マラッカ海峡漂流記
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 マレー半島とスマトラ半島を隔てる海峡をマラッカ海峡と呼ぶ。幅は約七十km〜二百五十kmの海峡である。
 南シナ海とアンダマン海を結ぶ主要航路で、年間の通過船舶数は五万隻を超えるそうだが一日にすると百四十隻程度だ。
 大海原は静かな白い波を立てて、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。その大海原に粗末な材木を組み合わせたイカダが漂流している。すぐに何処か近い島か陸地に辿り着くと思っていた。どう云う訳か潮の流れが速くマラッカ海峡を抜けてアンダマン海の大海原に入ろうとしていた。不味い事に漂流した時刻は真夜中だった。マラッカ海峡なら沢山の船を見かけるがアンダマン海は極端に広くなり船の往来も減る。更に航路から外れたらこんな小さなイカダではどの船も気づくはずもない。

 その小さなイカダには二人の男が乗っていた。イカダの大きさは五畳ほどの面積があり長方形に縄で繋ぎ合わせたものだ。一人は屈強そうな三十歳前後と思われる男。おそらく身長百九十センチ、体重九十キロくらいはあるだろう。顔も見るからに怖い感じだ。しかも筋肉隆々で竜の刺青が数ヶ所に彫られている。もう一人はその男と比較すると見劣りする。学者風の男は百八十センチ、七十五キロくらいだろうか。だが知的な感じで学者風にも見える。
 年齢も屈強な男と同じくらいだろう。その二人がイカダの両角に座っている。遭難した船から拾い集めた皮製の布、帆柱が折れて柱ごとイカダに拾い上げた。遭難した船から漂流している物を片っ端から拾い上げて、イカダの真ん中に積み揚げた。まだ中身が何か確認していない。
 この二人は知り合いでもなんでもない。それどころか敵対関係である。マラッカ海峡は言わずと知れた海賊で有名な海峡であり、今も昔も海賊は存在している。その屈強そうな男の方が海賊船に乗っていた。言わずと知れたマラッカ海賊船の生き残りである。
 神は悪戯したのだろうか、試練を与えたのか二人は何故か同じイカダに乗っている。
 今は敵も味方もない。生きる為に仕方がなく一緒にイカダに乗っているだけだ。

「おい、お前! 殺されたくなかったら俺の言うことを聞け」
「……」
「ふん、俺が怖くて口も聞けんのか」
 「偉そうに言うな。お前の仲間もみんな死んだ。残ったのは俺たち二人だけだ。俺を殺せばお前一人では生きて行けないぞ、俺は覚悟を決めている。殺れるものならやってみろ。それとも協力しあって助け船に拾われるかだ」
屈強そうな男は黙った。その男の言う通りだからだ。黙っている男に追い討ちをかける。
 「お前等に天罰が下ったんだ。海洋調査船を襲ったお前たち海賊に神はお怒りになったのだ。二十人近くもいた海賊で残ったのは、お前だけじゃないか」
 「それはお前たちも同じだろう。お前たち乗組員は何人いた? 残ったのはお前だけだ
ろう。神は平等だ。ワッハハハ」
 「残念だな。大した大きな調査船でもないし、俺たちクルーは十人だけだ。一人が急病で倒れゴムボートに載せ港の病院に連れて行った。その後にお前たちが襲って来た。以前からこの海域は海賊が出るという噂があり、常に避難用の小型ボートを用意していた。俺は最後に乗るつもりだったが俺だけ間に合わなかった。でも神はお怒りになり、竜巻となってお前達海賊船と海洋調査船を巻き上げたのさ。だから俺たちは誰も死んでいないんだ」
「ふん、理屈は結構だ。仕方がないここは力を合わせるしかなさそうだ。お前、名前は?」
「俺はボレー・モレノだ。メキスコ系マレーシア人だ。お前は?」
「良く聞け。俺の名はレヴィアタン・フランコだ」
「なんだって笑わせるな! 日常は人の姿で過ごし、海の潮を動かすときのみ巨大な海に変化して全身を使って海流を作り出し竜の名前じゃないか、七つの海の守り神、竜伝説そんな名前を付ける馬鹿な親がいるか」
「そうだ。親父が付けた名前だ。親父からレヴィアタン伝説は聞いて気に入っている」
 それから二人は互いに警戒しながらも、生きぬくために協力しあった。イカダの中央に積まれた荷物を調べて行く。竜巻で叩きつけられた双方の船は木っ端微塵になり一瞬にして即死した者や、重症を負ってそのまま海の底に沈んで行った者、気がついたら二人だけになっていた。丸太や材木、手に触った物を手当たり次第に拾い揚げた。
 互いに目的こそ天地の差があるものの、海を仕事場とする男は咄嗟に判断したのだ。
 だから何を拾い揚げたか分からない。しかしこれが海の上で生きて行く為の全てだ。

 幌の切れ端、ロープ、鍋、フライパン、オイル缶、釣り糸、工具箱、ビニールシート、プラスチックの箱に入っていた缶詰が十数個、同じくランプに四本の水の入ったペットボトルなど簡単に見たらそんなものだった。それにしてもこれだけの物を拾い上げたものだ。
 船の往来が多い、ここマラッカ海峡はいわずと知れた昔から海賊のメッカだ。
 何しろマラッカ海峡は海賊海域と呼ばれるほど多く年間二百二十回も襲われている。
 昨今では警備も強化され半分以下らしいが、各国も海賊対策には頭を痛めている。
 ここを通る船は対策として武器を積み込んでいる。よって海賊たちも乗組員の多い船は襲わないのが通常だ。それで小型の調査船が襲われた訳だ。
 
 マレーシアの沖二百キロ付近で調査をしていた処だ。だが嵐でかなり流されたと思う。おそらくアンダマン海まで流されたと思う。二人とも海の男だ。そのくらいの見当はつく。それから一昼夜どのくらい流されたかは分からない。照りつける太陽と数個の缶詰に四本のペットボトルでは三日と持たない。その間に此処を船が通るかは不明だ。ましてイカダでは近くを通っても発見されないだろう。生き延びるには一人なら六日生き延びられる。殺人を犯し一人になっても三日長くなるだけだ。よってフランコが襲うことは考えにくい。二人は破けた幌を繋ぎ合わせて、日除けのテント代わりにした。とにかく今は体のエネルギーの消費を防ぐために眠った。朝の日差しがイカダを照りつける。気温はどんどん上昇して行き、水を飲まずには居られない状況だ。たまらずフランコがペットボトルに手を掛けた。すかさずモレノが口を出した。
「おい! 我慢せよ。でないと水は三日どころか一日で無くなるぜ」
「うるさい! お前なんかに指図される覚えはない。竜巻さえ無かったらお前は殺されていた身だぞ。それともここで殺してやってもいいぜ」
「ふん、まだ海賊のつもりで居るのか、今は一人だ。それも武器もなくて勝てるのか」
「なんだと〜〜その貧弱な体で勝てると思っているのか」
「貧弱かどうか、やって見なくては分からんぞ。俺だって空手をやって来たんだ。一対一
なら 負けないぞ。それでもいいのか」
 フランコは空手と聞いて一瞬ひるんだが体格は圧倒的に有利だ。ハッタリを掛けていると思った。ここで優位に立たなくては水が飲めなくなる。フランコは立ち上がった。

「よせ! 無駄に体力を使ったら水や食糧がもっと欲しくなる、やめておけ」
「やっぱりハッタリか。ふん、お前が居なくなれば水も缶詰も俺のものだ」
「一人で何日持つのだ。二人なら色々と知恵も回るぞ。良く考えろ」
しかし聞き耳は持たなかった。一気に突っ込んで行く。タックルするつもりらしい。だがタックルする筈の両足はなく、顔面に膝蹴りを食らった。ハッタリではなかったようだ。ひるまずに立ち上がろうとしたが、今度は顎を蹴られてもんどりうって倒れた。
「分かっただろう。外見だけで判断するな。一人の海賊で何が出来るんだ。やめろ!」
 フランコにとって初めての屈辱だった。海賊船の中でもNO三と言われたフランコでも歯が立たなかった。
 「くそっ! これでも喰らえ!」
 パンチを放ったがやはり軽く交わされた。フランコは力だけじゃ駄目な事を初めて知った。互いに距離を置いて最初の頃のようにイカダの両端に座った。しかし太陽は容赦なく照りつける。唇はカサカサになり皮膚が水ぶくれになってきた。
 雨が降ればすべてが解決するが、もう待ってはいられない。フランコは夜になるのを待った。モレノが眠りについたようだ。今がチャンスとフランコは襲い掛かった。
モレノを殴りつけペットボトルを奪った。不意を突かれたとはいえモレロは抵抗しなかった。残りは二本。二本ともフランコが奪った。そして一気に一本のボトルを半分ほど飲んだ。月夜に照らされたモレロの目はフランコを哀れみの目でみる。

「どうしたモレノ、衰弱して動けなくなったのか。ざまぁみろ死ぬのはお前が先だ」
「……ではその後がお前ということかフランコ。二日くらい後にはお前も死ぬんだぞ。それも分からないのか? 最後くらい人の心を持てよ」
「何を言ってやがる。生まれた時から海賊一家で育ったんだ。人の物を盗るのが仕事だ」
「じゃあ教えてやろう。俺は水を作ることを知っている。伊達に海洋調査をやっていない」
「本当かよ? なら何故に最初に言わないんだ」
「最初に言っただろう。狭いイカダに二人だけで大海原で生きて行くには協力が必要だと」
「そんな事を言ってペットボトルの水が欲しいんだろう」
「そりゃあ欲しいさ、でも信頼関係を築くことが本当に生きる道だ」
しばらくフランコは考えていた。人から奪い取ることしか知らないフランコが。
「分かった……お前に掛けるか、裏切ったら殺すぞ」
 そう言ってフランコは残り一本の、ペットボトルをモレロに放った。
 その水の入ったボトルを受け取り、ひび割れかけた唇に水を運んだ。三分一ほど飲むとモレノはニッコリ笑って、ありがとうフランコと言った。
 なんだか知らないが、フンランコはありがとうの言葉が胸にズキンと響いた。
 なんだ、この感触は? 人から怒鳴られても感謝された事がなかったフランコは驚いた。
 フランコは照れくさそうに薄笑いを浮かべ、ありがとうの返礼に軽く手をあげた。

 その夜は互いグッスリと眠った。その前までは警戒して熟睡が出来なかったのだ。
 今日で三日目の朝を迎えた。四日持たせる予定の水も互いに一本のボトルの水が半分程度になっている。この暑さではどう節約しても夕方にはなくなる。だがモレロが言った信頼は少しだが芽生えていた。
「フランコ手伝ってくれないか、今から水を作る道具を用意する」
「ほっ本当にそんな物が出来るのか?」
「ああ、イカダに残っている物で作れると確信していたんだ。信用しろ」
 フランコは最初から半信半疑だった。しかしモレノに賭けると言った以上、生きる道はそれしか残されていなかった。こんな状況に追い込まれても不思議と気持ちが安らぐのがフランコは不思議でならなかった。

「じゃあフランコ、透明のビニールシートをこんな風に切ってくれ」
 次にモレノは大き目の鉄鍋を見つけた。その鍋の内側を工具箱から適当な物を見つけて磨く。
「おいおいモレノ、そんなのを磨いてどうするんだ」
「ああ、反射板にしようとしたが難しいなぁ」
「そんな事か俺に任せろって、こういうのは得意だ」
 モレノは苦笑いを浮かべ、その作業を譲った。鍋の真ん中にコップを置きビニールを被せ海水を蒸発させるつもりだったが、やはり蒸発する程の熱は得られず無理があった。
 次に考えたのがオイルランプの熱で蒸発させて蒸気と塩水を分離され、下に落ちた雫が真水となる仕組みだ。海水を蒸発させたがオイルランプの熱量で沸かしたが一日掛けて出来た真水はコップ一杯半程度だった。
 さすがにモレノは焦りを感じた。出来た真水はコップ一杯分をフランコに渡してモレノはその半分の水で我慢した。ここでもフランコは熱いものを感じた。自分が我慢して水を自分に多くくれた事が不思議で、そして暖かいものを感じたのだ。

 翌日は大きなガラス玉が浮いているのを大量に見つけた。漁船が使う灯り用のランプだ。バスケットボールほどの大きさの物が流れている。
「おお〜〜神は俺達に救いの手を差し延べてくれたらしい。これは使えるぞ」
 二人は拾い上げ、それをレンズ代わりにした。空から灼熱の太陽が照り付ける。強い太陽光線を浴びて鍋の中の海水を蒸発させた。二人は沢山の浮き玉を旨く加工して、鍋に光線が当たるように工夫したのだ。まさに太陽熱を逆手に取った手法は功を奏した。一日でペットボトル二本ちょっと出来た。これで水の心配は解消された。しかし缶詰も底がつき掛けた。今度は海賊生活の知恵をフランコが発揮した。 
海賊は海を生きる糧としている。魚を獲るのもその得意分野のひとつだ。
 ましてや父が漁師だったので魚を獲る事に関しては他の海賊仲間より群を抜いていた。
釣り糸を利用して魚を獲った。細い棒の先にガラス球を割って槍のように加工しモリを作り潜って魚も獲った。その間に二人は色々な事を話した。二人は生きる為の知恵をいかんなく発揮した。そんな日々がやがて二週間続く。モレノが真水を作る事が出来るなら、フランコだって得意分野がある。魚を取る手法もその一つだが、その魚の調理方法を知っている。

  顔に似合わず料理が得意のようだ。調理設備の無い中ながら色んな料理作り出した。これにはモレノも舌を巻いた。愛情の代わりに人から奪うことしか教わらなかったフランコ。愛情、友情なんて皆無だった。それがいま変化しつつある。それをモレノが教えてくれた。
二人には友情が芽生え始めていたが、しかしもう漂流して二週間、焦りも出て来た。
フランコは思った。モレノの云うとおり自分が一人だったら今頃どうなっていたのか、改めて殺しあわなくて良かったと思っている。
 例え水と食料が一ヶ月分あったとしても一人では話し相手も居ないし、いつまでも続くか分からない漂流生活ではいずれ水も食料も尽きてしまう。今はなんとか水と食料は海から獲ることが出来るのだ。そんな安堵している所へ、再び暗雲が漂い始めた。真っ青な空が厚い雲で覆われ始めた。ただ雨なら大歓迎だが嵐の予感が現実のものとなってきた。

「フランコ嫌な雲行きだなぁ、イカダをしっかり結び付け。流されないようにイカダの上の物をシートで覆いロープで縛ろうか」
「それもそうだが、俺達が流されたらお陀仏だぜ。とにかくイカダは舵取りも効かない。準備だけはやって置こうぜ」
 それから一時間が過ぎ海面が荒れだした。風邪も強くなりスコールのような雨が降り注ぐ。皮肉な事に使え切れないほどの雨水がイカダに降り注ぐ。こんな状態でなかったらシャワー代わりになったのにとフランコが嘆く。次第に波が大きくなり風を強くなった。イカダは大きく浮き上がり高波に流され急上昇急降下を繰り返した。二人は救命浮き輪を付け、更に体をロープで縛ってイカダに腹ばい状態で凌いでいた。だがイカダが軋む度にモレノのロープが緩みイカダから落ちてしまった。
「お〜い! モレノ!!」
 フランコは叫ぶと同時にロープを自分の胴に括りつけた。だが流されて行くモレノまでは届かない。テントで覆っていたロープに自分を繋いでいるロープに足して救命浮き輪をモレノに向かって投げた。たが荒れる波でまったく届かなかった。
 フランコは最後の手段に出た。荒れ狂う海に飛び込んだ。死ぬかもしれない、そんな事を考える余裕もなかった。ただ助けなくては、まだ幸いな事に昼下がりでアップアップしているモレノが時おり波の合間から見える。
 それを頼りにフランコは必死に泳ぐ、強靭的な力で荒れ狂う波なのに確実にモレノに近づいて行った。そしてついにモレノに辿り着く。モレノは半分意識が遠のいていた。
 同じ海の男でも船の上で仕事するモレノと、海を自在に泳ぎ潜り、時には海の上で殺し合いもして来た海賊のフランコは正に海の竜そのものだ。親が付けたと云うレヴィアタンは守り神となって姿を現したようだ。

 そのレヴィアタン・フランコは自分の側にモレノのロープを繋ぎイタガと繋がっているロープを手繰りながら徐々にイカダに近づいて行く。 フランコの強靭な体力が完全にレヴィアタン伝説の竜が乗り移ったようだった。人は時に想像が付かない程の力を発揮するという。それが幸いして窮地を脱した。十五分後、二人はイカダの上に居た。皮肉な事に嵐は急激に過ぎ去って行った。
「俺は……生きているのか?」
 モレノは殆ど意識が飛んでいたが、なんとか目覚めたようだ。
「おう、どうだ。地獄から這い上がった気分は」
 フランコが冗談まじりで声を掛けた。
「フランコ……君が助けてくれたのか? ありがとう」
 ありがとうの言葉、これで二度目だ。くすぐったい様な妙な気分だが心が温まる言葉だった。
「感謝される事じゃないよ。お前が居ないと俺も生きられないからな」
「フランコ、俺達は神に守られているのか? あの竜巻で船がバラバラになっても今回の嵐でもそして二週間経つのにまだこうして生きていられる」
「ハッハハそれを云うなら悪運だろう。いやお前の場合は神のご加護だろうな」
「確かに、ハッハハ」
  モレノはそう言いながら胸の前で十字を切った。それを見たフランコは。
「モレノ。お前クリスチャンか。てっきりイスラム教だと思っていたよ」
 「祖父がメキシコ人だからな。フランコは?」
 「特にない。宗教に頼るくらいなら海賊をやってないよ。それと食べ物を制限される宗教は好まん。俺にはレヴィアタンという神が居る」
 「ハッハハ間違いない。フランコは神だ。俺はその神に助けられた」
 二人は大声を出して笑った。こんな笑いは二人にとって、いつ以来のことだろう。
 生きていた事に喜びを感じた二人だったが、それも束の間、イカダにあった物は全て流されていた。水も食料も日除けのテントも何もかも消えてしまった。

 モレノは溜め息をついた。もう真水を作る道具も魚を獲る釣り糸もない。照り付ける灼熱の太陽が二人の体力と水分を奪い。生きる術を費やしてしまった。
 「いやまだ諦めるのは早い。この嵐でイガタの物は流れたが漂流物が何処に浮かんでいるかも知れない。諦めずに探そう」
 モレノはフランコを励ますように言ったものの、果たしてそんな漂流物があるのか不安であった。するとフランコはニヤッと笑った。フランコの腰にはまだロープが巻きつけられていた物がある。
「俺の名はレヴィアタンだ。海の悪魔にもなるし海の神にもなれる。ホラ見ろ」
フランコはロープを少しずつ引いた。すると海の中から小さく折り畳んだ袋が現れた。袋の中にはガラスボールを浮き代わりに袋の中にはペットボトルが、二本が入っていた。
「フランコいつの間に? 凄いな」
「まぁなイカダに戻っても水がないと生きられないからな。しかしこれでは一日で無くなるが」
「いや、まだ生きられる。希望はあるさ」
その日から二日目の朝を迎えた。すでにペットボトルの水は殆どなかった。
「どうやら最後の時が来たようだなモレノ。お前に会えて良かったぜ。今度生まれた時はモレノ俺の友達になってくれよな」
「ああ、ただの友達じゃない最高の親友として迎えるよ」
漂流してから十八目だった。もう最後の運も尽きてしまった。あとは天命に任せるだけだ。そんな時だ。ドッドッとエンジンの音が聞こえて来た。小型漁船が近づいて来るのが分かった。二人は起き上がるのもやっとの状態だったが、この時ばかりはバネ仕掛けのように飛び上がり漁船に向かって手を振った。すると漁船から汽笛が何度も鳴り、ライトが点滅していた。救われた。二人は抱き合って喜んだ。二人は奇跡の生還を遂げたのだ。モレノは喜んだ。家族に会える嬉しくて堪らない。もう死んだと思っているかも知れない。だから漁船員に頼んで無線を打ってもらった。だがフランコは上陸するのを拒んだ。このまま逮捕されるんじゃないかと恐れたのだ。

 モレノは助かった事が嬉しく、一瞬フランコの処遇まで頭に浮かんでいなかった。
フランコは海賊だ。陸に上がれば色々と追求され裁判に掛けられ服役する事になるだろう。それだけは避けなくてはならない。襲う側と襲われる側、十八日前は確かにそうだった。
 今は違う命の恩人でもあり友情を誓いあった仲だ。なんとしても助けたかった。
 「心配するなフランコ。今ではお前は大事な友人だ。幸い誰もお前が海賊だと知らない竜巻に巻き込まれ、一緒に漂流していたと言えば誤魔化せる。俺を信じろ」
 フランコは信じるも何も、それしか方法はなかった。ここでもモレノに賭ける事にした。
 幸い助けてくれた船は二百トンクラスの小さな漁船で細かい事は追及しなかった。
 モレノは海洋調査船に乗っていて遭難したと本当の事を告げた。
 もう一人の男は調査船が現地で臨時に雇った雑用係りの男だとなんとか誤魔化した。
 ともかく二人は陸に上がったが、騒ぎを恐れて小さな漁村に船を着けてもらった。
 ここではフランコだけ降りて貰った。まもなくモレノの親戚の者が迎えにくるから数日そこで待っていてくれと伝えて。

 そこから漁船は本来の目的地である港町に向かった。出迎えたのは海洋調査船の重役と職員が数人とモレノの家族だけだ。調査船側も騒がれるのを嫌った。
 モレノは海洋調査会社の人達と抱き合って喜んだが驚く事を聞かされた。小型船に乗り換えて脱出した筈の同僚の船員は嵐に巻き込まれ全員亡くなったと聞かされた。
 漂流者が一人助かったが大勢の死者を出した責任が、また蒸す返されては堪らないからだ。この点ではモレノに取っても好都合であった。もちろん漁船の船長には内密に、それ相当のお礼が調査船側から支払われた。それよりも何よりも妻と子供達に生きて会えた事は何よりも嬉しい。モレノは重役への挨拶も早々に、妻と子供の側に駆け寄り抱き合って喜んだ。

 モレノは海洋調査船に乗ってから三ヶ月、夢にまで見た家族の再会を喜んだ。その日の夜、妻に遭難して助かった理由を話した。もちろんフランコは命の恩人であることも。翌日の朝、親戚の家へ行った。親戚の人々は良く助かったと喜んでくれた。ここでもフランコが命の恩人である事を話して相談に乗って欲しいと頼んだ。モレノは待たせてあるフランコを車で迎えに行った。
「待たせたなぁフランコ。家族も親戚も歓迎してくれるそうだ。なんたって命の恩人だと言ってある。そこでお願いがある。君はもう海賊じゃない。一人村人として生きて行かなくてはならない。その為には人に信頼される事だ。親切にすれば親切で返してくれる。相手を威嚇たり殴れば倍になって帰って来る。それを 心に刻んで欲しい」
「……出来るかなぁ。でももう海賊には戻りたくない。モレノの教えを守るよ」
 そしてフランコとモレノを取り巻く人々を納得させフランコを迎え入れた。
 フランコはどうも勝手が違うのか大きな体を持て余していた。フランコは不安でいっぱいだ。海賊の仲間は居ない。これからどう生きるのかと。
「フランコ心配するなって、俺たちは生死を共にした仲じゃないか。俺にまかせろ」
 フランコを連れてモレノの家に向かった。妻にも子供にもフランコを紹介した。モレノは自分の家にフランコを招き入れた。フランコにしてみれば浦島太郎の世界である。今まで家族は海賊の仲間あり、親といえば海賊の船長であった。そこは弱肉強食の世界で強い者が欲しい物を手に入れるのが当然であった。油断をしたら総てを失う。しかしここは違った。モレノの妻や子供は暖かく迎えてくれた。最初は違和感があったフランコだが、しかしもう海賊には戻れない。人の物を盗ったら人を殴ったら警察に逮捕される。海賊をやっていた頃は強い者が法律であった。しかし此処は違う。規律と道徳と人を思いやる事が生きる幸せに繋がる。そんな事をモレノは何度もフランコに言い聞かせた。人に親切にすれば親切が返ってくる。それからモレノはフランコの為に、近くにある空き家を探して住まいを与え仕事を与えた。

 モレノは海洋調査船を家族の為とフランコの為に降りた。今は海洋研究所で働いている。また別な海賊船に襲われてはたまらないからだ。そしてフランコを幸せにする責任がある。フランコは海賊生活が長いから、人の付き合い方を側で教えてやった。体力には自信があるフランコは港の市場で働いた。あとの心配は職場関係だった。しかしフランコはモレノの教えを守った。(人に親切にすれば親切が返ってくる)(逆に怒りをぶつければ怒りが返ってくる)その通りだった。
 人の親切に熱い物を感じたフランコは、その親切を返した。働く喜びと人の情を知った。フランコは生まれ変わった。愛情と友情というものがどんなに素晴らしい事かも知った。やがて二年の月日が流れた。今フランコは小さな漁船を買って漁師になっていた。あの海賊の荒々しい気性は消えて真面目に働いた。最初の頃は巨漢で人相も悪く、人々は警戒したものだ。だが今は相手から言い寄ってくる。そして今、モレノの隣に新しい家を建てて妻を娶り、互いに兄弟のように暮らしている。
「よ〜フランコ産まれそうだって。いいのかい仕事どこじゃないだろう」
「なぁに心配いらないってモレノ、お前さんの奥さんが側に着いているから」
「なるほどフランコの奥さんと、家のカミさん仲がいいからな。生まれたらパーティーを派手にやろうぜ」
 互いに抱き合い、二人は声を上げて笑った。

 了
ドリーム 

2020年04月16日(木)17時27分 公開
■この作品の著作権はドリームさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
敵対する二人がイカダでいがみあうながらも生きてゆくために協力するする。
二人の友情に至るまでの物語を書いて見ました。


この作品の感想をお寄せください。

2020年04月18日(土)10時01分 ドリーム  作者レス
どうも海山さん、いつもお世話になってます。
この小説はもう10年以上前に書いたものです。
舞台も登場人物も外国というものも初めて書きました。

レヴィアタンとは七つの海の守り神、ちょっと海に纏わる伝説を調べて書いて見ました。
特に意味があるものではありませんが(笑)
ありがとうございました。


pass
2020年04月17日(金)20時45分 海山三川  +20点
久しぶりにこちらを覗いたらドリームさんの作品が出ていたので読ませていただきました。
面白かったです。
ドリームさんはいろんなジャンルの作品を書いておられますが、こういうのもいいですね。
私も書いてみたくなりました。
15

pass
合計 1人 20点


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