大津通の奇跡
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「あっ、あの」
 後ろから女性の声がする。
 日が暮れ始めた頃の、大津通にある横断歩道を渡っていたところだった。周りには多くの歩行者がいて、僕は自分が呼ばれたと思わず歩き続ける。
「あの、すみません」
 再度声が聞こえてくると同時に、僕の肩に誰かの手が触れる。
 驚いて振り返ると、20代半ばと思われる女性が「落としましたよ」と僕に黄色いハンカチを差し出した。
「あっ」
 それは、僕が落としたハンカチだった。いつの間にかポケットから落ちてしまったようだ。
 「ありがとう」と言って手を差し出そうとした時、僕はふと今朝のニュース番組の占いのことを思い出した。

『今日最も良い運勢なのは牡牛座のあなたです。運命の人とベタな出会いが待ち受けているかも。勇気を出して誘ってみて。ラッキーアイテムは黄色いハンカチです』

 運命の人とのベタな出会い。
 もしかしたら、この女性が運命の人なのかもしれない。あの占いはよく当たる。可能性はないとは言えない。しかし、何と言って誘えばいい? 今時お礼に喫茶店でもどうですか、なんてダサいよな。
 考えていると「どうしました?」と女性が尋ねてきた。
 僕は慌てて「ありがとうございます。大切なハンカチだったのでとても助かりました」と言い「もし良かったら、お礼に矢場とんでもどうですか」と、焦りのあまり妙な誘い方をしてしまう。
 すると彼女が一瞬怪訝そうな表情をしたため、僕は途轍もなく後悔したが、次の瞬間、彼女はプッと吹き出した。
「お礼に矢場とんをご馳走してくれるんですか?」
「もし良かったら、ですけど」
「面白い方ですね。せっかくなので、行っても良いですか」
 予想外の返答に僕は「本当に良いんですか」と思わず聞くと、「ダメなんですか」と彼女は笑って聞き返した。
 そうして、僕たちは電飾が煌びやかに輝く大津通りを、にわかに起きた奇跡の導きのままに、矢場とんに向かって歩き始めたのだった。
ワタリヅキ 

2023年11月12日(日)21時23分 公開
■この作品の著作権はワタリヅキさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
お久しぶりです。
愛知県名古屋市の栄という地域にある大津通りが舞台のワンシーンものです。


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2023年11月13日(月)12時17分 藍川二兎 5I548OKNng 0点
こんにちは。作品読ませて頂きました。
掌編小説というよりは、長編小説の冒頭1ページの様な印象で、これから何かが始まっていくのかな〜と思いました。
個人的には掌編小説であればもう少し起伏と葛藤が欲しいなと思います。
藍川の考えなので鼻についたらごめんなさいなのですが、例えば占い結果が真逆なだけで、かなり面白くなるかもな、と。
ハンカチを拾った人とは絶対に食事に行くな、と言われていたけど、拾ってくれた女性が可愛いから悩む、悩んだ末に結局矢場とんに行く、となれば矢場とんで何が起こるんだろうという興味ももっと湧く気がしました。
あくまで個人の感想ですが、参考になれば幸いです。
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pass
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