ばギブアップ投稿です。


この作品の感想をお寄せください。

2022年09月29日(木)09時03分 日暮れ  作者レス
柊木なおさん。

拙作で色んなことに思いを馳せていただけたこと、作者として嬉しく思います。
子供の頃の記憶が風化することに共感いたします。私が子供だった頃(小学生低学年くらいだったかな)、なぜか水戸黄門にハマりまして、テレビに向かって助さん格さんを真似てエア刀を振るっていた思い出があります。話の内容は全くでしたが、無駄に楽しかったなぁ。今でも水戸黄門の締めの勝利確定BGMを聞くてテンションが上がります。

プラネテス、見ておけば良かったなと思いました。
拙作を書くのにSFに関する知識が乏しくて、ネットで有り合わせの知識をなんとか拾って書きましたが(ネットって便利ですね)、細かいところはどうしても想像するしかなく、苦労しました。
柊木なおさんのSFに関する造詣の深さには、素直に感服致します。その豊富な知識があれば、この作品も違った形になっていたかも、と。
『書きたいジャンルがあれば、そのジャンルの小説を百冊読んで使えそうな知識と構成パターンを覚えろ』みたいなことをどこかで聞いたことがありますが、まさに今の私に当て嵌まるような気がします。

>途中でちょっと道を見失った感があります。
これは良く指摘されていて、私も「たしかにな」と思いつつ気にしてはいるのですが、どうも私の構成の仕方に難があるんだと思います。どっかで直さないとといけない所です。
お話に挙がった『万華鏡』の冒頭ですが、拙作も宇宙空間を漂う所から始めた方が良かったなと思います。その方が『どういうお話なのか』が読者にスムーズに伝えられそうです。回想で経緯を説明して、時間軸が現在に戻るタイミングで「実は主人公は死んでいて幽霊になってます」のちょっとしたサプライズができそう。
>本作では、主人公がひとりで漂流し始めてから「どえりゃーお宝」に行き着くまでが要約でさらっと流されていたので、個人的に感じた物足りなさはもしかするとそれが原因かもしれません。
なるほどです。回想にするなら、この部分を太くした方が良さそうですね。

>後半のSF的な要素と人間関係を中心とするドラマに繋がりを見出せなかったからかもしれませんが、そもそもアイデアの詰め込みすぎで、単純な尺の問題かもしれません。
人間ドラマをメインに描くつもりはなかったのですが、冒頭でちゃんと物語の方向性を示せなかったのと人間ドラマパートの尺を取りすぎたのが良くなかったのかもと思います。

>それはそれとして、アイデアやキャラクターには気に入ったところも多くて、読後感も良かったです。
ありがとうございます。キャラの掛け合いには頭を使いましたが、書いていて楽しかったです。宇宙の果てに遭遇するシーンも書いていて楽しかった。気に入って頂けて嬉しいです。

>そう考えると素朴なラブストーリーですね。
おっしゃる通りだと思います。SFってどの程度まで許されるのだろうか……物語に残した謎、弱いメインストーリー……、この辺の勝手が分からず冒険しました。

>肝心のSF部分については、ちょっと読みきれませんでしたが、それもまた醍醐味でしょう。
近未来感は殆どありませんでした。宇宙船の脱出装置、くらいでしょうか。(折角SF書くならもっと盛り込めば良かったなと、少し後悔)。

>「宇宙は人間の頭の中に存在する」という内宇宙的な(というのは生粋のSFファンからすると誤用かもしれませんが)解釈が個人的には好きです。
ありがとうございます。死についてと宇宙については、本気で考えると眠れなくなります。ならばこそ誰かと分かち合いたいという私の無意識が、これを書かせたのかもしれません……(冗談ではなく本気で思う)。

S派かF派かで言えば、私はF派になります。
SFは言わば、物語を面白くする装置でありキャラを魅力的に描写するスパイス的なものとして扱いたく思うので。
S派とF派の二つに分けて考える発想がなかったので、今後SFに触れる際に意識してみようと思います。もちろん書く時にも。参考になります。

>「宇宙の果てのどえりゃーお宝」自体に焦点を当てるなら、
これはつまり『S派』でいくのなら、ということですよね。なるほど、そうやるのかと、こちらも参考になります。なんちゃって理論を展開するにも、やはりそっち系統の知識はある程度必要になるかと思いますし(読者も主に目の肥えた人が読むだろうから、なおさら)、敷居が高そうです。こっちで書ける人、凄い。

>話はそれますが、
SFに対する熱意がとてもあって、私は読んでいて面白いと思いました(と書くと失礼でしょうか?)。
個人的に、仮想世界に興味があるので、是非とも発展していただきたい分野です。ちなみに私は、仮想世界肯定派です。肯定派といっても、だったらいいな、くらいの軽い気持ちですが。

>ということで、今後もSFに挑戦されるのであれば、SF小説はもちろん、もし読まれていなければ、その手のノンフィクションも大いにおすすめしたいところです。
SFはまたいずれ挑戦するつもりです!
知識はあった方がいいのは間違いないですね。すべてのジャンルがそうではありますが、SFはとりわけ。

SFに関する知識含め、色々と興味深かったです。
今長編をこそこそと書いてますが、一旦中断して、苦手克服のための『途中で道を見失わない系』小説を書いてみようと思います。ここに投稿できるかは分かりませんが(書ききれるかどうか、またそのクオリティによる)、これからも小説は書き続けます!

お読みいただきありがとうございました。


pass
2022年09月28日(水)04時06分 柊木なお  +30点
遅ればせながら読ませていただきました。
せっかくなので感想めいたものを残しておきます。

最近ますます記憶力に自信がなくなっている私ですが、特に子供の頃の記憶ともなると細部は風化してしまって、たまにはノスタルジーに浸るかと過去を掘り起こそうとしても、「あのときの花火はやけに物悲しい気持ちになったなあ」とか、「あの屋台のコロッケめちゃうまだったなあ」とか、せいぜいその程度の、5W1Hの欠けた曖昧で感覚的な断片しか出てこない有様です。
同じように、設定やキャラクターはぼんやりと記憶にあるけれど、タイトルも筋書きも思い出せない、そのくせ「面白かった」「好きだった」ことだけは印象に残っている(そしておそらく今後も忘れないであろう)小説や映画なんかも結構あって、その中に「宇宙のゴミ拾いを専門とする職業的宇宙飛行士たちの話」というのがあります。
世の中も便利になったもので、今なら手元のスマホでちょっと調べるだけで、親戚の家かどこかに遊びにいったときにテレビでやっていて夢中になったあのアニメのタイトルが『プラネテス』であることが分かってしまうわけですが、そんなふうに再会を果たして観たり読んだりした作品というのは、不思議なことにというか案の定というか、期待はずれになることはなくてやっぱり面白いし、無条件で好きになれるんですね。人の好みはいくつになってもそう変わらないということなのか、名作は子供にも大人にも響くということなのか、おそらく両方なのだと思いますが。

閑話休題。
本作も最初は『プラネテス』的な、いわゆる職業的宇宙飛行士たちの人間ドラマを描いた作品なのかなと思いましたが、どうなんでしょう。途中でちょっと道を見失った感があります。後半のSF的な要素と人間関係を中心とするドラマに繋がりを見出せなかったからかもしれませんが、そもそもアイデアの詰め込みすぎで、単純な尺の問題かもしれません。
主人公がひとりで漂流し始めたところで真っ先に連想したのは、レイ・ブラッドベリの「万華鏡」という短編でした。冒頭からロケットが事故に遭って、主人公たちは散り散りに宇宙に投げ出され、いつまで保つか分からない通信で取り留めのない会話に興ずる以外に出来ることもないという絶望的な状況で始まります。文庫で16頁のごく短い作品で、生きるか死ぬかのアクションやサスペンスもありませんが(それはすでに手遅れなので)、宇宙空間の神秘的なイメージであったり、敵対関係が明白でありつつどこかユーモラスなやり取りであったり、なにより主人公たちの人間的な苦悩が詰め込まれていて、しかもそれぞれの要素が奇跡的にぴたりとハマっています。本作では、主人公がひとりで漂流し始めてから「どえりゃーお宝」に行き着くまでが要約でさらっと流されていたので、個人的に感じた物足りなさはもしかするとそれが原因かもしれません。

それはそれとして、アイデアやキャラクターには気に入ったところも多くて、読後感も良かったです。途中でSF的な脱線を経つつも、結末からいえば王道の「幸せの青い鳥」的な感じでしょうか。そう考えると素朴なラブストーリーですね。
肝心のSF部分については、ちょっと読みきれませんでしたが、それもまた醍醐味でしょう。結局なにが現実でそうではないのか、そもそも現実とはなんなのか。「宇宙は人間の頭の中に存在する」という内宇宙的な(というのは生粋のSFファンからすると誤用かもしれませんが)解釈が個人的には好きです。現実とは私たちの頭の中で起きていることにすぎないが、同時に私たちが生きている宇宙そのものである、的な。

一応、改稿や次作のためのコメントも述べておきます。
要素の取捨選択(あるいは方向性の再検討)についていえば、いわゆるS派(科学的なアイデアやモチーフと物語の結びつきに重点をおいたもの≒ハードSF)的なSFを書きたいのか、あるいはF派(科学的な知見をあくまで背景的な設定として扱うもの)的なSFを書きたいのかを意識してみるのも良いのではないでしょうか。そのような分類自体はもはや考古学的な遺物かもしれませんが、考えをまとめる助けにはなりそうです。
冒頭の方向性(職業宇宙飛行士たちの人間ドラマ)で書くなら、少なくとも後半のSF的飛躍が唐突に感じられないように緻密に伏線を張るか(短編ではまず不可能)、もしくはすっぱり諦めて、他の無難な展開に置き換えたほうが良いと思います。
主人公が宇宙を漂流するという状況をメインに据えるなら、それこそ「万華鏡」のようにいきなり宇宙に投げ出される場面から始めて、それから宇宙のイメージや主人公の人となりや内心をゆっくりじっくり描くのが良いのではないでしょうか。主人公を救出しようと試みるケビンとの通信を通して、過去を回想したり気持ちに変化が生じたり、みたいな。後半の展開を残すのもありだと思いますが、SF愛好者以外からはやはりウケが悪いかもしれません。
「宇宙の果てのどえりゃーお宝」自体に焦点を当てるなら、正直今のままだと中途半端というか、SFらしさが足りないのは否めないです。(ハッタリでも妄想でも構わないので)最初から最後まで専門用語と理論を並べ立てて濃度を上げるのと、プロットやキャラクターとの関係についても練り直す必要がありそうです。

話はそれますが、一般読者向けの学術書にも流行り廃りがあって、少し前まではジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』やユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』に代表されるような、要約すれば「人間(集団)とはどのようなものか」という文系的分野が持てはやされていた印象ですが、次に流れがくるのは、宇宙や仮想世界や物理学といった「世界とはどのようなものか」に関する理系的分野なのではないかと(SFファンとして)期待していたりします。私自身のお気に入りはというと、理論物理学者のカルロ・ロヴェッリの著作で、ループ量子重力理論のような具体的な議論の学術的な有効性については私のような素人には判断のしようもありませんが、『すごい物理学講義』『時間は存在しない』『世界は「関係」で出来ている』はとにかく読み物として面白い。結局そうした一般向けに書かれた学術的なノンフィクションが人口に膾炙するかどうかは、学問的な正当性よりも著者の「ストーリーテラー」としての才能に懸かっているわけで、その点、ロヴェッリ氏は『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンスにも比肩しうる語り手だと思います。そんじょそこらのSF小説が比較にならないほど優れた「SF的な」読み物です。
ということで、今後もSFに挑戦されるのであれば、SF小説はもちろん、もし読まれていなければ、その手のノンフィクションも大いにおすすめしたいところです。専門的知識(あるいはハッタリや妄想の元ネタ)を仕入れるのもそうですが、それ以上に専門的知識を興味深く語ることについて、得られるところが多々あると思うので。

乱文で申し訳ありませんが以上です。
私自身は特に投稿する予定はありませんが、ちょくちょく覗きに来るつもりではいるので、日暮れ様の次回作も期待しております。
ではでは。
25

pass
2022年09月07日(水)06時15分 日暮れ  作者レス
神原さん。

>読み終わってみて、一番最初のテンションが一番好きでした。
ありがとうございます。

>いきなり宇宙にいて、そして、死んだ状態へ。ここの間もまたテンションが変わった気がします。
違う作品で、話が進むにつれて雰囲気が変わることを指摘されたことがありまして、たぶん今回も同じようなことをしてしまったんじゃないかと思います。
これはもう私の感性の問題かもです……。書いてると自然とこうなります(汗)。

>言うなれば、なんぞこれ? 状態にいきなり放り込まれた感じ。ここで一旦私の読む楽しさが遠のきました。
>ここは削って、何十年も宇宙で遭難していたと言うのはなしにした方が私はいいと思います。
なるほどです。
主人公がいきなり死んで今までのメンツとも別れて場所も独り宇宙空間を漂って……だと、それまでのテンションもがらりと変わりますね。
「今までの話の流れはなんだったんやねん!」って感じなのかな。たぶん。

今作を作る時に最初にイメージとして浮かんできたのが、『宇宙空間を孤独に彷徨う人』でした。色々と付け足していった結果、方向性を見失っていたみたいです。

>ただ、緊急事態があった。これは消さないでほしいかも。ケビンが空気を無駄にして必死に助けようとしてくれたくだりは悪くなかったです。
了解です。ここは大事なケビン君の見せ場でしたので、それが書けていたのなら良かったです。

>一度途切れた楽しさは戻る事なく、普通に最後まで読み進めました。途中までよかっただけにかなりもったいない、と個人的に思います。
うぅ、不甲斐ない。でも感想戴けてためになったので、個人的に投稿して良かったと思います。

>ただ、これは私の一意見にすぎないので、他の方は最後まで楽しく読むかもしれません。
色んな方の感想戴きたいですが、もらえるのを期待しすぎないようにします。
あんまり貰えないようだったら他のとこにも投稿してみようと思います。

>以上から、最初で出しが20〜30としたら、宇宙に切り替わり、20になって、死んだ処で0になった感じ。総評として少し良かったです。を置いていきたいかな、と思います。
なるほどです。
今度はテンションの変わらない作品目指して試しに書いてみようかな。まあ、実際に筆が進んでみないとどんな作品になるのか私にも分かりませんが。これはほんとに気を付けないとと思いましたね。

私も頑張るよ。お互い頑張りましょ。

お読みいただきありがとうございました。

pass
2022年09月05日(月)07時31分 神原  +10点
こんにちは。

読み終わってみて、一番最初のテンションが一番好きでした。いきなり宇宙にいて、そして、死んだ状態へ。ここの間もまたテンションが変わった気がします。

言うなれば、なんぞこれ? 状態にいきなり放り込まれた感じ。ここで一旦私の読む楽しさが遠のきました。

ここは削って、何十年も宇宙で遭難していたと言うのはなしにした方が私はいいと思います。

ただ、緊急事態があった。これは消さないでほしいかも。ケビンが空気を無駄にして必死に助けようとしてくれたくだりは悪くなかったです。

一度途切れた楽しさは戻る事なく、普通に最後まで読み進めました。途中までよかっただけにかなりもったいない、と個人的に思います。

ただ、これは私の一意見にすぎないので、他の方は最後まで楽しく読むかもしれません。

以上から、最初で出しが20〜30としたら、宇宙に切り替わり、20になって、死んだ処で0になった感じ。総評として少し良かったです。を置いていきたいかな、と思います。

これかもがんばってください。私もがんばらねば。
25

pass
合計 2人 40点


お名前
E-Mail  公開しない公開する
↑作者レスをする場合は、作品投稿時のメールアドレスを入力して下さい。
−− メッセージ −−
作者レス
評価する
 PASSWORD(必須)  トリップ 

<<一覧に戻る || ページ最上部へ
作品の編集・削除
PASSWORD