黒い男は芥掃除をしてくれる
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   1 自殺しようとしたら殺し屋に会った

 夜の空に、紙切れが――著名な作家のダリム・リィーンが書かれた札が、何枚も何枚も舞っている。
 束が、少年の左手の中にある。少年の右手が一枚つかみ、その手からすぐに離れ、風にうねらされ、舞い踊り、ネオンが瞬く夜に落ちていく。
 少年の目に映るのは、誰かの生活の灯り。誰かをどこかに導くための灯り。誰かを娯楽に誘うための、笑顔を、媚を、振りまいているような灯り。
 少年はその明かりたちを睨みつけながら、小さく舌を打った。

「てめぇら、こいつが欲しいんだろ。なぁ?」

 彼は、夜景に向けてそう呟き、手にしていた紙束を吹きすさぶ風の中に投じた。
 束は、風にほどかれ散っていく。金が、夜空に散っていく。

 少年の顔に微笑が浮かぶ。唇がゆがんだ形につりあがり、喉から、くくくっ、と声を漏らす。
 つり上がり気味の目の、下まぶたで、涙が盛り上がっていく。少し目にかかる金髪を、手で引っ張り、いじくる。手で覆い隠すようになった瞳から、水滴が一筋の線を引いた。
 低く、喉を振るわせるだけだった笑い声が高くなっていく。やがて高い哄笑を上げ、顔を笑みで破裂させた。
「跪け貴様ら! アルド様の恵みの雨に感謝してひれ伏せ!」
 少年――アルドの叫びに応えたのは風の音だけだった。他に何も声は返ってこない。哄笑が、徐々に小さくなっていき、途切れた。

 あるマンションの屋上。その隅の、フェンスを越えた角に少年は立っている。一歩踏み出せば確実に命を手放してしまう場所に。
 少年は自分の足元へと視線を向けた。歩道に等間隔に外灯が並べられている。それらが突き出ているアスファルトの地面を少年は凝視する。

「死ぬって……やっぱ、痛てぇのかな……」

 迷うように眉間にしわを寄せ、とめどなく流れてくる涙を止めようと、歯を食いしばる。地面から少し視線を上げ、都会のビルの隙間からわずかに、遠く向こうに見える、一軒の豪奢な建物を睨みつける。
「糞親父……」
 顔がこわばる。こわばりを無理矢理、笑みに変える。
「どいつもこいつも糞だ。あいつもあいつもあいつもあいつも! ――へへっ。だから俺は、こんなくだらない世界を放棄するんだ。逃げるんじゃなくてな。俺が、捨ててやるんだ」
 服を捲り上げる。青黒く痛々しい痣のついた腹を、少年は手でさする。目を見開き、無理矢理の笑みを引きつらせ、笑い声を引きつらせる。
「――さぁ、もっとパーっといこうぜ。餞別だよてめぇら。くれてやるよ」
 足元に置いてある札束を詰め込んだ鞄に目をやる。調子はずれな笑い声をもらしながら、鞄から札束を取り出そうと屈みかけたときだった。
 扉の開く音がした。反射的な動きで少年は振り向く。困惑した表情で扉のほうを睨みつけた。
 扉を開けて出てきたのは男だった。
 男は闇に溶け込みそうな黒髪を風に遊ばせながら、後ろ手にドアを閉めた。彼はアルドに気づいたらしく、少年に視線を固定した。
 少年は息を呑んだ。汗が全身から噴出してきて、頬を伝い落ちていく。
 あの男には、自分が何をしているように見えるだろうか。自殺しようとしている姿にしか見えないだろう。ならばきっと彼は自分を止めるだろう。止められて生き残り、もしも父親にこのことが知られたら……――
 頭にそんな思考が渦巻いて、アルドは身を硬くする。
 男はしばらくの間、動かずにただアルドを見ていた。煙草をくわえている。だが、彼はおもむろにズボンのポケットに手を突っ込み、煙草のケースを取り出した。くわえていた煙草をその箱に収める。どうやら火はつけていなかったらしい。
 男に何か言われるかと思い、少年は身構えた。しかし――男は身体を翻し、ふただび扉を開こうとドアノブに手をかけた。
「なんか言えよテメー!」
 少年の叫びが夜の静寂に響いた。
 表情は夜の闇に塗り潰され判然としないが、何も動じていない風なゆっくりとした動きで、男はアルドの方に振り向いた。
「この状況見てわかんねーのか、止めるだろ普通!」
 男は何を言うでもなく、アルドに向けての数歩を足早に歩いた。アルドの前までやってくると、隔てているフェンスを荒々しく掴んだ。騒がしい音が屋上の静寂を切り裂く。
「なんか……って、なに?」
 男が口を開いた。低く響く、声だけで人を地獄に引き込めそうな黒い声だった。
「自殺するんだろ? 俺が何か言わなければならない理由が、どこにある?」
 フェンス越しに瞳を覗き込んできた男の瞳に、アルドは心を射殺されたように何も考えられなくなった。
 黒い男だった。
 肌はこの闇の中でも浮き上がるほどに白いのだが、アルドは目の前に立つそいつは黒い男だと思った。確かに髪の毛も身に着けているコートも、覗き込んでいる瞳も黒い。だがそれ以上に纏っている雰囲気が、底の見えない穴の暗がりのように、黒い、と感じた。
 体が震えた。ワケもなく首を振りながら、思わずフェンスから一歩後ずさりする。
「落ちるぞ。いいのか?」
「え……」
 言われて足元を見る。片方の足が半分宙に浮いていた。
「ひ……? あ、ああぁぁぁあああ!」
 あわてて前方にしゃがみこみ、フェンスにすがりつく。アルドの恐怖による震えと一緒に、フェンスがカシャカシャと音を立てる。
「なんだ。死にたくないんだな」
 少年は、はっとした表情で顔をあげた。フェンス越しに男の足元にへたり込んでいる。少年を見下ろしている男は無表情だった。目の前で少年が死に掛けた今の状況でも無表情だった。アルドは男の無表情を凝視して、表情を怒りに染めていく。
「……なんっ、だよ……っ!」
 目に涙が溢れてくる。かみ殺そうと歯を食いしばる。
「なんだよ……。なんだよ、てめぇも俺を馬鹿にすんのか! 自殺を止める価値もない同情する余地もない糞虫に見えるのか! 死ぬ勇気もないチキン野郎かっ! 俺は! 俺には……! 俺が、命令すればどいつもこいつも媚びへつらう! 女は笑顔で言い寄ってきて、男は進んで舎弟になる……俺にはそれほどのカリスマ性が! 力が、あっ…………――」
 かみ殺していた涙が、かみ殺せなくなった。涙は、かみ殺そうとするアルドを嘲笑うかのように頬を伝い落ちていく。
「…………あ、あ、った、のに。のに。あいつらが、悪い……んだ。暴……力で、なんて、そんで……あ、あん、あんな……写真…………」
 後は言葉にならず、嗚咽だけが夜の静寂を震わせた。黒い男は泣き続ける少年をただ無表情で見下ろしていたが、不意に口を開く。
「なにか、して欲しいことはあるか?」
 男の声に、少年は涙が次々溢れてくる目を見開いた。
「なんでもいい。して欲しいことがあるのなら、言ってみろ」
 男の無表情を凝視する。同時に頭の中に『あいつら』との記憶が走り出した。
 哄笑と罵りの渦。自分の血の飛沫。何度も襲い来る全身への暴力。
 二人の人間に両脇を拘束され、逃げることもままならず。正面の、薄く笑いを浮かべる男の拳に、いくつもの苦痛を植えつけられる。
 そうして立っていられなくなり、地面に転がされる。抗う意志も根こそぎ奪われた自分の下を、嬉しそうに楽しそうに脱がしていく、あいつら。
 シャッターを切る音。瞬くフラッシュ。不本意にも自分の恥部を記録された。
 下卑た笑い。嘲笑。見下した台詞とともに踏みつけられる踏みつけられる……――――
 思い出すと涙がにじんでくる。吐き気が込みあがってくる。体中につけられた痣が疼いてくる。心が絶望に支配されて強烈な怖気に襲われる。
 もしも、高貴で誇り高いはずの自分が、あんなゴミどもにいいように扱われていることが知れたら。もしもあの写真が母の目に触れたら。兄の目に触れたら。――父の目に触れたら。
 今まで以上に蔑んだ瞳で見られるだろう。それとも哀れみか、呆れか、同情か……。
 実際にそのときが来てしまったら……きっと自分は屈辱と羞恥で死んでしまう。
 そんな精神苦痛を強いられるくらいならば、先に死んだ方がマシだ。死ねば自分という意識は無くなり、恥も屈辱も関係ない。アルドはそう思った。そう思ってこの屋上に立っていた。しかし可能であるならば――
「あいつらを殺してくれって言ったら……してくれんの……?」
 可能であるならば。元凶であるあの三人を殺したい。
 あの三人を消し去ってしまえば何の問題もないのだ。そもそもなぜあいつらのために自分が死ななければならないのか……。
 そう理解してはいるが、アルドは自ら屈辱の生を放棄することしか、選択することができなかった。
「金さえ出せば、請け負ってもいい」
 黒い男が言った。
「…………は?」
 アルドは呆けた表情で聞き返した。フェンス越しにこちらを見下ろしている男は、おもむろにズボンのポケットからタバコを取り出した。
「金さえ出せば、俺がそいつらを殺してやると言ったんだ」
「は? …………」
 タバコを咥えて火をつける。アルドの瞳には、その灯されたほんの小さな火が、自分に対する希望の光に見えた。
「あんた……なにモンなんだよ。……殺し屋?」
「別に何者であるつもりもない。請け負うのは殺しに限るわけじゃない。金さえ出せば……出した奴の想いが本気なら……俺はそいつの何にでもなるつもりだ」
「は……」
 ――あいつらを。殺せる。
 少年は自分の足元に置いてある鞄に視線を向ける。中には札束が入っている。
 父親の金庫から抜き取ってきた金だった。今まで親から金を盗んだことはなかったが、罪悪感は特にない。腐るほどに有り余っているのだ。どんな形であれ、使ってやった方がいい。そう思い、昔から札束をばら撒いてみたいという願望を、死ぬ前に叶えてしまおうと考えた。
 だがその金をこの男に渡せば、死ぬという道以外が開けるのだろうか。自分を屈辱のどん底に突き落とし、人間の尊厳をむしりとったあいつらを亡き者にできるのだろうか……。
 アルドは眉間にしわを寄せ、玉の汗が浮かぶ額に手をやり、思案する。
「バカじゃねーの。殺し屋とか、そんなんそのへんにホイホイいるかよ」
 震える声を押し隠して、唇を嘲笑に歪めてみる。言ってみたが、自分の言葉を信じていなかった。この男が普通でないことは感じる。この黒い男が語るのは真実だと感じる。
「信じないならそれでいい。今からでもそこから飛べばいいし、帰って今までの日常を続けるのもいいだろう。信じた上で、そうするのもかまわない。お前がしたいようにすればいい」
 男は何の感情も篭らない瞳で、アルドを見下ろし続けている。
 この黒い男が一体何かはわからない。人間ですらない気がする。存在すらしていない気さえする。もしも男が、自分は地獄から赴いてきたのだと言えば、アルドは信じたかもしれない。それほどまでに得体が知れず、黒い空気を纏った男だ。
 ――どうする……? 俺は……どうしたいんだ……?
 アルドは男の顔を見上げた。傍らにある自分の鞄を見た。自分の後ろの、一歩踏み出せばこの世と決別できる場所を見た。もう一度男の顔を見た。震えがとまらなかった。
 男の得体の知れなさが、アルドの心に、恐れに近い感情を膨らませる。だが――後ろに一歩踏み出して、高所から落ちる自分。地面にたたきつけられた自分。ばらばらになって内臓や脳みそを撒き散らしている自分が脳裏を掠め、吐き気が込みあがってきた。
 ――死にたく、ねぇ……。
 生きていれば屈辱しかないと思った。だから死ぬことを選んだ。だが、死にたくはない。屈辱にまみれて生きるのも嫌だ。だが死にたくはない……。
 もう一度、金の入った鞄を見た。
 男が、タバコの煙を細く吐き出す。咥えて、吸う。先端の光が微かに強くなる。
 ――あの光は、希望だ。俺にとっての希望だ。
 どうでもいいのだ。騙されていようがなんだろうが。地獄から赴いてきた光だろうがなんだろうが。
 金ならここにある。腐るほどに有り余っている金が。ならば得体の知れない藁にすがってみるのも、ほんの小さな希望の光に頼ってみるのも、悪くはない。自分は命を捨てるつもりだったのだから。
 金の価値を知っている生物は、すべて金で動くのだ。動かせるのだ。金は力で、俺はその力を持っている……。
 少年は曖昧な思考の中で結論をだした。そうして、自分の憎む相手の死に顔を浮かべながら、静かに笑みを浮かべた。
「わかった。じゃあ、やってみろよ」


   2 どこもかしこもクズばかり


 ノックの音がして目を覚ました。
 まずは、とんとん、と、遠慮がちに。続いて、どんどん、と少し乱暴に。
 この音は自分を呼んでいるものだと知りながら少年は柔らかい枕に頭を預けたまま、ぼんやりと天井を見つめた。
「アルド。アルドッ。起きてる? 居るの?」
 扉の外からの少女の声にアルドは反応を示さず、ゆっくりとまた目を閉じる。昨夜の出来事が今の現実とつながっているのかを確認するかのように。
「アルド?」
 もう一度少年の名をつぶやいて、一瞬諦めたようにノックの音が止まった。途端、今度は焦りの含まれたノックの音が再開される。少女は何度も少年の名を呼んだ。
 アルドは体を起こしてドアの方に視線を向けた。おとなしい彼女にしては珍しい行動だと少しだけ目を見張る。
「ああ。起きてるよ」
 返事を返すとノックの音がぴたりと止まった。ドア越しに安堵する声が聞こえた。
「……よかった」
 アルドは頭をかきまわし、ベッドを降りる。
 部屋に置かれた、大型のテレビにつながれている最新のゲーム機。そのコントローラーが無造作に床に転がっており、アルドはそれを跨いでドアの方に行く。鍵を開けて、ドアを開いた。
「なに? こんな朝っぱらから何の用?」
 ドアを開いた向こうには、アルドの幼馴染のユナが、大きな蒼い瞳をおどおどとさまよわせていた。
 右手で癖のある金髪のショートカットを意味もなく撫で付けながら、左手で白いワンピースの胸元をつかみながら、か細い声で話し出した。
「あ、あ……。あの、アルドの部屋、昨夜、電気……全然点かなかったから……もしかしたら帰ってきてないんじゃないか……って。心配になって……」
 アルドはユナに聞かせるように大きく舌打ちした。
 ユナとアルドの家は隣り合っている。しかし、アルドの家の庭は広く、建物自体の距離は開いている。とはいえ、ユナの部屋の窓と、アルドの部屋の窓は向かい合っており、お互い、部屋にいるかいないかくらいは筒抜けになっていた。
「鬱陶しいって、俺のプライベートに干渉すんなって、いつも言ってんだろ、ああ? 大きなお世話なんだよ。でなんだよ、今日なんてわざわざこんな上がりこんできて。上げたの兄貴? ったく、余計なんだよふざけんな」
「で、でも……アルド最近、様子変だったから……――」
 彼女はさらに何か言いかけて、躊躇った表情で口を閉じた。おそらくは『あの怪我とか……』とでも言いたかったに違いないと、アルドは顔をしかめて何度も舌打ちをしながら階下に向かって歩き出した。
 例の三人組にリンチされたあの日、彼女にはボロボロになった姿を見られた。階段から転げ落ちたのだと言い張ったが、信用しなかったのか彼女は以来、もともとの心配性に拍車がかかり、アルドの神経を逆なでしていた。
 アルドが階下に下りると、兄のキリルが食卓に座っている。こちらに気づいて、読んでいた新聞をたたむ。
「おはよう、アルド。今日は朝飯、ユナがつくってくれたぞ。今日くらいはちゃんと食ってけ」
 兄の柔和な表情に苛立ちが増した。
 父の会社を継ぐという将来が約束されたからできる、余裕のある微笑み。アルドには兄の笑みが、そう見える。
「いらねぇ」
 そう返事をして、アルドは洗面所の方に足を向ける。戸惑った表情の少女――ユナが動いたわけでもないのに「ついてくるなよ!」と噛みつく。
 キッチンの方からパタパタと足音がする。
「アルド坊ちゃま、起きられたんですか! 今日こそは朝食をお食べになってもらわないと! ユナさんの愛のこもった目玉焼きと――」
 扉を乱暴に閉め、中年のメイドがまくし立てる声を黙らせる。
 洗面所で鏡に向かい、歯磨きをする。自分の歯に苛立ちをぶつけるように、強い力で歯ブラシをこすりつける。
 キリルは五つ年上の兄だ。学校での成績は上の下程度だが、昔から、頭の回転が良く、唐突なトラブルの対処などに素早く対応できる人間だった。
 そんなキリルは、長男であるからか、その対応力が見込まれているからか、一代で大きな富を築いた父の会社の跡取りになることが決定されている。
 一方、来年、ハイスクールへと進学するアルドが、父に将来についての話をすると、父は「おまえの好きにすればいい」と言った。
 アルドはその投げやりのような返事にショックを受け、以来、父にも母にも将来の話はしたことがない。特に進みたい道がないアルドは、さして難しくも簡単でもないハイスクールの受験を決めた、と報告するだけだった。
 兄は愛されているから、父の跡を継げる。自分は愛されていないから、適当にあしらわれる。
「ああ、好きにしてやるよ」
 小さくつぶやき、強い力で擦って洗顔する。強い力で顔を拭く。


    * * * *


 外に出ると秋の冷たい風が頬を撫でる。
 マフラーを持ってこなかったことを少し後悔し、しかし、家に取りに戻る気にもなれずにそのまま歩いた。
 さらに強い風が吹いて、首元から寒気が全身に広がって身震いする。
 途端、フラッシュバックする。
 奴らに服を脱がされ、屈辱的なポーズを取らされた。羞恥と屈辱で体が火照っているのに、極寒にいるように体が震え続けていた。
 唇を噛む。涙がにじんでくる。歩く足が止まりそうになる。
 学校に行きたくはない。だが、休めば家族に不審がられる。
 あんな無様を、羞恥を、与えられているなどと、家族に知れたら自分は本当に生きている価値を失う。そうアルドは考える。
 学校に向かわず、サボることも考えたが、それがバレたら父はどんな顔をするのだろうかと思うと、耐えられない。
 厳しく叱られるどころか、蔑んだ瞳で見られるところが想像でき、想像だけで屈辱感に襲われる。
 母は、父の優秀な秘書で忙しく、家にいることがほとんどない。
 家にいる時は、抱きしめて、愛してくれはするが、怒ることがない。
 母の教育方針は『褒めて伸ばす』。
 それを知った時、今まで褒めてくれていたことは、本当の称賛ではなく、そう言う教育方針だから褒めていたのだ、とアルドは考え、以来、母には不信感をつのらせている。
 後ろから駆け足の音がした。近づいてきて、それはアルドの前に回ってくる。ユナだった。
 息を切らせた彼女は、いきなりアルドの手を取り、何かを握らせた。
「アルド、家、出たの気づかなかった。なんにも、食べたり……飲んだりして、なかったから……。これ」
 チラリとだけ、アルドは握らされたものを見た。今流行りの、おいしく栄養が取れる健康飲料だった。それをそのまま、つき返す。無言でユナの横を通り過ぎ、歩き続ける。
 ユナがその後をついてくる。
「アルド……」
「うるせぇ!」
 怒鳴ると、彼女は足を止めた。
 アルドはそのまま歩きづつけていたが、ユナは駆け足でアルドを追い越し、そのまま見えなくなった。
 もしかして、泣かせただろうか……。
 一瞬そんな考えがよぎったが、そう考えるとさらに苛立ちが増した。
「どうでもいい!」
 声に出した。前髪を手でかき乱す。自分が泣きそうなのに、他の人間が泣きそうなことなんてどうでもいい。
「なにがどーでもいいのかなー?」
 肩に、重みがのしかかった。驚いたが、すぐにその声で重みの正体を察する。しかしその正体を確かめたくなかった。
「朝っぱらから女といちゃいちゃして、調子にのってんじゃねぇよぉお?」
 少し離れたところから、もう一人の声がした。
 あいつらだ。あいつらに見られた。
 肩に絡みつく男は、髪を青く染めており、耳にピアスをいくつも付けている。
 少し後ろから声をかけた男は、スポーツ刈りで、一見気の抜けたたれ目をしている。だがその瞳には常に嘲笑を湛えている。
 そして、そのさらに後ろにいる、パーマのかかった長髪の男。
 三人の中のリーダーの男だ。
 アルドには、後ろの男が見えないのに、そこにいるという確信があり、その確信だけで、威圧を感じた。
 長髪の男の、低く落ち着いた――しかし、蔑みを含んだ声がする。
「女を邪険に払う余裕があるってことは、おまえはまだ懲りずに自分がすべてに恵まれてると思っているのか」
 心臓をわしづかみにされ、つぶされたと錯覚するほどに、胸の奥が痛くなる。
「おまえの周りにいるやつは、おまえのばら撒く金目当てで集まってるに過ぎないことを、早く認識するんだな」
 アルドの肩に絡まっていた腕が離れる。そうしてアルドの耳元に唇を寄せ「認識するんだな!」と大声を出す。
 それに怯んだアルドを見て、青髪の男とたれ目の男は文字通り腹を抱えて大笑いした。
 その二人を、アルドは涙の出そうな瞳でにらみつけた。それを見て、二人はさらに大笑いする。
「あらやだ、こわいー」
「見ろ、ザン! 涙目! こいつ涙目!」
 長髪の男――ザンは、無表情にアルドと大笑いする二人を眺める。
 そうして、小さく呟く。
「……貧乏のくせに」
 二人の大笑いがぴたりと止まる。彼らの表情にはニヤニヤ笑いだけが残った。
 ザンは、足早にアルドの前に近づく。そしてそのままの勢いで、右手でアルドの首を絞めた。
「今、そう思ったな? だが下劣なのはどちらだ。その優劣をなぜ金のあるなしで決められる? お前は、ただ運よく金持ちの家に生まれただけの、ただの下等生物だ」
 ザンはアルドの首から手を離した。息ができなかったのは数秒にも満たなかったが、アルドは激しく咳き込み、涙を流した。
 ザンはそのまま何事もなかったかのようにアルドとすれ違い、歩いていく。
「へ……へへへへへっ……」
 突然笑い出したアルドの声に、ザンが振り返る。後の二人も奇妙な物を見るような戸惑った顔をする。
「うわっ、キモっ! なんか笑ってるぞ」
「ザン、ちょっとやり過ぎなんじゃね? こいつ壊れたぞ」
 二人はそう言ったが、ザンの顔は無表情だった。
「何か言いたいことがあるのか? 下等生物」
 アルドはへらへら笑ったまま、口を開く。
「おまえらもうすぐ死ぬから」
 ザンは無表情だったが、青髪とたれ目の二人はぽかんと口を開けた。
 そしてゲラゲラと大笑いする。
「負け惜しみにしてもよぉ! おこちゃますぎるだろ!」
「ウナズキサマにでも頼んだか? おお怖い!」
 子どもがやる、霊を自分の味方につけるおまじないの名前が、明らかにバカにする形で出てきた。
「殺せるもんなら殺してみろよ、ボクちゃん」
 たれ目がそう言い、青髪がまた大笑いする。ザンも、唇に嘲笑を浮かべ、三人は去っていく。
 アルドはその場に立ち尽くした。へらへらとした笑いが止まらなかった。寒風がアルドを斬りつけるかのように走っていく。へらへらとした笑いは止まらないのに、大粒の涙が頬を伝っていく。
 その涙が通る道が、さらに寒風の冷たさを増す。
 ――本当に、あの男は奴らを殺してくれるのか。
 ザンたちに、ああは言ったが、アルド自身信じ切れていない。
 アルドは昨夜の出来事を思い出して、微かな希望と、大きな疑念を胸につのらせる。
 ――本当だったのなら、いつ? 今日か? 明日か?
 ――もしも嘘だったら、探し出して殺してやる。 
 それができれば元々の問題自体を自分で解決できる――わかっていながらそんなことを考える。
 昨夜のあの場所の雰囲気は――あの男の雰囲気は奇妙だった。
 無条件であの男が本物だと感じた。だが今、冷静に考えてみればそんなことが現実で起こるのか、と疑問に思う。
 しかし今は、昨夜の出来事が本当であることを願うしかない。
 動かしたくない足を、引きずるように動かして学校に向かう。
 校門付近で、友達同士なのか、きゃあきゃあと騒ぎながら通学する女子生徒たちがいた。
 アルドの目には、頭がからっぽの馬鹿どもに見えた。
 校内に入り、廊下で似たように騒いでいる生徒たちを見て、馬鹿どもが、と誰も聞こえない小さな小さな声で、呟く。
 教室に入ると皆が振り向き、アルドに朝の挨拶をかけてくる。
「アルド! 今日はカラオケ大会するんだろ? 人数集めといたぞ」
 いつもの遊びの計画。いつも金はすべてアルドが払う。ザンの言う通り、だから皆が集まる。
 ザンたちは、自分の稼いだものではない金を使って調子にのるアルドが気に入らなかった。だからアルドに暴行した。
 二度と調子にのらないように。
 ここで、皆の集まりに金を大盤振る舞いすれば、また暴行される。あるいはあの写真をばら撒かれる。
 笑顔で話しかけてきたクラスメートに、いつもの笑顔ができなかったアルドは、顔が引きつるのを懸念して俯き「風邪ひいたみたいで今日は行けない」と体調が悪いフリをする。
 すると、クラスメートの顔は、笑顔になる魔法がかけられていて、瞬時に解けてしまったように、無表情に変わった。
「なんだよ、昨日も行かなかったじゃん。ま、しょーがねぇよな」
 そう言ってアルドの側を離れていく。体調が悪いと言うアルド自身の心配を一切せずに。
 彼らの目的は自分と仲良くすることが目的ではない。
 そんなことは初めから知っているのに、涙が出そうになる。
 涙を誰にも見られないように、俯きながら席につく。
 昔から人と友達になる術がわからなかった。一人でいるのは惨めで恥ずかしくて、寂しかった。
 しかし気づいた。人は、物につられてよってくるのだと。
 楽しいおもちゃがあれば、それ目当てで家に遊びに来てくれるのだと。
 自分が好かれているわけではない。そんなことは初めから知っていた。遊びに来た相手は、アルドのことを『すげーすげー』と言いながら、アルドを相手にせず、オモチャにしか関心を寄せなかったから。
 それでも、独りでいるよりはましだった。だからずっとそうやって《友達》を作ってきた。
 知っていた。それなのに、わざわざザンにそれを突きつけられた。
 屈辱的なポーズでの恥部を撮影されたのと同じくらいに、屈辱的だった。
 考えたくないのに、様々なことが頭をよぎる。また涙が出そうになる。
 アルドは机に突っ伏して、寝たふりをして顔を隠した。
 「馬鹿どもが……馬鹿どもが……」
  金によって来た《友達》達を、誰にも聞こえない声で、罵倒する。
 そうしないと、彼らが取るに足らない存在だと貶めなければ、自分には金を出すことしか価値がないと思われている――それを直視するのは耐えられなかったから。


 後日のホームルームで、青髪の男が自宅マンションの屋上から飛び降り自殺した、ということが報告された。


   3 勝ちは勝ちだ


「ほらな。死んだろ?」
 後ろから声をかけられ、ザンとたれ目の男は振り返った。
 生徒が死んだという報告を受けた次の日の昼休み。学校の廊下は、いつもよりも少し活気がない。そんなことは関係ないとばかりの会話も聞こえるが、その中には、生徒の死の真相を推測するような噂話も混じっている。
 振り返ったザンは、自分に声をかけたアルドを睨みつけた。たれ目の男も、たれた目を半眼にしている。
「死ぬって言ったじゃん? 今度は、たれ目の腰ぎんちゃくの番だな」
「腰ぎんちゃく? 誰の話だ? 何の話だ? ああ?!」
 たれ目の男がアルドに詰め寄る。アルドは少しも動じずに薄ら笑いを浮かべた。
「あれ? たれ目の腰ぎんちゃくってお前しかいないだろ? 自分の立ち位置を理解してないバカなのかな?」
「俺とザンはダチだ、バカにすんな! そんで、ライもダチだ! ダチなんだよ! おまえ、あいつが死んだこと、バカにしてるだろ!」
 たれ目の目にうっすらと涙がにじんでいた。それを見て、アルドの顔には、薄ら笑いではない、ハッキリと嘲笑だとわかる笑顔が浮かぶ。
「『バカにしてるだろ』って言う方が、バカにされる心当たりがあるってことで、おまえがそいつのことバカにしてるんだよ」
「はぁぁあ? なにわけわかんねぇ屁理屈言ってんだぁあ?」
 たれ目がアルドの胸ぐらをつかもうとして、動きを止めた。
「やめろ」
 ザンがたれ目の肩を掴んでいた。たれ目はハッとしたらしく、周りを見渡した。休憩時間の廊下。学校の生徒が死んだということで、元々薄暗い雰囲気があった廊下は、三人の騒ぎのせいでさらに重い空気に包まれている。
 注目の的になっていると気づいたたれ目は、声を飲み込むように唇を噛む。
「おまえが」
 ザンがアルドの前に一歩出る。
「ライのことを侮辱するのなら、おまえのあの写真をばら撒いてもいいんだぞ」
 ザンはアルドを睨みつけながら言う。それに対してアルドは、動じていない風な笑みを浮かべた。
「一週間後」
「何?」
「一週間後、来週の火曜日。たれ目の腰ぎんちゃくは死ぬ」
 アルドの、嘲笑に歪んだ唇から発された言葉に、ザンは眉をひそめた。
「はぁぁあああ?」
 たれ目が調子の外れた声を上げる。
「何バカなこと言ってんだ。俺がライの後追い自殺でもするってか。あいつは親友だけど、だからって俺が一緒にあの世へ行くことなんて願うやつじゃ――」
「俺、予言したよな? お前らもうすぐ死ぬって」
「んなもん、偶然に決まって――」
「あの写真、月曜までに破棄しなければ、火曜日にたれ目は死ぬ。おまえ言ってたじゃん? いや、青い髪のやつの方だったっけ? どっちでもいいけど、ウナヅキサマの話。当たりだよ。俺がウナヅキサマに頼んだんだ。おまえら三人を殺してくださいって」
 アルドの表情に浮かぶものが、嘲笑から殺意に変わる。
「いやぁ、金を使ってありとあらゆるものを調べたよ。そしたら本当に効果があるんだ。びっくりだよ。ウナヅキサマに頼んだのそのままの死に方だったのも驚きだ。うん、だから、たれ目の死に方も予言できるぜ? 首つり。ぐちゃぐちゃに失禁してぶらぶらぶら下がるわけだ」
「だーから! 俺が自殺なんてするわけねぇ!」
 再び激高したたれ目の腕をザンが掴む。
「落ち着けマッド。こんな奴の挑発に乗るな」
「でもよ!」
「俺たちはこいつを社会的に殺せる手段を持っている。こんな、嘘が確定事項の挑発に乗るより、嘘だと判明したとき、こいつの恥部を世間にさらすことを考えないか?」
「お……お、おう」
 ザンとマッドは、アルドに背中を向けアルドから離れていく。
 不意にザンが振り返り、「俺たちを侮辱したこと、社会的に死んで後悔するといい」そう低い声で言い、立ち去る。
 アルドの顔は引きつっている。背中に汗をかいているのを感じる。
 いつもユナに暴言を吐いているが、あれは鬱陶しいのを払うためにしていること。こんなにも積極的に、自分から、人を侮辱したことは初めてだった。
 しかし、これを奴らに言わなければ《呪い》は発動しない。
 緊張を解いて大きくため息を吐く。
 アルドは自分の教室に足を向けながら思う。
 ――まぁ、ウナヅキサマ”は”嘘なんだけどな。
 呪い。それは死ぬことだけではない。生きているうちに、奴らには――特にリーダーのザンには、死の恐怖を与えてやりたい。
 アルドは、自分の席に座って、教室の少し重い空気を感じる。
 この空気は、あの青髪が死んだ故の空気だと思うと、勝利の空気だと感じて、少し笑みがこぼれる。
 アルドは昨日の夜のことを思い出す。


    ■□ ■□


 学校で青髪の男――ライの死が報告された夜。アルドは自らが死を選ぼうとした場所に、再び足を向けた。
 男は屋上の柵に背を預けて、地面に直接座っていた。夜の寒気に白い息を吐きながら、煙草の煙を吐き出していた。
 男はやはり、夜の闇にまぎれるような黒いコートを羽織っていたが、煙草の先端の光が、彼がその場にいると示す灯台の明かりのように見えた。
 なぜこんな寒い夜に屋上にいるのか。アルドが来るうまいタイミングでいるのか。それを少し疑問に思ったが、そんなことは些細なことだった。
 アルドにとって、暗闇に浮かぶ光は、希望の光に見えた。
「すげぇよあんた。あいつ、マジで死にやがった」
 男はこちらをちらりと見た。煙草を深く吸って、吐き出す。
「ああ」
 そっけない返事だったが、それでアルドは、ライの死が彼によってもたらされたものだということを実感する。
 アルドの瞳は、憧れの人を目の前にしたように、子どもが好きなおもちゃを与えられたように――しかしどこか屈折した光を宿した。
「なぁ、じゃあさ、俺の指定したタイミングで、次を殺してくれるなんてこと、してもらえちゃったりしねぇかな」
 男は煙草を携帯灰皿におさめ、アルドの瞳を覗き込んだ。
「日付くらいならば可能だ」
 なぜだとは問われない。しかし、アルドは高揚した表情で、語りだす。
「それなら、俺は死の預言者になれる。いや、ウナズキサマだ。これはウナズキサマの呪いなんだ。俺が、ウナズキサマを操って、死を自在にする能力を手に入れた。そういうことなんだよ。なぁ? ウナズキサマ?」
 アルドは笑顔で男の顔を見た。男はアルドの言う意味がよくわからなかったようで、首をかしげた。
「意味わかんなかったらいいよそれで。あんたが俺の指定した日にあいつらを殺してくれたらそれでいい。植え付けてやるんだ、あいつらに、もうすぐ死ぬって恐怖を」
 アルドは腕を広げて夜空を見た。都会の建物の明かりのせいか、星はほとんど見えない。しかし、アルドの目には、希望が瞬いて煌いている星空に見えた。
「さらに殺し方も指定できたら、よりそれっぽくていいんだけどな?」
「死んでいることを世間に晒す前提の殺し方なら、そんなにバリエーション豊かにとは言えないが、可能な範囲でなら指定してくれてかまわない」
「ははっ。世間に晒す前提の殺し方ってなんだよ。世間に晒せない殺し方があるのかよ」
 アルドは軽く笑った。しかし男の瞳は少しも笑っておらず、本気で言っているとしか思えない表情で、答えた。
「生きたまま拷問したり、首を切ったり、内臓を引きずりだしたり――その人間の心の汚さを象徴する場所を取り除いて殺す。そう言う場合、世間に晒すことはせずに――」
「あああ! わかった。しないから。そんな気色悪いことしないからいいよそれ以上言わなくて」
 アルドの背中に怖気が走った。そうだ、こいつは本物だったんだ、と改めて実感する。
 一瞬、こんな奴に関わるのは危険なのではないか? ということが頭をよぎる。しかし、本物だ。本当に、奴らを殺してくれる存在なのだ。
 そう考えると、怖気を感じつつも、その怖気が高揚にも感じてくる。唇に、笑みが浮かぶ。
「じゃ、時間と殺し方を指定するってことで、頼むな。うまくやってくれよ」
「ああ」
 男は無表情で頷いた。


    ■□ ■□


 アルドは頭の中で、回想を終え、さらに顔に笑みを浮かべる。
 その笑みを周りの生徒に見られないように、机に顔を失せて寝たふりをする。
 その笑みは、勝利の喜びに似ていた。
 自分の考えたプランで奴らが死ぬ。それは、まぎれもない勝利だと感じる。
 伏せた顔をニヤつかせていたが、ふと、顔が凍る。
 ――その勝利はお前の力か?
 ザンの顔が思い浮かび、そんな言葉を発して消えた。
「うるさい。勝ちは勝ちだ」
 誰も聞こえない小さな声量で、アルドは自分で理解しているそのことを、全力で無視をした。


   4 運命の出会いだと思えた


 ――あいつらが死ぬまで、あと数日だ。
 アルドの機嫌はよかった。
 放課後は《友人》たちと遊ぶ。もちろんかかる費用はアルドがすべて払った。
 《友人》たちは、にこにこと機嫌よさそうにアルドに話しかける。
「アルド、最近付き合い悪かったけど、フトッパラじゃん。調子悪いみたいなこと言ってたけど、元気になってくれて嬉しいよ」
 アルドは落ち着いた笑顔でその言葉を受ける。
 落ち着いていた。ザンたちに怯えていた日々と比べものにならないくらい、晴れやかな気分だった。
 別にザンたちは、アルドが死の予言をした日まで写真をばらまくことを自粛する、とは言ってはいない。
 しかし、アルドはもうなにも怖くなかった。そうと自覚のないまま調子に乗っていた。
 ザンたちに死を宣告してから三日がたった土曜日だった。皆を集めての遊びに、知らない女が混じっているのに気づいたのは。
 皆が騒ぐカラオケでのこと。
 その女は一人、何も歌うことなく静かに座っていた。
 ――こんな女、見たことねぇな。
 アルドはそう思いながらその女に視線を向けた。
 とはいえ、知らない人間がこの集まりに混じっているのは、それほど珍しいことではない。誰々ちゃんの、あるいは誰々君の友達とやらが勝手に混じっているのはよくあることだった。
 陽気な歌が熱唱される中、女は歌っている男をつまらなそうに見ていた。
 しかし、女は不意にアルドの方へと目を向ける。
 目が合って、アルドの心臓が高く鼓動を打った。
 美しい黒髪を肩まで伸ばした、少し冷たい雰囲気のある女だった。
 美人には違いないが、驚くほどと言うわけでもない。
 しかしアルドは、アルドの金で、金の心配なく遊びに没頭できるこの集まりで、こんな冷めた瞳をした人間を初めて見たのだ。
 友人に無理矢理連れて来られたのだろうか。
 ――あの女は、俺の金目当てでここにいるわけじゃないんだ……。
 そう思うと、アルドはその女から目を離せなくなる。
 彼女の方もアルドを見つめてくる。アルドはますます体を高揚させ、彼女を見ていられなくなって結局、目をそらした。
 皆が集まっている間、アルドは女と話すことはできなかった。しかし集まりが解散になったあと、女の方から話しかけてきた。
「主催者のクセに君、あんまり騒いでなかったね」
 そろそろ帰らないと補導されてもおかしくない時間の、マフラーも手袋も、しっかりと防寒していないと震えるような寒い夜。
 そんな冬の空気の中で、アルドは体が熱くなって手袋の中の手にじわりと汗をかいていた。
「あ、あ……っ」
 今では人と普通に接することができるアルドだが、もともと人見知りでコミュニケーションが苦手だった。
 だから、こんな不意打ちで声をかけられ、動揺したアルドの口から滑るように言葉が出た。
「あんたばっかり見てたから」
 言って、顔中汗だらけになった。俺は何を口走っているんだ! 下心丸出しのナンパ野郎か!
 アルドの言葉に彼女はきょとんとしている。
 背中に汗がつたって、アルドは本気でこの場から逃げ出そうかと考えた時だった。
 女は大きな声を出して笑った。第一印象の大人しいイメージとかけ離れた、豪快な笑い方だった。
 ワイワイと話しながら帰りかけていた者たちが、女の大笑いの声に振り向く。彼らはアルドに聞こえないほどの声量で「誰あれ?」「さぁ?」と会話して、再び帰路につく。
「いや、笑って悪かった。こんな人数誘って豪遊する金持ちの坊ちゃんなら、もっと対人関係スマートにこなすのかと思ったら、第一声がそれで顔真っ赤にするって……ははっ。いや、ごめん。意外とウブっぽくて」
「う……ウブって十分バカにしてるように聞こえる」
「え? じゃあ、今のは口が滑ったとかじゃなくて、冷静な口説き文句?」
 アルドは思わずフルフルと頭を振った。
 確かに金目当てで寄ってくる女もいる。付き合ったこともあるにはある。
 しかし、付き合った女を特別扱いして金を貢ぐようなことがなかった。
 というより、特別扱いの仕方がわからなかった。だからすぐに別れるようになり、「アイツとは《友達》の方が得」とでも噂が広がったのか、アルドと付き合おうとする女はいなくなった。
 そんな経緯だったから、アルドは反射的に首を振ったが、これは女慣れしていることを否定した方が誠実に見えるのか、肯定した方が男としてカッコいいのかどっちだ? ということが頭をよぎった。
「今日は付き合いで来たんだけどさ、その子は用事ができて先に帰っちゃってさ。正直、金持ちの坊ちゃんなんて嫌な奴と思ってて、そんな集まりきっとつまんないと思ってて、実際、みんなのテンションについて行けない集まりだったんだけど、君はそんなに嫌なヤツじゃなさそうだね」
 ――嫌なヤツじゃなさそう。
 アルドはその言葉を頭の中で反芻する。
 ――金持ちの坊ちゃんは嫌なヤツって印象があるのに、俺は嫌なヤツじゃなさそう……。
 ――だから彼女はカラオケの時、あんなにつまらなそうだったのに、今、俺の前で笑ってるんだ。
 そう思うと、アルドはホッと気持ちが緩むような、さらに緊張するような、奇妙な感覚に陥る。
「あたし、ミナ。まぁ、この集まりには多分もう来ないと思うけど、またどこかで縁があったら、お茶でもしようよね」
 彼女は微笑を湛えて手を振り、アルドに背を向けた。
「あ」
 アルドの口から彼女を引き留めようと、か細い声が出たが彼女は気づかずに行ってしまう。
「うわ、だせぇ……」
 手袋をつけた手で、火照った顔を覆う。手袋の暖かさと、火照った頬の熱でさらに熱くなって、ジワリと汗をかく。
 自分はおそらく周りからチャラチャラ遊んでいるように見えるだろう。そんな風にチャラチャラしているくせに、気になる女一人を引き留めることもできない。
 子どもの頃からのコミュニケーション能力の低さは、多少はまともになってきていると思っていたが、結局何も変わっていない――とアルドは自分で自分に落胆する。
 顔から手を離して、帰路を歩く。
 星の見えない空を仰ぐと、冷たいものが顔に降ってきた。
 火照った体に、雪が心地よかった。
 ――どこかで縁があったら、お茶でもしようよね。
 彼女の言葉――あれは、本気で言ってくれたのだろうか。
 また会えたら、親しくなれるだろうか。
 アルドは気持ちを温かくして、冬の寒空の下を歩く。
 そんな心地いい気分の中、家が見えてくると、アルドの気持ちはしぼんでいった。
 父の書斎の明かりがついている。父が帰ってきているのだ。
 舌打ちして、苦虫を噛み潰したような顔をして、本当に虫を噛み潰したように意味なく唾を地面に吐いた。
 その表情のまま、仕方ないという風に玄関まで歩みを進め、扉を開く。
 廊下の奥からバタバタと足音が聞こえた。忙しないその足音を聞いてアルドはうんざりする。
「アルド坊ちゃま、おかえりなさいませ! そしていま何時だとお思いですか補導される時間までに帰ってくればいいというものではないんですよ最近控えてくださっていると思っていたらまた毎日遊び歩いて!」
 息継ぎもしないでまくし立てる家政婦に「ハイハイ」とアルドは適当な返事を返す。
「その返事は全然話を聞いてくださっていませんね? アルド坊ちゃま!」
 怒りの声を無視してアルドは父の書斎のドアを開く。書き物机に向かう父の後ろ姿が見えた。静かにドアを閉める。
「アルドか」
 父の声にアルドは返事をしない。
「急だがな、明日は母さんも一緒に早く帰れそうだ。キリルも一緒に四人で飯を食いに行こう。今日みたいに遅くなるなよ」
 振り向かないままで話す父に、アルドは返事をしない。
「どこに行く? お前の行きたいところにしていいぞ」
「食いに行く? 滅多に帰ってこねぇで、たまに帰ってきたときも飯も作らねぇ、ってそれ、母親じゃねぇよな」
 父は椅子を回してアルドの方を向いた。少し顔をしかめ、訝し気にアルドの顔を見ている。
「どうしたアルド? 文句があるならはっきりと言え」
 アルドは半眼で父を睨んだ後、無言で部屋を出ていき、大きな音を立てて扉を閉めた。
 廊下に出たすぐそこに、家政婦がいた。どうやら父のためにお茶を持ってきたようだが、おそらく今の会話を聞かれていただろう。
 アルドは家政婦を一瞬睨み、二階の階段へ向かう。
 すると、二階からユナが降りてきた。手に参考書らしき本を持っている。
「あ、アルドおかえり。キリルに参考書のお古、貰ってたんだ」
 聞いてもいないことを話すユナに苛立ち、無言ですれ違う。
 自室に入り、大きな音を立ててドアを閉めた。


    * * * *


「アルド、今日も機嫌悪いですね」
 ユナは家政婦のぺギムに話しかけた。ぺギムは目を和やかに細める。
「きっと、アルド坊ちゃま、お帰りなさいの一言でも言いたかったんでしょうねぇ。旦那様の書斎に行ったんですよ。そうしたら旦那様が明日家族で外に食べに行こうって言ったんですよ。それを聞いてアルド坊ちゃま、ご飯を作らないのは母親じゃないって言って……」
 ユナは少し顔を曇らせる。
「ああ、お母さんのご飯が食べたいんですね。やっぱりお母さん、仕事で忙しいの寂しいんだ。でも素直じゃないから言えなくて……」
「ひねくれてしまっていますが、可愛いものです」
 ぺギムの言葉に、ユナは苦笑交じりに微笑んだ。
「そうですね」
 その可愛さがとても愛おしいというように。


   5 ミナちゃん


 通学路を歩くアルドは、そわそわと落ち着きがなかった。
 昨夜、父が帰ってきて対面し、機嫌を悪くしたアルドだったが、その夜見た夢で例の女性――ミナが出てきた。
 特別何をしたわけではなかったが、彼女は微笑みを湛えながら静かに側にいてくれた。そんな夢に、アルドは心の落ち着きを得た。
 そうして、もしも、バッタリ会えたら。
 バッタリ会えて、あの『また会えたらお茶しよう』と言う言葉が本当だったら。
 そんなことを考えながら家を出ると、肩まで伸ばした綺麗な黒髪の女性とすれ違うたびにドキリとしてしまうようになっていた。
 そんな期待は叶うことなく学校についてしまい、アルドはほんの少しとは言え落胆している自分に気づき「いや、どんだけ偶然に期待してんだ俺」と小声で呟き首を振る。
 その日の学校でも遊びに誘われたが、なんとなく断り、誰と話すでもなくぼーっとした休み時間を過ごした。遊びの話以外、誰も話しかけてこなかったがそれが気にならなかった。
 なぜ遊びの誘いを断ったのかと自問すると、もしもミナに再会してお茶に行くことになったら……と自分は考えていたのではないか。
 そのチャンスができるとすれば、皆と遊びに行っていない時だと考えてのこと……と気づくと恥ずかしくなる。彼女とは数分の会話しかしていないのに、なぜこんなに彼女のことばかり考えているのか。
 自分でも自分がバカなのではないか、とアルドは思う。
 学校が終わり、一応《友人》達に挨拶しながら教室を出る。
 校門を出たところで「あっ! 君!」という声が聞こえた。
 自分のことではないだろうと思ってそのまま歩き続ける。
「君だよ君! お金持ちで遊びまわってるけどちょっとウブな男子!」
「は!?」
 頓狂な声を上げてアルドは振り返る。そこには微笑を湛えたミナが、こちらに走り寄ってくるという光景があった。
「あたしの顔、憶えてるよね? 昨日の今日だし、忘れたなんて言ったら怒るよ?」
 アルドが呆然としてるからなのか、ミナはそんなことを言う。
「あ、うん。昨日……来てた、ミナ……ちゃん」
 アルドは赤面しながら呼び捨てでいいのか、敬称をつければいいのか迷ってそう口にした。しかし、『ちゃん』の方が呼び捨てよりも、より馴れ馴れしいのではないかと、言った瞬間後悔する。
「そう。正解。名前、憶えててくれたんだ」
 しかしミナの笑顔は崩れなかった。彼女の笑顔にアルドは安堵するとともに、胸が締め付けられているのを感じた。
「君がここの学校ってことは知ってたけど、会えるとは思ってなかったよ」
「え……?」
 ――それって俺に会いに来てくれたってこと?
「いやぁ、あたし隣町の学校だけど、今日は友達に呼び出されてさ。んで来てやったのに『ごめん。今日は早く帰れない』なんてケイタイに電話があってさぁ。そしたら君にバッタリ!」
「あ、そっか。そういうこと」
 自分に会いに来たのではないのか、と落胆してつい声に出してしまった。するとミナはにんまりと、ピンク色の唇を笑顔に曲げて言った。
「んん? もしかして、君に会いに来るためにここに来たと思った?」
 顔を赤くしたアルドは答えられず、視線を逸らす。
「やだ! 冗談だよぉ。なにそんな本当っぽい反応してるのっ」
 軽く肩を叩かれる。気軽に触れてくれることにドキリとする。
「時間空いちゃったしさ、どっかお勧めの喫茶店とか知らない? あったかいコーヒーとか飲みたい」
 アルドは、うんうんうん、と無言で何度も頷く。
 まさか、今朝から思い描いていたことがこんなにも早く叶うとは。
「し、知ってる」
 頷くだけだと意味不明だと思い、緊張して出ない声を何とか絞り出す。
 脳内で素早く知っている喫茶店を探す。
 いつもの集まりで行く店は、誰かとバッタリ会う可能性があるので行けない。思いついたのは、時々一人になりたいときに行く、誰にも秘密の喫茶店だった。
「ちょっと歩くけど、リココキ通りにある、静かな店。そこでよかったら……」
 そこまで言って、アルドはもしかして彼女は昨夜の約束を忘れていて、別に俺といっしょに行こうと言っているのではないのではないか? という可能性に思い当たる。
「じゃあ、そこにしよう」
 彼女が笑顔で言う。しかし、彼女が自分を誘ったわけではない、という可能性に思い当たってしまったアルドは、歩き出した彼女について行く勇気がなかった。
「あれ? どうしたの? 行こうよ」
 ミナが振り返ってキョトンとした顔をしている。
 アルドは恥ずかしさも何もかも忘れて、満面の笑顔で彼女の隣を歩いた。


    * * * *


「いやぁ、体が冷えてるときの、あったかいコーヒーは本当に至福だねぇ」
 静かな音楽が流れる店内。ミナはリラックスした表情で白いカップに口をつける。
 アルドも、暖かいコーヒーに口をつける。コーヒーの暖かさで体が弛緩していく。彼女が自分にリラックスした表情を見せてくれることに、心まで温かくなる。
 アルドが一度カップを置いて、ホッとため息をついたと同時に、彼女もホッと息を吐いた。それがなんだかおかしくて、ふたりでくすくす笑う。
 そうして、アルドは彼女と他愛ない話をした。
 彼女は、アルドが思ったよりもおとなしい性格なのだと理解してくれ、彼女は小説が好きだか小説が好きな友達が一人もいないから寂しい、と話してくれた。
 さらに彼女は照れたように、自分で小説を書くのだ、と話した。
「今書いてるのは心霊物でね、幽霊を信じてる人や信じてない人、色々出したいの。だからいろいろな人に聞いてるんだけど、君は幽霊とか魔術とか信じる方?」
 声を弾ませて話す彼女の瞳を、アルドはあまり見れずに俯いてばかりいた。だが受け答えはしっかりしたものだったと思える。
 信じていない。ということをハッキリと答え、科学的根拠のない呪いとかは心理的なことが原因か、偶然の産物。本物に見える霊現象も、今は科学が追いついていないだけでいつかは解明されること、と持論を披露できた。
 俯いていたから彼女の表情はわからない。しかし終始、彼女の声は弾んでいた。

 そうして彼女は、小説の話がまたしたいから、また会ってもいいかな、と言った。アルドは驚いて彼女の顔を凝視したが、やはり彼女は笑顔だった。
 アルドは、喜んで彼女と次に会う日を約束をした。

 そして、水曜日。
 朝のホームルームで三人組のたれ目の男――マッドが、首を吊って死んでいたことが皆に告げられた。


   6 解放


 今日もミナに会えた。
 アルドは心に温かさを抱きながら帰宅する。
 家政婦の出迎えがうるさいことにも、家に父や母がいないことにも、何とも思わなかった。
「あ、アルド。おかえり」
「おかえりなさい」
 兄の柔和な笑みも、当たり前のようにユナが兄と一緒に夕食を食べていることも、気にならなかった。
「ただいま」
 答えたら、兄もユナも目を丸くした。
 二人と一緒に夕飯を食べることも抵抗を感じなかったが、食事は外でしてきたのでそのまま二階に上がり、自室に入る。
 目障りな人間は死を目前にし、好意を寄せている女性との関係は良好。
 幸せとはこういうことなのだろうか。
 そんなことを、自然と緩めた顔で思う。


    * * * *


 殺し屋の男にザンの死を依頼して、数日が経った。奴の命は後一週間。
 ザン本人に宣告はしていない。宣告すれば怯えた顔が見れるかもしれないが、高圧的に何かをするのは慣れておらず、体力を使う。なので、わざわざそんなことをする手間が面倒くさかった。
 その日もアルドはミナとデートをした。
 デートだった。ミナがどう思っているのかはわからないが、アルドにとっては少し遅くまで外で女性と会うことはデートで間違いなかった。
 そんな、いい気分で帰宅した。当たり前のようにユナが家のリビングにいたが、兄のキリルはいなかった。前日に友達の家に泊りに行くということは聞いていた。
「ユナ、おまえ。兄貴がいないのに来てたの?」
 少し呆れるようにアルドは言う。
「どんだけ俺の家の居心地いいんだよ」
 ははっ、とアルドは軽く笑う。ユナに笑顔を向けたのはいつぶりだろうか。
 彼女は何やら顔を赤くして俯いている。何か言いたそうにしているが、なかなか声に出せないらしい。
 ミナとユナ。名前は似ているが性格は正反対だ。はきはきしゃべって積極的なミナと、ごにょごにょしゃべって消極的なユナ。
 相対的に見て、やはりミナは素敵な女性だとアルドは思う。
「あの、ね。アルド」
 意を決したように、ユナが声を出した。
「最近、彼女とか……できたの?」
「は?」
「あの、あの。友達が、アルドが、女の子と一緒に二人きりでいたって言ってて……」
 女の子と二人っきりで……。ミナだ。
 他の人間とつるむことはあっても、二人っきりでいることはまずないから。
 しかしユナはなぜ、こんなにもオドオドとしゃべっているのか。いつもの数倍、挙動不審だ。
「いや、別に彼女じゃないけど……なんでユナがそんなこと気にする?」
「だ……だって、幼馴染だし、そういうこと、やっぱり……やっぱり……」
 声がフェードアウトしていく。アルドは首をかしげながら、ユナの次の言葉を待っていると、ユナは必要以上の大きな声を張り上げた。
「やっぱりそういうこと教えてくれないのは寂しいし!」
 アルドは硬直した。
 彼女はなぜそんな顔を赤くして、一大決心をしたように、そんなことを思い切ったように告げるのか。
「え? ユナ。おまえもしかして俺のこと好きなの?」
 半分は冗談で言ったことだったが、ユナの顔はさらに赤さを増した。
「え……。図星……」
 アルドが呟くと、ユナは手で顔を隠して「わ、私帰るねっ!」と、勢いよくリビングの扉を開け、バタバタと廊下を走っていった。
「ま、まじか……」
 全く予想していなかった事実がいきなり発覚し、驚きでアルドの手から持っていたカバンがずるりと落ちる。
 アルドも少し顔を赤らめながら、盛大なため息をついて、ソファに身を投げる。
「悪い気はしない……けど」
 ユナの好意が、嬉しいと感じている自分に驚くが……しかし。
「でも、俺が好きなのは、ミナちゃんで……」

 ――ごめんな……。

 また盛大にため息をつきながら、アルドはソファに崩れ落ちるように寝そべった。

    * * * *


 学校の、少し雰囲気が沈んでいる廊下で。ザンとすれ違う。
 すれ違う。
 何も言ってこない。
 アルドの顔を見れば何か挑発するようなことを言ってきていた男が、ただすれ違う。
 アルドが言った呪いを信じて怯えているのか。それとも、仲間が死んだ今、独りになり、独りでは何もできない男だったということだろうか。
 これほど意気消沈しているのならば、もう例の写真をばら撒くこともしないかもしれない。殺さなくてもいいかもしれない。だが、ばら撒かれたら全てが終わってしまう。世間にも、家にも、居場所がなくなってしまう。ミナも離れてしまう、きっと。
 ザンを殺す、という選択肢は変えられない。
 今日も、あの喫茶店でミナと会う約束をしている。
「おい」
 後ろから声がした。振り返ると、ザンが眉を寄せ、不審なものを見るような表情でこちらを見ている。
「もう《予言》はしないのか?」
「え?」
「お前は俺が首謀者だと思ってるんだろう。だったら、俺を一番苦しめて殺すんじゃないのか?」
 ザンの顔に、あまり怯えは感じられなかった。どこか、諦めたような表情に見える。
 例の殺し屋には依頼している。死ぬということはすでに決まっている。
 ただ、今この男に恐怖を与えたいと思っているか――今でも恨みに思っているか、と自問するとよくわからない。ミナと過ごせる日々は、幸せだから、抱いた恨みはすでに小さなことになっている。
 ただザンは、ミナとの幸せを壊す可能性のある存在というだけ。
「ああ。死ぬよ。あんたが俺に、あのフィルムを渡さない限りは、来週の金曜日に確実に」
 凝った演出をするのは疲れる。だから、事実だけを告げる。
 死ぬということは信じているようだから、他に写真を現像して持っていたとしても、それを誰かに公開したらすぐに殺されるということは察しているだろう。
 コンピューターにデータが取り込まれ、テレビの様にそのデータが一瞬で世間に広がる……そういうSFのような技術がまだなくて安堵する。
 ザンはため息をついて、ポケットに手を入れながら、アルドの方に近づいてくる。そしてポケットから出した手を、ザンはアルドの方に突き出した。
「ほら」
「?」
「フィルムだ」
 アルドが手を出さないうちに、手を開く。アルドは反射的に手を出し、それを受け止めた。手の中に納まっているのは、ザンが言った通りフィルムケースだった。
「え?」
 アルドが戸惑いの声を上げたと同時に、ザンは体を翻した。
 そうして、廊下の喧騒の中へと紛れていく。
「は……ははっ」
 アルドの口から安堵の笑いが漏れた。
 脚が弛緩し、その場に崩れ落ちそうになるのをこらえた。


    * * * *


 夜の、ビルの屋上。
 例の男と会える、唯一の場所で。
 アルドが屋上の扉を開き外に出ると、男は屋上の端のフェンスにもたれて煙草を吸っていた。
「この時間、いっつもここにいるな」
 アルドは男に声をかけた。俯いていた男が顔を上げる。
 いつもの、感情の見えない表情で、黒い瞳で、アルドの顔を見る。
 ブラックホールの様に吸い込んでくる瞳だと思っていたが、今日はその瞳に吸い込まれることはなかった。
「煙草の煙が好きな人間もいれば、受け付けない人間もいる。人間は不思議なものだな」
「なんだそれ。おまえが人間じゃないみたいな言い方」
 小さく笑い声をあげてアルドは、男の隣に並んでフェンスにもたれる。煙草の甘いような苦いような匂いがする。
「悪いんだけどさ。この間、依頼したやつ。殺さなくていいや」
「……キャンセルか?」
「うん」
 男は煙草を深く吸い込んだ。アルドはそれが何か考え込むしぐさなのかと思い、ふと、思いついた可能性に少し焦った顔をする。
「え? もしかして、キャンセルってできなかったりする? え? 裏社会の厳しい掟とかあんたの中でもあったりすんの?」
「いや、そんなものはない。キャンセル、承った」
 アルドは安堵のため息を吐く。
「金は返さなくていいよ。あんたのおかげで、多分、幸せになれるから」
 ミナの笑顔を脳裏に思い浮かべてアルドは微笑む。
 実際にはミナと出会ったのは、あの二人が死んだからというわけではないが、しかし、だからこそ心の余裕ができた。だからこそ、彼女とコミュニケーションが取れたとも言える。
「人間を殺して、人間は幸せになれるんだな。不思議だな」
「……え?」
「人間を殺して、人間は幸せになれるんだな。不思議だな」
 問い返すと、男は律義に繰り返した。
「え。でも、だって、殺したのはあんたじゃん? 俺じゃないでしょ」
「お前の意思がなければ俺は動かなかった。おまえの意思が、あの二人を殺したんだ」
 アルドは男の横顔を見たが無表情だった。
 男はアルドを責めているわけではない。それはわかった。だが、淡々と事実を述べられて、その事実がアルドの頭に浸透していく。
 喉に吐き気がせり上がってくる。寒いのに汗をかいた。
「ぅえっ」
 声に出るほどえずいて、むせて咳き込み、肩を上下させて激しい息をする。涙がにじんだ。
「いや、でも、あいつらは……死んで当然のやつなんだし……」
「死んで当然の存在などない」
「はぁ?」
 アルドは顔をしかめた。この男は、自分の存在の意味を自覚してこの言葉を口にしているのか?
「さっきも言ったけど、殺したのはあんたじゃん。よくそんなことが言えるな」
「死んで当然。人間は尊い。それは人間が勝手に判断した価値観で、人間がその価値をつけない限りは、生物はそのどちらの価値も持たない」
「じゃ、じゃあ、どちらの価値もないなら、殺してもいいじゃんか!」
「だが、人間は尊いという価値をつけたのは人間だ。そこから外れるということは、人間から外れることだと俺は思っている」
 アルドは顔を歪ませる。自分はすでに人間から外れているという指摘が受け入れがたい。そんなわけはない。自分がすでに人間ではないなんてことは。
 怒りがこみ上げる。
「んなこと言ったって! 俺はあいつらに虐げられて人間扱いされてなかった! 人間を人間扱いしないヤツが人間としての価値があるわけないだろ! 俺は! ただ、自分を守りたかっただけだ!」
 激昂するアルドに、男は相変わらずの無表情を貫く。
「そうだよ。自分を守る権利くらい、誰にだってあるだろ? 俺は、別に私欲であいつらを殺したわけじゃない。あいつらが尊いだとか、尊くないとか関係ないんだよ」
 アルドの声は徐々に自分に言い聞かせるように小さくなっていく。
「もう誰も殺さなくていいんだ。俺は私欲で人を殺すわけじゃない。だから俺とあんたはもう関係ないんだよ。さよなら。金で人を殺す化物野郎」
 アルドは歪んだ笑みを浮かべて、もたれていたフェンスから――男から離れる。中に入るためのドアを開け、静かに閉めた。
 夜の屋上には、男の吐き出した紫煙が静かに漂い、風にさらわれていった。



   7 どいつもこいつも


 いつも彼女と――ミナと会う喫茶店。
 アルドはコーヒーを少しずつ飲みながら彼女を待っていた。
 コーヒーを。冷めたコーヒーを。
 待ち合わせの時間から三十分過ぎているが、ミナは来ない。店内には穏やかな音楽が流れているが、アルドの心は焦燥が吹き荒れている。
 なぜ来ないのか。何か事故があったのか? それとも自分は彼女に嫌われる何かをしてしまったのか?
 前回会った時を思い返す。何度も思い返すが、何もおかしなことはしていない――はずだ。それとも、コミュニケーションが苦手な自分が及びもつかないことが、人を不快にさせることがあるのかもしれない。
 不安で不安で潰れそうになる。
 嫌われているかもしれないことが。
 いっそ、彼女が来ないのは事故に巻き込まれたから、という方がマシな気さえしてしまうほどに。
 それからアルドは二時間ほど待ったが、彼女は来なかった。
 連絡先は知らない。いつもの喫茶店で待ち合わせすれば彼女に会えた。彼女の方から連絡先を訊いてくることもなかったから、アルドは彼女に連絡先を訊く勇気が出なかった。
 構わないと思っていた。いつも待ち合わせして会った最後に、また待ち合わせの約束をする。そうしていれば会えていたのだから。
 それを今、後悔する。なんとか連絡の手段がないだろうか。それともまた、あの喫茶店でいつもの待ち合わせの時間に待っていればいつか来てくれるのだろうか。
 考えて、考えて、アルドは思い出した。彼女が彼女の学校名を語っていたことを。
 彼女の学校へ行って、校門前で彼女が出てくるまで待つ。
 そんなことをしたら、つけまわしてくる変態だとでも思われないだろうか。だが、思い切って連絡先を訊かなかった勇気のない自分を、今こんなにも後悔しているのだ。踏み込まなければまた後悔する。
 そうして次の日、初めて来た学校の校門前で、壁にもたれて人の流れを観察している。その日の最後の授業はサボった。彼女の学校の終業時間に間に合わないかもしれないから。
「ミナ」
 多くの人の声の中で、その名前を呼ぶ声が聞こえた。男の声で。
 アルドは校門の方に向けていた視線を、校門の外の数十歩前の方に向ける。
 声にならないほどに驚いた。
 ザンだ。
 いつもクールな顔をしているあいつが、やわらかく微笑んでいる。
「ザン」
 ごちゃごちゃとした声の中でもハッキリと聞き取れたミナの声。
 嬉しそうな声。
 丁度、大勢の女子たちが大きな声でおしゃべりをしながら校門から出てくる。彼女たちはザンの視線からアルドを隠した。
 小走りでザンに近づくミナは、壁に隠れたようになっていたアルドに気づかない。
 そうして二人はアルドに背を向けて歩いていく。
「は? は?」
 アルドの頭は混乱が吹き荒れる。
 今の状況が理解できない。できないが、あの二人を尾行するしかないと咄嗟に判断する。
 人の波に流されるように、しかし彼らを見失わない程度に波に逆らう。
 少し近づくと、気づく。二人は手をつないでいる。
 怒りで怒声を上げたくなるが、勇気のなさがその声を飲み込ませる。
 彼らは何か会話を交わし、しばらくするとザンがミナの手を引っ張り、人の波から外れる。
 人気のない静かな路地。他の人間の耳も声もない。
 そんな場所だったから、路地の外のアルドの耳に二人の会話はかろうじて届いた。
「あいつとは関わるなって……に」
「ザンが死ぬかもって……ジッとしてられない。ライもマッドも殺されて…………じゃない」
「だからって……」
「二人が死んだのは呪いじゃないよ。あいつは……なんて信じてない。あたしはそれを………………」
「俺の為を想ってしてくれのはうれしい。だが、それがミナに降りかかったら……」
「…………」
「…………」
 二人は何か小声でささやき合っているらしい。声が聞こえない。しばらくして、アルドは路地の中の二人を覗き見た。
 キスを、していた。
 ねっとりとした音が聞こえてきそうな、深い口づけを、長く長く。
 アルドは静かにその場を離れる。
 怒りも何もかもを、消沈した気持ちが静める。

 ――彼女の笑顔は全部、ザンを守るための、嘘の笑顔だったんだ。

 思い出せば、彼女の笑顔以外の表情を、ほとんど見たことがない。
 笑顔を貼り付けていのだ。ボロが出ないように。
 気づけば自宅の前だった。玄関のドアを開ける。買い物にでも行っているのか、いつもの家政婦の足音はなかった。
 もう、この世に自分がいていいのは『自分の部屋』と決められた、この家の二階にある自分の部屋しかないのではないか。そう思いながら、階段を上りかけた。
「アルド、お帰り」
 リビングのドアが開いて、ユナが出てきた。
 ほんの少し、気まずそうに恥ずかしそうに、顔を赤らめている。
 ――いた……。
 自分が存在していてもいいと、認めてくれる存在。
「ユナ……」
 アルドは小さく彼女の名を呟いて、彼女に近づいた。彼女の腕を取り、自分の方に引き寄せる。
 ユナはきょとんとした表情で「アルド?」と問う。
 アルドは自分の唇をユナの唇に重ねた。
 ユナは、抵抗しなかった。だが、彼女は体を強張らせている。
 それを、アルドは受け入れられていると勘違いした。ユナの腰に腕を絡めて、不器用に、ザンとミナがしていたように、舌を入れようとした。
「ううううううう!」
 ユナが呻いた。塩の味がした。ユナの涙がアルドの口に入ったのだ。
 驚いてアルドはユナから体を離した。
 ユナはボロボロと涙を流していた。うれし泣きには見えない。俯いて必死に涙を拭っている。
 彼女がなぜ泣いているのか、アルドは本気で分からなかった。
「ユナ……お前、俺のこと好きじゃなかったのかよ」
 そう言っても、ユナは嗚咽を漏らすばかりで答えない。
「…………ひどいよ……」
 ユナの声が、それだけ聞き取れた。呆然としたアルドの横を、彼女は抜けて行き、玄関のドアの開閉する音が鳴った。
 中にいるのは自分の方なのに、その音は、世界のすべてから締め出された音のように感じた。
 自分を受け入れてくれる唯一の存在。そう思っていたのに。拒絶された。
「は、ははは……」
 ――涙も出やしねぇ……。
 アルドはその場に膝から崩れ落ちて、ひたすら笑った。


   8 化け物が落ちる


 もう、何回目だったろうか。
 アルドはそんなことを考えながら、例の屋上に来た。
 たぶん今度こそ、これで最後になるだろう。
 全員死ねばいい。
 アルドの頭にはもはやそれしかない。自分を認める者のいない世界など、滅んでしまえばいい。
 いつものように、あの黒い男がフェンスにもたれてタバコを吸っている。
「もう、人殺しになろうが化物になろうがなんでもいい! 全員殺してくれ!」
 男が黒い瞳をアルドに向ける。相変わらず何の感情もうかがえない。
「全員……。さすがに俺も、地球人全員を皆殺しにすることは不可能だ」
「まずザンだ! あいつは俺の恥部を知っている。それだけで万死に値する! それからミナだ! 俺を偵察するためにニコニコニコニコ近づいて来ただと? ふざけるな! ユナもだ! 気があるフリしてなんだよアレ! 俺を認めないオヤジもだ! 認められてる兄貴もだ! 俺を愛してるふりしてる母さんもだ!」
 一気にまくしたてたアルドは、肩で息をしていた。瞳は恨みで暗く輝いている。それを見ている男の瞳はさらに暗く、なんの光も灯していなかった。
「六人。以上か?」
「せっかくだからクラスのやつらも殺してくれる?」
 暗くぎらついた瞳をして、唇を歪に吊り上がらせる。このアルドの表情を見て、誰も、彼をまともな人間だとは思わないだろう。
「さすがにこれ以上は、前に貰った金では受けることはできないな」
「あっそう。じゃ、とりあえずは以上で」
 食事の注文を締め切る軽さで、アルドは言った。
「よかったよ。あんたが受けてくれて。さすがに無茶ぶりかなぁって思ってさ……」
 そう言いながら、アルドは男の隣のフェンスにもたれた。
「やっぱり信用できるのは、金とあん…………は……?」
 視界が勢いよく回る。最初は屋上の出入り口が目に映っていたのに、雲で淀んだ黒い夜の空が見え、横に並んでいたはずの、フェンスにもたれる男の背中が見えた。
 そのまま――もたれたそのまま、フェンスはアルドの体重を受け入れずに後ろへと倒れていく。
 男がこちらを振り向く。やはり何の表情も浮かんでいない。
 アルドが最期に見たのは、男の煙草の光。吸って、強くなった光。かつて、希望の光だと思った光。それが、遠のいていく。
 そうして何も抵抗できずに、アルドはビルの下へと落ちて行った。


    * * * *


 男は、倒れたフェンスをちらりと見た。
 表情を変えずに、その場を立ち去る。
 以前、アルドがザンの殺害依頼をキャンセルしに来たその時、ミナはアルドを尾行していた。そうして見た、アルドと男のやり取りの意味を理解した。
 アルドが依頼をキャンセルし、彼氏が死ぬ脅威は去った。
 だがミナは、そんなことでは油断ならない、情緒不安定なアルドがいつそれを覆すかわからないと、そう考えた。
 そうしてミナは男にアルド殺害を依頼した。男は金額にこだわらない。金額に、その人物の本気を感じれば受けるのだ。
 男は先に依頼された仕事を先に遂行した。
 ただ、それだけのことだった。


   9 待ってる


「アルド坊ちゃま、帰ってきませんねぇ」
「やっぱり、私が『ひどい』なんて言ったからでしょうか」
「それはしかたありませんよ。それは確実にアルド坊ちゃまが『ひどい』ですから!」
「でも……」
「好きだろうが何だろうが、心の準備ってものがありますよ! それをすっ飛ばしていきなりとか! それは確実に犯罪級の性暴力ってもんです!」
「でも……なんだかすごく、普通の状態じゃなかった。だからあんなこと……って思ったら……」
「ユナさんは本当に、人がよろしいですね。そんなだから、アルド坊ちゃま、安心して付け上がって暴言吐くんですよ」
「そうですね。あんな暴言、他に誰にも吐きませんもんね。ある意味特別扱いしてくれてますけど、あんまり嬉しくはない特別扱いです」
「はぁ。それなのになんでユナさんは、アルド坊ちゃまのこと好きなんですか?」
「なんか……本当は家族に愛されてるのに、全然それに気づかなくて、それを見てたらなんか……キュゥウウってなります」
「わからなくもありません。旦那様がキリル坊ちゃまの将来を決めてしまったから、アルド坊ちゃまには将来をアルド坊ちゃま自身の好きなように決めて欲しいから『好きにしろ』って言ったのを『テキトーにあしらわれた』と思い込んでるところとか、可愛いですものね」
「か、可愛いかどうかわかりませんけど、たぶん私がそれを指摘しても絶対信じないと思うので、言えないんですよね」
「んなわけあるか、って怒りますよね」
「そうなんです。なんであんなに捻くれてしまったのか」
「旦那様が不器用なせいですわね」
「……はぁ。アルド、今日中に帰ってきてくれるでしょうか」
「誕生日だってこと、絶対にお忘れでしょうからね」
「せっかくケーキ、作ったのになぁ……」

 アルドの好きな、生クリームをふんだんに使ったイチゴケーキがテーブルの上に鎮座している。店に置かれたケーキと比べると不器用な出来だが、味には自信がある、とユナが作ったケーキだった。
 何があったのかわからない。でも、本当に落ち込んでいたのだとしたら、これを食べて少しでも元気になって欲しい。
 そして、あの時はびっくりしたからだと。ちゃんと本当にアルドのことが好きだと告白しよう。

 ――だから、早く帰ってきて。
あおいしょう 

2020年03月14日(土)20時44分 公開
■この作品の著作権はあおいしょうさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
タイトル通り黒い話です。
矛盾点とか、ここが理解できなかったとかあったら指摘してくだされば嬉しいです。

あと、何度も頓挫したモノなので、所々文体が変わってるかもしれません。


この作品の感想をお寄せください。

2020年03月20日(金)11時16分 あおいしょう  作者レス
神原さん、感想ありがとうございます。

感想読ませていただいて、特殊な育ち方をした、特殊な精神状態のキャラを描くのは難しいなぁと感じました。それを読み手さんが納得していただくように描くのも。

金で『友達』を侍らせて、侍らせてはいるものの、まともに構ってもらっていおらず、まともにコミュニケーションをとってこなかったアルドは精神的に幼いので、幼く感じていただいてある意味では伝わっているのですが、違和感を覚えているのならアルドの特殊性が伝わらなかったのだなぁ、という感じです。
その辺もう少し書き込む必要があるかもしれませんね。

その他、自分としてはテキトーに表現したわけではないけれど、違和感と受け取られていること多数(汗)
この辺、解説とかすると言い訳に近いことになりそうなので、アルドにとっての重要度としては、恨みよりも人に認めてもらいたい方が大きな感情、ということだけ書くにとどめておきます。
とにかくその辺はもっと書き込む必要がありますね。

ザンたちが、仲間を自殺だと思ったという件、私としてはまだ子どもの範疇の自分たちと同い年の人が、金の力だろうと本当に人を殺した、という方が信じ難い気がしたのでこうなりましたが……んん。殺したと考える方が自然なのですかね。

ハイスクールの件、この世界が特にどこと決めてないんですが、アメリカでは中学高校一環でハイスクールなんですね。そうなるとハイスクールという表記はややこしいですね。ちゃんと調べればよかった。アルドは日本で言えば中三ですね。
あ!でも受験があるはずなのに、みんなアルドにたかって遊んでるというのを今気づきました!

ミナと会ってからザンの扱いが……というのは確かにあります。ありますが何も思いつかなかった!というのが正直なところです……。
最近発想力が乏しいのを何とかしたい。

キスに関しては、どんな歳だろうと性に関しての認知の歪みがすごい人っているので、読み手さんには「こいつ認知の歪みすげぇな……」と引いて欲しかったんですが(笑……えない)
私としてはだいぶアルドを歪ませて描いたつもりでいるのですが、異常な行動がしっくりするほど異常には描けてないのかなぁ、と思ったり。

キスされたユナに関してはそうですね。驚きにプラスして、拒絶するならもう少し何か必要かもしれません。

黒い男が最後のアルドの依頼を遂行したかどうかは、書くかどうか迷ったのですが、想像にお任せしようと思って『男は先に依頼された仕事を先に遂行した。』と書くだけにとどめておきました。
というわけで想像にお任せします。

主人公の人間性が楽しくない、とか、共感できないとかはよく言われます(笑)
だけどそれが私の書きたいモノなので外せないというのがつらいところ。

ではでは、感想、ありがとうございました。


pass
2020年03月20日(金)06時55分 神原  +10点
こんにちは、拝読しました。

まず、最初に殺された男に死ぬ事を宣言している&お金持ちである処から、残された二人は否定よりも自殺ではなく、ミナの様に主人公に殺されたのだと判断する方が自然です。反発しかしないもう一人の殺された男に違和感を感じました。

次にミナが登場してからの展開。あまりにも前半とここからが違い過ぎて、トーンダウンしました。ザンが主人公にどうでもいい感じに扱われていたりと。ここはザンの事を主軸にしてきたのだから、ミナと楽しい交流がありつつも彼にもスポットを向けた方が良かったのではないかと思います。

出だしは良かったです。これから何が起きるのだろう、と言う期待感があり、読み進められました。

主人公ですハイスクールとありますが、中学生くらい? それとも高校生くらい? アメリカのハイスクールはググった処、中高が一緒になっているみたいですし。
しかし、主人公の頭と言うか、心が幼すぎな気がします。性(キス)の描写でやはり高校位にはなっていると思うのですが、言動がそうは見えません。

それと虐められた恨みはたかが恋程度では小さくはならないと思えます。むしろ作中でも記述があったようにミナとの関係が壊れる要因にすらなりうるのだから、フィルムを返したくらいで殺すのをやめたのが? 二人も殺しておいて、いきなり復習をやめてしまうかな、と。

これがまだ一人も殺していない状態なら取りやめも分かります。ですが、二人殺した後で殺さなくても・・・・・・はないです。

作者さんが考えたギミックを発動する為だけに取りやめたり、再び依頼させに言っている感が私には感じられました。

裏切られたから殺せ、拒絶されたから殺せ、普通の思考でこれが一番分からない点です。ミナは百歩譲っていいとして、ユナも殺せっていうのはありえません。最後の最後で拒絶されたから。と言う理由はついてますが、いくらなんでも高校位の人間があの拒絶の意味が分からないって言うのはないです。

と上で書いてますが、私が思うに、ユナの方がちょっと分からないかも。いきなりのキスで泣いたり動揺したりするのはそれほどおかしくはないのかもしれませんが、主人公の態度と言うか状態が普通ではありませんでした。 ずっと好きで一緒にだったのなら、その変化をユナは気づくべきです。その異常状態故のキスだと分かれば、泣くよりもなによりも主人公を労わったのではないでしょうか?

そして、最後、あの男は本気であってお金を貰えば殺すのだったら、主人公が本気であってお金を払いずみと言う点で、主人公を殺した後、6人を殺さないのが矛盾です。既にお金は受け取っているのですから。

文章に30点。物語として普通です。を。そして、内容。主人公の人間性が読んでいてあまり楽しくはなかったです。全てを鑑みて、少し良かったです。を置いていきたいと思います。これからもがんばってください。

掌編の間でよく乾燥を書いているのですが、ひょんな事から短編の間に来て、皆に感想を書いているのにも関わらず感想がつかないみたいでしたので、おせっかいついでに感想をと思い。レスを残していきます。きちんと感想を書く人は感想がついてほしいので。では。
19

pass
合計 1人 10点


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