妖王と巫女姫の話
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この世界には、3種類の人間が存在する。
人間、異能者、妖である。
そして、古来よりある’逸話’をご存知だろうか。
その逸話は、伝説の妖・鬼のことである。
鬼は人を喰うと言われている。それも、世界三大巫女姫の血が入った人間は特に絶品だと。
しかし、その鬼に出会えば、生涯を添い遂げる仲になるという──
これは、1人の少女が鬼に出会い、幸せになるまでの物語──

姫宮家。
有能な異能者や妖を輩出する、この世界では数少ない名門異能家の1つであり、世界三大巫女姫、姫宮飛鳥直列の家。
大きな屋敷を構え、秀麗な庭園を広げるこの家には相応しくない、1人の少女がいた。
その少女は姫宮朱莉で、姫宮家の次女だった。
しかし、よくその少女を見てみれば、乱れた髪に古びた巫女装束。
どう見ても、この家の令嬢とは思えない姿であった。
「あら、朱莉〜まだそんな粗末な格好をしているのねぇ。みっともないったら」
玄関の掃除をしていた朱莉に嫌味を吐いて颯爽と去っていったあの少女は姫宮椛。朱莉の双子の姉。
2人は、元々こんなに仲が悪かった訳ではない。15歳のあの日までは──

『姫宮家の御秀麗な双子の令嬢が15歳になって異能開花試験を行うそうよ!』
それは、近隣の異能家でも話題になる程の大掛かりな異能開花試験があった。
この試験で、異能の有無が分かる。しかし、姫宮家はあの姫宮飛鳥の直列家。異能がないはずがない。
そんな期待を胸に、2人は試験に挑んだのだった。
広い庭に正座をして座り、心の中で自分が異能者になった時のことを想像して、朱莉は目を閉じた。
しかし、朱莉は異能がなかった。
両親は希望の瞳をどんどん失わせていく。
横では、椛が異能を開花させていた。
その異能は、姫宮飛鳥が持っていたとされる、世界でも貴重な異能『冷水の鼓動』。
そして椛は、人型の式でさえ作り上げていた。
人型の式でさえ作るのは難しい。それをたった15歳の少女がやり上げたのだ。
朱莉は異能もなければ式を作る力さえなかった。
両親の期待は一気に椛へ傾き、朱莉には目もくれなくなった。
使用人でさえ、主人の命は絶対だと、朱莉を見捨て、朱莉は1人で食事を作り、姉からの嫌味に耐えてきた。

その異能開花試験から早3年、朱莉も椛も18歳になっている。
朱莉に与えられるのはただの掃除だけで、何もなかった。
朱莉は実質、使用人以下の扱いを受けている気がする。
「朱莉様、旦那様がお呼びです」
使用人に呼ばれ、「すぐ行きます」とだけ答えた。
父がお呼びとは何事だろうか。恐らく、期待はしない方が良さそうだ。

「父上、朱莉です」
「入れ」
父の部屋には、母や椛、仕事に出ていて暫くいなかった10歳上の兄、周までいた。
「今後のこの家についてのことだ」
父が話し始める。
「分かっていると思うが、次期当主は長男である周。妻には、三大巫女姫、柳伽耶様の直列柳家の長女、柳若菜様をお迎えする」
周は「はは」と正座で美しく礼をする。
「そして、椛。お前は朝比奈家へ嫁いでもらう。次期当主、朝比奈朔様だ」
朝比奈家も姫宮家に負けず劣らずの異能家。きっと、椛は嫁ぎ先でも寵愛されるだろう。
「最後に朱莉。お前は売る。何があっても、姫宮の出身だと名乗るな。明日、商人が来る。その間に荷物をまとめろ」
唯一の希望であった嫁ぎ先。しかし、そんな希望は父によってすぐに捨てられていた。
椛はふふと口角を上げて笑い、母や兄は無言のままであった。

翌日。言われた時刻に商人が来た。
商人は朱莉の腹を縄で括り付けた。逃げないようにするためであろう。
荷物などある訳がない。今来ているこの古びた巫女装束くらいである。
街中をただ単に歩いているだけだった。
あの家とは、血の繋がった他人となりつつあった。
しかし、今思えば父や母の気持ちが分からなくもない。
兄である周は身体が弱く、異能を使うどころか式を操ることも困難だった。
だから、双子である椛と朱莉に掛けたのも、なんとなく分かった気がした。
そんなことを考えて橋を渡っていたら、目の前に高身長の白いスーツマントを着飾った男がいた。
マント男は顔を隠しており、詳しくはよく分からない。
「…誰だ」
マントの男は商人に問う。
「見て分かるだろ。ただの捨て女」
マント男は朱莉をまじまじと見つめる。
「…幾らだ」
商人はニヤリとした顔をして、「金貨50銭」と言った。
マントの男は胸元からお金を橋一面に投げ出し、商人が持っていた朱莉の縄を奪い取り、走って行った。
「おい!」
「早く拾え。風に飛ばされるぞ」
マント男は颯爽と走り出す。
いつの間にか自分が眠っていたのにも気付かず…

「ん…」
起きた。
外を見てみれば庭園がある。
しかし、姫宮の屋敷ではない。もっと豪華だった。否、屋敷ではなく、王宮のような造りだ。
「起きたか」
声のした方を見てみれば、先程のマントの男がいた。
「お嬢さん、今からあなたは大我様に食べられて頂きます」
え、と思い、また声をした方を振り返ると、そこには白髪まじりの優しそうな顔をした女中だった。
「た、たべ…」
「鬼にとって、あなた巫女姫の体は栄養価が高い」
鬼…?
朱莉が知っている鬼といえば、昔、椛とそういった本を読んだことだった。
鬼は人を喰い、巫女姫の血の入った者は絶品だと…
「八重」
「は」
どうやら、先程の女中は八重と言うらしい。
「俺はこの女を喰わない」
「…!」
「妻に娶ろう」
その言葉に驚いたのは、朱莉だけでなく、八重もだ。
「お前、名は何と言う」
「姫宮…朱莉です」
「姫宮…?そうか、部屋へ案内する」

「この部屋がお前の部屋だ。自由に使え」
「はい」
少しの沈黙があった後、マント男は口を開いた。
「俺は千堂大我。千堂家の現当主で、妖魔特務小隊の隊長をしている」
「せ、千堂…」
千堂家。知らない者はいない。
帝の次に位か高いお家。異能者や妖を輩出する、異能家の筆頭。
そして、妖魔特務小隊。
妖のことを『妖魔』と呼んだりするのだが、その特務隊の隊長。つまりは騎士。
朱莉はそんな男に引き取られたのだ。
「姫宮朱莉と言ったな。姫宮と言えば、あの異能家…姫宮飛鳥の直列家だろう。何故あそこで売られていた?何故そんな粗末な服を着ているんだ?」
「…」
朱莉は言うことが出来ない。言いたくもない。何故あそこにいたのか、何故このような姿なのか。
元々、朱莉は虐げられてきてから殆ど口を開かなかった。そのせいでもある。
「まぁ、話したくなったら言えば良い」
「あ、あの…」
朱莉は聞きたかった。何故自分のようなものをここに入れたのか。そして、何故喰うのか。
「…俺が鬼ってことか?」
大我もある程度察した。否、察しないとおかしいであろう。
「…俺が妖で…それも鬼って分かったのは異能開花試験の時」
異能開花試験では異能の有無、それ以上に異能者か妖か、はたまた人間なのかが分かる。
「その時、俺が鬼だってことに分かった。そしたら、世界中から狙われてしまうのは目に見えていた。姉や両親は懸命に隠し通し、人間の姿で生活している。俺が鬼だって知っているのは両親、姉と八重、そしてお前ただ4人。特務隊の隊員でさえ知らない。」
彼は、きっと、一目惚れとかではなく、朱莉の哀れな状況に同情して妻にしたのだろう。
自分も同じようなことをされてきたから、だと。
「だから、お前はただ俺の妻をしていればいい。ここに入れば安全だから」
そう言って朱莉を抱きしめた。
こうして抱き締められるのは何年振りであろうか。
それに嬉しくて涙が出た。
「お、おい…」
「も、申し訳…ありません…」
あの時、適当な人に買われてたら、自分はどうなっていただろう。
どこか知らないところに飛ばされて、また姫宮の時と同じ生活をする。まだ、使用人として扱われるくらいならましだと、ただ目を瞑っていた。
千堂大我は口下手だ。それに、社交界では冷酷無慈悲だと言われる程。
だが、これのどこが冷酷無慈悲なのだろうか。
それを考えて、涙が出てしまった。
(私は…旦那さまに相応しい妻になりたい…)
いつの間にかそう考えていた。
これが、妖王と巫女姫の出会いであった──
水無瀬こと 

2023年09月14日(木)12時19分 公開
■この作品の著作権は水無瀬ことさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
こんにちは、初投稿、水無瀬ことと申します。
誤字脱字あれば指摘のほど宜しくお願いします🙇

私がこの作品を作るきっかけになったのは、ただの神社好き、歴史好きと言う点からであります。好きな時代は戦国や幕末あたりなのですが、描写として明治大正あたりがベストなのかなと考えてこの時代にしました。
実際は戦争真っ最中ですが、西洋の文化がだんだんと入ってきた時代でもあります。
そこに好きなファンタジーを盛り込んでこの作品が完成しました。
続きを作るとなれば、最終的には大我からの愛の言葉のない不器用な愛情を受け、朱莉自身も恋に落ち、結ばれると言った形を想定しておりました。また、椛や大我の姉も登場できたら素晴らしく良い作品になるのかなと思っております。

意外にも初投稿で満足のできる作品が作れたので個人的には気に入っております。
評価お待ちしております。


この作品の感想をお寄せください。

2023年09月28日(木)19時43分 水無瀬こと  作者レス
鴨長明様。この度は御拝読ありがとうございました。ご返信が遅くなり申し訳ありません。

自分の作品を見返して見て、鴨長明様の言う通り、背景描写が多過ぎるなと感じました。
また、設定には拘りましたが、それが読者にとって苦となっていることも分かりました。貴重なご感想ありがとうございました。
また、クライマックスが想像出来ない、と言うのも、個人的に悩んでいた部分ではありました。ご指摘ありがとうございます。

この度は貴重なご感想、ありがとうございました。
次作の参考にさせていただきます…!

pass
2023年09月26日(火)01時08分 鴨長明  +10点
読ませていただきました。
設定づくりにものすごくこだわったんだろうなということが伝わってきました。
ただ、誤字脱字があるわけでも、情景が想像できないわけでもありませんが、物語が「深掘りしてほしいのはここじゃない!」と感じました。あくまでこれは、1人の少女が鬼に出会い、幸せになるまでの物語なのに主人公の住む世界背景と、主人公の家庭の描写が多いので、クライマックスのこれからの2人の未来が想像できませんでした。やはり複雑な設定は読者がだれてしまう恐れがあるので、要点をまとめて伝え、早々に大我にあってから物語が始まっていく構図なら、書きたいことがもっと書けたのではないかな、と思いました。
若輩者ですが意見させていただきました。
18

pass
合計 1人 10点


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