♪追放されたけどチートスキルに覚醒しました♫
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「お前はパーティー追放だ、オスカー」
一瞬、彼は言葉の意図を飲み込めなかった。



「な……何を言ってるんだ? リチャード」
 パーティーメンバー全員がいる前でそう言い渡された勇者パーティーの冒険者・オスカー。
 パーティーのリーダーたる勇者・リチャードに、彼は言葉の意味を問いただした。



 ここは、冒険者たちのあつまる酒場。
 人間界を侵略し始めた魔女討伐の為に、世界中の国という国から冒険者、あるいは旅商人が集まっている。
 中にはカタギとは言い難い、荒くれ冒険者やゴロツキなどもいる。



「言葉の通りだ。お前をこれ以上、俺たちのパーティーの一員として認めることはできない」
「で……でもあんまりじゃないか。俺はパーティーのメンバーとして、三年間がんばってきたつもりだ」


 その酒場でそう語る彼を、リチャードは蝿か何かを見るような目で見てきた。




「自分のレベルとみんなのレベルを見比べてから言ったらどうだ? オスカーよ」




 リチャードにそういわれたオスカーは、思わず押し黙った。



 確かに彼は、五年間戦士としてパーティーに所属しておきながら、レベル30――初心者に少し毛が生えた程度のレベルのまま、いくら経験値を獲得してもレベルアップも、新スキルの獲得もできていなかった。




 オスカー以外の初期のパーティーはもちろんのこと、彼より遅くパーティー入りしたメンバーの大半が、レベル120代にまで達しているのにも関わらずだ。




「既に魔女攻略の時期も迫っているんだ。魔女軍討伐のために一丸となって戦わなけりゃいけない時に、足手まといをパーティーに入れておけるか」




 リチャードの指摘に、オスカーは何一つ言い返すことができなかった。






「ま、前々から言おうと思ってたけど、俺、結構前からお前のことは嫌いだったから。せいぜい無能者として不遇な人生を送ってくれ、死ぬまでな」




 リチャードの非情な言葉に応じて、他のパーティーメンバーの何人かが鼻で笑っているのが聞こえた。



 
「そんな……そんな……」




 今にも泣きだしそうな姿勢で、オスカーはリチャードを睨みつける。
 リチャードの見下すような姿勢は、それでも変わることがなかった。




「そんなの……そんなのって……」





 そしてオスカーは、思いつめたような表情で何かを決心したかのように立ち上がった。





 そして、叫んだ。








「認られパブリブディドゥバ;oihjluigkh.u,igiftjuyf,gkyu.ilyhlugighil;/;ohjroifesrie/;fjvszpe;odjcmvznfbisdglj;fvzfidk;nv/bldf;jvbnzdfl/k;lvmnbzdfl.kgfjcvnzk;dl/xoj;zv;n/bfl/xd;k:cベグルレべグルレベグルレベグルレベグルレベグルレドゥンドゥンドクドゥドゥンッッ!!!」








 感情に身を任せて言葉の体をなしていない発音の羅列を放ったかと思うと、オスカーは叫んだ。






「I’m オスカ―――!!!♪」




 

 その時だった。







♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪アイムオスカー♪ドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ドゥベドヴァッチョ♪






♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪アイムオスカー♪ドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ドゥベドヴァッチョ♪





スキャットマン・ジョンのテーマを思わせる音楽が、酒場に流れ出したのだ。



♪パラバラピーパッパッパラッポ♪パッパッパラッポ♪ピーパッパッパラッポ♪パッパッパラッポ♪



 かと思うと、曲が織りなすユーロビートのリズムに合わせて、オスカーは肩と腰を揺らぶらせ、激しく踊りはじめた。BPM130ほどの、ディスコダンスやHi-NRGを彷彿とさせるハイテンポのダンスだった。



 しかし、それだけでは終わらなかった。
 曲に合わせて動いたのは、彼だけではなかったのだ。



 彼が踊り出してからほどなくして、オスカーの後ろにいた酒場の客―――冒険者や旅商人やゴロツキ、酒場の店員の若い女性なども立ち上がり、彼に合わせて一寸の狂いなきシンクロ具合で一斉に踊り出し始めた。


♪パラバラピーパッパッパラッポ♪パッパッパラッポ♪ピーパッパッパラッポ♪パッパッパラッポ♪


「Everybody誰も皆レベルの伸び悩みに悩むことあるだろう♪
 でも俺のメッセージを聞いてくれ♪何あってもあきらめるなんてできない♪
 勇者にできたなら俺だってできる♪オスカーは低レベルって皆言うけど♪
 歌とダンスは低レベルじゃないのさ♪
 でも君に教えたいことあるよ♪低レベルもチートも変わんない♪
 I’m オスカー♪Where’s オスカー?♪
 I’m オスカー♪」


 巧妙で聞き心地のいいリズム感で、踊りながら更にラップまでも紡いでいくオスカー。ダンスとラップの合わせ技を見事にこなす彼の視線は、自分を追放に追いやったリチャードの姿を睨み続けていた。



♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ッドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪アイムオスカー♪ドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ドゥベドヴァッチョ♪



♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ッドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪アイムオスカー♪ドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ドゥベドヴァッチョ♪



「なぜ無能な国王たちを喜ばす?♪
 チートを覚醒させられるとして、それどこの王がやるの?♪
 この状況に俺はキレてる♪怒りに燃えてるのさ♪
 Everybody誰も皆レベルの伸び悩みに悩むことあるだろう♪
 でも俺のメッセージを聞いてくれ♪何あってもあきらめるなんてできない♪
 勇者にできたなら俺だってできる♪」


♪パラバラピーパッパッパラッポ♪パッパッパラッポ♪ピーパッパッパラッポ♪パッパッパラッポ♪


 彼の紡ぎ出すラップのメッセージとその声音には、どこか勇気をもって自分を訴えるはぐれ者らしさがあった。自分のコンプレックスに悩み、苦しみ、それでも自分は自分だ、という答えにたどり着いた、はぐれ者なりの強さがそこにはあった。


 ドォォォン!!!!


 ある程度踊り終えたところで、オスカーはリチャードを人差し指で一直線に指すポーズで制止。それで彼のダンスとラップは終わりを告げた。


 人生の全てを踊りとラップで表現し、自分を追放した男に見せつけたオスカー。


 それに対して、当のリチャードは―――微動だにしなかった。


 かと思うと。


 スッ……


 勇者リチャードが片手を振り上げて取り出したのは、一枚の金貨。


 チャリ―――――――――ン……パシッ。


 親指の一弾きで、先ほどまでスキャットマン・ジョンのテーマを思わせる音楽を演奏していた楽団に、金貨を投げ渡した。


 それをサインに、楽団の奏者たちはいっせいに手を動かした。





 ドゥクドゥクドゥクドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪
 ドゥクドゥクドゥクドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪



「アォ!!!」



 ドゥクドゥクドゥクドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪シュクチュク♪
 ドゥクドゥクドゥクドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪シュクチュク♪



 リチャードの要求に応えて楽団が奏で始めたのは、ポップスの曲調でありながらどこかR&Bの雰囲気も持たせた音楽。マイケル・ジャクソンのSmooth Criminalを彷彿とさせる曲だった。



「ポゥ!!!!!」



 いきなりシャウトをかましたかと思うと、先ほどまで微動だにしない姿勢でオスカーの踊りと言葉を見ていたリチャードは、素早くすべるように滑らかな体のこなしで踊り出す。アニメーションダンスを主体とした、どこかミステリアスな動きのダンスだった。


 ミスリルメイルを装着し、ミスリルソードを腰に提げているとは思えない躍動感だ。


 時折、頭にかぶっているミスリルヘルムをクイっとズラす仕草も様になっている。



ドゥクドゥクドゥクドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪



 程なくして、リチャードの後方で、パーティーメンバー―――彼の仲間の戦士や魔導士、僧侶、盗賊たちも立ち上がり、彼に合わせてやはり息のぴったり合ったシンクロ具合で踊り出し始めた。


「♪オスカーがパーティーに忍び込む♪
 大きくなる不協和音♪
 オスカーがパーティーに忍び込んだ♪
 メンバーに残る不満の痕♪」


ドゥクドゥクドゥクドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪


 先ほどまでオスカーが中心となって踊っていたはずの酒場は、一気にリチャードの独断場と化した。



「♪彼女は俺の元に逃げ込む♪
 オスカーにとって彼女は無防備だった♪
 彼女は俺の胸へと逃げ込む♪
 しかしオスカーに押し倒された♪」


 銃声のように素早く、衝撃的なダンスを一糸乱れぬ精密さで披露するリチャード。
 彼が地面を滑るようなムーンウォークで動けばメンバーもムーンウォークで動き、重力を無視しているとしか思えないゼロ・グラビティのポーズをすればメンバーも同じくゼロ・グラビティを決めた。
 風格すら感じる、場の支配力。彼の姿は、正にキングオブポップ(銃声の王)と言えた。


「邪魔じゃない?♪アニー、あいつ邪魔じゃない?♪邪魔じゃない?♪
 邪魔じゃない?♪アニー、あいつ邪魔じゃない?♪邪魔じゃない?♪
 邪魔じゃない?アニー♪」


 オスカーの元恋人であり、彼の今の恋人でもあるアニー(今も彼の後方で踊っている)との関係も強調しつつ、リチャードは言葉を紡ぎ続ける。その一言一言が、オスカーを否定する言葉だった。


「アニー、あいつ邪魔じゃない?♪
 邪魔って言ってくれるよな?♪
 忍び込んだオスカー♪
 オスカーに邪魔され悲鳴を上げるパーティー♪
 フィールドに残るアニーの血の痕♪
 パーティーは俺の胸に逃げ込む♪
 でも潰されてしまった♪
 それがパーティーの運命だった♪」



テッテテレテレテレテレッテ♪テッテテレテレテレテレッテ♪テッテテレテレテレテレッテ♪テッテテレテレテレテレッテ♪



 間奏の間、いつの間にか先ほどリチャードと共に踊っていた荒くれ冒険者や店員すらも、操られたかのようにリチャードに合わせて踊り出し始めていた。
 いつの間にか、その酒場で彼に合わせて踊っていなかったのはオスカーだけになってしまった。



「パーティーは襲われた♪(ダンダン!!)パーティーは潰された♪オスカーという犯罪者(クリミナル)に♪」



 躍動的で、一糸乱れぬダンスと歌の直後の完璧なロッキングによって、リチャードはオスカーに人差し指を突きつける。
 歌とダンスによって言い渡された、実質的な解雇通告だった。
 それはあたかも、先ほどオスカーが見せたダンスとラップへのカウンターのようでもあった。


 しかし。


「いや、それは認められない!!」


 リチャードとそのパーティーメンバー、そこに居合わせた全員の完璧なダンスを目の当たりにしても、オスカーの心が折れることはなかった。


「なぜだ!!!」


「昔  を  思  い  出  せ  !!」



 オスカーのその言葉を合図としたかのように。



 テーレーレーレーレッ!!♪



 酒場にWham!のYoung guns(Go for it)を思わせる曲が流れ始めた。


 先ほどのダンスが嘘だったかのように酒場の全員が微動だにしない中で、オスカーとリチャードの二人だけがポスト・ディスコ調で踊り出し始めた。


「おい、バカ!♪ よく、思い出せ♪(裏声で歌うオスカー)」
「何を、バカ!♪ 何を、思い出す♪(裏声で歌うリチャード)」


 オスカーが十歩進めば、リチャードは十歩後退。
 リチャードが十歩進めば、オスカーは十歩後退。


 そんな調子で二人は酒場の端と端を行き来しながら、息の合ったステップを踏み出した。
 パーティーを追放する側と、追放される側であるにも関わらずだ。


「冒険中長い間お前の顔を見なかった♪
 だから俺はお前にあいさつした♪王都でな♪
 お前の腕にアニーがいるのを見てわかった♪
 母国の幼馴染がお前のハートを♪魔法で勝ち取ったと♪
 俺は『勇者ボーイ、またパーティーに入れてくれ』と言った♪
 俺は『勇者ボーイ、なんで不機嫌そうなんだ』と言った♪
 でもお前の返事は♪
 『オスカー、俺のフィアンセを見ろよ』だけだった♪」



 ステップを踏みつつリチャードの目を真正面から見据え、ラップによって自分の思いを紡いでいくオスカー。



「俺のパーティーメンバーに加入したい?お前は狂ってる♪
 アニーと眠れぬ夜♪豪奢な馬車の上♪
 お前が21になるころには英雄だ♪
 母国にいれば♪お前は楽しかったろう♪
 でもお前はここにいる♪
 そして、お前はそこにいる♪
 お前みたいな男なんかそこら中にいる♪
 古き良き日を振り返れ?♪
 若き勇者の俺は言う♪身の程を知るべきだ♪」



 彼に対する返答をするかのように、リチャードもラップを紡ぎ出した。追放を言い渡した時の見下した目とは違って、過去のことを語られたことに対する苛立ちの感情が彼の顔には出ていた。



「「若き勇者♪楽しもうぜ♪
 クレイジーな魔女が俺たちを冒険させる♪
 賢い男たちは悟る♪
 冒険には危険があると♪
 俺たちを見て見ろ♪冒険者で自由だ♪
 悲しみはない♪恐怖もない♪俺たちが成し遂げたいこと♪
 1,2,俺たちを見ろ♪
 冒険による死♪」」



 ポップな曲調に合わせて、若い頃、母国で共に冒険をしていた頃のように抜群のコンビネーションでサビを二人でハモり上げるオスカーとリチャード。その姿はさながら人気のポップデュオユニットであり、誰がどう見ても、最高最善の良き友、良きコンビだった。

 彼らの勢いに同調するかのように、勇者パーティーのメンバーや酒場の客、店員たちもいっせいにディスコダンスを踊り出した。しかし彼らのダンスは動きも少なく地味なもので、明らかに場の主役をオスカーとリチャードの二人に譲り渡していた。



テーレーレーレーレッ!!♪テーレーレーレーレッ!!♪
テーレーレーレーレッッッ!!!!!!♪



 かつての友人であり、今は強者と弱者に分かたれたオスカーとリチャード。
 リチャードの表情には、もう先ほどのような侮蔑の色はなかった。
 オスカーと激しくダンスとラップを交わして、今の彼を少しだが理解できていたからだ。



 ディスコダンスを踊っていた勇者パーティーや客、店員たちの動きも止まり、酒場の空気が静寂に包まれる。
 一帯に緊張が走る中で、そっとオスカーが口を開けた。



「本当は、また母国にいたころみたいに……お前と冒険がしたい」



 それは激しいラップとダンスの後に彼が紡いだ、余りにも単純で、それでいて切実な言葉だった。



 その切実な本音を、絞り出すようにオスカーが口にしたその時。





 一筋の光が、オスカーの体に差し込んだ。






 暗闇に包まれた、禍々しい空間。
 ここは魔城、その中でも最も重要な部屋である魔女の玉座の部屋。
 魔界と人間界の狭間にあり、魔女軍の本拠地である。

 

 人間界を侵略し、破壊の限りを尽くそうとする魔族。
 この部屋には今、その魔族の軍隊を統括する大幹部たちの姿があった。



「ククク……人間どもの勢力も、刻一刻と弱体化の一途をたどっております」



 その大幹部の一人・ダンタリオンが見上げる先には、玉座があった。
 その玉座に座する、黒いドレスと、妖艶な漆黒の翼に身を包んだ女王。
 闇より生まれし女。混沌が人の形となった存在。



 その場にいた存在こそ、魔族の頂点にして人間界の混乱の現況、【深淵の魔女】であった。



「でしょうね。無駄な抵抗も見られるようだけど、所詮は浅はかな人間たち。我々の強大な力を前には手も足も出ないわ」



「それもそのはずでしょうな……人間側は虚勢を張って雑兵を募っているようですが、今の情勢で戦えば、奴らの降伏、あるいは破滅も時間の問題でしょう」



「えぇ。それで人間の時代は終わりを告げる。その時こそ、時代と世界を統べる、すべての食物連鎖の頂点に立つのが、この私……」



 どおぉぉん……(スポットライトの音)!!!



「【深淵の魔女】」



 堂々たる調子で、名乗りを挙げる魔女。
 口にせずとも、最早この世には何人たりとも自分の敵などいない、という絶対的な自信があふれていた。



 しかし、その時だった。



「大変です、女王様!!」



 闇の眷属の一人が、息も絶え絶えと言ったような状況で玉座の部屋に駆けこんできた。

 

「何者かが、超高速で迫ってきています!! 警備のドラゴンが、一撃で倒されました!!!」
「何だと!?」



 ダンタリオンが動揺の一言を発した、その時だった。



 デュルルルルルルルル!!!♪



 鍵盤が端から端まで流れるような音色を奏でる、ピアノのグリッサンドの音。
 それを合図に、暗闇だったはずの魔女宮は晴れ上がっていく。



 デーン♪デーン♪デーン♪デッデッデーン♪



 そして、エルトン・ジョンのI’m still standingのような曲が流れ始めた。



「お前は考えたことないだろ♪
 お前の心は氷のように凍てついている♪
 とても冷たい、寂しい光だ♪
 このままだとお前は破滅する、その面の底にあるものみたいに♪」



 歌声こそ聞こえるが、肝心の歌い手はその場に現れない。
 代わりに華麗にダンスを踊りつつ現れたのは、荒くれ冒険者やゴロツキや酒場の店員、そしてリチャードやアニーなど勇者パーティーのメンバーたち。


 あの日、リチャードがオスカーに追放を言い渡した酒場に居合わせていた者たちだった。



「俺みたいな雑魚が栄光を掴むなんて思わなかっただろ?♪
 でも見ろよ、この通り覚醒した♪
 シンプルな方法で、覚醒の喜びも知った♪
 お前が知りたがっても、俺は今ここにいる♪
 お前は消えていくだけだけど♪」



 しかし、格好が微妙に違う。



 顔や体が、頭からペンキでもかぶったかのように白塗りだった。
 そして服装も、どことなく露出が多い。 



 一見、同性愛者風では?と誤解を受けかねない見た目。
 だが彼らの目力には、そのような誤解すら恐れない、絶対の自信があった。



 二列に並んだかと思うと、お互いに視線を向けるかのように中央に向けた。
 まるで、全員で誰かの通る花道を作っているかのようだった。



「よく見ろ、俺はこうして立ってるんだ♪前よりずっと堂々と♪
 ほんとのチート能力者みたいに、少年のような純粋さで♪
 色々あったけど、俺はこうして立っている♪」



 その花道を通って、ついに【その男】が現れた。



 純白のタキシード服。
 クリーム色のカンカン帽。
 そしてレンズをハート形に象ったサングラス。



 白塗り衣装のバックダンサーたちのダンスに囲まれながら現れたのは、チートジョブ【ロケットマン】に覚醒した、かつて低レベル冒険者だったはずのオスカーだった。



「昔のことを頭から追い払い、思い出を拾い集めてる♪
 俺はこうして立ってる♪まだ挫折しちゃいない♪」



(イェー、イェー、イェー(白塗りダンサーたちのバックコーラス)♪)



 ステッキを振り回しながら軽快なダンスも交えて歌う彼の姿は、どこか純粋な子供のようだった。



 デーン……デーン……デーン……デッデッデーン!!!♪



 照明を浴びながら、曲の終了と共に見事にタキシードの冴えるポーズを決めて制止するオスカー。
 当然、魔女も、その場にいた大幹部たちも、臨戦態勢に入った。



「自ら乗り込んでくるとは言い度胸ね……絶望を味わわせてあげる」
 しかし、それに対してオスカーが抜いたのは、剣ではなかった。



「よせ! 俺は戦いに来たわけじゃない。魔女、キミの血塗られた過去を、清算させに来たんだ」
 その言葉を聞いた魔女の表情が、一気にひきつった。
 なにか触れてはいけない地雷を踏んだのは、誰に観ても明らかだった。



「人類を破滅させたいなんて、それは本当に君のやりたいことなのか? 過去の記憶の傷痕が、キミを暴力的にさせているだけじゃないのか?」
「私だって……私だって、好きでこんなことやってるわけじゃない!!」



 魔女の瞳は、怒りと悲しみに囚われつつあった。
 かつての彼女に、想像するも無惨な悲しい過去があることは明らかだった。



「今の君が本当に嫌いなのは、人間たちじゃない。自信を持てない自分じゃないのか!?」



 その言葉に強く反応した魔女は、目を大きく見開いた。



 オスカーは、彼女の真ん前で、ゆっくりとて手を振りかざした。



 ふとその場に、ピアノソロが流れ始めた。



 しばらくの演奏で、映画【グレイテスト・ショーマン】の挿入歌・This is meを彷彿とさせる曲に聞こえてきた。



 ゆっくりと光がその場に漏れ、ある場所に照らされる。その場にいたのは、みすぼらしい白いワンピースで倒れている少女。見るからにあどけない少女の肩には、しかし烏のごとき黒い翼が生えていた。
 感傷的な表情で、その少女を見つめる魔女。少女の顔や体にはいたるところに痣があり、決して恵まれた環境にはいない、ということがわかる。誰の目から見ても、少女が在りし日の魔女の姿であることは明らかだった。



「闇の深淵には慣れているの♪
 『近寄るな』と何度も言われた♪」



 過去を思い出すように、魔女はゆっくりと歌い出した。



「自分の存在自体が恥だった♪
 『世界のどこにもお前の居場所なんてない』と言われた♪」



 魔女の歌声に導かれるかのように、ダンタリオンたち大幹部や、配下の魔族たちも、次々と神妙な面持ちで歌う彼女の後に続きだした。
 彼らそれぞれに、魔女と同じかそれ以上の凄惨な過去があることを体現するかのように。



 しかし、やがて光に照らされていたみすぼらしい少女が、何かを決意したかのような表情で立ち上がり、歩き出し、魔女の真後ろに、隠れるかのように立ち止まった。



「だけど、本当は誰にもクズ扱いされたくない♪
 居場所があることを、知っているんだもの♪
 私たちが、光をもたらせる場所を―――♪」



 立ち上がった少女の勇気が乗り移ったかのように、俯いていた視線を持ち上げ、透き通った声で徐々に堂々とした雰囲気を醸し出していく魔女。
 その姿に最早人々の平和を脅かす悪女の面影はなかった。
 やがて彼女の真横に、見守っていたオスカーも並んで立った。



「醜い野次が私に投げつけられたとしても♪
 大地震を起こして震えさせてやる♪
 私たちは勇気ある者、私たちは爪弾きにされた者♪
 でもこれこそが私たちの理想像♪
 これが私なんだ♪」



 彼女の歌、その最後のフレーズが封印を解く呪文であったかのように、禍々しい魔装束と、悪魔のごとき黒い翼を身に着けていたはずの魔女の体に亀裂が走っていく。
 亀裂の奥、魔女の中身にあったのは、超新星のような果てしなき光。
 程なくして、光を放つ者が正体を現した。魔女の顔をした、白鳥のごとき白い羽と、あの少女と同じ白いワンピースをまとった天使という正体を。



「「用心することだ、私たちは今羽ばたく♪
  自分の心臓が奏でるリズムに乗って歩き出す♪
  さらけ出しても恐れない♪ 恥じたりしない♪
  これが私なんだ♪」」



 気が付くとオスカーと魔女を中心に、向かって右側にリチャードたち勇者一行や冒険者たち、左側にダンタリオンたち大幹部一行が並んで立っていた。



(ウォーオーウォーオー(勇者一行、魔女一行のバックコーラス)♪
 ウォーオーウォーオー♪)



「「無数の矢が、我々の体に放たれる♪
 いいさ、放てばいい♪
 明日からは情けなさで引きこもったりはしない♪
 城壁を突き進んで、光に手を伸ばしてやる♪
(我々は戦人だから(バックコーラス)♪)
 これこそが私たちの本来の姿だ♪
 本当は誰にもクズ扱いされたくない♪
 居場所があることを、知っているんだもの♪
 私たちが、光をもたらせる場所を―――♪」」



 人間の軍団と魔女の一味、その垣根を超えた大合唱が今奏でられる。




 彼らが歌い、舞い踊っている途中、背景が、禍々しい魔女の玉座から急に変わり出した。同時にその場を、明るい光が包み込んでいく。
 生い茂る草木、潤う湖、透き通る空に照り付ける日光。
 神話の世界を思わせる楽園のような場所だった。



 自分を自分と思える勇気が、オスカーたち、魔女たちをこの天空の楽園―――本当の勇気を見せた者にしか姿を現さないとされる幻の天空島、【約束の島】へと導いたのだ。




「「用心することだ、私たちは今羽ばたく♪
  自分の心臓が奏でるリズムに乗って歩き出す♪
  さらけ出しても恐れない♪ 恥じたりしない♪
  これが私なんだ♪」」
(ウォーオーウォーオー♪ウォーオーウォーオー♪)



 歴戦の勇者のごとき堂々たる佇まいで、力の限り自分たちの生きざまを歌い続けるオスカーと魔女、そして勇者一行と大幹部たち。
 最早今の彼らには、自分への自信の無さや、自信の無さゆえの他者への攻撃心をつのらせるものなど一人もいなかった。




「「醜い野次が私に投げつけられたとしても♪
 大地震を起こして震えさせてやる♪
 私たちは勇気ある者、私たちは爪弾きにされた者♪
 でもこれこそが私たちの理想像♪
 これが私なんだ♪」」



 彼らは天空島という、新しい居場所を手に入れた。




 これからも、彼らは心無い者たちからの偏見と、差別に晒され続けるかもしれない。




 しかしそれでも、自分は自分でしかない、という絶対的な理念と共に、彼らは胸を張って生き続けていくのだろう。




 彼らの心に勇気がある限り。





 いつまでも。
 どこまでも。




 
 ◆    ◆    ◆



テーレテーテテレテーレテーテテレテーテーテーテテテテー♪




 蒲田行進曲を思わせるオルガン曲が流れたかと思うと、一度閉じられたはずのカーテンが再び開いた。




 舞台に立っていたのは、手を繋いで並ぶオスカー、リチャード、魔女―――を演じた、俳優たちだった。




「本日は特別公演、【追放されたけどチートスキルに覚醒しました】をご覧いただき、誠にありがとうございます。来月は別の公演【父親の再婚相手の娘が幼馴染だった件】も上演予定ですので、そちらもご覧くださいませ!!」




 オスカーを演じた俳優の口から、観客への感謝と、次回公演の宣伝が劇場中に響く声量で語られる。



 【私たち】は、その言葉を拍手で迎えた。




 歌とダンスを交えた異世界冒険譚演劇【追放されたけどチートスキルに覚醒しました】は、そのカーテンコール、そして私たちの拍手によって幕を閉じた。




 劇場を後にして、熱気がありつつもそよ風の涼しい、夏の夜らしい外気を帯びた、東京繁華街の裏路地に出た。




 家路に着く中で、【私】―――観客の一人である女性は、思ったのだった。





(曲のチョイス……全体的に古かったなー……)
八木耳木兎 

2022年05月24日(火)21時54分 公開
■この作品の著作権は八木耳木兎さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
カクヨムに投稿した短編小説です


この作品の感想をお寄せください。

2022年07月10日(日)16時20分 ワルプルギス 88Ev6M0jRk +20点
読ませていただきましたので、感想を。

歌って踊ればすべて解決とはまさにチート。
私はあまり音楽に明るくないもので、挙げられてる曲はYoutubeで確認してきました。
PVのオマージュ演出なども確認でき、好きな人ならたまらないんだろうなと思います。

ただ、細かいところはちょっと甘いのかなと。
オスカーがパーティーに入ってからが3年だったり5年だったり、歌詞が今一つ韻を踏めていなかったり。

まあ、そんなのは感想書こうとして2,3度読み返したから気づいたこと。
歌のパワフルさに引きずられて楽しく読むことができました。

これからも頑張ってください
31

pass
合計 1人 20点


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