死にたがりの幽霊 |
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朝、家を出て、女の子が自分を待っているというシチュエーションは、男なら誰でも憧れるものなんじゃないだろうか。 相手が透けてなければ。 「おはようございます、除霊師さん。今から学校ですか? 可哀想に、今日も便所飯ですね」 「いきなり凄まじい挨拶だね」 声の主は、やや古風なセーラー服を身にまとった幽霊少女、双葉さん。 そう、幽霊だ。 僕、礎谷終夜は、目の前に立ち塞がる霊体をすり抜け、学校へと足を向ける。すると案の定、彼女も僕の後ろを付いてきた。 「あのさ、いい加減、僕のことを付け回すのやめてくれないかな?」 「除霊師さんが私のことを殺してくれればやめますよ」 果たして、この台詞を聞くのは何度目になるだろうか。聞く度に物凄い違和感を感じざるを得ない。 「……君、もう死んでるじゃんか」 「何言ってるんですか。思考も会話も出来るのなら、こんなの生きてるのと何も変わりません。せっかく自殺したのに、幽霊になるなんて聞いてませんよ。霊体の身だと自分で死ぬこともできないみたいですし、あなたに頼むしかないんですよ」 「そうは言ってもねえ、僕らの標的は“怨霊”なんだ。君みたいな浮遊霊は管轄外だよ」 「なら、私にこのまま彷徨えと?」 不服そうな表情で、頬を膨らませる双葉さん。整った顔立ちも相まって、何とも愛らしい。これは需要が高いんじゃないだろうか。 透けてなければ。 「そんなこと言ってないだろ。この前、成仏専門の霊媒師を紹介してやったじゃないか」 「そんなのは嫌です。だって━━━━」 と、双葉さんはそこで、少し言いにくそうに間を空けた。 「転生したところで、どうせ私は毎日便所飯でしょうから」 「いや、君が便所飯だったのかよ!」 驚きの事実だ。ならさっきの挨拶は、ひょっとして僕に過去の黒歴史を押しつけようとしていたのだろうか。 酷すぎないか。 「そして昼休みに色々あって、鳩のフンまみれの制服で帰宅することになるんです」 「昼休みに何があったの!?」 「帰り道は私の前を常に大量の黒猫が横切るだろうし」 「むしろ凄えな!」 「そして家のドアの前で鍵を落とし、拾おうと前屈みになったところで顔面をぶつけて前歯を折るんです」 「どこまで最悪のパターン予想してんだよ!怖ぇ!!」 僕が一通り突っ込み終えると、双葉さんは両手で顔を覆い、シクシクと泣き始めた。多分振りだろうけど。 「それなのに、私にもう一度あんな地獄を経験させようとするなんて、除霊師さんは何てサディスティックな人なのでしょう、変態なのでしょう……! そんなことだから、保育園の前を横切っただけで通報されたりするんです」 「されてないよ!? ていうかそれどういうシチュエーション!?」 「だって除霊師さん、見るからに怪しいじゃないですか。目も淀んでるし、歩いてるだけで変態みたいですよ? そのうち本当に× × とか× × しそう……」 「僕の事どんな目で見てるの!?」 まあ、変態といえば、双葉さんのテンションに乗せられて大声で喚いている今の僕は、中々に変態っぽいかもしれない。何せ、僕以外に彼女の姿は見えないのだし。 向かいから歩いてきた女子高生が、僕の方を見てクスクス笑っているのに気付いた。よし、少し声のトーンを下げようか。 「まぁ、そういうわけで、私には未来もクソもないんです。どうか殺してください」 「嫌だね」 除霊師である僕が罪もない浮遊霊を殺したりすれば、一体どんな処罰が待っているか分かったもんじゃない。面倒事に関わるのだけは真っ平ごめんである。 「そんなこと言わずに。あなたたちがいつも倒してる怨霊と比べれば、私なんてチョロいものでしょう?」 「『いつも倒してる』、ねぇ…」 彼女の中では、除霊師はそんなにサクサクテンポ良く怨霊を退治しているイメージなのだろうか。 除霊師の力にも、各々の個人差があるというのに。 「何か言いましたか?」 「いや、何でもないよ」 そんな事を話しているうちに、学校が見えてきた。家から近いのもあって遅刻ギリギリの登校なので、辺りにほとんど人はいないけれど。 「バイバイ、双葉さん」 一気に校門を越える。大丈夫、双葉さんは、学校の敷地内に入ることができない。先程の会話からも分かる通り、彼女は大の学校嫌いなのだから。 「あ、ちょっと待ってください! 学校は私を殺してからにしてくださいよ!!」 無理な相談だった。 自殺志願者の戯言を背に、僕は校舎へと向かった。 |
ナンノコッチャ FiMEyD62Ns 2022年10月18日(火)10時23分 公開 ■この作品の著作権はナンノコッチャさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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2022年12月29日(木)10時42分 | ジェノサイダー田中 | +10点 | ||||
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なんかテンポよくて面白かったです。 ただ、他の方の言う通り、やはり「お話の風呂敷を広げてそのまま」感が強かったです。他の浮遊霊だとか、主人公が怨霊をぶちのめすシーンとかがあってこそ輝くような作品だと思うので、もっと長くしたらより面白くなると思います。
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2022年10月22日(土)03時36分 | ナンノコッチャ B2F39b9zt. | 作者レス | ||||
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壁のでっぱりさん、感想ありがとうございます。 >コントのノリで楽しめました。 ツッコミがなんかよかったです。 ありがとうございます。 >個人的には、きちんと除霊師の設定がされているのがちょっとマイナスだったかも……。 確かに設定を活かしきれていなかったかもしれません。精進します。 |
2022年10月20日(木)11時03分 | 神原 | |||||
ごめん、ちょっと勘違いしていました。 除霊=成仏させて払うんだと思っていましたが、除霊って払うだけなんですね。なるほどです。では、前の感想の意地悪と言う部分を撤回しますね。ではでは。
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2022年10月19日(水)17時15分 | ナンノコッチャ FiMEyD62Ns | 作者レス | ||||
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神原さん、感想ありがとうございます。 >ちょっと掛け合いがくどい気もします。 台詞を見直してこれから改善できたらと思います。 >となると殺すと言う響きが主人公のためらいに繋がっている様に感じますが、実際は真逆なのだろうと思うので、成仏させない主人公がいじわるな気もします。 すみません、ちょっとよく分かりませんでした。主人公は怨霊を祓う能力しかなく、成仏させるスキルがないというだけで、別に意地悪というわけではないと思うのですが。 |
2022年10月18日(火)11時20分 | 神原 | |||||
こんにちは。 このお話、序盤も序盤ではないですか。ここからお話を広げたり畳んだりする処だと思うので、このままの状態で終わりまでいけば20点くらい入れたい内容でしたが、冒頭だけを評価する気はないので、評価外になります。 ちょっと掛け合いがくどい気もします。 幽霊を殺すと言うのもちょっと……。主人公もそう思っていますが、成仏させるくらいが妥当だと思います。となると殺すと言う響きが主人公のためらいに繋がっている様に感じますが、実際は真逆なのだろうと思うので、成仏させない主人公がいじわるな気もします。 以上から評価外を入れたいと思います。では。
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合計 | 3人 | 20点 |
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