星を葬る旅人
<<一覧に戻る | 作者コメント | 感想・批評 | ページ最下部
 夕陽に沈んでいく田んぼ道。買い物を終えた帰り道を一人で歩いていると、見慣れぬ男性とすれ違った。
 この村に住んでいる人の顔はみんな知っている。なにしろ山々に囲まれた小さい村。外から隔離されているような狭い世界なのだから。
 その少女、エリカは母の言葉を思い出す。
「いいかい、見知らぬ人について行ってはいけないよ」
「お母さん、見知らぬ人なんていないじゃない」
「そうね。知っている人だけで平和に暮らせているうちは、心配なんていらないね」
 それが平和な世界とイコールであると言っていいのか、まだ小学生のエリカには分からなかった。もし、顔の知らない人が現れたとしたら、平和な世界は崩れてしまうのだろうか。
 今、目の前を通り過ぎて行った男性は、見たことのない人だ。見た目は30代くらいで、背が高く線の細い都会的な男の人だった。テレビで見るような綺麗な身なりをしている。
「あの」
 と言ってから、しまった、と思った。
 咄嗟に口元を手で押さえる。
「ん?」
 男の人は立ちとまり、振り返ってエリカを見た。静かで深い緑色の美しい瞳が彼女を捉えた。
 話しかけてはいけないと言われていたが、こうなってはもう何か言わなければならない。
「し、知らない人」
 口に出してしまってから、自分でも訳のわからない事を言ってしまったことに気付き顔を赤らめた。
 男の人は一瞬不思議そうにエリカを見て、それから一気にその顔を崩して微笑んだ。
「ははは、そうだね」
 彼は優しそうな笑顔をした。
「僕も、君を知らないな。僕は旅人だからね。いつも知らない人ばかりさ」
 エリカの中の彼に対する不信感は薄らいでいた。彼の話し方や表情に、怪しそうな感じはなかった。それに、よく考えてみたら知らない人がみんな悪い人だとは限らない。
「どうして、ここにきたの?」
 気になって、エリカは尋ねてみる。
 すると、彼はゆっくりとそして確信めいた表情で、
「星を葬りに来たのさ」
 と言ったのだった。

 彼の名は、ハシノカミと言った。
 職業は星の葬儀屋らしい。主に空に浮かぶことのできなかった星、出来損ないの流れ星というらしいけれど、それを両手で掬い上げて弔い、それに適した地に帰すのだそうだ。
 彼に言わせると「空にきちんと浮かぶのは一流の星だ」そうだ。
「多くの星は、人知れず浮かびきれずに落ちてしまう。人はそれを流れ星と呼ぶけれど、実は儚い星の姿なんだよ」
 エリカはよく分からなかったけれど、星というワードが綺麗で、彼のしている仕事は素敵なことなんだろうなと思った。
「星っていうのはね、人の思いが創るんだ」
 ハシノカミはそう言った。
「人の理想や願いや、そういう未来を思う気持ちは、みんな星になるんだよ。知らず知らずのうちに、人はみんな星を浮かべてる。でもそれは悪いことじゃない。それを道標にして、人は努力することができるんだ」
 彼はゆっくり息を吸い込んだ。
「何度も何度も星を作っては空に浮かべる。夜空は人々の思いでいっぱいなんだ」
 エリカは暗くなり始めた空を見上げて、彼の言葉を重ね合わせた。それはそれは、今までにみたことがないほど美しく感じた。

 翌朝、ハシノカミは村を去る時、エリカの頭をそっと撫でた。
「君の星は、昨日の夜、僕が葬ったよ」
「えっ」
 エリカは驚いて彼を見上げた。
「落ちたんだ。君の中の何かが」
「私の中の何か?」
「勘違いしないでね。それは悪いことじゃない。昨日も言ったように、人は何度も星を創れる。また違う星を創れば良い」
 エリカはそっと頷いた。
「何事も良いことも悪いこともある。大事なのはそれを受け入れる心だよ」
「わかった」
 エリカが頷くと、彼は出会った時と同じように表情を崩して笑った。
「それじゃあね。この村には、君の星を葬りに来たんだ」
「また会える?」
「たぶんもう会えないだろうな」
 彼は笑う。
「君は次は失敗しないで星を創ることが出来るからさ」
守りびと 

2022年09月25日(日)20時24分 公開
■この作品の著作権は守りびとさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
守りびと名義では二作目。
反響を呼んだ前作に続き、私の思いを作品にしました。
ぜひ読んでみてください。


この作品の感想をお寄せください。

2022年09月27日(火)21時03分 守りびと  作者レス
Levさん、ありがとうございます。
この小説を丁寧に読んでいただけたことが伝わってきました。
この作品をもっと良くするためのヒントを頂けたことに感謝いたします。
エリカの失敗について、作品内では書いていませんしヒントも出しませんでした。これは良くなかったですね。逆に、ここを作品内で示すことで作品が独立した物語として成立したと思います。
「一流」という言葉の使い方、「星を葬りに来たのさ」のセリフにも客観的にどう感じるかをもっと考えるべきだったと思います。
この小説はどんな思いで読んでいただいても大丈夫です。
何かを重ねていただいても、小説単体として読んでいただいても、私としてはどちらの感想もどんなご意見も素直に受け入れます。
読んでいただき感想をいただけたこと、ありがとうございました。

pass
2022年09月27日(火)20時02分 Lev  0点
星というのは「人の理想や願いや、そういう未来を思う気持ち」であったり、努力するための「道標」でもあるが、多くの星は「人知れず浮かびきれず落ちてしまう」もの。そして「空にきちんと浮かぶのは一流の星だ」という。
 
では、エリカが落とした星とはいったいなんだったのか。しかも落としたことを「失敗」といっている。いち読者としてはそれがさっぱりわからないのでスッキリしない。エリカの星、つまりエリカの理想や願い(それ以外かもしれないが)があらわれている部分がそれ以前にしめされていないので、この展開にしっくりこない。抽象的で解釈の余地が広いのはわるくはないが、エリカの変化はせめて書くべきだったのではと思う。

「空にきちんと浮かぶのは一流の星だ」の「一流」の意味もよくわからない。あげあし取りになるかもしれないが、ひとが創る星について語るハシノカミのセリフとしては、ひとの思いや願いに優劣をつけているようで個人的にもやもやした感じがのこる。

そのほかで気になるのは「星を葬りに来たのさ」というセリフ。日本語としては正しいが、映画やアニメ・漫画の敵キャラが「お前を葬ってやる」といっている場面を何度もみた私にとっては、このセリフを警戒心のある少女が夕ぐれ時に見知らぬ男からいわれるのはちょっとこわい。「星を弔いに来たのさ」であれば緩和されると思うが、ここは個人の感じかたなので気にしなくてもいいことなのかもしれない。

前作の内容や当サイトの現状、作者コメント等は、評価するうえで対象外にしているので、あしからず。あくまで作品本文のみで判断させていただくと、この点数になることをお許しいただきたい。
19

pass
2022年09月27日(火)12時34分 守りびと  作者レス
シャーミさん、読んでくださりありがとうございます。
>>夢のある素敵なお話でした
とても嬉しいお言葉です。
私はこの小説を児童文学のようなテイストで書きました。宮沢賢治さんの作品などもそうですが、意外と童話ってメタファーを含んでいて、わかったようなわからないような作品が多いと思います。
その方が読んだ人の数だけ受け取り方ができるので、私は結構好きなんです。
もちろん人によって受け取り方が違わないように作品内で明確に示す小説も素晴らしいと思いますが、私が今作で目指したのは前者のような作品です。
>> 静かで深い緑色の美しい瞳が彼女を捉えた。
ここについてはたしかに主語が長いですね。自分では気づけませんでした。
読みやすい文章はいつも意識しているので、反省して今後に活かしたいと思います。
ありがとうございました。

pass
2022年09月27日(火)09時48分 シャーミ sbszQbmK06 +20点
 拝読しました。
 夢のある素敵なお話でした。メタファーがどれで、何を表しているか見当もついていませんがそれはまた別のお話。一人で考えておきます。特に指摘することはありません。強いて言うなら

 >> 静かで深い緑色の美しい瞳が彼女を捉えた。<<
 ここ、主語が大きいかなって思いました。ここは叙述用法の方が適していそうです。

 僕は”良い話”を書こうとすると少なからず不幸を起こそうとします。当作はそういう僕の固定観念を否定してくれて、とてもいい刺激となったようです。

 ありがとうございました。執筆お疲れ様です。
21

pass
2022年09月27日(火)07時29分 守りびと  作者レス
金木犀さん、この作品も読んでくださりありがとうございます。
メタファーについては、前作の反省点を意識して書きました。
ただ、ご指摘の通りで、初めてここに来た方がこの小説を読んだ時にどう感じるだろうかという視点は薄くなってしまっていました。
自分も含めこれまでの経緯を見てきている方には何か感じるもの考えるきっかけになってくれたらと思って書いていますが、そこに集中しすぎてしまっていましたね。
また、エリカの視点移動については個人的には特に違和感はなく書いてしまっていたので貴重なご指摘ありがとうございました。
読んでいただいた人の意見というのはやはり自分では気付けないことがあるので大変ありがたいです。
ありがとうございました。

pass
2022年09月26日(月)12時08分 金木犀 gGaqjBJ1LM 0点
こんちゃ、読ませていただきます。

まず率直に言って僕の作品よりしっかりとしたメタファーが込められていたと思います。

しかしながら、作品のメッセージとしてはやはり内輪で、はじめて利用し、読む人にはなにがなんだかわからないかもしれません。

ストーリーが面白いから読むタイプの作品ではなく、この作品に込められた星などの暗喩を読者各々がどう受け取るのか、どう感じるかが、大事な作品ですね。

なのでこの作品を内輪ではなく、外側から見た場合どう見えるのか、それは結構大事な要素になるかもです。

そういう意味では内輪としては良かったですが、冷静に見ると今のストーリーだとドラマが足りず退屈かもしれません。

〉〉その少女、エリカは母の言葉を思い出す。

→ここ視点移動が唐突でした。これを書く前にあらかじめ少女を画面に登場させないといけないんじゃないかと思います。

では。執筆お疲れ様です。
21

pass
2022年09月25日(日)21時32分 守りびと  作者レス
ありがとうございます。
神原さんはいつも真っ先に読んでくださる貴重な読者様です。
鋭い考察ですね。
メタファーとして書いているので正解はありませんが、私は少なからず前作のことを考えながらこの作品を書きました。
今回私はこの小説を楽しみながら書きました。それが前作との最大の違いかもしれません。小説って無限の可能性があって、いろんな表現の方法があって伝え方がある。本当に楽しい娯楽だと思います。
引き続きこれからも私は思いを星にして空に浮かべていきたいと思います。

pass
2022年09月25日(日)20時50分 神原  +10点
こんにちは。

人々の願い。村。崩壊。少女のどんな思いが流れ星になったのか? これが分かりません。ここの事であるのなら、新しい人が来たからと言って崩れ去る事はないでしょう。

願いが一つ地に落ちた。ハンカチーフの事を言っておられるのかな? と考えました。実験作の失敗、次はきちんと★が出来る。今作の事?

ちょっと遠回しすぎて、内容が何を示唆しているのか分かりませんでした。これを何も考えずに読んだなら、少し良かったです、あたりでしょうか。

ハシノカミ、以外とぐぐるといるんですね。偶然かもですが。

ちょっととりとめもない感想になってしまいましたが、こんな処で少し良かったです。を置いていきたいと思います。
22

pass
合計 4人 30点


お名前
E-Mail  公開しない公開する
↑作者レスをする場合は、作品投稿時のメールアドレスを入力して下さい。
−− メッセージ −−
作者レス
評価する
 PASSWORD(必須)  トリップ 

<<一覧に戻る || ページ最上部へ
作品の編集・削除
PASSWORD