恐怖! 羅険村!! |
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「参ったな。一体ここはどこなんだ?」 私は今日、ライトノベルの新人賞に応募すべく書き上げた原稿を持って某出版社を目指していたのだが、途中で道に迷ってしまい、気付けば鬱蒼とした森の霧深い山中をかれこれ5時間もさまよっていた。 「どうしてこうなったんだ・・・・・・」 電話は圏外、ネットも繋がらない、コンパスはさっきからずっとクルクル回り続けて役に立たない。念のため自宅から出版社までの経路図は紙に印刷して持っていたが、さすがに山の中まではカバーしておらず無用の長物だ。このままでは出版社どころか家に帰れるかも怪しい。 太陽はずっと見えていないが、時間的にそろそろ日没も近い。こんな道もわからない夜の山を歩くのはとても無理だ。諦めて今日はここで野宿するしかないのか、しかし・・・・・・。 途方に暮れていたそのとき、すぐそこに粗末な木造りの立て札があるのに気付いた。なんでもいい、とにかく場所か道の情報はないか。私は立て札に飛び付き、スマホのライトを当てて立て札のかすれた文字を苦心して解読した。 <この先 羅険村> 「らけんむら、と読むのかこれは?」 ありがたい、人が住んでいるのなら道を教えてもらえる。あわよくば今晩の宿も借りられるかもしれない。私は立て札の指し示す方向へ喜び勇んで進んだ。 さほども歩かないうちに道が開け、何軒かの家屋がまばらに建っているのが見えた。どうやらここが<羅険村>らしい。随分と寂れた様子だが、果たして人は住んでいるのか。 「すみません! 誰かいませんか!!」 村内に足を踏み入れ、大声を張り上げる。何度か繰り返すと、どこかの家からガタガタと扉を開く音が聞こえた。よかった、無人ではないようだ。 「どうしたね?」 こちらに近付いてきた村人らしい男に、私はこれまでの経緯(いきさつ)を説明した。 「そりゃ災難だったね。よかったら今日はうちに泊まっていきなさい」 「本当ですか! ありがとうございます!」 存外に早く話が進み、私は安堵した。男の先導で村の中の一軒に入る。 「ちょうど<掌編の間>が空いとる。あんたに相応しかろう」 そう言って男に案内された部屋は、一目で荒れ切っているとわかった。襖は穴が空き畳はボロボロ、部屋はカビ臭く埃が積もり、張られたままのクモの巣には羽虫の死骸が絡まって、しかし主のクモも既にいない。 これは野宿の方がマシだったのでは、と後悔の念がよぎったが今さら断ることもできない。 「あ、ありがとうございます」 できるだけ心情を気取られないよう礼を言ったが、幸い男はこちらの無礼に無頓着なようだ。 「ところで、あんた出版社に作品を持ち込むところだったんじゃろう。その作品、ワシにも読ませてもらえんかね?」 「はい?」 男の唐突な申し出を訝しく思ったが、一宿の恩があるし、自分の作品に興味をもってもらえるのは悪い気はしない。私はカバンから原稿を取り出し男に手渡した。男はしばらく無言で原稿を熱心に読み入り、やがて読み終えたらしく顔を上げこちらを向いて呟いた。 「普通だな」 「普通、ですか」 普通。創作者にとっては決して嬉しい評価ではない。 「設定がありきたりだしキャラクターに魅力がない。文章も読みにくい。なによりストーリーが面白くない。そうだ、冒険ファンタジーにしてはどうだろう?」 「冒険ファンタジーですか、しかし私が書いたのはラブコメなんですが・・・・・・」 「やかましいっ! 作者は読者の感想を素直に聞くものだ」 「はぁ」 何の時間なんだこれは・・・・・・。 「しかしまぁ、これはあくまでワシの個人的な意見にすぎん。もっと大勢の意見を聞いてみるのがよかろう。おーい、皆の衆!!」 男が大声で呼びかけると、一体どこから聞きつけてきたのか他の住民らしい人々がわらわらと(それでも20人はいなかったように思うが)集まってきた。 呆気に取られる私を置き去りにして、村人達が一人一人私の原稿を手回し黙読していく。どれだけ時間が経ったのか、ようやく全員が読み終わったらしく、喧々諤々の感想の言い合いが始まった。 「お前の点数の付け方はおかしい!」 「点数が機能していない!」 「点数に意味なんてない!」 「他人の感想を批判するのはいかがなものか」 「お前もしてるじゃねーか!」 何の話をしているのかわからないが、これもう私の作品関係ないことで揉めてないか? 呆然と論争を眺めているうちに、いつの間にか意見が出尽くしたらしく気付けば辺りは静まり返っていた。やがて最初の男がこちらを向き、粛々と告げる。 「あんたはこの村の調和を乱しなさる。あんたはこの村の掟を破った。村八分にせねばならん。可哀想だが、あんたにはここで死んでもらう」 私は耳を疑った。 村八分で死んでもらう? ちょっと待て、何を言っているんだ? 私は今日初めてここに来たんだ、掟なんて知るわけがない。ていうか、いつの間に私は村民にされているんだ!? 男はどこからか小さな鎌を取り出していた。その鎌は赤錆にまみれてとても使えそうになかったが、私は恐怖に駆られた。 「うわぁ、うわぁああっっ!!」 「逃げたぞっ! 捕まえろっ!!」 「殺して腸(はらわた)を引きずり出せっ!!」 私は必死で逃げた。無我夢中で走り続けた。村を抜け出し山中に潜り込んで藪を掻き分けて進み続けた。村人の私を探す怒号、木々の葉ずれが聞こえるたびに私は身を竦めて縮こまり息を殺して物音を立てないようにした。あまりの恐怖に私は涙を流していたが、拭う余裕もなく逃げ続け隠れ続けた。 命懸けの逃亡劇が終わりを迎え、見知った道まで辿り着いたときにはすっかり日が高くなっていた。そのとき私は原稿を村に置いてきてしまったことに気付いたが、とても取り戻しに行く勇気はもてなかった。 それ以来、私が<羅険村>を訪れたことは一度もない。 あの村がとうに滅びたのか、それとも今も存続しているのか、私は知らない。 |
クロレラ HYH.PlO.5. 2022年11月08日(火)00時25分 公開 ■この作品の著作権はクロレラさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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2022年11月09日(水)00時47分 | クロレラ HYH.PlO.5. | 作者レス | ||||
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はじめに。 この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ・・・というのは嘘で、お察しの通り守りびとさんの『ハンカチーフ』の大変カオスになった感想欄が元ネタです。 人物については特にどれが誰か意識はしてない(ていうか元ネタのどれが誰の発言かいちいち把握してない)ですが、守りびとさん・神原さん・日暮れさん・ヨーグルットさん・金木犀さん・Levさん・はらわたさんが悪魔合体して誕生したのが村長(村長のつもりなかったけどもう村長でいいや)と愉快な村人達です。(抜けてる人いたらごめん) はらわたさん成分が薄いのは、はらわたさんはちょっと何言ってるかわかんないことが多くてトレースできなかったからです。はらわたさんの強烈なキャラクターを自分の物にできませんでした。私の力不足です。 特定の誰かを揶揄する意図はなく、件の感想欄、ひいては掌編の間の雰囲気が新参さんが近寄りがたいものになってるのをパロディ化した作品でした。とはいえこれを読んで不快に思う方もいるでしょうね。先に謝っておきます。ごめんなさい。 匿名の卑怯者さん 感想ありがとうございます。 >「普通」ってほんと嬉しい言葉じゃないからね ◆決していい意味では使われない「普通」! >まともなスレ主のスレは伸びないって言うから、先日の自分に酔っちゃってるの丸出しな作品みたいになんねーって予想すっけど…。 ◆ちょっと何言ってるかわかんないです。 神原さん 感想ありがとうございます。 >村長が誰なのか? 意外と私だったり? ◆神原さん成分も含まれています。私が作り出す究極生物の素材に選ばれたことを光栄に思うがいいっ!(この後自分が作ったモンスターに殺されるヤツ) >一つ難があるとすれば、一文が長い事でしょうか ◆長いですか。うーん、最初の一文は確かに長いけど、「出版社を目指してたのになんで遭難してんねん!」というギャグでこれは真面目に読む作品じゃないですよというシグナルを出してるので分割できなかったんですよね。それ以外は普通じゃないかなぁ。長いのか? Levさん 感想ありがとうございます。 >地図をもっていたのにどうして山のなかへ入ってしまったのかという疑問もあるが ◆↑にも書いてますが、この作品はギャグであるということを早めに提示しておきたかったんですよね。中盤以降のパロディに入る前に読者に笑ってもらう準備をさせないと不快に思われる危険が高まるので。 >村八分にしなきゃならないから死んでもらうというのもややおかしな感じがする ◆このちょっと何言ってるかわかんないのははらわたさん成分です。 >少しラストが急でオチも弱い気がした ◆昔ここで書いてたときも毎回のように「オチが弱い」と言われ続けてました。8年経ってもまだ治ってない! >御作をつうじて皮肉の対象としてわらいものにされた私 ◆不快に思われましたらごめんなさい。 |
2022年11月08日(火)20時36分 | Lev 9tY/WyLg92 | +30点 | ||||
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まず、出版社へ行こうとしたら森へ迷う設定がぶっとんでいておもしろい。 地図をもっていたのにどうして山のなかへ入ってしまったのかという疑問もあるが、そういう細かいことをふきとばす勢いと軽快さがこの作品にはあり、ついつい読まされてしまう。それだけ文章力と展開がよかったということだろう。 村八分にしなきゃならないから死んでもらうというのもややおかしな感じがするが、掌編の展開としてはこれくらいでちょうどよかったのかもしれない。しいていえば、少しラストが急でオチも弱い気がしたのと、作品の性質上ここでしか通用しないアイロニーがあるのが少しもったいないかなと思うくらい。 とはいえ、ここの現状を揶揄しわらいにしている内容がとても痛快だった。作中の村民のくだらなさやバカらしさなどを外部の人間視点で描くことで、その異常性や変質的な空気がより一層強調されていた。そもそも「村」という設定も「閉鎖的」な世界であることを強調するための計算で、よくエスプリが効いていたように思う。 御作をつうじて皮肉の対象としてわらいものにされた私だが、作者様の文章力には脱帽。次回作にも期待したいところ。まずはおつかれさまでした。
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2022年11月08日(火)06時33分 | 神原 | +20点 | ||||
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こんにちは。 ちょっと面白かったです。 村長が誰なのか? 意外と私だったり? 一つ難があるとすれば、一文が長い事でしょうか。以上から良かったです。を置いていきたいかな、と思います。ではでは。
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2022年11月08日(火)05時20分 | 匿名の卑怯者 | +20点 | ||||
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お、書きたかったヤツだ! もうちょっと踏み込んだ内容にしてほしかったw だがま、村長ってのが誰のこと言ってんのかわかりやすくてよかったぞー。足して2で割ったかもしれねーがーw 勘違いした使命感や仲間意識がどんだけ迷惑かってねw ケンカがあったりやべぇヤツを村八分にしようとしたりするとどっかからアレが飛んできて「うおおおおお! かわいそうだー! あいつは正しいんだー!」とか言ってね。 そもそもタイマンでケンカしてても勝手に劣勢な方に加勢し始めるからね、アレは。 卑怯にも数の利を作って「あぶないところをありがとう!」みたいなね。 そうやってやべーやつで膨らんだ集団だからね、しょうがないねww それから、「普通」ってほんと嬉しい言葉じゃないからね、あの感想書く人ももうちょい言葉に敏感な人だったらよかったのにね、もったいないね。 実際批評すんだから名人様な書き方になっちゃうのしょうがないとこはあるっつてもねー、夢と希望で書き始めた初心者がいきなりあの感想もらったら大抵逃げるだろーなw そもそも何基準で「普通」なのかっつー話だよな、ここ基準なら平均0点じゃねーと変だろ、巷のプロ基準で「普通」0点ならここは才能の宝庫だなw なんにせよ評価は普通だぜ! 普通に面白かったぜ! まともなスレ主のスレは伸びないって言うから、先日の自分に酔っちゃってるの丸出しな作品みたいになんねーって予想すっけど…。
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合計 | 4人 | 90点 |
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