明治二刀剣客蒸気奇譚《微笑う人斬りと電脳の少女》
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第一章 微笑う人斬り

 明治9年3月の東京。
 薄気味悪い路地裏に絹を裂くような悲鳴が響くのを、鷹山善弥は確かに聞いた。
「……ん?」
 若者らしく頭は散切り。着物袴にワイシャツという、書生風の恰好をしている。だが、腰には大小二本の刀を差している。
 顔立ちは細めた目が猫のようで、柔和な印象を与える。
 どうにもちぐはぐな男だった。
 善弥は悲鳴の聞こえた方へ足を進めた。
 下町の入り組んだ路地裏を少し進むと、異様な光景を善弥は見た。
 一人の少女をガラの悪い男たち――恐らくは筋者だろう――四人に取り囲まれている。それだけならまだ珍しくはない。
 問題は彼らが取り囲んでいるのが、金髪の西洋人だった事だ。
 美しい金髪が、さらりと肩に流れている。頭の両側で束ねられた髪が広がり、根元で黒いリボンだのような光沢のある髪飾りをしている。
 すっと通った鼻梁に、透き通るように白く滑らかな肌。桜色の唇が艶めかしい。
 落ち着いた色味のドレスを着ていて、まるで人形のようだった。
 その美しさに、善弥は一瞬目を奪われた。自分でも気が付かないほど、ほんの一瞬だけ。 気付けば善弥はまた一歩、路地へ踏み入れていた。 
「離して!」
 金髪の美少女が声をあげる。
 日本語だった。
「へっ、大人しくしろ」
 取り囲んでいる男の一人が、少女の腕を掴み上げる。
 少女は逃げられない。
「離したらあげたらどうですか?」
 善弥が口を開いた。間の抜けた声だった。
「あ?」
 男たちが振り返る。  
「彼女、離してって言ってるじゃないですか」
 にこやかな顔のまま、善弥は言った。
「何だてめぇ?」
「ただの通りすがりですよ」
 男たちは首をひねった。
 善弥の言葉には凄むような響きが全くない。
 チラリと善弥の腰――刀に目をやる。
「けっ、おおかたお節介な士族様ってところか」
 一人の男が善弥に歩み寄った。
「もうてめぇら侍の時代は終わってんだよ。てめぇみたいな若侍にビビるかよ」
「うーん、別に脅してるわけじゃないんですけどね。ただ女ひとりを男四人で取り囲むって、何だか格好悪いなぁ……と」
「――舐めてんじゃねーぞこのガキぁッ!」
 男が善弥に掴みかかった。 
 善弥に掴みかかろうとする手をすり抜けて、逆に善弥が男の腕を掴む。
 体を捌く勢いで男を引き込みながら、足を払った。
 たちまち男の体が宙を舞う。
「なッ⁉」
 男たちが予想だにしていない展開に戸惑う。
 その隙に、善弥は先手を打って動いた。
 少女の腕を掴んでいる男の腕。その手の甲のツボを指圧する。
「ぎゃっ!」
 少女の腕を掴んでいた男は、痛みにうめく。
 そのまま腕をひねり上げて、下へと落とす。
 二人目の男も、あっさりと転がった。
 善弥は残りの二人へと向き直る。
 位置関係としては、少女と男たちの間に割って入った形だ。
「野郎!」
 残った二人のうちの一人、背の低い男が懐からドスを抜いた。
 刃渡り十五センチ程の刃物だ。
 ダッ! と地を蹴って、腰だめに構えて突いてくる。
 善弥は刀を抜かなかった。
 ドスの切っ先をそらしつつ、納刀したままの状態で、腰の刀を前に突き出した。
 刀の柄頭を、ドスを抜いた男の脇腹に叩き込む。
「う……ぐっ!」
 うめき声をあげて倒れる男。
「……こりゃあ驚いたぜ」
 最後に残った男が言った。
 男たちの中ではリーダー格の男なのだろう。
 長身に派手な色の着流し。顔に傷。鋭い眼光。
 筋者らしい太々しい態度と表情が印象的だった。
「ただの優男かと思えば、中々やるじゃねぇか」
「僕の実力が分かっているのなら、引いてもらえませんか?」
 事もなげに善弥は言った。
「抜けた面して、好き放題に言いやがる。俺らみてぇのは舐められたら終わりなんでな。そう易々と引き下がれるかよ」
「ヤクザさんも色々大変なんですね」
 善弥は顔色一つ変えない。
 煽っているのか。虚仮にしているのか。
 全く表情から読めなかった。
(ったく、一体何なんだこのガキは……!)
 若干の薄気味悪さを感じながら、リーダー格の男は懐に手を突っ込む。
 そして得物を抜いた。
 手に握られているのはドスではない。拳銃だった。
 六連発のリボルバー式拳銃。
「いくらてめぇの腕が立とうが、こいつの前では形無しだろ?」
 善弥に狼狽えるような素振りはなかった。
 ただ、
「うーん」
 と困ったような顔をする。
「出来れば刀を抜きたくはないし、この辺りで流血沙汰は起こしたくないんですけどね」
「あん?」
「命の取り合いをする覚悟、あります?」
 一瞬、その場の気温が低くなったようだった。
「はっ! 上等――」
 リーダー格の男は引き金を躊躇なく引いた――否、引いたつもりだった。
 しかし、発砲音はしない。
 ボトッと音を立てて、男の右手首が拳銃を握りしめて足下に転がっていた。
「ぁぁ……ぐぁぁぁあ!」
 気づけば腰の刀を抜き放った善弥が、男のすぐそばに立っていた。
 リーダー格の男は信じられなかった。
 善弥との距離は5メートルは離れていた。それを一瞬で――それこそ指が引き金を引くよりも速く、善弥は抜き打ちでリーダー格の男の右腕を切り落としていたのだ。
 鮮やかな居合の技。
「うぐぅ……」
 リーダー格の男は、右腕を押さえて膝をついた。
 傷口からぽたぽたと血が流れる。
「命までは取りません。早く逃げていいですよ」
 事もなげ善弥は言った。
 リーダー格の男は無言で歯ぎしりし、善弥を睨む。
「あれ? どうしたんですか? 早く止血しないと、本当に死んでしまいますよ」
 筋者の男たちは、いよいよもって寒気を感じた。
 善弥は心底不思議そうな顔をして、微笑んでいる。
 穏やかな、聞き分けのない幼子に話しかけるような、そんな笑顔で。
 不気味だった。
 あまりにも無垢な笑みと、何の迷いも逡巡もなく、白刃を振るって人の腕を切り落とせる冷酷さ。
 それらが渾然一体となっている鷹山善弥という存在に、男たちは恐怖した。
「に、逃げろ!」
「うあああぁぁ!」
「ば、バケモンだ!」
 蜘蛛の子を散らすように、男たちは逃げて行った。
「化け物だなんて、失礼な人達だなぁ」
 間延びした声で、善弥は呟いた。
 懐から懐紙を取り出す。刀に付着した血糊を綺麗にぬぐうと、パチリと鞘に納めた。
「大丈夫ですか」
 善弥は少女に向き直った。
 背後で少女は地面にへたり込んでいた。
「……あ、ありがとう」
 震える声で礼を言う少女。
 ガクガクと足が震えている。
 善弥が手を差し出す。少女はビクッと肩を震わせた。
「…………」
(怖がらせちゃったか)
 善弥は内心でひとりごちる。
 善弥には人の気持ちが分からない。昔からそうだ。
 目の前で平然と人の腕を切り落とした男に手を差し出されても、感謝より先に恐怖が勝つ――それがイマイチ分からないのだ。
 もしかしたら、もっと他にやりようがあったのかもしれない。
(さて、どうしたもんか……)
 怯えたままの少女の前で、善弥が困り果てていたその時。
 ぐうぅぅぅう――と間の抜けた音がした。
「へ?」
「……あ」
 少女は呆気にとられた顔をし、善弥は恥ずかしそうに頭を掻く。
 間の抜けた音の正体は、善弥の腹の音だった。
「いや〜お恥ずかしい。昨日から何も食べていなかったところで、動き回ったものだから、ついお腹が……」
「――プッ」
 緊張が解れたのだろうか。少女はこらえ切れないという風に吹き出した。
 カラカラとさっきまでの怯えが嘘のように笑う。
「フフッ……あなた変わってるわね」
「よく言われます」
「さっきはごめんなさい。突然の事で、ちょっと戸惑っちゃって」
 少女は善弥の手を取って立ち上がる。
「さっきはありがとう。助けてくれて」
 にこやかに微笑む少女。その笑みはまるで絵画のように美しい。
「何かお礼がしたいわ」
「礼に及びませんよ――と言いたいところですが」
 善弥は気の抜けた笑顔のまま言う。
「お腹と背中がくっつきそうでして。何か奢ってもらえませんかね」
「日本には『武士は食わねど高楊枝』って言葉があるんじゃなかった?」
「『腹が減っては戦はできぬ』とも言いますよ」
「貴方って本当に変わってるわね」
 少女は可笑しそうに笑った。
「いいわ、お礼にご馳走してあげる。行きましょう」


 
 二人が向かったのは、流行りの牛鍋屋。
 文明開化以降、肉を食べる食文化が一般化してきており、中でも牛鍋(すき焼き)は庶民のご馳走だった。
 奢ってくれるなら是非にと、善弥が願い出たのだ。
「良く食べるわね」
「そうですか?」
 善弥の前には特大に盛られたご飯と肉の皿。
 この笑顔の青年は、柔和な顔に似合わず図々しい性格をしているようで、店に入ってから既に何度もおかわりを繰り返していた。
 細身の身体からは想像もできないほど、善弥は肉と米を詰め込んでいた。
「言ったでしょう、何も食べてなかったんですよ」
『空イタオ皿ハ、オ下ゲシテヨロシイデショウカ?』
 横合いから声をかけられた。肉声ではなく電子音で。
 給仕の恰好をした自動人形(オートマタ)だ。
 人の姿を模したおり、簡単な作業や受け答えができる。
 内燃機関とゼンマイやバネで動くこの自動人形は、大英帝国で発明され、日本にも広く流入している。
「構いませんよ」
 善弥は空いた皿を自動人形の持つお盆に乗せた。
 カチャカチャと歯車が嚙み合う音がして、自動人形が皿を持って厨房へと戻っていく。
 肉を食い、自動人形が給仕をする――時代の移り変わりを強く感じる光景だ。
「まぁこっちは危ないところを助けてもらったから、これくらいなら構わないけど」
「ありがとうございます……ええっと」
 善弥が口ごもる。
「そう言えば、まだ名乗ってなかったわね。私はリーゼリット・アークライト。大英帝国から来たの。あなたは?」
「僕は鷹山善弥っていいます」
「タカヤマゼンヤ――善弥ね」
 金髪の少女、リーゼリットはたどたどしい発音から、すぐに流暢な発音で善弥の名前を呼ぶ。
 そうだ。あまりにも自然に話していたから忘れていたが――
「リーゼリットさんは随分と日本語が上手なんですね」
「父が学者で小さいころから色んな学問の勉強をしたの。その時に語学――日本語も習ったから」
 なんて事のないようにリーゼリット。
「それとリーゼリットって言いづらいでしょ? リゼでいいわ」
「それじゃリゼさん」
 善弥は言い直す。
「何でわざわざ日本へ?」
「別に。ちょっと観光よ」
「一人でですか?」
「……そうよ」
 リゼは顔を逸らした。
「女性の一人旅はまだまだ危険だと思いますけど」
「それは……まぁそうね」
 それこそさっきまで筋者の男たちに絡まれていたのだ。
 近代化著しい日本であるが、明治9年――御一新から十年と経っていない。国の転換期、技術進歩の過渡期にあるこの国の治安は、まだまだ良いとは言えない。
 むしろ激しい世の移り変わりに乗り遅れた者たちの心は荒み、徳川家が君臨していた幕末以上に陰惨な出来事も増えているように感じる。
「誰かこの国にお知り合いや頼れる伝手はないんですか。ないようであれば、早く帰られた方がいいと思いますけど」
「いいでしょう別に。私はこの国でやらなくちゃいけない事があるの!」
 大きなお世話だと言わんばかりに、リゼが声をあげる。
 と、その時だった。
 店の戸が開き、人相の悪い男たちが入ってくる。
 肌の色が白く、彫りが深い――皆西洋人の男で、黒いスーツを着ていて、胸にはW&Sの意匠が入ったバッジを付けている。
 物々しい雰囲気だった。
「ッ――!」
 男たちを見て、リゼが息を呑む。
 サッと血の気が引いて顔色が変わった。
 善弥はそれを見逃さなかった。
「……単刀直入に聞きます。追われてるんですか、リゼさん?」
「……ええ」
 入口で店員と押し問答をしながら、男たちは店内を舐めるように見回す。
 リゼを見つけ、店員を押しのけて、こちらのテーブルに向かってくる。
「捕まりたくないですよね」
「当たり前でしょ」
「じゃあ」
 右手で脇に置いた大刀を掴む。左手は手ぬぐいを添えて、鍋を持つ。
(もったいないが仕方ない)
「逃げましょう」
 男たちが善弥とリゼの前まで来た。
 その瞬間、善弥は鍋の中身を男たちに向かって投げつけた。
 煮えたぎった鍋の中身が、先頭にいた男にかかかる。
 先頭にいた男は悲鳴を上げた。
 男たちは善弥の思わぬ行動に面食らう。
 その隙をついて、善弥は鞘に納まったままの大刀で、瞬時に男たちを殴り倒した。
 鈍い音がして男たちが倒れる。頬を張られ、歯が折れた者もいるかもしれない。
「行きましょう」
 善弥はリゼの手を掴むと、店の入口から外へと走りだした。
「(クソッ! 追え!)」
「(逃がすな!)」
「(あの野郎ぶっ殺してやる!)」
 後方で男たちが口々に何やら叫んでいる。英語なので善弥には何と言っているか分からない。ただ怒っている事だけは分かる。
 店の外にも黒服の仲間と思わしき男たちが控えていた。
(いざという時の為に、後詰めもいたのか。本気で捕まえにきてるなぁ)
 後詰め男たちが何事かと店から飛び出てきた二人を見るが、何か行動を起こすよりも早く善弥が動く。
 鞘入りの大刀で脳天に一発。
 男の一人が仰向けに転がる。
「リゼさん走って」
 善弥はリゼの手を引いて走った。
「ちょ、待って!」
 リゼの足がもつれる。
 彼女は踵の高いブーツを履いていた。
(このままだと追いつかれるな)
「ちょいと失敬」
 善弥はリゼの背と膝裏に手を回して抱き上げた。
「え!? な、何!?」
 急な事に顔を赤らめるリゼ。
「暴れないでください」
 善弥はリゼを抱えたまま、変わらぬ速さで走り続ける。
 細身の身体からは予想もできない膂力と健脚に、リゼは驚いた。
 大通りに出ると、辻馬車を見つける。
(あれだ)
 善弥は御者の許可も取らずに、辻馬車に乗り込んだ。
 客を待っていた辻馬車の御者は、いきなり乗り込んできた善弥たちに驚く。
「な、何だあんたらは?」
「手荒な乗車申し訳ありません。急いでいるんです。すぐに出してもらえますか」
「は? 何を言って――」
「お願いします」
 張り付いた笑顔のまま、善弥が強く言った。
 ことさら声のトーンが変わったわけではないのに、言い知れぬ圧力を御者は感じた。
 御者は返事もせずに慌てて手綱を操った。
 二頭の馬が嘶きをあげて、馬車が走りだす。
「馬車を出したのは良いんだが……そ、それで何処へ行けばいいのかね?」
 御者が振り返って善弥に尋ねる。
「そうですねぇ」
 善弥が後ろを振り返って言う。
「アレから逃げられれば何処でもいいんですけどねぇ」
「まだ追ってきてるの!?」
 リゼも背後を振り返った。
 馬車の後方を猛スピードで走る影。
 蒸気式自動車だ。
 排気煙をもうもうと垂れ流し蒸気式自動車が追ってくる。
 乗っているのは、当然例の男たちだ。
 奴らの乗っている蒸気式自動車の方が、善弥たちの乗る辻馬車よりも速い。見る間に距離を詰めてくる。
「伏せて!」
 叫ぶと同時に善弥はリゼを座面に伏せさせた。
 一瞬遅れて発砲音が鳴り響く。
 馬車の窓ガラスが割れた。撃ってきたのだ。
「一体全体何が起きてるんだ⁉」
 御者がヒステリックに叫ぶ。
「すみません。ちょっと悪漢に追われてまして」
 飛び交う弾丸。鳴り続ける銃声。壊れる馬車の外装。
 それらの破壊音と対照的に、牧歌的な声で応じる善弥。
 そうこう言っている間にも、御者のかたわらを弾丸がすり抜けた。
「ヒェッ!」
 恐怖に悲鳴をあげる御者。
「まったく何なんだあんたら! こちとら死ぬのは御免だ! 付き合っていられるか!」
 何を思ったか御者は手綱を放り出して、御者台から飛び降りた。
 その行動に、
「……そんなに嫌だったんですかね?」
 と善弥は首を捻った。
「この状況なら逃げ出したくもなるんじゃない」
 座面から頭を上げずにリゼが言う。
「馬車から落ちて死ぬ可能性よりも、撃たれて死ぬ可能性の方が高いって思ったんでしょうね」
「なるほど」
「納得している場合!? このままだと二人まとめてハチの巣になっちゃうわ!」
 馬が走り続けているので、まだ馬車は停止していない。
 だが、手綱を握る人間がいない以上、スピードは落ちるし、いつかは馬も脚を止める。そうなれば終わりだ。
「リゼさんはそのまま姿勢を低くしていてください」
 善弥はそう言って、馬車の扉をあけ身を翻すと御者台へ降り立った。
 手綱を握り馬を操る。
 善弥の手綱捌きで、馬の足並みが整い、馬車の走りが安定する。
 だがそれもその場しのぎだ。速力で敵の蒸気式自動車に劣っていることは変わらない。
「リゼさん」
「何!?」
「馬乗れます?」
「やったことないわ! それが何?」
「いや、逃げる時は一つの馬に二人で乗らないといけないなって」
「?」
 善弥の言葉に首を傾げるリゼ。
 善弥は答えず、左手で手綱を握りつつ、右手で刀を抜いた。白刃が閃いたかと思うと、馬車の前面が切り落とされる。
「な、何⁉」
「こっちへ」
 善弥がリゼを御者台へ招く。
「僕に考えがあります。馬の背に乗ってください」
「は?」
「いいから早く。追いつかれます」
「うぅ……分かったわよ!」
 やけくそ気味にリゼが馬車を引く馬の背に腰掛けた。
 それを見た瞬間に、善弥はまた刀を一閃。
 轅(ながえ:馬車と馬とを繋ぐ棒)を両断した。すぐにリゼの後ろに跨る善弥。
 馬車が切り離され、後方へ流れていく。
「馬車をぶつけるのね!」
 追手の乗る蒸気式自動車と切り離された馬車が激突。
 馬車は派手に砕け、蒸気式自動車は馬車がぶつかった衝撃で派手に横転した。
「なんとか上手くいったみたいですね」
 善弥がニヤリと笑う。
「――いや、待って。何かしらアレ」
 リゼが後方の異変に気付いた。
 横転した蒸気式自動車の後方から、また違うシルエットの影がこちらを目指して駆けてくる。
 善弥も後方を振り返った。
 あれは――馬?
 だが動きが馬とは、何か違う。
「蒸気馬(スチームホース)だわ!」
「蒸気馬?」 
 善弥の問いにリゼが説明する。
 蒸気馬は自動人形の一種。
 文字通り蒸気機関で動く、鋼鉄の馬。乗り手が手綱型の操縦桿を握ることで、様々な地形――車では走れないような悪路を走破できる代物だ。
「でも凄い高価だから、あまり普及していないの。まさか日本で蒸気馬を見るなんて」
 善弥は目を凝らす。
 蒸気馬の背には先ほどの男たち同じ、黒いスーツを着た西洋人の巨漢が乗っていた。
 裾や袖が筋肉ではち切れんばかりに膨れている。上腕の太さが、リゼの腰ほどもあった。見るものに畏怖を抱かせる野獣のような男だ。
「アレも追手と考えていいですか?」
「そうみたい。ああもう、ホントにしつこいわね!」
 リゼが叫ぶ間にも、蒸気馬は少しづつ距離を詰めてくる。
 蒸気馬は普通の馬より小回りこそ利かないものの、馬力が強く直線的な速さは大きく勝る。
 普通に走っている分には、あの蒸気馬は撒けない。
 善弥は横道に入った。小回りを活かして撒こうと試みる。
 だが、追手を振り切れない。
「上手いな」
 善弥は思わず呟いた。
 追手の操舵は実に巧みで、蒸気馬は的確に善弥たちのすぐ後をつけてくる。
「感心してる場合!?」
「これは失敬」
 緊張感のない善弥をリゼはたしなめるが、善弥はどこ吹く風だった。
「どうする!?」
「そうですねぇ」
 善弥は少しだけ考える素振りをしてから、手綱をリゼに押し付けた。
「取り敢えず少しの間だけ、手綱を握っててください」
「ちょっと!?」
 戸惑うリゼをよそに、善弥は馬の上で反転。背後に向き直る。
 追手の巨漢と目が合った。
 無機質な目だ。敵を殺すことに躊躇しない。仕事として人を殺せる。そういった類の人間がする目。
 自分と同じような目だ――と善弥は思った。  
 蒸気馬が迫ってくる。
 善弥は馬の背を蹴って跳んだ。
「ムッ!?」
 追手の巨漢が目を見開く。
 善弥は蒸気馬の上へ飛び上がり、勢いのままに大刀で巨漢に向かって斬り付けた。
 巨漢は咄嗟に身体を捻って、善弥の斬撃を躱した。
 善弥は蒸気馬の頭を頭を蹴り、リゼの乗る馬の背へ跳んで戻る。
 巨漢が鼻を鳴らす。
「面白い攻撃だったが、仕留め損なったな!」
「いいえ――僕の勝ちです」
「――何だ!?」
 言うが早いか、直ぐに巨漢の乗る蒸気馬に異変が現れた。
 急にガクガクと挙動がおかしくなる。
「ぐっ――クソ‼」
 巨漢がそう叫ぶのと、蒸気馬が倒れるのと、一体どちらが早かっただろう。
 ついに蒸気馬の挙動が完全におかしくなり、バランスを保つことができず、蒸気馬は派手に倒れた。
 巨漢は落馬し、地面をゴロゴロと転がった。
「ふぅ……ようやく撒けましたね」
 一息つく善弥。
 リゼは呆気に取られた表情で、善弥を見た。
「今、何をしたの?」
「ん? ああ。右手で斬り付けた時に、左手で小銭を蒸気馬の関節部に投げ込んだですよ。もったいないとは思いましたが、他に投げつけるような物がなかったので」
「……!」
「蒸気馬は歯車仕掛けで動いているんでしょう? なら異物が混入すれば、まともに動かなくなると思ったんですよ」
 リゼは改めて驚きの表情で善弥を見る。
 そも蒸気馬は移動用の自動人形だ。簡単に壊れるようでは、使い物にならない。その為、異物が混入しづらいような関節部の構造を取っている。
 唯一狙えるのは前足の付け根、その背中側。肩甲骨の部分。脚を動かす構造の問題で、そこだけは関節部の隙間が大きくなり易い。
 だが、そこは乗り手の陰に隠れている。
 ――だから一度斬り付けたのだ。
 相手が身を捻って躱すことで、隙間に小銭を投げ込む隙を作る為に。
 善弥がどれだけ蒸気馬のことを理解した上で動いたのかは分からない。だがあのわずかな時間で蒸気馬の弱点を見切り、的確にそこを突いて見せたのは、まぎれもなく事実である。 剣術や体術だけではない。
 その場の場で最善手を選ぶ判断力と決断力、そしてそれらを実行に移す技術と実行力。
 どれをとっても並みはずれている。
(一体何なのこの人?)
 リゼは知らず知らず善弥を見つめていた。
 善弥はリゼの視線に気付くと微笑む。
 修羅場をくぐり抜けたばかりとは思えないほど、穏やかな顔で。
「もう少し走って完全に撒きましょう。しっかり掴まっていてください」
 二人を乗せた馬が、速度を上げた。



 黒いスーツの追手たちを撒いてから、どれくらい走っただろうか。
 東京の都心から外れ、田畑の見える街道まで二人は来ていた。
 このあたりでいいだろうと馬から降りる。
 乗り捨てた馬はしばらくは動かないが、いずれ腹を空かせて辻馬車業者の元へ帰るだろう。
「馬に乗るのは久しぶりなので、少し疲れました」 
 善弥が大きく伸びをする。
 鞍のない状態で馬に乗るのは、中々に疲れる。
「私も……ちょっと疲れたわ」 
 リゼも大きく身体を伸ばした。
「少しあそこで休憩しましょうか」 
 善弥が街道沿いに建っている茶屋を指さした。
 リゼは無言で頷く。
 茶屋の軒先に腰を下ろし、頼んだお茶を飲んで、ようやく人心地ついた。
「……中々、危ない旅行をされてるみたいですね。リゼさんは」
「……」
 リゼは答えない。
 湯呑を両手で握りしめ、ジッと湯呑を覗き込んでいた。
 煎茶にリゼの浮かない表情が映っている。
「日本に来た理由、観光なんかじゃないんでしょう?」
 単刀直入に善弥は聞いた。
 リゼは俯いたまま、善弥と目を合わそうとしない。
「何か余程の理由があるんでしょうね。たった一人海を越えて、命の危険に晒してでも達成したい目的が」
「……それを聞いてどうするの」
 リゼは顔を上げた。
 悩まし気な表情のままで。
「ただの好奇心なら止めて……これ以上、あなたを私の事情に巻き込めないわ」
「なんだ。そんな事を気にしていたんですか」
 飄々と善弥が言う。
「それならもう手遅れですよ」
「え?」
 リゼの問いに善弥が答える。
「さっきの逃走劇で、僕は顔を隠していませんでしたから……完全にリゼさんの仲間だと、追ってきた連中には思われているでしょうね」
「……あ」
「今更無関係なんて通用しません。今後奴らが僕を見つけたら、問答無用で襲ってくるんじゃないですかね。だから、巻き込む巻き込まないなんて問答は、もう過ぎているんですよ」
 もう引き返せるような状況ではない。
「だから教えてほしいんです。何の為に、日本に来たのか」
「ごめんなさい」
 リゼは謝った。
「成り行きとはいえ、貴方を私の事情に巻き込んでしまった事には変わりはない。きっとこれからも危険な目に合う……お詫びのしようもないわ」
「いいですよ。別に」
 何ということもなく善弥は言った。
「分かった上で、助けましたから」
「え?」
「だってリゼさんは、見ていて危なっかしいですからね。放っておけませんでした」
「善弥……」
 リゼはドキッと高鳴る胸を押さえ、顔を赤らめた。
 しかしそれも、善弥の
「それに僕としてもこういう状況は好都合ですし」
 という発言ですぐに頬から赤みが引いた。
 リゼはたじろいだ。
 善弥の表情はさっきから何も変わっていない。穏やかな微笑を浮かべたままだ。
 それが何故、こんなにも禍々しいのか。
「どういう事?」
「言葉通りの意味ですよ」
 淡々と善弥は言う。
「僕は生まれてこの方、剣術柔術等の武芸十八般――人の殺め方ばかりを修練してきてまして……何というか、戦っていないと生きている気がしないんですよ」
 穏やかに微笑む白皙の美少年が口にするとは思えないほど、それは殺伐とした独白だった。
「初めてあった時に予感を感じ、牛鍋屋で悪漢に追われていると知った時、それは確信に変わりました」
 リゼさん――と言って、善弥はリゼを真正面から見据える。
「――あなたといれば、戦いの場に事欠かない、と」
「…………」
 リゼは押し黙った。
 善弥に得体の知れない不気味さを感じたからだ。
 この男。
 羊の皮を被った狼――否、菩薩の顔をした修羅かもしれない。
「だから巻き込んだなんて言って負い目に思わなくても結構ですよ。むしろこれは対等な取引、需要と供給が合致しただけだと思ってください」
 善弥は戦いたい。
 リゼは目的を達成したいが、そのために襲い掛かる敵を撥ね退ける武力がいる。
 互いの目的が合致しただけ。
 善弥はそう言っていた。
 リゼは戸惑った。
 鷹山善弥――この男は得体の知れない男だ。
 リゼの脳裏に幾つもの映像がよぎる。
 筋者の腕を切り落とす善弥、大丈夫ですかと手を差し伸べる善弥、悪漢を殴り倒す善弥、リゼを抱えて走る善弥。
 彼はずっと微笑を浮かべていた。
 まるで喜怒哀楽の楽しか持ち合わせていないかのように。
 彼の言っていることは本当なのだろう。
 善弥はきっと、人を斬り殺すその時さえも笑みを浮かべたままだろう。
 だが、窮地に陥ったリゼを助けたのは、間違いなく善弥だ。
「…………そうね」
 リゼは苦悩の末に、自分を助けてくれた善弥を信じることにした。
「お言葉に甘えて、負い目には思わない。巻き込んですまないとも思わない」
 リゼは手を差し出した。善弥は首を傾げる。
「? 何ですか?」
「貴方は知らない? 握手って言って、西洋では友好の証に互いの手を握るの」
「西洋式の挨拶ですか」
 慣れない様子で善弥はリゼの手を取った。
 リゼは善弥の手を力強く握り返す。
「改めて言うわ。私はリーゼリット・アークライト。私の目的を果たすために、あなたの力を貸して」
「士族、鷹山善弥。あなたが闘争の中にある限り、死力を尽くしましょう」



 善弥とリゼが友誼を交わしていた頃。
 東京の郊外。W&S社の応接室。
 そこで密会を交わす者たちがいた。
 豪奢な調度品で飾り付けられた応接室には、商談用のテーブルを挟んで皮張りのソファが二つ。
 片方のソファには明治政府陸軍の軍服を着た将校と思わしき男が腰掛けている。
 三十代半ば。
 精悍な顔立ちで、野心的な眼の光が印象的だ。
 鍛え上げられた肉体にには、一部の無駄もない。屈強な軍人であることが、見ただけで分かる。
 もう片方のソファには、スーツの上に白衣を着た学者風の男が座っており、そしてその背後に、善弥を追いかけた巨漢が控えていた。
 学者風の男はおそらく還暦を間近。
 白い肌には皴と染みが浮かんでいる。眼鏡を掛けていて、レンズの奥には怪しい光を宿した青い瞳。
「――ガゼル」
 学者風の男が、背後の巨漢に言った。
「例の娘はどうなったのかね?」
「はっ」
 巨漢――ガゼルが答える。
「申し訳ございません。同行していた若い男と一緒に逃げられました」
「フン」
 それを聞いた軍人が鼻を鳴らす。
「不満そうですな、Mr.佐村?」
「当たり前だ」
 佐村と呼ばれた軍人は憮然として言う。
「今回の計画にあの娘は不可欠な存在だ。餌を撒いて誘き寄せたというのに、捕まえ損ねるとは……」
 佐村は煽るように呆れ顔を見せた。
「貴殿の部下はカカシか? レクター博士」
「これは手厳しい」
 ねっとりと絡みつくような口調で、学者風の男――レクター博士は答える。
「そう責めないで頂きたい。こちらとしても予想外でね。あの娘――アークライトの小娘に日本で頼れるような伝手はないと思っていたんだが、まさかすぐに協力者を得るとはねぇ。まったく当てが外れたものだ」
「フン」
 佐村はまた鼻を鳴らす。
「協力者と言っても、若造が一人くっついていただけなのだろうが」
「…………」
 ガゼルは答えない。
「それともその若造、余程の使い手だったのか?」
「はい――滅法腕の立つサムライでした」
 ガゼルが言葉少なに答えた。
 侍――と小さく呟く佐村。少し興味を覚えたようだった。
「その若い男、どのように娘を連れて逃げおおせたのか、詳しく聞かせろ」
「隙をついてW&S社の私兵を殴り倒し、銃撃を受けながらも辻馬車に乗り込んで逃走。蒸気式自動車で追跡したところ、馬車を切り離して蒸気式自動車に衝突させ半壊――私も蒸気馬で追跡しましたが、蒸気馬を壊され振り切られました」
 ふむ――と言って佐村は腕を組んだ。
「その男の容姿や特徴、歳の頃は?」
「おおよそ十代半ば。黒髪の散切り、書生風の服装に大小の刀を差していました」
「……」
 佐村は考え込む。
(維新から九年……十代半ばということは、生まれ年は徳川の世の終わり)
 その侍は幕末の修羅場を潜り抜けた猛者ではない。
 だが、話を聞くかぎり娘と一緒にいたという若い男は、かなりの剣客であると見える。 
 この文明開化が進む明治の世に、旧時代の絶技を振るう若い剣客。
 佐村の脳裏に一人の男の姿が浮かんだ。
(まさかな……)
 あの男と出会ったのは、遠く離れた九州の佐賀だ。
 帝都東京で会うはずもない――佐村は被り振った。
「Mr.佐村。そのサムライに心当たりが?」
「いいや」
 佐村は話題を変えることにした。
「それで――娘をどうやって捉える気だ?」
「何、そう慌てることもないだろうさ」
 レクター博士がニヤリと蛇のような笑みを浮かべる。
「あの娘の狙いはここにある。待ち構えていればいい。必ずあの娘は来る」
「また逃亡を幇助した、若い侍とやらが出てきたらどうするつもりだ?」
 レクター博士がガゼルを見やる。
「お前は私の作った傑作だ――やれるな、ガゼル?」
「お任せください。サムライの刀ごとへし折って見せましょう」
 今日不覚をとったのは、不慣れな馬上戦――それも蒸気馬の弱点を突かれただけだ。真正面から戦えば必ず勝てるという自信が、ガゼルにはあった。
 ガゼルが誇示するように腕を掲げる。
 ガチャッ――丸太のように太いガゼルの腕からは、歯車の動く音がした。


第二章 新時代の魔導書


 東京郊外。
 のどかな田園風景が続く街と里山の中間地点。
 そこにW&S社の工場がある。
 煉瓦とモルタルで固められた高い塀。白煙を噴き上げる煙突が幾つもみえる。その工場を、遠く離れた大樹の上から探る人影が二つ。
 鷹山善弥とリーゼリット・アークライトである。
「大きな工場ですねぇ」
 間延びした声で善弥は言う。
「あんな工場がこんな所に出来ているなんて知りませんでした」
 十年前まで木で家を作っていた国家とは思えないほど、それは近代的な建物だった。
「善弥って本当に十七歳なの? 蒸気革命から一体何年がたったと思ってるのよ」
「この国の文明開化が始まってからまだ十年経ってないんですよ。鉄道網や電信技術による通信網も、まだまだ国の隅々まで行き届いているとは言えません。僕は田舎者なので、そういうのには疎いんです」 
 蒸気革命に関しても、通り一遍のことしか知りませんし――と善弥は言う。
「確か60年程前にチャールズ・バベッジ博士が、作り出した機械が技術革新を大幅に加速させたんでしたっけ」 
「階差機関(ディファレンス・エンジン)の事ね」
 蒸気で動く世界初の計算機械(コンピュータ)。それは当時実用化された蒸気機関を、それまでとは比べ物にならない程発展させた。
 以後大英帝国は技術先進国となり、その他国とは一世紀差があるとまで言われた技術力で他国を次々と植民地化。今や世界に名を轟かす覇権国家となった。 
 そしてそんな国からギリギリ植民地化されずにいるのが、この日本なのだ。
「他国との国力差、文明の差を埋めるために、国家の近代化は急務――とは言え、あまりにも近代化を急ぎ過ぎている気もするんですけどね。世間の移り変わりが激しすぎて眼が回りそうですよ」
「眼を回されちゃ困るわね」
 リゼが言う。
「今夜はあそこに忍び込んだから」
 善弥は昨晩のリゼとの会話を思い出す。 
 以下回想。
 茶屋の二階に宿を取り、善弥は改めてリゼから詳しい事情を聞いた。
「始まりは、私の父が殺されたところから」
「殺された――」
 父の死を思い出しているのだろうか。
 無表情に感情を押し殺してリゼは言う。
「父は技術者(テクノロジスト)で研究者だったの。私の家の離れには工房があって、父はそこに籠って研究に明け暮れていた」
 その工房で、リゼの父は殺されていた。
「背後から銃で撃たれて、父は死んでいた。工房の中も荒らされていて滅茶苦茶だった」
 警察を呼び、調べてもらった結果、奇妙な事が分かった。
「高価な実験機器や資材、調度品みたいな物は何も取られていなかったの。ただ唯一父が残したはずの『手記』だけが無くなっていた」
「『手記』?」
 善弥が口を挟む。
「手記って、つまりは覚書のことですよね?」
「――ああ、違うの。表向きは『手記』って言ってるけど、実際には本の形にまとめられたプログラムコードなのよ」
「それは人を殺してでも手に入れたくなるほど価値のある物なんですか?」
「ええ」
 リゼは頷いた。
「現行の自動人形には、まだまだ無駄が多いの。父はその無駄をなくす研究していて、その成果をプログラムとして『手記』に残した。『手記』を解読してそのプログラムをインストールするだけで、自動人形の性能は飛躍的に向上するでしょうね」
「……ええっと」
 科学に疎い善弥では、イマイチその凄さが分からない。
 リゼは少し考えてから説明する。
「思い出してみて。今日見た牛鍋のお店の自動人形って動きはぎこちないし、できる事って簡単な受け答えと食器の上げ下げだけよね」
「そうですね」
 現行の自動人形にできる事は限られている。性能的な限界だ。
「もし自動人形が、普通の人間と同じようにスムーズに動いて、自律的に判断して動けるようになったらどうなると思う?」
「それは……」
 それなら疎い善弥でも分かる。
 もしそれが可能になれば、それを可能にして何かは莫大な価値を生むだろう。
「それだけならまだ良いわ。もしそれが可能になれば、機械兵が実用化されるようになるでしょうね」
 機械兵――自動人形の兵士か。
「今はまだ機械兵の実用化に成功した国はない。現行の自動人形は、パターン化した行動以外は行動速度が遅すぎて、木偶の棒にしかならないから。でももし、普通の兵士と同じように戦える自動人形が現れたらどうなるか……」
 善弥は考える。
 歯車とゼンマイで出来た鋼鉄の兵士。それが実用化されるという事は、生産力さえ高ければ、国民の数が少なくても大きな兵力を得られるということ。
 どれだけ強力な軍艦や戦車があったとしても、それを動かすのは人間であり、兵員の数を増やすというのは、いつになっても重要なことに変わりはないのだ。
「大国であれ小国であれ、どこかの国が機械兵を実用化する技術を手に入れれば、世界の勢力図は一変するでしょうね」
「…………」
 善弥はようやく理解した。リゼの父が残したという『手記』は、文明化の時代における魔導の書なのだ。
 善弥は疑問を呈す。
「しかしそんな凄い物を手に入れたのなら、とっくに利用されているんじゃないですか?」
「それについては大丈夫。『手記』は何重にも施された暗号で記されているの。高性能コンピュータで時間をかけて解析しないと、『手記』を組み込んで利用することはできないわ」
 リゼが話を続ける。
「私は父を殺したのは、必ずこの『手記』の価値を理解していて、かつ父が新しいプログラムの構築を成功させたと知っている者だと考え、調べた」
 その結果浮かび上がったのがW&S社。
 大英帝国に本社を構える世界的な重工業企業。
 リゼはそこから更に独力で調査を進め、主犯格はW&S社の技術顧問、アルバート・レクター博士であること。そして博士が施設部隊を用いて極東に赴いたこと。
 そして『手記』が日本に作られた、W&S社の工場。その実験棟にあるということを突き止めたのだった。
「レクター博士には何か計画があって、その為に『手記』を使うはず。私はそれを阻止したい」
 だから――リゼは力強く宣言する。
「『手記』を破壊する。それが私の目的なの」
 というやり取りがあり、今現在、こうしてW&S社の工場を遠くから視察しに来ている訳だが。
「しかし、いいんですか? その『手記』を破壊して。お父さんの遺品でしょう」
「ええ」
 複雑な顔でリゼは頷く。
「父の構築したアレは、今の人類には早すぎる。無くなってしまった方がいい。私はね、科学は人を幸福にする為に存在すると思ってる。でも、今の世界は『手記』を軍事利用の為にしか用いようとはしない」
「……」
「そうなれば、『手記』のせいで不幸になる人が増える――それが私は嫌なの」
 以上、回想終了。
 昨夜のリゼの横顔を、善弥は思い出していた。
 リゼの言ってることは、ともすれば理想論のように思える。だが彼女はその理想の為に命を危険に晒している。
 それは向こう見ずだが、勇敢な行為だと善弥は思う。
 善弥はあまり戦う理由に頓着しない。
 ただ戦えればいいと思っている。
 だが、それでも。
 今は彼女の為に戦うことに関して、今までとは違う感慨を抱き始めていた。
「それじゃ、夜を待って侵入しましょうか」



 11時を回った。
 街から少し離れた工場の周辺は、街灯の明かりもなく真っ暗闇が広がっている。
 工場からやや離れた雑木林に潜んでいた善弥とリゼは、行動を開始することにした。
 暗闇の中を二人はつまずくこともなく、真っ直ぐに工場へ向かう。
「よくこんな真っ暗な中でも普通に歩けるわね」
 リゼが感心したように、かたわらの善弥を見る。
「昔『闇稽古』といって、夜中に山で立ち会う修行をしたことがありまして。それ以来夜目が利くんですよ」
「日本の侍はそんな訓練までするの?」
「剣術を生業にする者はそうでした。闇討ち対策です」
 江戸の中頃から竹刀による試合稽古が隆盛を極め、剣術と言えば道場で立ち会う事をもっぱらとする向きがあった。だが、剣術とは武術だ。
 襲い掛かってくる者が正々堂々と仕掛けてくる事など、まず実戦ではあり得ない。ならば夜間にいきなり襲われた時の為の備えをするのは、剣術使いとして当然だった。
「善弥はやっぱり凄いわね」
「むしろ僕は、その眼鏡を作ったリゼさんの方が凄いと思いますけど」
 リゼは善弥のような訓練をしていない。
 にもかかわらず、闇夜を善弥と一緒に平然と動けているのは、掛けているゴーグルのお陰だった。
 一見飛空士がつけるような普通のゴーグル。実は暗視機能のついていて、僅かな光源を増幅し、夜間でも物がはっきりと見える。
 リゼの作った発明品の一つだという。
「これくらい大した発明じゃないわ。既存の技術を組み合わせただけだもの」
 それが出来るだけでも、相当凄いと善弥は思うのだが、リゼの基準では大した事はないらしい。
 小声で話すうちに、工場の塀の近くまで来ていた。
 リゼが鞄から新しい発明品を取り出す。
 拳銃――というよりも短いマスケット銃のうような形状をしていて、銃口からは錨のような鉤爪が覗いている。
「それが例の」
「ええ、ワイヤーガンよ」
 銃身と握りの間あたりから、小さなボンベのようなカートリッジをセットする。
 リゼは狙いを定めて引き金を引く。
 ボシュッとくぐもった小さい音がして、鉤爪が射出される。鉤爪は塀にがっちりと食い込み、鉤爪から銃口に向けてワイヤーが伸びる。
「上手くいったわ」
「これも凄い発明品ですね」
「それがそうでもないのよ。ぶっちゃけ失敗作」
「そうなんですか?」
 潜入工作にうってつけの、優れた発明品であるように思うが。
「これ音が響かないように、蒸気式のカートリッジに消音器まで付けたんだけど」
 だろうなと善弥は思う。
 さっきのワイヤーの射出音は非常に小さかった。火薬式の銃を改造しても、あれ程の消音性能は出せないだろう。
「そこまでが限界で、巻き取り機能を付けられなかったのよ」
「ん……それはつまり」
 人力でこのワイヤーを伝って、垂直な壁面を登らなくてはいけないということか。
「私一人だとこの塀を超えられなかったから、善弥がいてくれて本当に良かったわ」
「本当に一人のままだったらどうするつもりだったんですか」
 善弥は呆れ顔をした。
 リゼは工学、科学に優れた頭の良い娘ではあるが、こういう方面の頭は足りていないようだった。
 リゼが使っているという実験用の革手袋をはめ、ワイヤーを握る善弥。
 善弥の首と肩にリゼの腕がまわる。背中にリゼの体温を感じながら、善弥は萬力ような握力でワイヤーをたぐる。
 リゼを背負ったまま、壁面をよじ登る。
 5メートル程の塀を、ひと一人背負って善弥は易々と乗り越えた。今度は塀の内側に向けてワイヤーを垂らして下る。
「潜入成功ね」
 塀の中には背の高い建物が幾つも並んでいる。目指す研究棟はこの中のどれかだ。
 やや疲れた善弥にリゼが言う。
「ここからは私に任せて」
 今度はリゼが先導した。
 暗視ゴーグルと自身の記憶力を頼りに、先を進むリゼ。
 近くの建物を目指す。煉瓦造りの壁の所々に、ガラス窓がある。
 その中の一つを選び、リゼが近づく。
 窓のガラスを音が出ないように慎重に切り取り、建物内に潜入する。
 どうやらここは、物置の一つのようだ。忍び込んだ先で、いきなりここの警備員と鉢合わせするような事がなくて、ホッと胸をなでおろす善弥。
 不満そうなジトッとした眼で善弥を見るリゼ。
「何か私のこと侮ってない?」
「……そんなことはありませんよ」
「何で即答しないのよ」
 唇を尖らせるリゼ。
「まぁ良いわ、このまま私が先導するからついてきて」
 リゼは物置部屋のドアに張り付き、廊下の音を確認してから、慎重にドアを開けて、廊下に出る。
 ここからは巡回中の警備員に見つからないようにしつつ、目的の研究棟まで進まねばならない。工場内を警備員が行き来しているが、その網目を縫うように、リゼは進む。
 気づけばあっという間に、研究棟まで来ていた。
「凄いですね」
 警備員の巡回ルート。建物の構造。
 全て覚えているというのは、本当だったようだ。
「御見それしました」
「やっぱり侮ってたんじゃない」
 言いながらリゼは進む。
 そしてとうとう目当ての研究室の前まで来た。
「ここが……」
「ええ、ここに『手記』がある」
 大きく頑丈な扉に、機械式の鍵が施されている。
「事前調査の通り、ここだけはかなり警備が厳重みたいね。限られた人間が持つ、カードキーじゃないと入れない仕組みだわ」
「開けられます?」
「もちろんよ」
 リゼが手早く工具を取り出すと、カードキーを差し込む機械の周辺、壁を調べ始めた。
「ビンゴ」
 壁の一部分が外れるようになっていて、そこに基盤やコードが繋がっている。
 リゼは自前の端末を基盤に接続。
 小さなキーボードをリゼの細い指がリズミカルに叩く。しばらくリゼの端末から打鍵の音だけが響く。
 数分で研究室の扉が開いた。
「お見事」
「さあ、入りましょう」
 研究室の中に入る。
 明かりがついていないので暗い。だが、何も見えない訳でもない。
 壁一面に幾つものモニターがついていて、それに数字が並び、グラフと思わしき棒線が複雑な軌跡を描いてる。
「解析用のコンピューターだわ。それも最新機種をこんなに」
 リゼも驚いている。
 そしてそのコンピューター群の向こう。
 とある装置にセットされたそれを、二人は目撃した。
「アレだわ」
「――あれが『手記』」
 いくつものコードが繋がれた機械の上に、それは鎮座していた。
 一般的なサイズの書籍と同じくらいの大きさ。
 薄い金属のプレートに不規則に穴が空いている――パンチカードだ。それらが革張りの本の背表紙でまとめられている。
 機械は『手記』を一ページ一ページめくり、そのページの穴の位置から情報を読み取る。
 ただの情報、司令手順の組み合わせに過ぎないはずのソレは、まるで魔力を秘めた魔導書のような赴きをしていた。
「ついに見つけた……」
 リゼの声が振るえる。
 ぼうっとした声で、灯に群がる虫のようなフラフラとした足取りで、リゼは『手記』に引き寄せられる。
 善弥の第六感が危機を告げた。
「リゼさん待って!」
「え?」
 一瞬遅かった。
 リゼが『手記』に向かって手を伸ばそうとしたその瞬間、警報が鳴り響いた。
 驚いて動きが止まるリゼを、善弥が素早く引き寄せた。一瞬遅れて頑丈な鉄柵が天井から落ちてきて、『手記』を隔離する。
「ああ!」
「――どうやら気付かれたみたいですね」
 非常に不味い状況だ。
「取り敢えず逃げましょう」
「そんな!」
 リゼが反対する。
「せっかくここまで来たのに!」
「あの鉄柵を見たでしょう、こうなったらもう手出し出来ません」
「それは……」
「ここで見切りを付けて逃げ出しても、生きていればまた機会はあります。でも、捕まって殺されたら、もう二度と『手記』を破壊することは出来ません」
「…………」
「どうか引き際を見誤らないで」
「……分かったわ」
 リゼが頷く。
「逃げますよ」
 善弥はリゼの手を引いて、研究室から飛び出した。
 研究棟の廊下を二人は走る。
 警報が鳴ってから逃げ出すまで、一分と経っていない。今ならスムーズに逃げられるかと思っていたが甘かった。
「居たぞ!」
「侵入者だ!」
 階下へ降りようとした階段の前で、警備員に見つかってしまった。
 警備員は雇われの日本人で数は三人。全員警棒ではなく、刀で武装している。
「出会え出会え!」
「逃すな!」
 追いかけてくる警備員。先頭を走っている警備員が、すぐそばまで迫っていた。善弥はリゼから手を放して、警備員に向き直る。
 その瞬間、瞬息の居合で斬り付けた。
「あれ?」 
 不意打ち気味に抜き付けた横一文字の一刀を、先頭の警備員は何とか受け止める。その間に追いついてきた他の警備員が、横合いから善弥に斬りかかる。
 善弥は一歩下がって、横合いからの一撃を躱す。
 間合いを切ってから、善弥は唸った。 
「う〜ん、今ので仕留められないとは……ここの警備員、意外と侮れませんね。どうやら元士族のようですし、そこいらのヤクザ者とは違いますね」
 言うなり善弥は右手で大刀を抜き、左手で小刀を抜いた。
「だからちょっと本気で行きます」
 抜き合わせた二刀を前面で交差させる。
 乱れ十字の構え――善弥が修めた剣術、鉄人流において最も基本の構え。
 それを見て警備員たちは侮った。
 日本の剣術において、二刀は邪道扱いされる。一刀を両手で持って使いこなす事が正調とされてきた。
 それも無理からぬ事。 
 重たい真剣を、片手で使いこなすのは非常に難しい。
 それを分かっているからこそ、二刀を使う者は非常に少ない。
 善弥の二刀を見て、警備員たちはどうせ虚仮脅しに過ぎないと踏んだのだろう。
 ――善弥としては好都合だった。
 修練を積み、二刀を使いこなす者がそれほど恐ろしいか教えてやる。
 一人目が仕掛けてきた。
 渾身の一撃を打ち込んでくる。上段からの袈裟斬り。それを善弥は交差する二刀で受け止めた。
 と思う否や、小刀で相手の打ちを左に逸らし、同時に右の大刀を旋回。打ち込んできた男の首筋へ、大刀の切っ先を走らせる。ぴゅうと音を立てて、返り血が飛ぶ。
 一人目の警備員が倒れた。一人目を斬り倒した事で、善弥は両刀ともに下段。面ががら空きになっている。
 それを見て、二人目は善弥の脳天目掛けて一刀を振り下ろす。
 善弥は膝を折り敷き、低い体勢で踏み込んだ。
 相手の刀の鍔元近くで一撃を小刀で受けながら、右の大刀で下から突いた。切っ先が二人目の警備員の鳩尾に吸い込まれる。
 肋の下から骨に邪魔されることなく、善弥の突きは易々と警備員の心臓を貫いた。
「ヒェッ⁉」 
 瞬く間に仲間二人が斬り殺された――その事実に、三人目の警備員が竦み上がる。
 それを見て、善弥は攻めに転じた。
 戦いの場には流れがある。三人目の警備員は怯むあまり、善弥に場の主導権を渡してしまったのだ。ここぞとばかりに善弥は攻めた。
 体の外側で大刀を旋回させての打ち込み。
 遠心力を利かせた打ち込みは、片手打ちでも十分な重さと速さを持っている。左肩への打ち込みを、三人目の警備員は刀を跳ね上げ、辛うじて受ける。
 刀が上段に上がり、中段に隙ができた。
 すかさず善弥は間合いを詰める。右の大刀で圧を掛けながら、左の小刀で胸板を一突き。
 三人目の警備員はうめき声と血の泡を噴き出して倒れる。
「…………!」
 その様をリゼは見て、息を吞む。
 警備員に見つかり、斬りあってから30秒と経っていない。
 瞬きの間に、善弥は三人の男の命を刈り取ってみせた。恐ろしいほどの手練れの技だった。
「終わりました。行きましょう」
 偉ぶるでもなく、善弥が言う。
 善弥にしてみれば、この結果は順当なものでしかない。
 それはあまりにも自然な口調と朗らか表情で、まるで人を斬った直後だとは思えない。
 リゼは何か声をかけようとして、何も言えなかった。
 そんな時、無音で高速接近する巨大な影が、善弥の背後に迫った。
 善弥がそれに気が付いたのは、一流の武術家が持つ危機察知能力――動物的な勘に他ならない。
 背後に迫るそれに向かって、後ろ向きに大刀を突き出した。振り向き反転する時間さえ惜しい。迅速の突きで肉薄するそれを牽制する。
 背後に迫る影――巨漢の殺し屋ガゼルの動きが一瞬止まる。
 その隙に善弥は体勢を反転、ガゼルに向き直る。
 その頃にはガゼルは攻撃の動作に入っていた。
 丸太のような太い腕が握るのは、全長50センチ程の柄に、30センチの半月型の刃がついた戦斧だった。
 振り上げられたそれは、善弥を粉砕せしめんと高速で振り降ろされる。
(二刀でも受けきれない――!) 
 直感的にそう判断した善弥は、受けるという防御手段を選択肢から消した。
 二刀を同時に左へ薙ぐ。
 戦斧と二刀が一瞬のうちに交錯する。
 響く金属音は鋼の断末魔か。
「むっ⁉」
 必殺を期していたガゼルは僅かに驚嘆する。
 ガゼルの振り降ろした戦斧は、善弥の身体から少し逸れた床を斬り割っていた。ガゼルの一撃を受けきれないと見るや、善弥は戦斧の横っ腹に大小二刀を叩きつけて軌道を変えたのである。
 善弥は二歩三歩と飛び下がって間合いを外す。
 真っ向から斬りあっては力負けして押し切られる――という判断だった。
「また会ったな小僧」
「これはどうも、奇遇ですね」
 ガゼルがニヤリと笑い、善弥は飄々と会釈を返す。
「ふざけた男だ」 
「よく言われます」
「フン――」
 鼻を鳴らしてガゼルは戦斧の斧頭を善弥に向けた。
 まるで銃口を突きつけるかのように――
「善弥! 避けて!」
 リゼが叫ぶ。
 善弥が身をかがめたのと、発砲はほぼ同時だった。
 善弥の頭上を弾丸が掠める。
(弾丸の撃発機構を備えた仕込み戦斧――!)
 戦斧を振り回すその姿から、力押しで来るかと思えば、意表を突くような仕掛けを仕込んでいる。
 そして、
「もらったッ!」
 身をかがめた善弥に向けて、再度戦斧による攻撃を仕掛けるガゼル。
 少しでも機があると思えば、迷わず攻めに転じる事ができる――目の前の巨漢が、実戦慣れした手練れであると、善弥は理解した。
「はあぁぁっ!」
 負けじと気合いを叫び。善弥は二刀を交差させつつ、前に踏み込んだ。
 ガゼルの攻撃を間合いを詰めることで、勢いが乗り切らない内に潰す。戦斧と二刀が交錯し、鍔迫り合う。
 善弥は間合いを詰めて鍔迫り合いになった瞬間、ガゼルに強烈な足払いを掛けた。ほとんど蹴りに近い足払い。
 ガゼルを転倒させるには至らなかったが、それでも僅かに巨体が揺らぐ。
 巨漢は足元から崩されると弱い――実戦における秘訣の一つだ。
 バランスを崩した人間は、その一瞬だけ死に体――無防備な状態になる。善弥は十字に交差した二刀を開き、大刀でガゼルに向けて斬りかかる。
(入る!)
 確信を抱く。善弥の振るった白刃は、ガゼルを完全に刃圏に捉えていた。だが――
「うおおおッ!」
 ガゼルが左腕で善弥の一刀を受け止めた。
 ガキィン! ――と、人の体からはしない音がする。
(鋼鉄の義手⁉)
 予想を外され、善弥も驚く。
 今度はガゼルがその隙をついて、善弥の腹に強烈な前蹴り。
 後方へ吹き飛ばされる善弥。
「善弥! 大丈夫⁉」
 リゼが叫ぶ。
「――ええ、大丈夫ですよ」
 善弥は平然と答える。
 実際、骨は折れていないし、大きなダメージもない。
「成程、これは大した剣士だ」
 ガゼルは思わず呟く。
 ガゼルの前蹴りが当たる瞬間、善弥は足腰の踏ん張りを一切やめ、むしろ自分から蹴りの威力に身を任せて後方へ飛んだのだ。
 結果、蹴りによるダメージを殆ど負わずに受け流した。
 柔よく剛を制す、精緻な技巧が可能にする絶技だ。ほんの少しでも恐怖に竦んで、動きが固くなれば、そこが支点となってダメージを受けてしまう。
「…………」
 どうやら撃発機構は単発式らしい。ガゼルは戦斧を銃のように構える素振りを見せず、じっと善弥の隙を伺っている。
 やや広く間合いを取りながら、無言で睨み合う善弥とガゼル。
 人は強くなればなるほど、向き合った相手の強さも分かるようになる。武術・戦闘に長けた物同士が戦えば、僅かに数度斬り結んだだけで、相手の技量が正確に読み取れるようになる。
 二刀と戦斧という得物の違いがあるにせよ、両者の強さはほぼ拮抗している。どちらにも勝機がある五分の戦いだ。
 だが、ガゼルの顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
 それが戦況を物語っていた。
 このままガゼルと戦えば、間違いなく戦闘は長引く。だが、そうなれば敵の応援が駆けつけ、どんどん善弥たちが不利になっていく。
 地の利はガゼルにあった。
 善弥は冷静に分析する。さっき斬り捨てた警備員たちとは違い、ガゼルは強敵だ。斬りごたえがある獲物を前にして、善弥の身体は血が滾って仕方がない。
 もっと斬り合っていたい。
 殺し合っていたい。
 互いに殺気を向けながら、一瞬先の生を奪い合っていたい。
 そんな胸の内から響く衝動を、善弥は何とか押さえる。
(このまま斬り合えば、この男を殺せるかもしれない。だけど、確実に追い詰められて、おそらくリゼさんは殺される。あまりに多勢に無勢じゃ、僕でもリゼさんは守り切れない)
 それは武士として育てられた性なのか。
 一度契りを交わした以上、リゼを最優先にするべきだ。ともかくここは一旦逃げなくては。
 何か利用できる物はないか? チラリと壁面を確認する。
 壁面を這う気送管と並走したコードの束が見える。そのコードは天井の照明と繋がっていた。瞬間、善弥の脳裏に逃走の筋書きが浮かび上がる。
 善弥が背後のリゼに声を掛ける。
「リゼさん、三秒以内に例のゴーグルを!」
「え!?」
「早く!」
 言うが早いか、善弥は刀を一閃。壁のコードを横一文字に両断する。
 瞬間、照明が落ちた。辺りが闇に包まれる。
「むっ⁉」
 ガゼルは闇の中で身構えた。
 闇に乗じて善弥が仕掛けてくるか――それを警戒したのだ。空気の揺らぎと、床から伝わる振動で、闇の中の敵を察知しようと、全神経を集中させるガゼル。
 しかし、何も殺気を感じない。
 闇の中で訝しむガゼル。
 非常電源に切り替わり、照明が再び光った時、既に善弥とリゼの姿はなかった。
「逃げたか……」
 ガゼルは独りごちる。
 ニヤリと頬が吊り上がる。工場の出入り口は封鎖してある。善弥たちは袋の鼠だ。
(じっくりと追い詰めて、必ず狩ってやる……!)
 仄暗い嗜虐心を胸の内で燃やして、ガゼルは追跡に向かった。


 
 ガゼルを撒いてから。善弥はリゼの手を引いて、工場内を出鱈目に逃げ回った。工場内は警備員が凄まじい勢いで二人を探し回っていた。
 事ここに至ってしまえば、逃走経路も何もあったものではない。
 二人はただ発見されないよう、人目を避けて逃げ回り続けていた。
 物陰に隠れ、二人は息をひそめる。
「ここ何処だか分かります?」
「分からない。動き回り過ぎて、頭の中の地図も吹き飛んじゃった」
 リゼは被り振る。
「大体、この工場無駄に広すぎるのよ」
 まあ、その広さのお陰で未だ発見されずにいる訳だが。
「この工場で生産される製品について調べた事があるの。正直こんなに大きな工場じゃなくても、作れるような数しか製造されてなかった」
「ということは……」
「『手記』もそうだけど、それ以外にも何か隠れてやってるんだと思う」
「……静かに!」
 足音が遠くから聞こえる。
 追手が迫っているようだ。そろそろ隠れるの限界が近づいている。
(強行突破しかないですかね……)
 このままではジリ貧だ。
 完全に逃げ場を失う前に、打って出るべきか。だが、無策で飛び出して果たして工場の外まで行けるかどうか。
「ねぇ善弥。あれ」
「……?」
 リゼが廊下の先にある扉を指さした。
 『手記』が保管されていた研究室と同じ、機械式の鍵が付いた扉だ。どうやら『手記』と同じくらい重要な研究をしている部屋らしい。
 リゼは手早く工具を取り出し、また扉の開錠を試みる。
 足音がさっきより近づいている。
 リゼの手が焦りで空回る。もう少しで追手に見つかる。
 間一髪で扉のロックが解けた。 
 素早く部屋へ駆け込む二人。すぐに扉を閉めた。
 ふぅぅう――どちらからともなく互いの顔を見合わせて、善弥とリゼは大きく息を吐いた。 
「これで少しは時間を稼げたかしら」
「そうみたいです」
 扉に耳を張り付け、善弥が頷く。
 扉の向こうで警備員たちがこの部屋を素通りして去っていく足音が聞こえた。
「余程ここでやっている事を隠したいんでしょうね。機密度の高い研究室には、警備員でも許可なしじゃ入れないようになってるみたい」
 お陰で助かった。
 が、
「つまりここに立ち入った僕らは、捕まったら絶対に殺されるという事ですね」
 飄々と善弥が言った。
「一体何をやらかしているのやら……」
 部屋へ視線を向ける。
 照明がついていないので暗い。音の反響で、そこそこ広い部屋だということだけは分かる。
 照明をつけるとここにいるとバレてしまうので、部屋の照明は使えない。
 部屋の奥に何があるのか、よく分からない。
 奥でぼんやりと光る大きな円柱型の物が見える。まるで巨大な試験管のようだ。中には液体が詰まっていて、液体の中に何かが浮いている。
(……何だ?)
 唐突に違和感を感じる善弥。
 鼻腔に感じる微かな異臭――動物小屋に入れられたような臭い。
 これは獣の臭いだ。
 奥に何かいるのか?
 だが生き物がいる気配を、善弥は感じ取れなかった。
 奥に見える物が何なのか確かめるべく、善弥は慎重に部屋の奥へ進んでいく。
「あっそうだ、今ゴーグルで――」
 リゼが暗視ゴーグルを掛ける。その瞬間、
「…………ッ…………!」
 声にならない叫びをあげ、その場にへたり込んだ。
「大丈夫ですか?」
 善弥の呼びかけに、リゼはガクガクと身体を震わせ、何も言わない。
 善弥は少し驚いた。
 下町でヤクザ者に絡まれても、得体の知れない黒服に追い回されても、リゼが言葉を失うほど取り乱すことはなかった。そのリゼが今、見たことがないほどに怯えている。
 一体闇の向こうに何を見たのか。
「すいません。ちょっとお借りします」
 仕方なく善弥はリゼの頭から暗視ゴーグルを外し、自分で掛けてみた。
 部屋の奥に視線を向ける。
 光源を増幅するというゴーグルの機能で、モノクロだが部屋の中の光景がゴーグル越しに鮮明に見えた。
「これは――」
 思いもしない光景に、善弥も息を呑んだ。
 巨大な試験管に見えた円柱は培養槽。
 そこに浮かんでいる物体を善弥は何と表現すれば良いのか分からなかった。
 善弥と同じかそれ以上に大きな全長。
 頭部には鋭い牙。長く突き出た鼻。ぎょろりとした大きな眼。
 一見して狼に見える。
 だが、それは人だった。
 首から下の胴体は明らかに人間のもの。しかし、四肢の形が人ではなくなっている。指の先には鋭い爪。下肢は膝や足首の曲がりが明らかにおかしい。イヌ科の獣と同じ形状――人の脚ではなくなっている。
 何だ? 何だこれは?
 この異形を何と形容したらいい?
「……ウェア=ウルフ」
 ぼそりとリゼが言った。
「うぇあうるふ――?」
「西洋に伝わる伝承に出てくる化け物のことよ。こちらの言葉でいうなら、そうね……人狼になるのかしら」
「人狼」
 半人半狼の化け物。
 文明開化のこの時代に、まさかそんなモノが存在しようとは。
 血の気の引いた青白い顔で、リゼが首を振った。
「化け物なんているはずがない――この人狼は人工的に創り出されたのよ」
「え?」
 どういう事だそれは?
 理解の追いつかない善弥に、リゼは努めて淡々と言う。
「狼の身体と人間の身体を繋ぎ合わせたのよ」
「狼と人を?」
 ということは――。
 善弥は培養槽の中に浮かぶ人狼を見る。
 どう見ても化け物だ。
 これが――元はただの人間だったというのか。
「人体実験……」
 善弥の呟きをリゼが首肯する。
「かなり高度な技術を持った技術者(テクノロジスト)――その中でも生命工学に秀でた優生学者(ユージニスト)の仕業だわ」
 なんて事を――そう言ってリゼが顔を歪める。
「人を実験材料に使って、こんな生き物を作ってるだなんて……」
 そう言うリゼの言葉には、他人事ではない怒りや悲しみが含まれていた。
「……これが絶対に露見してはいけない秘密ですか」
 善弥が冷静に言う。
「なるほど、こんなモノが世間にバレたら、大騒ぎどころではすまないでしょうね。海外の企業が国内で非道な人体実験――まず間違いなく国際問題になる」
 ましてその非道な実験をしていたのが、大英帝国の大企業だ。
 日本と大英帝国の関係だけには留まらず、様々な問題にも波及するだろう。戦争や紛争に発展してもおかしくはない。
「……しかし、狼と人間をつなぎ合わせるなんて事が本当に出来るんでしょうか?」
 いつも通りの飄々とした口調で善弥が言う。
 目前に狂気の沙汰を見ても、彼は動じることがなかった。
 それこそ非人間的なまでに、彼は動揺するという事がない。
「不可能ではない……程度の可能性ならあるわ」
 善弥の態度に少し苛立ちを感じつつも、リゼは答えた。
「つまり成功する可能性は非常に低い」
「そうね」
「なら、これは失敗作ということですかね」
「――え?」
 善弥は培養槽のから少し離れた地点を指差した。
 そこには大きな封筒状の布。その端から、狼の脚が覗いている。
「これは!?」
「どれも死体みたいですね。動く気配がありません」
 あっちにもまだありますよ――そう言って善弥は更に奥を指し示す。
 転がる幾つもの死体袋。
 十や二十ではきかない。一体どれ程の人間が運び込まれ、人体実験の犠牲になったのだろうか。リゼには想像もつかなかった。
「ん――リゼさん動かないで」
 唐突に善弥がリゼに声をかけ、右手を刀の柄に添える。
「何?」
「今、微かだけど動く気配が」
「!?」
 リゼが身体を震わせた。
 人狼の強さが如何なものかは分からないが……少なくとも、ただの狼より弱いということはあるまい。
 ならば狭い室内で、人狼と戦って勝てるか――全く予想がつかない。
 気配がしたのは無造作に置かれた死体袋の一つ。部屋の隅に置かれた、通常よりも小さな袋からだった。
「ここで待っててください。確認してきます」
 善弥は一人、死体袋を改めに向かう。
 不意の対応に備え、刀の鯉口は切っておく。
 神経を尖らせ、死体袋を開ける。
 中にいたのは小さな女の子だった。ひどくやせ細った幼女で、衰弱しているのが目に見えて分かる。培養槽に入っている人狼とは少し様子が違い、頭部は完全な狼になっていない。
 栗毛のおかっぱ頭。その側頭部から、人間の耳とは別にイヌ科動物の耳が伸びている。
 手足は人間のままで、狼を思わせる特徴は頭部の獣耳しかない。
 幼女は衰弱してこそいるが、まだ息があった。
 動く様子はない。
「ふむ……危険はなさそうですね」
 善弥が緊張を解く。
「何だったの善弥?」
「人狼にされた女の子みたいです。取り敢えず危険はなさそうです」
「――見せて」
 善弥を押しのけて、リゼが幼女の様子を確かめる。
 リゼは幼女を見るなり痛ましげに表情を歪めたが、すぐに幼女の容体を確認し始めた。
「まだ息がある……けど酷く弱ってるわね。栄養失調と過剰なストレスによる衰弱みたいだけど」
 早くどこかで診せて、休ませなきゃ――リゼはそう言った。
 もう既にこの名も知らぬ獣耳の幼女を助けることが、決定しているかのように。
 善弥は少し考えてから口を開いた。言いづらい事でも、用心棒として言わねばならない事もある。
「リゼさん、確認ですがその子を助けるつもりですか?」
「当たり前でしょ!」
 力強く断言するリゼ。
「ただでさえ僕らは追い詰められています。ハッキリ言ってこの子は足手まといです、逃げられる可能性がは今よりも低くなるでしょうね」
 それでも――善弥は語気を強めて言った。
「リゼさんはこの子を助けたいですか?」
「もちろん!」
 一切間を置かず、何の躊躇もなく、リゼは言い切った。
「……ですか」
 善弥は少しだけ頬を緩める。
 素直にこの少女の用心棒で良かったと善弥は思った。
 追い詰められた状況で、なお他者を思いやって行動できる人間は少ない。リゼはその稀有な種類の人間だ。
 彼女の言葉は、状況を理解していないだけの甘っちょろい理想論とは違う。
 リゼは抜けているところはあるものの、基本的に賢い少女だ。自分たちが追い込まれているということは理解している。
 それでも幼女を助けると言っているのだ。
 剣士として、用心棒として、何より男として。
 そんな誇り高い少女の仲間になれていることが、何より嬉しかった。
 そして今よりもっと、リゼについて知りたいと善弥は思うようになっていた。
「分かりました……となると、早急にここから脱出しなくてはいけませんね」
「それなんだけど」
 リゼが周囲を探る。
「何かあったんですか?」
「まだ見つけてないけど、あるんじゃないかと思って」
「何がです?」
「隠し通路が」
 幼女を抱きかかえながら、リゼは研究室のあちこちに眼を配る。
「隠し通路? どういう事ですか?」
「考えてもみて」
 リゼは死体の山を示す。
「W&S社はこの人狼化実験を隠してた。でも、これだけの被験者を集めて、かつ失敗作したら死体の処理もしなくちゃいけない。普通に運び入れたり、出したりしていたら、必ず警備員の眼に入るは。そうしたら必ず露見する」
 でもそうはなっていない。
 ということは――
「おそらく、この実験室に直通で外部と繋がっている秘密の隠し通路があるはず」
 なるほど、理には適っている。
 隠し通路がある可能性は高い。
「僕も探します」
 善弥も研究室の壁や床を丹念に調べ始めた。
「多分ここですね」 
 研究室の隅の壁。
 微かだが空気の流れを感じた。
 壁に掛けられた幾つか計器。目盛りの上を、針が上下している。
「この計器、出鱈目だわ」
 リゼがそのうちの一つを指さす。早速善弥が調べる。
「当りですね」
 計器の裏に仕掛けのスイッチがある。スイッチを押すと、隅の壁二メートル四方が手前にズレた。そしてスライドして行く。
 壁の裏に大きな通路が現れた。
「随分と大仰な仕掛けですね」
「このくらい大げさな仕掛けの方が、バレないものよ。さあ行きましょう」
 幼女を抱えリゼは先へ進む。リゼを追いかけて、善弥も隠し通路へと進んだ。

 

 数十分後、人狼化実験を行っている研究室にレクター博士とガゼルが現れた。
 扉のロックが解除された形跡と、開かれた隠し通路の入口を見て、二人は何が研究室で何が起きたのかをすぐに察した。
「まさかこの研究室の隠し通路を使うとは……」
「これであの娘を取り逃がすのは二度目。Mr.佐村はさぞかしお怒りになるでしょうね」
「……申し訳ございません」
 ガゼルがレクター博士に頭を下げる。
「お前の失敗は私の面目にも関わる。肝に命じなさい」
「はっ!」
 レクター博士は今一度研究室を見回す。
 小さな死体袋の中身が消えていることを、博士は見逃さなかった。
(上手くすれば面白いものが見れるかもしれませんねぇ……!)
 レクター博士の頬が吊り上がり、狂気に染まった笑みを浮かべた。
「さて――舞台をこしらえますか」


第三章 人狼の幼女と人斬りの過去


 東京の都心部にある、とあるホテル。
 そこに善弥とリゼは滞在していた。
 そこそこ高級なホテルで、西洋式の調度品や設備が整えられている。
 善弥たちが滞在している部屋は、二人用の部屋でベッドが二つ並んでいる。その片方には、件の幼女が静かな寝息を立てて眠っている。
「今は身を隠す事を優先しましょう」
 そう善弥が提案したのだ。
 リゼと善弥の顔は、既に割れている。あまり工場から近いところに身を寄せれば、すぐに気付かれてしまうと考えたのだ。
 そこで二人は幼女を抱えたまま、都心部を目指した。
 そしてこのホテルを見つけた。
 近くに外国人居留地もあり、このホテルを利用する西洋人も少ないながらにいる。
 ここならリゼも目立つことなく紛れるだろう。
 隠し通路の出口は工場から500メートルほど離れた山林の中にあった。そこから夜通し歩いてこのホテルまで来た。
 工場に忍び込んだ夜から三日が経ったが、未だ追跡者が現れた様子はない。
 ここを選んだのは、正解だったようだ。
 善弥は目の前のベッドに横たわる幼女を見る。
 服を取り替え、リゼが薬と栄養剤を注射して休ませている。まだ、意識を取り戻していないが、以前よりは肌つやが良くなって、回復しているのが見てとれる。
 部屋のドアが開いた。
「ただいま」
 そう言ってリゼが入ってくる。
「お帰りなさい」
 答える善弥。まだ数日であるが、何だか所帯じみてきたなと善弥は思った。
「どうでしたか」
「ダメね」
 善弥の問いに端的に答えるリゼ。
 リゼはこのところ、蒸気コンピューターを使ってW&S社について調べていたのだ。
「情報が全然出てこないわ」
 現在日本でも急速に出来上がりつつある通信網。
 それらを介して、正規の手段とは違う経路で、様々な情報を覗き見ることが出来る――とリゼは言っていた。
「はっきんぐって言うんでしたっけ、上手くいかなかったんですか?」
「ええ……」
 とリゼは肩をすくめた。
「前回忍び込んだ事を受けて、警備が厳重になってる。物理的にも電子的にも。ファイヤーウォールが固すぎて、情報を掠め取れない」
「専門的な事はよく分かりませんが、ともかくコンピューターによるハッキングで『手記』の情報を得るのは無理――という理解でいいですか?」
「……そうね」
 歯切れ悪くリゼが言う。
 正確に言えば、無理ではない。
 リーゼリット・アークライトが本気になれば、W&S社の用意したファイヤーウォールであろうと突破できる。それだけの力を彼女は持っている。
 しかし、その力を使いたくないとリゼは思っていた。
 そんなリゼの気持ちを知らず、善弥は腕を組む。
「となると、やはりこの子の――」
「――ん」
 善弥でもリゼでもない声が、部屋に響く。
 二人は同時に視線をベッドに向ける。
 幼女のまぶたがゆっくりと開く。眼を覚ました幼女は、ゆっくりと周囲を見回し、手足をぎこちなく動かす。
「ここは……?」
「目が覚めたのね」
 リゼが声をかけた。
 幼女がビクッと肩を震わせる。
「え、え――あ、だ、誰!?」
 幼女は錯乱した様子で言う。リゼを警戒しているのか、怯えた目でリゼを見ていた。
 深い恐怖を植え付けられた者の眼だ。
 維新の動乱の最中、善弥は似た目を何度もみた事がある。
「驚かせてごめんなさい」
 リゼは静かに謝った。
 言い聞かせるようなゆったりとした口調で続ける。
「ここはホテルのお部屋で、今ここにいるのは私たちとあなただけ。誰もあなたに酷いことはしないわ、本当よ」
「…………」
 幼女は無言でじっとリゼを見ている。
 まだ、警戒の色はあるものの、態度が少しだけ軟化したように見える。
 声に慈愛が含まれているのかと思うほど、リゼの言葉はどこまでも優しく、裏表がない。それが伝わるのだろうか。
「あなたはとても弱っていて、ずっと眠っていたの。どこか具合の悪いところはない?」
「ない……です。ただ……」
 幼女はポツリと呟く。
「ただ何?」
「……お腹が空きました」
 タイミングを見計らったかのように、幼女の腹が鳴った。
 幼女は恥ずかしそうに顔を赤らめて俯く。
 それを見てリゼは笑った。振り向いて善弥に言う。
「この子、初めて会った時の善弥みたい」
「……ですね」
 善弥も苦笑した。
 リゼは優しく笑いながら幼女に言う。
「食欲があるのはいいことよ。何かご飯を持ってくるわね」
 ホテルのルームサービスを使って軽食を用意させた。
 出て来たのは簡単なサンドウィッチだったが、幼女はそれを貪るように食べた。
「そんなに慌てなくても大丈夫だから」
 そう言うリゼの声は聞こえていないようだった。
 よほどお腹が空いていたのだろう。
 サンドウィッチを全て食べ、温めのお茶を飲み、ようやく幼女はひとごこちついたようだった。
 落ち着いたところを見計らって、リゼが口を開く。
「お腹いっぱいになったかしら?」
「……はい」
 幼女は頷く。
「そう、良かった」
「その……ありがとうございます。ええと――」
「私はリーゼリット・アークライト。リゼで良いわ。こっちは善弥、鷹山善弥っていうの」
「あ、ありがとうございました。リゼさん、善弥さん」
 幼女は頭を下げた。
 目覚めたばかりこそ、警戒心むき出しだったが、本来は礼儀正しい子のようだ。
 改めて善弥は幼女を見る。
 小麦色の肌に栗毛のおかっぱ頭。クリクリとしたつぶらな瞳が特徴的だ。頭部から生えている狼の耳さえなければ、普通の女の子と何も変わらない。
「ねぇ、あなたのお名前を教えてくれない。私たちはあなたのことを何て呼べばいいかしら?」
「ええと……」
 幼女は言いよどみ、身体を震わせた。
 その反応に驚くリゼ。
「ごめんなさい! 大丈夫⁉」
「その、すみません」
 消え入りそうな声で答える幼女。
「私……自分の名前が分からないんです」
「分からない?」
「思い出せないんです。目が覚める前を思い出そうとすると――」
 幼女はガクガクと身体を震わせた。
「身体が震えて……何も、思い出せなくて……」
 リゼは我がことのように顔を悲痛に歪めた。
「こっちこそごめんなさい。無理に思い出そうとしなくていいわ……」
 リゼが幼女の背をさする。
 幼女は自分の身体を抱きしめて、震えを押さえつけていた。
 おそらくは心因性の記憶喪失だろう。人はあまりにも大きな心的外傷を受ける時、自らの精神が崩壊するのを防ぐため、心的外傷を受けた記憶そのものを消去するという。
 幼女があの工場で受けた仕打ちは、それほどのものだったのだろう。
「これでこの子の記憶を頼りに忍び込むのも、難しそうですね」
 外部からのハッキングW&S社の情報が入らない以上、もう一度工場に忍び込み、内部から情報を得る他ない。
 だが、工場の警備は厳重になっている。
 どうにか忍び込む隙がないか――残された手がかりは幼女の記憶だけだったが、当てが外れてしまった。
 幼女の身体の震えが少しずつおさまってきた。リゼが優しく促す。
「お腹もいっぱいになったし、まだ体調も良くないでしょう。また眠っていいわ、ゆっくり休んで」
「はい……ありがとうございます」
 幼女はベッドでまた毛布にくるまった。
 すぐにスウスウと可愛らしい寝息が聞こえてきた。
 リゼはそんな幼女の様子を愛おしそうに眺めていた。
「何故そんなにも、この子を助けようとするんですか?」
 善弥がいつもと変わらぬ口調で尋ねた。
 リゼは答える。
「言ったでしょ、こんな小さな子が酷い目にあってるのよ。助けるのは当たり前でしょ」
「その当たり前について、もう少し教えてもらえませんか」
 善弥は食い下がる。
「リゼさんは自分の命がかかった状況で、それでもこの子を助けようとした。当たり前?  とんでもない。誰にもできる事じゃありませんよ」
「…………」
「だから知りたくなるんです。何故そんなにも、誰かを救おうとするのか。救おうと思えるのか」
「善弥だって初めてあった時、私を助けてくれたじゃない」
「あれは善意なんかじゃありませんよ。ただ戦う口実が欲しかっただけです」
 終始善弥の口調は変わらない。いつもの穏やかで飄々とした語り口のままだ。
「僕は人と殺し合っている時だけしか、生きている意味を見出せない人でなしですから」
「そんな――」
 事はないと、リゼは言うのだろう。だからそれを言う前に、善弥が二の句を継いだ。
「そんな人でなしには、不思議なんですよ。あなたみたいな人は――ね」
「……私は」
 リゼはゆっくりと言葉を選らぶ。
「私はただ、自分の信念に従って生きているだけ」
「信念?」
「科学は人を幸福にする為に在る――それが私の信念だから」
 それは以前にも言っていたことだ。
「彼女をあんな風にしたのは、W&S社の技術者アルバート・レクター博士。自分の利益のためなら、どんな非人道的行為も辞さない男。そんな男に利用されて犠牲になった人がいるなら――それがあんな小さな子なら、私は自分の信念にかけて、見捨てるわけにはいかない」
 善弥はリゼの眼を見た。
 彼女の目には一点の曇りもない。かつて、こんな眼を見たことがある。
 これは志士の眼だ。 
 まだ善弥が小さかった幕末の頃。二年前のあの時も見た。
 自らの理想と信念に燃え、それを貫くためならば、命を懸けることを惜しまない者。それだけの覚悟を持っている者の眼。
 眩しい物を見るように、善弥は視線を逸らした。
「――だから、善弥には感謝してるの」
「え?」 
 善弥は逸らした視線をリゼに戻す。
 彼女は真っ直ぐに善弥を見る。
「私の信念に従って――なんて格好付けたけれど、言い換えればただの我儘、自己満足でしかないわ。しかも私にはそれを貫けるだけの力があるわけじゃない」
 あの子を助けられたのは善弥のお陰――そう言ってリゼは笑う。
「あなたが優しい人で良かったわ」
「……!」
 一瞬だけ善弥の顔に張り付いた笑みがはがれた。
 戸惑う感情を抑えきれなかったのだ。
「僕はそんな出来た人間ではありませんよ」
 辛うじてそれだけ言い返した。


 更に数日間、ホテルに滞在した。
 幼女の体調はすっかり良くなって、歩き回れるようにもなっていた。
「それじゃお散歩に行きましょう」
 ホテルで外出用の身支度を整えながら、リゼが言った。
「は、はい」
 答えたのは幼女だ。
 衣服は新しい物をリゼが買い与えて、新品になっている。
 着物は明るい橙色の布地に、花びらの刺繍が入っている。ぼさぼさだった髪は整えられ、健康的な小麦色の肌に虐待のあとはない。
 頭部の獣耳は、帽子を被って隠してある。
 幼女の姿を見て、リゼが頷く。
「う〜ん、クリちゃん可愛いわね」
 クリちゃんというのは、幼女の名前だ。
 もちろん本名ではないが、ずっと呼び名がないままだと不便だという事で、仮に名前を付ける事にした。
 リゼがハンナやエミリーといった西洋式の名前しか思いつかなかったので、善弥が
「(栗毛だから)クリちゃん、とかどうですか」
 という提案し、幼女もそれに応じた。おそらく西洋の耳馴染みのない名前よりは良いと思ったのだろう。
「あ、その、ありがとうございます」
 おずおずと答えるクリ。
 少し恥ずかしそうに答える姿は、小動物的な庇護欲をそそる可愛らしさがある。
「か――可愛い!」
 抑えきれないとばかりに、リゼがクリに抱きついた。
 抱きついて頬ずりをするリゼ。クリはされるがまま。
「この子本当に可愛いわ! ずーっと抱き締めたくなっちゃう!」
「……リゼさん、ちょっとキツいです」
 クリはむずがるが、まんざらでもなさそうだ。
「善弥もそう思うでしょ!」
 クリを胸に抱きながら、善弥に言うリゼ。
 善弥は苦笑しながら応じる。
「たしかにクリちゃんは可愛いと思いますけど、リゼさんそのくらいで。あんまりクリちゃんを困らせちゃダメですよ」
「何よ大人ぶっちゃって、私はクリちゃんを困らせてなんてないわよ。ね! クリちゃん、ね!」
「あ、あはは……」 
「それが困らせてるんですよ」
 善弥がリゼをクリから引き剥がす。
「そろそろ出かけましょう、早めに出かけた方が色々周れますから」
 三人揃ってホテルを出た。
 今日の目的は、東京の各地を回ること。
 発端は善弥の思いつきである。
「……人狼化実験の犠牲になった人達は、どこから連れて来られたんでしょうね?」
 ふと疑問に思い、善弥がそう言った。
「どこってそれは……」
 リゼは返答に詰まった。
 そうだ。
 人は何もないところから突然現れたりしない。実験の被験体にされた人達は、必ずそれ以前にどこかに存在していたはずなのだ。
 ではどこから?
「一般人を無作為に誘拐すれば、すぐに警察が動くはず――でもまだW&S社の凶行は明るみになっていない」
「多分ですが東京各地の落人群だと思います」
「落人群?」
「職にあぶれた人達が身を寄せ合って生きている、街の吹き溜まりみたいなものですかね」
「スラムみたいなものかしら」
 と独りごちるリゼ。
「落人群には公的機関の目が届きません。あそこからなら、人を何人か攫っても警察や軍は動かないでしょう」
「可能性は高そうね」
「――そこでなんですが」
 善弥が切り出した。
「落人村に網を張るというのはどうでしょうか」
「どういうこと?」
「もし奴らが今後も実験を続ける気なら、必ず実験体になる人間を攫いにくるはずです。そしてその時に居合わせることが出来れば、連れ去られる人たちに紛れて工場に潜入できるんじゃないかと」
「それは……一理あるわね」
 リゼは頷く。
「それに――」
 善弥が付け足す。
「おそらくクリちゃんも落人群から攫われたはず」
「……そうね」
「なら幾つかの落人群を見て回って、見覚えのある場所があれば、クリちゃんも少しは記憶が戻るかな……と思いまして」
「そうね!」
 リゼが大きく頷く。
「脳は視覚からの刺激によって活性化することが多いの。たしかに色々見てみるうちに、記憶が戻るかもしれないわね」
 リゼは少しだけ寂しそうに目線を下げて言う。
「クリちゃんって私たちが勝手に名前を付けちゃったけど、やっぱり自分の本当の名前を思い出した方が良いわよね」
「……そうですね」
 そんな会話の結果、三人は東京の街を散策することにしたのだ。
 落人群を回るだけでなく、クリに色々な景色を見せようというのは、リゼの意見だ。
「ここ最近、部屋に籠って調べ物ばっかりだったから、何だか気分が良いわ」
 スキップしそうな勢いで、リゼが楽しそうに言う。
 どちらかというと、クリよりもリゼの方が楽しんでいるようにも見える。
「リゼさん、あんまりはしゃがないで下さい。人目を引きます」
 善弥がたしなめた。
 こうして往来を歩くと、善弥たち一行は目立っていた。
 シャツの上から着物と袴という書生スタイルにも関わらず、腰に刀を差している善弥。
 橙色の着物にベレー帽を被ったクリ。
 そしてシックな洋風のドレスを来たリゼ。
 何ともちぐはぐな面子だ。その三人が揃って歩けば、この東京では浮くだろう。更にはしゃいで歩くリゼが、金髪碧眼の美少女なので余計目立つ。
 善弥は改めて日の下でリゼを見た。
 透き通るような白い肌と金糸のような艶やか髪。果実のように潤んだ唇が、カラカラと心地よい笑い声を紡ぐ。
 コルセットでタイトに締められた細い腰と、反比例するように豊かな胸。
 まるで芸術家が作り上げた作品のようで、思わず善弥は一瞬見惚れた。
「リゼお姉ちゃん、待ってくださいって善弥さんも言ってますよ」
 クリもそう言いながらリゼを追いかける。 
「ごめん、ごめん」
 答えるリゼの顔からは、笑みが落ちてはいない。
「さ、行きましょ。まずは浅草ね」
 停留所で少し待ち、乗り合い馬車に乗り込んだ。
 大きな二階建ての馬車で、馬も三頭立ての大型車だ。社内の階段を登り、二階の座席に座った。
 二階は屋根がなく、落下防止用の手すりがついているだけの造りになっている。雨の日は最悪だが、今日のように晴れた日は解放感が最高だった。
 座席は二人掛けの物が、両側に五列ある。
 クリとリゼが一番前の座席に並んで座り、善弥は一つ後の座席に一人で座った。
 乗合馬車が動き出した。
 東京の街を二階建ての馬車が走る。
 流れる街並みにリゼとクリは釘付けだ。
「あっ! あれ何かしら!?」
「どれ!? どれのことですか!?」
 真新しい建物や乗り物を見るたびに、リゼとクリははしゃいで言葉を交わす。
 その姿を後ろから見ていると、まるで仲の良い姉妹のようだ。顔立ちも、肌の色も、髪の色も違うのに。
 それはきっと、彼女たちが純粋だからなのだろうと、善弥は思う。
 初めて見る新しいものを眼にして興味や関心を覚える。そしてその感覚を他者と分かち合う、共感することができる。その感度や方向性が、きっと二人は近いのだろう。
 何となく、座席以上の隔たりを、善弥は感じた。
「ねぇ! あの大きな門は何? 凄く大きな提灯? がついてるわ」
 不意にリゼが振り返って善弥に聞いた。
 善弥は視線を前方に合わせる。大きな山門に巨大な提灯。そして左右に祭られた風神雷神像。
「見えましたね。あれが目的地の浅草、浅草寺の雷門ですよ」
 乗合馬車から下りて、山門へ向かう。
 山門に吊るされた巨大な提灯に向かって近づく。
 雷門――浅草を代表する観光名所の一つであり、ランドマークと言っていいだろう。
「これが雷門! 日本に来る前に読んだ本にも書かれていたけど、本当に大きいのね!」
 リゼは嬉しそうだ。
 善弥はそんなリゼを見て苦笑しながら、クリに尋ねる。
「クリちゃん、ここに見覚えはあるかな?」
「ん……その、ちょっと分からないです。何か思い出すような感じはしません」
「そうですか」
 これ程特徴的な建築物を見ていたら、何か覚えていても良さそうなものだ。なのに何も思い出されないという事は、ここは外れかも知れない。
(浅草には落人群が幾つかあったと聞いてたけど……当てが外れたか)
「その……すみません」
 クリが謝った。
 善弥は笑顔で言う。
「クリちゃんが謝る事はないですよ」
「…………」
「ここが連れ去られる前にクリちゃんがいた所じゃないって分かっただけでも、それは成果です。また違うとこを探せばいいだけです」
 それに――と言って、善弥はリゼを見た。
「リゼさんも観光が楽しいようですし、一緒に楽しんでください」
「でも……」
「クリちゃんが暗い顔をしているよりも、楽しそうにしている方が、リゼさんも嬉しいはずですよ。ね?」
「――はい」
 そう言って、ようやくクリの表情が明るくなった。
「ねぇねぇ、三人で記念写真撮りましょ!」
 気付けばリゼが何やら折り畳み式の三脚に、レンズの付いた金属製の箱――携帯型カメラを取り付けている。
 善弥また苦笑した。
 リゼはとことん観光モードになっている。当初の目的を覚えているのだろうか。
「ほらほら二人ともこっち!」
「は、はい!」
「今行きます」
 テンションの高いリゼに言われるがまま、クリと善弥はカメラの前に移動する。
 カメラを覗き込み、何度も画角を確認するリゼ。
「二人とももうちょっと右――あ、クリちゃんはそこで止まって。善弥は少しだけ左に戻って……そうそう、そこ! そこで動かない!」
 クリを前にして、クリの左斜め後ろに善弥が立つ。
 リゼはクリと善弥の位置を確認すると、タイマーをセットしてダッと駆けた。クリの右斜め後にリゼが立つ。
「レンズの方を見て、ニッコリ笑って!」
 リゼが言い終わると同時にフラッシュが焚かれた。
「ちょっと待ってね、今出来栄えを確認するから」
 カメラから撮ったばかりの写真が現像され、吐き出される。リゼはそれを手に取って眺めた。
「――うんうん、いい出来じゃない」
「リゼさん! 私もみたいです‼」
「いいわよ。ほら」
「うわぁ!」
 クリは写真を受け取ると目をキラキラと輝かせた。
「善弥さんも見てみてください」 
 クリから差し出された写真を受け取って、善弥も見た。
 山門の巨大な赤提灯と青い空を背景に、善弥たち三人が写っている。『手記』だとか人狼だとか、陰鬱な気配など微塵も感じさせない――写真の中のリゼとクリは、楽しそうに笑っていた。
 善弥も笑っている。
 しかし、二人の笑みとは何か違っている気がした。
 それを口にして雰囲気を悪くするのは本意ではなかったので、善弥は写真について何も言わずに話題を変えた。
「さて――記念撮影も終わったことですし、本堂にお参りしに行きましょうか」
「はい!」
 クリが元気に返事をする。
 リゼのカメラを片付けた後、参道を通って本堂へ向かって歩きはじめた。
 両脇に屋台が立ち並び、土産物や料理が並んでいる。その光景が物珍しいのだろうか。クリは興味津々といった風だった。
 クリを見守りながら、少し後方で善弥はリゼと並んで歩く。
 歩きながら不意にリゼが言った。
「ありがとう」
「何がです?」
 善弥にはリゼが何について礼を言ったのか分からなかった。
「クリちゃんの顔、さっきより明るくなってる。あなたが何か言ってくれたんでしょう?」
「ええ、まあ」
「良かった。あの子の暗い顔、あまり見たくなかったから……やっぱり善弥は優しいのね」
「……そうですかね」
「何でそこで言い渋るの?」
 リゼが尋ねた。
 それは善弥の核心をつく言葉だった。
「前から気になってた。何でか善弥は自分から人らしくない素振りを取ろうとしている気がする」
「何のことですかね」
「さっきもそう。善弥はちゃんとクリちゃんを気遣っているし、あの子のこと心配したりしてる。なのにそれを認めようとしない」
「僕はただの人でなしですよ」
 善弥は首を振った。
 善弥にとって、生き甲斐、生きる意味とは即ち戦う事。殺し合う事。
 それだけだ。
 リゼが何を言っているのか、善弥にはよく分からなかった。
「あなたは優しい人よ」
「いいえ。僕は優しいどころか、人ですらない」
 善弥にしては珍しく、強い口調で否定した。
「僕は――剣だ」
「どういう意味?」
「僕に人の心はありません。志や信念もない。ただ人を斬り殺すだけが取り柄――そんなものはただの凶器」
 人間とは呼べないでしょう? ――と当然のように善弥は言った。
「何でそんな風に言うの?」
「そうだからとしか言いようがありませんね」
「何か……そう思うような事があったんじゃないの?」
「…………」
「聞かせて」
 リゼの事情は色々と聞いている。ならば善弥も少しは身の上を話すべきかもしれない――そんな風に思うほど、善弥は知らず知らずうちにリゼに心許すようになっていた。
 その事を、善弥はまだ自覚していない。
 静かに口を開いた。
「リゼさんはお父様が亡くなられた時、悲しかったですか? 涙を流したことは?」
「どうしたの急に」
「二年前です」
 僕の育ての親であり剣の師が、目の前で殺されたのは――いつもの微笑のまま、善弥はそう言った。
「その時僕は、悲しむことができなかった。涙も出なかった、取り乱すこともなかった。ただ仇を殺す――それを最優先に考えていた」
 ――遠い目をして善弥は淡々と語った。己の過去を。

 

 今も鮮明に思い出す、二年前の記憶。
 遠く故郷の佐賀でのことだ。
 佐賀の乱――明治に世が移り変わってから起きた、最初の大規模な不平士族の反乱。善弥は師であり育ての親、鉄人流師範、鷹山兼継と共に反乱軍の切り込み部隊として参戦していた。
 と言っても、善弥に思想的な意志はなかった。
 反乱を起こした指導者、江藤新平や島義勇の考えに賛同したわけではない。ただ師が反乱軍に参入したので、それに付き従っただけ。
 だから善弥は決して志士ではない。
 人斬り働きが達者なので重宝された――本当にただそれだけだったのだ。
 熾烈を極めた佐賀の乱、その幾多の戦闘で人を斬り続け、ついには『双翼』の名で政府軍から恐れられるようになっていった。
 大局を見れば、政府軍に趨勢は傾いていったが、局所的な戦闘では反乱軍も善戦していたのだ。
 その輝かしい日々を善弥は今でも覚えている。
 大義が何なのか、よくは知らない。しかし大義を掲げ、戦い続けること。戦場に身を投じるたびに感じる高揚感と、勝利の度に喜ぶ味方――そして師。
 時代の中心地であった京や江戸から遠く離れた佐賀の田舎で、ただひたすらに剣術に打ち込んでいた善弥には、その日々は何にもまして心地よいものだった。
 だが、それも長くは続かなかった。
 次第にであるが、趨勢は政府軍に傾きつつあった。
 そしてある日の戦闘で、師が――育ての親が斬られたのだ。
「――師匠」
 敵味方入り乱れる白兵戦。
 自分が斬り倒した骸の向こうに、同じように斬り殺された師を見た。
 右肩から背中へかけての切創に、左肩から胸への一刀を浴びて、師は倒れていた。
 そして師を見下ろす、軍刀を構えた軍人が一人。
 涙は流れない。取り乱すこともしない。
 善弥は倒れる師に駆け寄るも先に、仇である軍人に斬りかかった。右の大刀、左の小刀、左右から連続の袈裟斬り。
「ほう?」
 師を斬り倒した軍人は、一の太刀を軽く払いのけ、二の太刀を一歩引いて躱した。無駄のない動きだった。
「その二刀に同じ太刀筋――同門、いや師弟か」
 軍人はわずか一合で善弥と兼継が師弟であると見抜いた。
 実力者ほど相手の力量や剣技を見抜くのに長ける。その言動だけで、軍人が達人であると知れる。
「さっきの男も中々の腕前だったが、貴様も相当にできるな?」
「…………」
 善弥は答えない。
 ただ冷たい目で軍人を観察する。この男は師を倒した男だ、生半可な腕ではない。倒すなら全神経を集中して、少しの隙も見逃してはいけない。
 善弥は無表情のまま、半眼で相手をぼうっと見て調息を繰り返す。毛ほどの隙も見逃さず、捉えて斬り捨てる必殺の気位を練る。
 鉄人流極意水鏡――明鏡止水の境地に意図的に入る技術だ。
 今の善弥は敵の隙を映し出す鏡。
 隙を見せた瞬間、善弥の身体は思考よりも先に敵を断つ。
「フッ――中々楽しませてくれる」
 対する軍人は、そう嘯くだけの余裕を見せてニヤリと笑った。
 静かに軍人が軍刀を構えなおす。
 左半身になり、右斜め上へ切っ先を突き出すように構える独特な八相の構え。
 両者の闘気が充満し、空気が張り裂けようとした。
 その時だった。
「撤退! 撤退!」
「撤退せよ! 繰り返す! 撤退せよ!」
 大声で政府軍の伝令兵が叫ぶ。
 戦況がひと段落したと見て、一時撤退を政府軍の指揮官は決めたのだろう。
 男は興が覚めたと言わんばかりに構えを解いた。
「勝負はお預けだな」
「…………」
 善弥は動かなかった。
 構えを解いてなお、この男には隙が無い。
 故に切り込めない――勝負は預けると男は口にしたが、戦わずして敗れた。少なくとも善弥はそう感じた。
 だが、それでも。
 たとえそれが虚勢であったとしても、善弥は男に斬り込む隙を探す続けることを止めなかった。
「面白い男だ」
 軍人はニヤリと凄味のある笑みを浮かべて言った。
「仇をとりたければ、何時でも来るがいい」
 そう言い残して凄腕の軍人、師の仇は去っていった。
 佐村と政府軍が撤退してから、善弥はようやく兼継の元へ駆け付けた。
「善弥……か?」
 既に兼継は息絶える寸前だった。
「はい師匠、善弥はここに」
 兼継のそばで善弥が答えた。
「お前に……最後、まで……大した事を……してやれんで、すまぬ……」
「師匠は僕に剣を――鉄人流を授けてくださいました。感謝してもしきれません」
「だが、それだけ……だったろう……」
「?」
「儂はお前に剣を教えた……お前にしてやれたのは……それだけだ」
 儂はお前を――そう言って鷲尾は善弥を見た。
「剣そのものに……してしまった……お前を人に……してやれなかった……」 
「…………」
 善弥は神妙な顔で聞いていた。
「善弥、お前は……この先、好きに生きろ……人として、自分で生き方を選べ……お前ならそれが……でき――」
 それが師の最後の言葉だった。
 それからかもしれない。
 善弥は生きる標を見失っていた。自分が何の為に生き、何故生きているのかが分からなくなってしまった。
 それから佐賀の乱が鎮圧され、善弥はお尋ね者になった。
 もはや真っ当には生きてはいけない。自死を選ばなかったのは、師に生きろと命じられたからという理由以外にない。
 それから軍警の目をくらますため、各地を放浪した。
 その先々で荒事に首を突っ込んでは、戦いの高揚感に身を投じてきた。その時だけは、ぽっかりと開いた胸の穴が、塞がれた気がした。
 そんな生活を送りながら、流れ流れて東京に来た。そしてリゼに出会った。
「前にも言った通り、僕はリゼさんといれば戦いの場に事欠かないと思ってあなたを助けた。言ってみればただの打算です」
 強敵と斬り合っていたい。
 いつ死ぬかも分からない鉄火場で、滾る血潮を感じていたい。身を焦がす昂りをもっと――。
「僕は気が付けば人をどう斬り殺すか、そればかり考えてえしまう」
 人を殺す事ばかりを考え、他者の事情に首を突っ込む。
 大切な人が死んでも涙も出ない。
「人でなし以外の何者でもないでしょう?」
「…………」
 リゼは善弥の横顔を見つめた。
 善弥は微笑んだままだ。その張り付いた微笑の奥に、深い深い影がある。リゼにはそんな風に見えた。 
 不意にリゼが言った。
「なーんだ。善弥って、結構怖がりなのね」
「――は?」
 思いもよらない事を言われて、善弥は戸惑った。
「僕が怖がり?」
「ええ、そうよ」
 自信たっぷりに答えるリゼ。
 善弥は首を傾げる。
 今まで何度も修羅場を踏んできた。死を恐れて、身が竦んだことなど一度もない。 
 そんな善弥が怖がり?
「善弥は人でなしなんかじゃない。ただ優しくて怖がりなだけよ」
「それは――」
 一体どういう意味だろうか。
 善弥が問いかけようとした、その時だった。
「――クリちゃんは?」
 リゼが言った。
 善弥もハッとなって周囲を見る。
 さっきまで近くにいたはずの、クリがいない。
「いつから……?」
「わ、私話すのに夢中で全然気が付かなかった」
 リゼが申し訳なさそうに言う。
 気付かなかったのは善弥も同じだ。その事に気付いて、善弥は驚いた。
 善弥は普段から周囲の警戒を怠らない。何をしていても、どこか薄っすらと神経を尖らせて、警戒する癖が身体に染み付いている。
 なのにクリが居なくなることに気付かなかった。
 それ程までに、善弥もまたリゼとの会話に集中していた。善弥にとってさっきの会話は、それ程重要なものだったのだ。
 いや、今それはいい。
 優先すべきはクリの行方である。
 リゼは顔色を変えて心配している。
「まさか攫われたとか――」
「それはないと思います。人を無理矢理連れ去ろうとすれば、さすがに気付いていたはずです」
 善弥は冷静に否定した。
「人混みではぐれてしまったみたいですね。探しましょう」
「分かったわ! 善弥は向こうをお願い。私はこっちを探してくるから!」
 善弥とリゼは二手に別れた。



 浅草寺参道の脇。
 無数にある路地を一つ一つ確かめながら、善弥はクリを探していた。
 足早に歩きながら善弥は考えていた。
(……優しくて怖がりか)
 そんな風に言われたのは、初めてだった。
 優しいとは――どういう事なのだろう。
 こんな風に迷子を探していれば、それで優しい人という事になるのだろうか。人は誰かを優しいと判断するとき、何を基準に判断しているのだろうか。
 人に親切にしている時? 
 穏やかに微笑んでいる時?
 ではそれが外見だけなら? ――鷹山善弥のように。
 善弥の笑みは、彼が覚えた処世術の一つだ。
 にこやかにしていれば、それだけで人当たりは良くなる。
 善弥が常に人の斬殺方法を思案し、実戦の場を求めていることなど、考えもしないだろう。そんな上っ面だけ人のフリをしているだけの男が、優しい人であるはずがない――と、善弥は思っている。
 怖がりとは――どういう事なのだろう。
 善弥は何を恐れているのだろう。
 自分は何かに怯えているのだろうか?
 死は恐ろしくない。むしろ戦って死ねるなら本望だとさえ思っている。そんな男をリゼは怖がりと言った――その真意は善弥には全く分からない。
 グルグルと思考が空回りする。
 だが空回る思考とは裏腹に、善弥の眼球はクリの姿を探し続けていた。
 歩む足取りは速いまま、留まることを知らない。
 無意識にクリの歩幅と、居なくなった時間帯から、そう遠くまで行っていないだろう事まで計算していた。
 止まることなく善弥が探し続けて十分程。
 ――見つけた。
 人気の少ない路地の先。
 夢遊病者のような覚束ない足取りで、歩くクリの後ろ姿を善弥は捉えた。
「クリちゃん」
「…………」
 善弥が声をかけたが、反応がない。
 急いでそばまで駆け寄る。
 クリの眼はとろんとした寝ぼけまなこのようで、焦点が合っていない。虚空をみつめ、誘われるように歩き続けている。
「クリちゃん!」
 善弥がクリの肩に手をかけて言った。
 ようやくクリの足が止まる。
「善弥……さん……?」
 ゆっくりとクリが善弥に顔を向ける。
 ぼんやりとした目の焦点が合い、クリが瞳に善弥がはっきりと映し出される。
「無事でしたか」 
「ふぇ? は、はい……」
 クリは不思議そうに言ってから周囲を見回し、
「え? えええっ!? ここは……私、いつの間に」
 驚きに声を上げた。
 自分がフラフラと歩いていた事に気付いていなかったようだ。
「覚えてないですか? クリちゃん、いつの間にか一人で歩いて行っちゃったんですよ」 
「…………」
 クリは頭を押さえて、顔を歪める。
「すみません、私……何だか急に『こっちだ』って呼ばれてるような、そんな気がして……それで気付いたら」
「無意識のうちに一人で歩いていってしまった――と」
 善弥はクリが進もうとしていた路地を見た。
 この先に、クリを呼び寄せる何かがあるのだ。
「取り敢えず、この先に進むのはリゼさんと合流してからにしましょう」
「……その、すみませんでした」
 クリはしょんぼりと頭を下げた。
「勝手に一人で動いて、迷惑かけて……」
 申し訳なさそうに縮こまるクリを見て、善弥は頬を緩めた。
「クリちゃん、顔を上げてください。僕らはクリちゃんの事を心配しましたが、怒ってはいません」  
 クリの頭に手を乗せる。
「クリちゃんが無事で良かったですよ」
「…………」
「さ、リゼさんと合流しょう」
 クリは善弥を見上げる。
「善弥さんって……」
「何ですか?」
「お兄ちゃんみたいですね」
「はい?」
 善弥は首を傾げる。
 善弥に兄弟はいないので、お兄ちゃんみたいだと言われても、それがどういうことなのか良く分からない。
 ただ不思議と悪い気はしなかった。
 来た道を歩いて、リゼと二手に別れた地点まで戻る。
 まだクリを探し続けているのか、リゼは戻ってきていなかった。
「善弥さんどうします?」
「辺りをぶらついて、探すしかないですね。クリちゃん、今度ははぐれちゃダメですよ」
「分かりました」 
 クリは善弥の手を握った。
「これなら、はぐれたりしないですよね」
 クリがニコニコと言う。
 何故かは分からないが、急にクリが善弥に懐いたようだった。以前よりも距離感が近い気がする。
 そのまま手を繋いで、リゼを探して歩いた。
 左の手のひらに感じる小さな手の温もりに、善弥は胸の内が暖かくなるような不思議な感覚を覚えていた。
 しばらく歩き回って、ようやくリゼを見つけた。
 リゼはかなり動き回ってクリを探していたらしく、少し息が切れていた。
「クリちゃん! 見つかったのね!」
 リゼが駆け寄ってくる。
「もう! 心配したのよ」
「その……ご心配おかけしました」
 おずおずとクリが頭を下げる。
「よく言えました」
 善弥がクリの頭を撫でる。クリは嬉しそうに笑った。
 リゼはその様子を見て、おやっと表情を変えた。
「……何かクリちゃんと善弥、仲良くなってない?」
 リゼは善弥にジトっとした視線を向ける。
「クリちゃんと何かあった?」
「特には何も」
 と善弥は答えた。
 リゼはクリに視線を移す。
 クリはニコニコと笑って、善弥の袖にくっついている。
「嘘! 絶対何かあったでしょ!」
「と言われましても」
 善弥には何でクリが急に懐いたのか、全く分からない。
「まあまあ、リゼさん落ち着いて。もうお昼ですし、何か食べに行きましょう」
「はい!」
 善弥の袖に張り付いたまま、クリが元気に返事をする。
「…………」
 リゼはジトっとした目をしたまま数秒停止。その後、何を思ったかクリとは反対側の善弥の袖に張り付いた。
「……どうしたんですか?」
「だって、なんか……クリちゃんだけズルいから」
「?」
「いいから! ご飯食べに行きましょ‼」
 リゼが顔を赤くして叫ぶ。
 何故リゼの顔が赤くなっているのか、善弥には分からなかった。 

 
 第四章 心


 近くの蕎麦屋で手早く昼食をとってから、善弥がクリを見つけた路地まで戻ってきた。
「何となくなんですけど、こっちに何かがある……そんな気がして、いつの間にか勝手に足が動いてて」
 改めて、事情をリゼに説明するクリ。
 リゼはクリの説明を聞いて、
「もしかしたらだけど、少しだけ記憶が戻ってきてるのかも。それを無意識に呼ばれてるって認識しているのかもしれないわね」
 と言った。
 これが良い兆候なのかは分からないが、少なくとも調査の糸口は見えたと言っていいだろう。
 浅草は玉姫町を中心に、幾つもの落人群がある――そう聞いて訪れた。
 ハズレかと思いきや、どうやら当たりだったらしい。
「クリちゃんの感覚を頼りに、取り敢えず行けるとこまで行ってみましょう」
 リゼの提案により、クリが先導する形で、浅草散策を再開した。
 クリは一度目を閉じて自分の感覚を研ぎ澄まし、
「こっち……の気がします」
 と言って、行く先を示した。
 クリは路地をゆっくりと進み、曲がり角に来るたびに、遠い記憶を思い出すかのように目を閉じ、そしてまた歩き出す。
 それを何度も繰り返して、幾つもの寂れた路地を少しずつ少しずつ進んでいく。
 そして――
「ここは…………」
 寂れた路地の果て。
 都市に出来たエアスポット。吹き溜まり。
 行政に見捨てられた小さな区画――落人群があった。
 ぼろ板を繋ぎ合わせた粗末な小屋が並んでいる。そのどれもが、嵐でも来ればすぐにでも吹き飛んでしまいそうなほど粗末なものだった。
 いくつかの小屋は壊れ、ただの瓦礫となっている。
「人の気配がしないわね……」
 リゼはそう言った。
「驚かないんですね。落人群を見ても」
 先進国の人間が見たら、人の生きていける環境ではないと判断すると思ったが。
「私もそこまで世間知らずじゃないわ。ロンドンにだって、貧民街はある。国が栄えたからって、その国民が等しく豊かになるとは限らないわ」
 なるほど、と善弥は納得。
 改めて落人群を見回す。崩れた小屋も合わせたら、三十人程の人間がここで生活していただろうと、善弥は当たりを付けた。
 今は人っ子一人いない。
 善弥はクリの様子を伺った。
 クリは呆然と落人群を見ている。
 この様子では、やはりクリの両親も実験体として攫われ、そして果てたのだろう。あの積み上げられた死体袋のどれかがクリの両親だったのだろうか。
 今はそれさえ分からない。
「何か思い出せましたか?」
 善弥の問いにクリは首を振る。
「何となく、ここに見覚えがあるってところまでしか……」
「……クリちゃん」
 リゼが声をかけようとした、その時だった。
「うっ――う、ぐぅ――っ!」
 クリが突然うめき声を上げた。
 頭を押さえてその場にへたり込むクリ。
 驚いてリゼはクリに駆け寄った。クリの背に手を回し、クリの身体を支える。
「クリちゃん大丈夫⁉ しっかりして!」
 クリは頭を押さえたまま、悲痛な表情を浮かべる。
「あ、頭が……急に――ああああぁぁ!」
「クリちゃん‼」
 リゼがクリの肩を強く抱く。
 善弥は何かが近くに迫ってくる気配を感じた。空気の流れに乗って、僅かに聞こえる耳障りな不協和音。そして何かの足音。
 落人群の崩れた小屋の影から現れたそれは、人の背丈ほどもある狼――否、狼と人を繋ぎ合わせた化け物だった。
「人狼⁉」
 一体どこから出てきたのか。
 善弥たちは無数の人狼に取り囲まれていた。
 ある者は地に伏せて唸り、ある者は二本足で起立し、爪をこちらに向けている。
 対する善弥たちは、頭痛で動けなくなったクリをリゼが抱え、身動きが取れない。危険な状況だ。
 逃げられない――ならば迎え撃つほかない。
 善弥は腰の二刀を抜いた。
 リゼとクリの背に小屋の壁がくるように立ち位置を変える。 これで背後は気にしなくていい。 
 ただ前方と左右からくる人狼を斬り捨てることに集中する。
 鷹が羽ばたくかのように、善弥は左右へそれぞれ切っ先を向け、剣を広げた構えを取る。
 鉄人流両翼の構え。
 左右からの攻撃を牽制しつつ、敵が自ずと正面から攻撃してくるように誘う、対多数用の構えである。
 善弥は取り囲む人狼を数えた。
 ざっと八体――爛々と光る肉食獣の眼が、善弥と背後の二人を射貫く。
 善弥は臆することなく、むしろ頬を緩め、身体の力を抜いた。
 懐かしい感覚だった。
 総身を貫く殺意――それは慣れ親しんだ修羅場。
 善弥が何よりも居心地良さを感じる場所であり一時。
 これこそが善弥にはお似合いだ。リゼやクリの笑顔などではなく。
 扇状に広がって取り囲む人狼の群れ。
 地に伏せた一頭が善弥に飛び掛かった。
 善弥の首筋を噛み切らんと牙を剥き、強靭な跳躍力で一瞬うちに善弥の内懐まで肉薄する。
(速い――!)
 大刀では間に合わない。心中発声すらなく、無意識に左の小刀が動いた。
 飛びかかる人狼の動きを紙一重で避けつつ、小刀の切っ先が人狼の喉笛を裂く。人狼の飛びかかる動きを利用した、無駄のない引き切りの一撃。
 人狼は飛び掛かった勢いのまま、善弥の斜め後方まで血をまき散らしながら跳んで果てた。
 それを皮切りに戦局が動いた。
 人狼たちが次々に善弥へと襲い掛かった。
 咆哮と唸り、牙と爪が乱舞し、まるで一つの生き物であるかのように、人狼たちは善弥を襲う。それは本能の成せる業か。
 狼は群れで獲物を狩るという。集団で獲物を追い詰め、仕留めることにかけて他の肉食獣の追随を許さない生き物なのだ。
 対多敵で奇襲を受けたうえ、自分以外の人間を守らなくてはならない。
 戦況としては圧倒的に善弥の不利。
 もはやこれまで――とは、ならなかった。
 善弥の振るう剣は、もはや入神の域に達していた。
 迫る爪を、牙を。
 受け、捌き、流し、避け、かすらせもしない。振るう二刀は翼のごとき軽やかさで動き、鈍ることを知らない。
 人と交わり、身体が大きくなった事で、人狼の身体能力は通常の狼のそれを遥かに超える。しかし、それほどの身体能力をもってしても、善弥には届かない。
 ――それも当然かもしれない。
 古流の剣術を身に着けた剣客に、ただ速いだけの攻撃など通用しないのだ。
 気づけば辺りは凄惨極まりない状況になっていた。
 一帯に散らばる無数の手足――全て人狼のものだ。流れる血潮が地面を赤く染め上げ、善弥も返り血を浴びている。
 最後の一頭が善弥に襲い掛かる。
 二刀が縦横無尽に奔り、最後の人狼も細切れの肉片と化した。
「なるほど、恐れ入った! まさか東洋のサムライが、これほどまでに強いとは思わなかった」
 パチパチと乾いた拍手の音がして、瓦礫の影から男が出てきた。
 白衣を着た初老の男だ。
 肌の白い西洋人で、皴の多い顔に実験動物を見るかのような冷たく、観察するような目が特徴の男だった。
「アルバート・レクター!」
 善弥が疑問を差しはさむよりも先に、リゼが言った。
 アルバート・レクター博士――たしかその名は、W&S社の技術顧問であり、リゼの父を殺した首謀者。
 そんな男が何故こんな所に?
「私の作った人狼たちの性能が、どの程度か気になりましてね」
 まぁちょっとした実験だよ――とレクター博士が淡々と言う。
「誘いをかけたら、簡単に罠へ入るから拍子抜けしていたのだが――その罠を力づくで突破してしまうとは、恐れ入った」
「罠?」
「君たちをここへ誘き寄せたのは私だよ」
 何てことのないようにレクター博士は言った。
「その幼女の勘を頼りに、君たちはここへ来たんだろう? 何のことはない。私がこれを使って、その幼女にこっちへ来いと呼びかけていただけさ」
 レクター博士が金属製の笛のような物を取り出す。手のひらサイズの筒状の笛に、幾つかのツマミやスイッチ、点滅するランプが付いている。
 何だあれは。
「これは犬笛を改良して作った、いわば『魔笛』でね。人狼の脳に干渉する音を発して、スイッチ一つで人狼を思うがままに操れるのさ」
 さっき聞こえた耳障りな不協和音の正体はこれか。クリが頭を抱えて苦しみ出したのも、この『魔笛』のせいなのだろう。
「人狼は病人や浮浪者ような貧弱な者を、戦力として使い物になるよう改造するというのが大元の目的でね。戦力、兵力として運用するには、必ず上からの命令を聞くようにしなくてはならないだろう? だから――」
「まさか……!」
「そう! 脳手術と薬物投与で条件付けを施し、上官の命令を必ず聞くようにしたのだよ!」
「――ふざけないで!」
 苦悶するクリを抱えたまま、リゼが叫んだ。
「あの人狼達だって、元は人間だったんでしょう⁉ 実験動物にしたあげく、操り人形にしたっていうの⁉」
「それが何か悪いのかね? 自身の内側から湧きでる飽くなき探求心――それを満たすため生きるのが我ら技術者(テクノロジスト)だろう?」
 レクター博士の言葉には、言いよどむような所がない。
 本気だ。
 この男は、本気で技術進歩の為なら、本気で何をしてもいいと思っている。
 それは科学に対する狂信と言ってもいい。
「狂ってる……!」
 リゼが思わず呟いた。
「正気のままで、既存の常識を打ち破るような発明は出来んよ」
 レクター博士はにべもない。
「さて、まだ実験は残っているんだ。もう少しお前には付き合ってもらうよ、若きサムライ」
「? 人狼なら全て倒したはずですが?」
 善弥は挑発するように言う。
 目に見える人狼は全て斬り殺した。これ以外にまだ人狼が控えている気配はない。
「人狼ならいるだろう?」
 レクター博士は『魔笛』をこれ見よがしに掲げ、ボリュームを調整するツマミを見せつけた。
 善弥の背筋に悪寒が走る。それは第六感が告げる危険信号。
「――君たちのすぐそばに!」
 レクター博士が『魔笛』のツマミを回す。耳障りな不協和音が、今まで以上に鳴り響く。
「くっ!」
「キャッ!?」
 善弥がレクター博士の言葉の意を察するのと、リゼが小さな悲鳴を上げるのはほぼ同時。
 『魔笛』が不協和音を奏でた途端、クリが動き出した。
「■■■ッ! ■■■■■■■■■■――■■■■■■■■ッ!」
 あの可愛らしい幼女の声帯から出たとは思えないほど、獣じみた声を上げ、クリがリゼを突き飛ばした。
 天高く跳躍。
 幼女の身体が宙を舞い、クルクルと回転。
 そして善弥の前に低い姿勢で着地。
 牙を剥いて唸った。
 跳躍中に被っていた帽子は飛んでいき、頭部の獣耳が顕わになっている。
 眼の瞳孔が開き、爛々と輝いている。
 それは先程までの人狼たちと変わらない、殺意に満ちた獣の形相。可愛らしい幼女の面影などどこにもない。
「クリ……」
「クリちゃん……」
 善弥もリゼも、言葉がなかった。
 ただ一人、レクター博士だけは愉快そうに笑い声を上げた。
「いいぃぃぃ! 実に良い! 思わぬ実験結果ほど面白いものはない!」
 レクター博士の狂った哄笑だけが響く。
「お前たちが子供の人狼のなりぞこないを拾っていった時、私はまた興味が生まれた! はたして完全な人狼でなくても、笛の効果が出るのかとね! フハハハハ! どうやら私の『魔笛』は強度さえ上げれば、不完全な人狼でも完璧に掌握できるらしい、これはいいぞう‼」  
 善弥に難しいことは分からない。ただ、クリがレクター博士に操られているということだけは分かっている。
「なら――!」
 善弥はレクター博士に斬りかかった。 
 振るう双刃は、狂信の技術者を八つ裂きにせんと閃く。だが、その白刃は虚空で急に泊まる。 
 善弥と博士の間に、クリが割って入ったのだ。
「くっ!」
 振り下ろす剣を全力で止める善弥。
 クリは博士を庇うように立ちふさがる。
「フハハハハハッ! その娘は私が操っているんだぞ? 私を最優先に守るのは当たり前ではないか!」
 レクター博士の哄笑は止まらない。
 リゼが叫ぶ。
「クリちゃん! しっかりして! 目を覚まして!!」
「――無駄だよ」
 レクター博士はなおも善弥たちを嘲笑う。
「私がやっているのは、いわば高度な催眠状態だ。理性や人としての意識など働きはしない、いくら呼びかけたところで意味などないさ」
「……意識のないまま、操られる」
 リゼは俯いた。
 自身も技術者であるリゼには分かってしまうのだ。レクター博士が言っていることは本当だと。
 催眠にかかりやすい状態とは、即ちトランス(忘我・恍惚)状態のこと。
 この状態の人間は、文字通り我を忘れている。
 適切な手段で通常の状態まで戻さなければ、外からの声は届かない。
「いやぁ我ながら実に良い作品だと思っているんだよ、この人狼化はね。人と狼を融合させることで、獣の本能を取り込み、催眠に不可欠なトランス状態を引き起こしやすくなる――さて」
 レクター博士の冷酷な笑みはここに極まった。
「――やれ」
 レクター博士が言った。
 その瞬間、クリがまた動いた。
 幼女とは思えない獣じみた動きで、善弥に牙を剥いて襲い掛かる。
「■■■■■■■■■ッ!」
「く……!」
 クリが爪を立てるように右手を振り下ろす。善弥はそれを刀で受け止めた。
 瞬間的に二刀を交差させ、刃ではなく棟――刀の腹で受け止める。クリの手足を切り落としたくない。
 善弥は押された。
 理性を失ってから、クリの膂力自体が大きく向上している。
 これも人狼化の影響なのか。
「■■■ッ!」
 クリは振り下ろしの一撃を受けられた反動を利用して再度跳躍。
 空中で反転しながら善弥の背後へ回る。
 善弥は背後へ振り向きざまに、横薙ぎを峰打ちで一閃。刃を返した大刀を左から右へ振りぬく。
 着地の隙をついた見事な一撃。
 通常であれば確実に決まる。
 しかしクリはその小さな身体を活かし、着地と同時に腹這いになるほど深く地に伏せた。横薙ぎの一刀の下をくぐり抜けて、クリは善弥に肉薄。
 今度は左の鉤爪。爪を立てた状態で、腕を振りぬくクリ。
 クリの爪が善弥の右肩を掠めた。
 これが幼女の一撃なのか――着物の肩が破れ、肉が裂けた。
 クリの手は爪が鋭くなった訳ではない。人の手のままだ。だが、通常の人の手であっても、埒外の膂力と速度で振りぬけば十二分に人を殺傷しうる。
 クリは止まらずに、攻撃を続けた。 
 至近距離での鉤爪による連続攻撃。
 それは武術や格闘術とは呼べない、児戯にも等しい攻撃だ。だがリーチが短い分、回転が速い。攻撃が継ぎ目なく繰り出される。
 善弥は下がる一方だった。
 下がって攻撃を避けるのが精一杯で、切り返す余裕がない――否、切り返すこと自体はできる。だがそのためには、クリを斬らねばならない。
 刀とは斬る為の道具だ。その構造や重心のバランスにいたるまで、その全てが斬ることに最適化されている。
 故に、峰打ちではそのポテンシャルを十全に発揮できない。
 クリの攻撃は速い――しかし斬り捨てるつもりであれば、斬り返すことはできる。
 だが。
 ――だが。
(く…………ッ!)
 迷っているうちに、善弥はついに追い込まれた。
 善弥の背後を、崩れた小屋が塞ぐ。
 逃げ場がない。
 背中に瓦礫がぶつかるまで、自分が退路を断たれていることに気付かないほど、善弥は追い詰められていた。
 眼前に迫るクリ。獣の形相で迫ってくる。
 事ここに至っては仕方がない――善弥は覚悟を決めた。刃を返すことなく大刀を振りかぶり、クリめがけて振り下ろ――
「ダメェェェ――ッ!」
 善弥が剣を止めるのと、リゼが叫ぶのと、一体どちらが早かっただろうか。
 善弥の必殺の一刀は空中で止まり、クリを両断することはなかった。
 寸前で静止する白刃を気にも止めず、クリは善弥を間合いに捉えた。振るわれる鉤爪。善弥は初めてクリの攻撃をまともに喰らった。
「がはぁ……!」
 胸板を十字に裂かれた。
 浅いが広範囲に広がる裂傷。血が飛び散る。
 クリはそのまま突進。善弥を押し倒し、善弥の腕を押さえと、首筋に牙を突き立てようと大きく口を開けた。
 首筋にクリの熱い吐息を感じた。
 善弥は押し倒された衝撃で息が詰まるのを耐え、すぐに仰向けの体勢から後方へ転がるようにして腰を上げ、クリの身体を少しだけ浮かせる。
 クリの身体が少しだけ浮いたところで、クリの腰を下から足裏で蹴り上げた。
 いくら膂力が強くなっても、重量まで変わるわけではない。
 クリを大きく蹴り飛ばし、なんとか身体から引き剥がす善弥。即座に立ち上がり、体勢を整える。
 呼吸を深くし、身体の状態把握に努める。
 胸の傷は大きいが深くはない、今すぐ死ぬような致命傷ではない。だがこのまま血が出続ければ、いずれ出血多量で動けなくなるだろう。
 となれば時間がない。
 短時間でこの窮地を乗り切りらなくてはならない。
 だがそんな事よりも――
「……ッ……?」
 善弥は右腕を一瞬見てから首を傾げた。
 大刀を握る右腕に痛みはない、外から見た怪我もない。刀を握る感覚もはっきりしている。
 なのに何故、さっきは振り下ろせなかった?
 それが何故なのか、善弥には分からなかったのだ。
 リゼがまた叫ぶ。
「善弥ダメ! クリちゃんを斬っちゃダメ!」
「困ったことを言いますね」
 いつも通りの口調で善弥は答える。
「このままじゃ、僕もリゼさんもクリちゃんに殺されちゃいますよ。分かってます?」
「分かってるわよ! でも!」
 それでも――とリゼは言い募る。
「善弥だって、クリちゃんを殺したくはないでしょう!」
「……それは」
 初めて善弥の顔に陰りが出た。
 善弥は迷っていた。
 自分はクリを殺したくないと思っている? そんな訳がないと、善弥は否定しきれるだろうか。
 またクリが善弥に迫る。
 繰り出される鉤爪を、刀の棟で払う――何故だ? 何故斬り払わない?
 なんで善弥はこんなにも苦心して、不利であるにも関わらず、クリを傷つけないように戦っているのか?
 鷹山善弥は剣。
 剣は斬る相手を選ばない。ただ刃圏に捉えた敵を斬り捨てるのみ。たとえそれが慣れ親しんだ相手であっても、敵となれば斬る。
 鷹山善弥とは、そういう男のはずだ。
「善弥! あなたがどんなに心に蓋をしても、あなたにクリちゃんを斬ることは出来ないわ。だってあなたは優しい人だから!」
(僕が……優しい……?)
「僕は人を斬るだけが能の人でなしですよ」
「じゃあなんでクリちゃんを斬らないの! 善弥が本当に人でなしで、人を殺すことしか頭にない異常者なら、とっくにクリちゃんを斬り殺してるはずでしょう!」 
「…………!」
 核心を突かれた。
 リゼはさらに言う。
「善弥は怖がってるだけ。自分の大切な人が死んでしまうかもしれない――それに耐えきれなくて、正気じゃいられなくて、あなたは異常者のフリをしている。大切な人を大切だと思わないようにしているの」
 クリの攻撃を必死に避けつつ、善弥はリゼの言葉に耳を傾けていた。
「育ての親の死に涙を流せなかった? 涙を流さないと、悲しんだことにならないの? 違うでしょ。あなたは自分が異常な人間だから悲しくない――そう思い込もうとして、心に蓋をしているだけ!」
「…………」
 クリの攻撃を捌きながら、脳裏に去来するのは師の最後。
 そうだ。
 あの時涙は出なかった。それでも、張り裂けるような胸の苦しみを、善弥は味わっていたのではなかったか。
 そしてその胸の苦しみを――大切な人を亡くす悲しみを、もう二度と味わいたくないと無意識に思ったのではなかったか。
「今クリちゃんを殺してしまったら、あなたは本当に人でなしになっちゃう。お願い、誰かを大切だと思う気持ちをなくさないで。心に蓋をして、自分の大切なものから目を逸らさないで」
「……僕は」
「自分の大切なものを傷つきたくないからって、自分で斬り捨てるような事をしないで!」
「…………僕は」
「いつだって誰かの為に戦おうとする善弥が、人でなしのわけがない! あなたは優しい人なの‼」
 善弥は心臓を貫かれたような気がした。
 自分の中の欺瞞を突かれた――そんな気がしたのだ。
 不意に師の教えを思い出した。
 曰く、剣は心を写す鏡だという。
 心に迷いや邪念があれば、剣は鈍り冴えを失う。今まさに善弥がそうであるように。
 クリが頭から善弥の首筋めがけて突っ込んでくる。
 それを寸前で避けつつ、斬り込む隙を見つける――だが、剣は出ない。腕が善弥の命令を拒否したかのように、動こうとしない。
 認めろ。
 善弥はクリを斬りたくないのだ。
 それがリゼの言うように、善弥が優しいからなのかは分からない。善弥は未だに自分が心優しい人物であるとは到底思えない。
 それでもクリを。
 この小さく愛らしい栗毛の幼女を。
 殺したくないと思っている事だけは、間違いなく本当だと言える。
 善弥は覚悟を決めた。
 クリを斬るという覚悟ではなく、クリを殺さずに制するのだという覚悟を。
 それはひどく難しい。全力で殺しにくる相手を、殺すことなく取り押さえるのは至難の業だ。一歩間違えれば、善弥はクリに引き裂かれて死ぬだろう。
 だというのに、善弥の身体は軽かった。
 動こうしなかった腕が、脚が。今は伸び伸びと動くのを、善弥は感じ取る。
 出来る――自分を信じろ。
 善弥はクリを殺さない。
 クリを人殺しにもさせない。
 必ず取り押さえる。
「■■■■■■――ッ!」
 何度目かのクリの咆哮と跳躍。
 右手を振りかぶった体勢で、クリが善弥に肉薄する。
 対する善弥は――剣を捨てた。
「ッ!?」
 一瞬面食らい、クリの動作が遅れる。
 それを見透かしたかのように、善弥は一歩前に踏み込む。古の無刀取りを完成させた剣豪の残した道歌に曰く、
『切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ、ただ踏み込めよ後は極楽』
 とある。
 善弥はそれを実践した。
 下がるのでも、横へ躱すのでもない。
 前だ。
 生死の狭間で、ただ前へと踏み込む。
 振り下ろされる鉤爪の下、クリの脇の下をくぐるように抜ける。一瞬でクリの背後を取った善弥は、クリを後ろから羽交い絞めにした。
 体重を預けて同体で倒れ込む。
 善弥はバックを取った状態で、クリの首に手を回して締めあげた。柔術の絞め技である。
「■■■■ッ! ■■■――ッ‼」
 クリはもがき暴れる。だが、善弥の抑え込みは緩まない。必死になって振り回す鉤爪も、背後に張り付く善弥にまでは届かないのだ。
 どれだけ膂力が上がっても、ここまで完全に業が決まっては、力で返すことはできない。
 暴れていたクリは、やがて動かなくなった。
「大丈夫ですよ」
 動かなくなったクリを見て、駆け寄ってくるリゼに善弥は言った。
「気を失っているだけです。命に別条はありませんよ」
 リゼはクリを見た。
 わずかに胸が上下している。息はある。
 首を締め上げる技というと、傍目には相手を殺してしまいそうな危険な技に見えるが、その実キチンと手当さえすれば、外傷も後遺症もなく相手を行動不能にできる非常に便利な技なのだ。
「何とか殺さないですみましたよ」
 善弥は明るく笑った。
 リゼもつられて笑った。
「やったわね!」
 そんな善弥たちを見て、狼狽えていたのはレクター博士だ。
「そ、そんな、馬鹿な――!」
 目に見えて狼狽していた。
 善弥は立ち上がって、レクター博士の方へと向かう。
 レクター博士はビクリと肩を震わせた。
 善弥は笑っている。リゼに笑いかけた時の表情のままだ。だが――いやだからこそ、その笑みがレクター博士には恐ろしく見えた。
 殺意を秘めた笑顔というものが、如何に恐ろしいものなのかを、レクター博士は初めて経験した。
 善弥がまた一歩、レクター博士に近づいた。
 一陣の風が吹いた。
 博士の握る『魔笛』が綺麗に両断される。
「ひいぃぃぃ!?」
 レクター博士は尻餅をついて後退りをする。
 善弥は切っ先を突き付け、言った。
「どんな風に死にたいですか?」
「――ッ!」
 レクター博士には、善弥のセリフが人の声に思えなかった。地獄に風が吹くならば、きっとこんな音がするだろう。
 善弥の笑みは変わらない。ただ全身から殺気を放っている。
 レクター博士は自身の死を確信した。
 卒倒しそうになる博士。善弥は刀を振りかぶり――
「――遊び過ぎたな、博士」
「なっ!?」
 背後からの第三者の声に驚嘆した。
「娘の身柄を押さえることが最優先だといっただろうに」
「え⁉ な、何っ!?」
 善弥は背後を振り返った。
 リゼの傍らに軍服をまとった男が立っていた。
(いつの間に!?)
 善弥は動揺を隠せなかった。
 いつだ? いつからあの男はあそこに立っていた?
 なんの気配も感じなかった。
「こんな娘っ子一人を捕えるのに、これほど時間をかけたうえ、結局依頼主の手を煩わせるとはな」
「Mr.佐村!」
 レクター博士が叫んだ。
 その様子を見て、軍服姿の男はフンと鼻を鳴らした。
「キャッ!」
 リゼの首筋に手刀を打ち込む男。リゼは意識を失った。軍服姿の男はリゼを小脇に抱えると姿を消した――否、消えたと錯覚するほど速く飛び上がったのだ。
 おおよそ4〜5メートル程の高さまで、リゼを抱えたままノーモーションで飛び上がった男。明らかに常人ではない。
 男は悠々と善弥を飛び越え、博士の傍らに着地すると、今度は博士も抱えたままさらに跳んだ。
 一歩で8メートル後方まで下がり、善弥と大きく距離を取る。
 リゼと博士、二人分の重量が男の脚にかかり、わずかに軋む金属音を善弥は聞いた。
(絡繰り仕掛けの義足――!)
 先日W&S社の工場で斬り結んだ、戦斧の巨漢と同じだ。四肢を高性能な義肢に変換し、人間離れした身体能力を得ているのだろう。
 それで得心がいった。
 この軍服の男は、善弥が気配を感知できる距離よりも遥か遠くから、空を跳んでリゼの傍に着地したのだろう。膝の溜めを一切使わずに4〜5メートルの高さまで跳躍してみせた男だ。
 全力で跳べば、一体どれほどの距離を一足飛びに跳べるのか、想像もつかない。
「さて、娘は手中に収めた。戻るぞ博士、貴様にはまだやってもらうことがある」
「はっ! お任せください、Mr.佐村」
「――待て!」
 善弥は駆けだした。
 だが、すぐに足が止まる。
 軍服姿の男の顔がよく見えたからだ。
 あの男は――
「久しいな。さか帝都で会うとは思わなかったぞ」
 軍帽の下で、傷の入った精悍な顔が凄味のある笑みを浮かべる。
 ――善弥の師を斬り殺した男だった。
「お、まえ……は」
 さしもの善弥も、動揺を隠しきれなかった。
 あの男と遭遇し、師が斬られたあの日あの場所から、遠く離れたこの東京で仇と再開するなど、誰が思おうか。
「お前と出会った佐賀の乱から、かれこれ二年になるか。残党狩りも進んでいるというが、貴様ならば生きていたとしても、まあ驚かんさ」
「Mr.佐村! あの男を知っていたのですか?」
「うむ」
 レクター博士の問いに、佐村は頷く。
「奴とは佐賀の戦場で一度立ち会った事がある。二刀を使う若い侍――もしやと思ったが、やはり貴様だったか」
「…………」
「数奇な邂逅を喜びたいところだが、生憎と俺はやる事があってな。貴様の相手はしておれん――この娘は貰っていくぞ」
「っ! 待て――」
 善弥が二刀を拾い、追いすがろうとした刹那、
「――遅い」
 博士とリゼをその場に置いて、一足飛びに佐村が間合いを詰めてきた。
 7メートルはあった間合いが一瞬でゼロになる。
 佐村は踏み込んだ勢いをそのままに、掌底を善弥の胴に叩き込んだ。あまりの速さ、何よりも虚を突かれた善弥は、受け流すことも出来ずに吹き飛んだ。
「…………がはっ!」
 息が詰まる。肺が痙攣する。身体に力が入らない。
 クリとの戦闘で負った負傷もある。
 善弥の意識が徐々に遠のいていく。
「言ったであろう、貴様の相手はしておれんとな。この娘さえ手に入れば、貴様に用はない」
 そう言い残して、佐村は踵を返す。
「待……て……!」
 薄れゆく意識の中、最後にそう言って善弥の意識は途切れた。


第五章 起動する要塞


 深い闇の中で自問自答を繰り返す。
 自分は何のために生きている?
 何の為に戦う?
 師が討たれたあの日から、善弥は心にできた穴を埋めるため――否、穴から目を背けて生きてきた。
 戦いの高揚感に浸っていれば、それを忘れられる気がした。
 でもそれは間違いだった――今の善弥にはそれが分かる。
 それを教えてくれた少女はいる。
 あの誇り高い技術者の少女の為に、善弥は何ができるだろうか。
(――僕は)
 そこで目が覚めた。
 薄暗い空間で善弥は目を覚ました。
 背中が少し痛い。
 莚を引いただけの固い床に寝かされていたらしい。ゆっくりと周囲を見回し、状況を確認する。
 四方を粗末な板を継ぎ合わせた壁が塞ぎ、天井には小さな穴がいくつも開いている。どうやらここは、落人群の小屋の一つらしい。
 身体を起こすと鈍い痛みが走った。
 見ればボロ布を継ぎ合わせた包帯で止血してある。
 善弥の寝ていた莚の近くには、大小の愛刀とリゼの鞄が置いてあった。
(誰かが手当をしてくれた……誰が?)
「善弥さん!」
 小屋の戸が開いて、ころころと鈴を鳴らすような声がした。
「目が覚めたんですね! 良かった!」
 栗毛の頭が、善弥に抱きついた。
「クリちゃん……」
 善弥はクリの頭を撫でた。手のひらに柔らかい髪の毛の感触と、クリの体温が伝わってくる。生きている、クリも自分も。
「ここは……?」
「落人群の小屋の一つに間借りしてます」
 善弥の問いにクリはそう答えた。
 善弥が尋ねるとクリが言うには、落人群に来て頭痛がしてからの記憶がないらしい。ふと目が覚めれば落人群の片隅で倒れている善弥を見つけた。リゼはいなくなっていて、人狼の死体が転がっている。
 クリは恐怖にかられながらも、善弥を小屋へ運んで手当してくれたのだという。
「ありがとう、クリちゃん」
 善弥は改めて礼を言い、クリの頭を撫でた。
 しかし、クリは浮かない顔だ。
「リゼさんは……どうなったんですか?」
「――攫われました。佐村という軍人に」
 善弥は正直に言った。
 ここで変に取り繕っても仕方ない。それにクリは敏い子であると、これまでの事で善弥も理解していた。
「どうして軍人に?」
「分かりません。どうやらW&S社の技術者と、個人的な付き合いがあるようですが」
 W&S社は大英帝国資本の会社だ。
 政府軍の軍人が大ぴらに取引があるとは思えない。
「どちらにせよ、リゼさんの身が危ないのは確かでしょう」
 佐村の口ぶりから察するに、彼個人の目的に、リゼ――リーゼリット・アークライトが不可欠な要素なのだろう。佐村がリゼに何を求めているのかは分からない。
 だが、どの道ろくなものではないだろう。
「……ごめん……なさい」
 不意にクリが俯き、涙を零した。
「クリちゃんが謝ることは何も――」
「私が善弥さんを傷つけたんでしょ!」
 クリは大粒の涙を零して言った。
「見たんです、手当するとき善弥さんの傷を。胸に大きく引っ掻いたような傷が出来てました、細くて長い傷が連なって交差してる――その傷の幅が私の指と同じでした。私の手にも、血がついてた……」
「…………」
「私が――狼と混じった、化け物になった私が! 善弥さんを襲ったから、善弥さんは怪我してるし、リゼさんは連れ去られちゃったんでしょう――!」
 そう言って、クリは俯きポタポタと涙を流した。
 ごめんなさい、ごめんなさい。
 私なんかが――。
 そう言い続けて、クリは泣いた。
 善弥はそんなクリを見て、どんな言葉をかけるべきか考える。
 今までの善弥なら、何も思わなかった――否、何も思っていないと自分に言い聞かせて、泣いている誰かの気持ちを慮ることをしなかっただろう。
 でも今は違う。
 善弥を優しい人だと、言ってくれた彼女がいたから。
「こら」
 ポカリ――と、善弥は軽くクリの頭を小突いた。
「……?」
 急なことに、クリがキョトンとして顔を上げる。
「自分のことを化け物なんて言っちゃいけませんよ」
 自然と口から言葉が出た。彼女ならきっとこう言うだろうと。
「正直に言います。確かにクリちゃんは、我を失って暴れました。僕に傷を負わせたのはクリちゃんです」
 でも。
「それでもリゼさんは言いました。クリちゃんを斬らないでと。リゼさんは自分の命がかかった状況でも、あなたの命を優先した」
「……なんで」
「それは分かりません」
 リゼが善弥から見ても、過剰にクリを気にかけるのか、疑問はあるが分からない。 
 ただ言えることがある。
「そんな風にクリちゃんを想っている――心配している人がいます。だから自分のことを化け物だなんて言わないでください。それはあなたを大切に思っている人を悲しませる行為です。もしクリちゃんがリゼさんに対して恩義を感じているのなら、もうしちゃダメですよ――いいですか?」
「……はい」
 クリはコクンと頷いた。
 泣きじゃくった眼は赤くなっていたけれど、もう涙は出ていない。
 クリが落ち着きを取り戻したのを確認してから、改めて言う。
「僕はこれからリゼさんを助けに行きます――手伝ってくれますか?」
「はい!」
 今度は力強く、クリは頷いた。



 善弥は素早く身支度を整えると、クリといっしょに落人群を後にした。
「さて、リゼさんを助けると言っても、どう探しましょうか」
 善弥は考え込む。
 昨日の事から、リゼを連れ去らったのはW&S社ではなく、陸軍少将佐村征十郎だという事が分かっている。
 となるとリゼは陸軍省庁――いや後ろ暗い事をするには都合が悪い。ならば陸軍の兵営、あるいは佐村の別宅や私邸、W&S社の工場や関連施設という事もありえる。
 リゼが連れ去られた当てが多すぎる、全てを調べて回るのは現実的ではない。
 どうすればいいか。
 考え込む善弥に、クリが言った。
「私、リゼさんの行き先、匂いで分かるかもしれません」
「本当ですか」
「はい」
 クリは小さな頭を縦に振った。
「何となくなんですけど、リゼさんの匂いがするなぁって分かるんです。匂いを辿っていけば、リゼさんがどこにいるか分かると思います」
「クリちゃんにそんな事が?」
「何でか分からないですけど、昨日から急に……」
 クリは少し声のトーンを下げた。
「多分、人狼としての能力なんだと思います」
「……なるほど」
 狼の嗅覚――だと考えれば、クリの発言にも納得がいく。
 おそらくだが、クリは元々この人狼としての能力を有していたのだろう。ただ自分に人間離れした身体能力や嗅覚があると自覚していなかったから、それを使えなかっただけで。
 W&S社の実験室での記憶を失っていたから、自分の能力を知らなかったのだ。
 それが昨日、一時的に理性を失い、人狼としての能力を全開にすることで、身体がその能力を覚えたのだろう。
 善弥はそう推測した。
 クリの目を見る。こげ茶色の瞳が、真っ直ぐこちらを見ている。
 クリは嘘をついたり見栄を張ったりするような女の子ではない。クリは自信があって言っている。匂いでリゼが見つけられると。
 ならばそれを信じてみよう。
「リゼさんの匂いを辿ってください。クリちゃん、頼みましたよ」
「任せてください」
 クリは早速リゼの匂いを見つけ、先導し始めた。 
 しばらくクリを先頭にして歩き続けた。落人群から出て、二時間は歩いただろう。クリは泣き言ひとつ言わずに、リゼの匂いを追い続けた。
 そして、ついに
「ここです。リゼさんの匂いはここから出ています」
 と言って立ち止まった。
 クリは真っ直ぐにとある建物を指さす。
「ここは――」
 善弥はクリの指さす方を見た。
 高い塀。頑丈な門扉。守衛の脇に掲げられた巨大な札に書かれているのは、日本陸軍東京鎮台・第一機甲連隊の文字――陸軍の駐屯地だった。
 際立って近代化の激しい建物だ。
 煉瓦と鉄で出来た頑強な造り。まるで要塞である。
「善弥さん、どうしますか?」
 クリは途方に暮れた様子で聞いた。
 軍の駐屯地、それも近代化を推進する機甲連隊の駐屯地だ。警備は厳重どころの話ではない。リゼがここにいるのは分かったものの、助けに行くのは至難の業だ。
 善弥は駐屯地の規模を思い浮かべる。
 推定される装備、兵員の数――正面突破は不可能に近い。
「忍び込むしかありませんね」
「でもまだ明るいですよ」
 闇に紛れられない。忍び込む難易度は高い。だが、手をこまねいていては、手遅れになる可能性もある。
 善弥はリゼの鞄を探った。
 中には色々な工具や小型の端末、そしてリゼ謹製の発煙手榴弾が一つ。
(これは……)
 浅草の雷門で撮った写真が、金属製のケースに入れられて保管されていた。写真の中の笑った三人を見る。あれからまだ一日しか経っていない。
 なのに随分と昔に感じられる。
 善弥は無言で発煙手榴弾とケースに入った写真を懐へ入れた。
 次に塀を見上げた。高さは5メートル程。
(ふむ……)
 善弥は顎をつまんで考える。
「クリちゃん、今全力を出して、どれくらい高く跳べると思いますか」
「へ? ええと、そうですね、4メートルくらいなら跳び上がれると思います」
 クリは質問の意図が分からず、戸惑いがちに答える。
「なるほど、なら行けますね」
 善弥はそう独りごちた。
「駐屯地に忍び込みますよ」
「どうやってですか」
「もちろん、塀を乗り越えて」
 善弥は懐から発煙手榴弾を取り出した。
 これでどうやって、塀を乗り越えるのだろう。クリは首を捻った。
「まあ見ててください」
 ニヤリと笑って、善弥は作戦を耳打ちする。
 クリはコクンと頷く。
 善弥は懐から手ぬぐいを取り出すと、二つ折りにして発煙手榴弾を包む。そして手ぬぐいの端を持つと、ヒュンヒュンと音を立てて振り回す。
 投石器の要領で、発煙手榴弾を門番の前まで投げた。
「な、何だ?」
 門番が言うが早いか、発煙手榴弾が破裂した。
 白煙がもうもうと立ち昇る。
「何だ敵襲か!?」
「異常事態発生! 兵員、集まれ!」
 すぐに正門周辺が騒然となり、わらわらと兵士が集まってくる。
 その様子を確認してから、善弥は走った。
「行きますよクリちゃん」
「はい!」
 善弥のすぐ後ろをクリは走る。
 塀の前まで駆け寄ると、善弥は塀に背をつけるように反転。
 手を組んで足場をつくる。
 善弥が手を組んでつくった足場を、クリの小さな足が踏んだ。
「はっ!」
 その瞬間に善弥は脚と背を全力で張り、クリを上空へと押し上げた。さらにクリも全力で善弥の手を蹴って跳んだ。
 二人の力を合わせた大跳躍。
 クリはやすやすと塀の上へと降り立った。
「善弥さん、大丈夫です! 上手く行きました」
「では手筈通りに」
 クリが頷いて袖から、細長くて丈夫な紐を取り出した。
 善弥の愛刀の下げ緒だ。
 クリは下げ緒の一端を塀の出っ張りへと結ぶと、もう一端を塀の下へと下ろした。下げ緒の長さは、大体2メートル。
 塀の上部から垂れた下げ緒に向かって、今度は善弥も跳んだ。
 一度塀を蹴っての跳躍。
 さすがに5メートルも上空までは跳べないが、3メートル上空までなら、何とか手が届く。善弥は下げ緒の端を掴むと、そのまま手繰って塀の上まで登った。
「やりましたね善弥さん!」
「ええ。でもこれからが本番ですよ」
 普通ならこんな方法で侵入するのは無理だ。塀をよじ登っている間に見つかってしまう。だが今は正門へ発煙手榴弾を投げ込んだことで、兵隊がそこへ集中している。
 つまり他が手薄になっている。
 いわゆる陽動作戦というやつだ。上手くいった。
「でも陽動の効果はすぐに切れます。急いでリゼさんを探して、さっさと逃げましょう」
「分かりました」
 頷くクリ。
 善弥とクリは塀から飛び降りる。着地と同時に受け身を取れば、この程度の高さから飛び降りても、善弥とクリに問題はない。
「こっちです! ついて来てください!」
 クリが匂いを元に走りだす。
 善弥はそれを全速力で追いかけた。



 善弥たちが塀を乗り越える算段を立てていたその頃。
 駐屯地の最奥にある隔離施設――その一室に、リゼは捉えられていた。
 W&S社の研究室に似ている。壁一面に取り付けられたモニターや計器、そしてそれらの計器と制御装置に接続している手術台のような台座。
 そこにリゼは座らせられていた。
 腰、手首、足首、そして頸部の六ヵ所をバンドで固定され、身動きが取れない状態。少しやつれた表情で、ぼんやりと視線を漂わせている。
 部屋にはリゼの他に佐村征十郎とレクター博士、博士の護衛としてガゼルの三人。
 レクター博士はリゼの座る台座と接続した機器を調整している。
「ふむ、これで準備完了ですな」
「――うむ」
 レクター博士の声に、佐村が頷く。
「ここまで来るのに、随分とかかってしまった。だが――」
 佐村の顔が野心に歪む。
「これで私の野望は完遂する」
「……一体何をしようというの?」
 リゼがたまらず尋ねた。
「俺一個人による革命、そしてこの国の支配と統治だ」
「ッ!?」
 佐村の返答にリゼは息を呑んだ。
 あまりにも話の規模が大きすぎたからだ。
「何を言っているの……そんな事、出来るわけない。不可能よ」 
「その不可能を可能にする力こそ、新時代の技術――お前や『手記』なのではないか?」
 佐村がこれ見よがしに皮張りの本――否、リゼの父の遺品『手記』を掲げる。
「かのバベッジ博士の発明、階差機関による技術革命から数十年。技術の進歩は凄まじいものだった。この数十年で一体どれだけの不可能な難事が、可能な現象に成り下がった?」
「…………」
「常識では不可能なことも、この『手記』と小娘――お前を組み合わせれば、可能になる」
 リゼは押し黙った。
 そしてガクガクと震える。
 恐ろしかった。佐村がしようとしている事もそうだが、自分の正体が何であるか、それを佐村たちに知られている事が怖かった。
 あれをされたら自分がどうなるのか、考えるだに恐ろしい。
「止めて! お願い! 止め――」
「五月蠅い」
 暴れるリゼを佐村は容赦なく殴りつけた。
 頬を張られた痛みが、リゼの頭を真っ白にさせる。殴られた頬がじわっと熱くなり、口の中に血の味が広がった。
「博士、やれ」
「はっ」
 レクター博士がリゼの頭部――黒い髪飾りと装置の端子を繋げる。
 その瞬間にリゼの意識は闇へ落ち、リゼは人から物に変わってしまった。
 計器類が一斉に動く。
 計器だけではない、建物全体も大きく動き始めた。
 佐村は愉快そうに発令する。
「多脚機動要塞『摩利支天』――起動せよ!」   



 クリと善弥が兵舎に入った直後だった。
 地響きのような音がして、建物が大きく揺れ始めたのだ。
「じ、地震!?」
「いやこれは――」
 クリが兵舎の壁に捕まり、善弥はバランスを取りながら兵舎の窓から外を見た。
 周りの建物に異変はない。揺れているのはこの建物、兵舎だけだ。揺れがさらに強くなった。横揺れではなく縦揺れ。
 いや、
「浮かんでいる?」
 外に見える景色が、どんどん下方へと流れていく。
 ついには窓から他の建物が見えなくなった、東京の曇り空だけが窓から見える。
 一体何がどうなっているのか。
 善弥とクリは窓に張り付いて、外を見た。
「これは……」
「ウソ!?」
 善弥にもクリにも、見えた光景が信じられなかった。
 駐屯地の兵舎から、巨大な脚が生えている。鋼鉄製の蜘蛛の脚のような形状をした脚。それがいくつも生えている。
 その脚が地上30メートル程の高さまで、兵舎を押し上げて、立っているのだ。
 それは鋼鉄製の異形の怪物だった。
 あまりにも現実離れした光景に、二人はしばし言葉を失った。
 と、その時、放送が流れた。 
『我は陸軍少将にして憂国の士、佐村征十郎である!』
「佐村!」
『西欧列強に対抗すべく、我らが日本国は強い国にならなくてはならない! しかし現行の明治政府の執政は、あまりにも諸外国に対して脆弱である! このままでは維新の甲斐なく、この国は列強諸国の植民地支配を免れぬだろう――否、断じて否! この国の未来と自由、尊厳を我々は守らねばならない!』
 これは声明文だ。
 彼は自らの行いの意味と正当性を訴えている。
『私は日本国を守る、それが可能であると、この多脚機動要塞『摩利支天』を持って、証明し、明治政府に国家の執政を私に預けるよう要求する! これは日本国が、他国に侵略されない強い国になる為の第一歩である!』
 放送で流れる佐村の声には、熱が込められていた。
 聞くものを熱狂に巻き込むような、中毒性を持った熱。
「これはまた……大それた事を」
 善弥は揶揄するように言ったが、それでも流れる冷や汗を止められなかった。
 あの男ならやりかねないと、そう思ってしまう自分がいる。佐賀の乱でも経験した事だ。時代が動く時、いつだって一人の英雄が立ち上がり、その熱が伝播して波となる。
 そしてその大きな波が時代となっていく。
 やつはこの明治という時代に、一石を投じた。
 突如現れた巨大な歩く要塞による示威行為。これに成すすべもなく首都の軍が破れるような事が起きれば、明治政府の権威は失墜。世論が一気に傾いたとしてもおかしくはない。
 より強い国家に――それに民衆が同調すれば、間違いなく佐村を頂点においた政治体制が作られるようになるだろう。
 ――いや、そんな事はどうでもいい。
 問題はリゼだ。
 事の全容は依然として分からないが、この動く要塞にリゼが関係している事は間違いない。でなければ、あれほど佐村がリゼに固執する理由がない。
 早くリゼを助けなければ。
「先を急ぎましょう」
 善弥とクリはまた走りだした。



 同時刻。隔離施設の深奥であり、この要塞をコントロールする制御室となった部屋で、佐村、レクター博士、ガゼルの三人はモニターを眺めていた。
 要塞の各部に付けられたカメラから、制御室のモニターに外の様子が映し出される。
 要塞の出現、その威容に恐れおののき、逃げ惑う人々の姿。
「ヒャッハー! これは良い! 良い光景だ!!」
 映像を見てレクター博士は興奮気味に声を上げる。 
「ん? おおっと⁉」
 別のモニターを見た。
 陸軍戦車が何台か主砲をこちらに向けて、並んでいる。
 轟音。
 主砲が火を噴いた。
 発射された砲弾はその重量と加速度で持って、要塞を破壊せんと迫る――だが。
「無駄無駄ァ!」
 要塞は戦車の砲火をものともしない、外装が少し焦げた程度で、機動要塞は歩き続ける。そしてその脚が戦車を踏みつぶした。
「ヒャーハッハッハ! 最高だ! 素晴らしい!! この要塞を止められるものなど、この地球上に存在しまい‼ ヒャハハハハハハハ!」
 レクター博士は笑い転げた。愉快でたまらないのだ。一国の首都を、己の発明した要塞が陥落する。
 自分の発明品がどれほど素晴らしいか、優れているか。世界中に知れ渡るだろう。
 それが愉快で愉快でたまらない。恍惚でさえある。
 天にも昇る気持ちで、レクター博士は笑い続けた。
「あの娘を使うことで『手記』の暗号を解読、そのまま要塞の制御システムと連動させる――まさしく私のような天才にしか成しえぬ所業! 私の技術は世界一ィィ!」
 佐村は黙ってモニターを見ている。
 ガゼルが博士に近づき囁いた。
「よろしいのですか?」
「何がだ?」
「この男にここまで手を貸して」
 ガゼルが佐村を見やる。
「私の知る限り、この要塞は本国の機甲師団に匹敵する戦力になりえます。もし」
「Mr.佐村が日本を征服し、大英帝国の敵となっても良いのか――か」
「……はい」
「気にするな。むしろそうなってくれた方が、私としても好都合だ」
 レクター博士は狂気に染まった笑みを見せる。
 ガゼルには何を言っているのか理解できなかった。
「博士、それはどういう……」
「言葉通りの意味だ」
 レクター博士はニヤニヤと笑いながら言う。
「私の目的は技術の探求、そして私の発明を世に知らしめること。それには平和ではなく、戦争が必要なのだ」
「戦争?」
「そうだ。おおよそ科学技術というものは、戦時にこそ発展し、戦争利用可能な技術こそが発展する。戦争は人を追いたて、技術の進歩を渇望し、金も人も名誉も、全ては技術へと集まる」
「…………」
「事実、我らが大英帝国は技術を得て、他国を侵略、植民地化し、得た国力を技術発展につぎ込み、また他国に戦争を仕掛ける。これを繰り返して、今や世界の半分を支配下に置こうとしている」
 博士は告げる。己が大望を。
「だが大英帝国が余りにも強くなり、他国との衝突がなくなってしまえば、技術の進歩は停滞するだろう――だから、対抗国がいる。大英帝国とも張り合えるほどの力を持った国がな」
 ガゼルは息を呑んだ。
 我が主の性分は知っているつもりだった。だが、これほどとは思っていなかった。
 レクター博士は己が研究の場を用意するためだけに、戦争が出来るほど他国を強くしてしまおうと言っているのだ。
「ふふ、やはり博士を雇ったのは正解だったな」
 一言もしゃべらなかった佐村が口を開いた。
「国家を揺るがすほどの武力を技術力で実現する――もしそれが実現可能だったとしても、実行に移せる者はごく僅か。俺はその一握りの逸材を引き当てたようだ」
「恐悦至極にございます」
 レクター博士は頭を下げた。
 その時だった。一瞬空気が張り詰めた。
 白刃が閃いてレクター博士を襲った。佐村が抜刀術で斬り付けたのである。 
「ぬっ!」
「――ヒィ!?」
 寸前でガゼルが佐村の殺気に気付き、博士と佐村の間に割って入った。ガゼルの鋼鉄の義手が、佐村の凶刃を防ぐ。
「ほう」
 佐村は感心したとゆうように呟く。
 レクター博士は泡を食って問いただす。
「Mr.佐村! これは何のおつもりですかな!?」
「知れたこと、この要塞の技術を外へ漏らさぬためだ」
 平然と佐村は言い放った。
「この要塞はこれからこの国を守るいわば象徴。その製造方法、使われている技術、構造上の弱点、それらは外へ漏れてはならんのだ」
「だ、だから私を殺すと?」
「無論。技術とは独占されてこそ、優位性を保てるものだ」
「き、貴様! 私を利用したのか!」
「人を散々利用し、己が好奇心を満たしつづけてきたお前が何を言う」
「く、くぅ――!」
 レクター博士は後退りながら、怒りに身体を震わせて言い放つ。
「ガゼルやれ! この男を殺せ! 出資者と思い下手に出ていればいい気になりおって! この男を八つ裂きにしろ‼」
「はっ」
 命令を受けたガゼルが前に出た。
 軍刀を抜き放った佐村と、仕込み戦斧を構えたガゼルが対峙する。
「ぬぅおおぉ――ッ!」
 気合と共にガゼルが仕掛けた。戦斧を全力で振り下ろす。
 対する佐村は動かない。
(受け止める気か?)
 ガゼルは内心でほくそ笑んだ。ガゼルの機械化された義手から繰り出す渾身の一撃は、重機並みの威力を誇る。軍刀で受け止めきれるようなものではない。
 善弥でもガゼルの攻撃を逸らすか、間合いを詰めて威力が乗る前に潰すという手段でしか防げなかった一撃だ。
(受けるならば、刀身ごと叩き切ってくれる!)
 ガゼルは勝利を確信し、戦斧を振りぬいた。
 だが、
「どこを打っているのだ貴様は」
 至近距離で囁く佐村の声を、ガゼルは聞いた。
「なっ!?」
 ガゼルは瞠目した。
 必殺を期した一撃は空を切り、手には虚しい手応えしかない。
 無傷のままの佐村征十郎が、ガゼルの横に立っている。
「ば、馬鹿な!」
 ガゼルは跳び下がって距離を取ると、佐村の様子を伺う。
 一体何をしたのか。どうやって佐村は自分の攻撃を避けたのか、ガゼルには全く分からなかった。
 まるで攻撃がすり抜けたかのようだった。
 佐村は悠然と立っている。軍刀を抜いてはいるが、構えてすらいない。
 ガゼルに対して、脅威を感じていないのだ。
 佐村の態度にガゼルは憤り、また攻撃を仕掛けた。今度は一撃で倒そうなどとは思わない。一撃でダメなら、何回も攻撃を繰り出せばいい。
 ガゼルは続けざまに戦斧を振り回した。
 しかしそれも徒労に終わる。
「無駄だ」
 確実に入ると思った連撃は、全て紙一重で空を切る。
「ッ……!?」
 何度も空振りを繰り返し、ガゼルはようやく理解した。佐村とガゼルを隔てる、絶対的な差を。
 反応速度と見切りが圧倒的に違い過ぎるのだ。
 佐村は限界ギリギリまでガゼルの攻撃を引き付けた上で、必要最低限――紙一重で躱す。それが余りにも見事なので、攻撃がすり抜けたかのようにガゼルには感じるのだ。
 そしてそんな離れ業を可能にするのは、脅威的な反応速度と相手の動きを見切る眼力。
 佐村はガゼルが攻撃のモーションに入った段階で、その攻撃の軌道、タイミングを完全に見切っている。
 でなければ、ガゼルの攻撃をああも完璧に避け続けるなど不可能だろう。
「貴様のような力ばかりの木偶の攻撃など、俺には掠りもせん」
 ガゼルは歯噛みするが、何も言い返せない。
 佐村の言っていることが挑発ではなく、ただの事実だったからだ。
 ガゼルはじりじりと下がった。
 攻撃を仕掛けられない。
 数度攻撃を避けただけで実力の差を見せつけ、佐村はガゼルの攻め手を全て封じてみせたのだ。
「ではこちらから行くぞ」
 ガゼルが守りに入ったと見るや、今度は佐村が打って出た。
 踏み込んでの袈裟斬り。ガゼルは反応できなかった。
 佐村の軍刀が弧を描いて、ガゼルの肩口に食い込む。鈍い金属音が鳴った。
「む?」
「――ぬあああ!」
 ガゼルは動きが一瞬止まった佐村に対して、戦斧の反撃を返す。
 佐村は慌てることなく、一歩引いて躱す。
「肩まで鋼か」
 今度は左右から水平に首筋へ斬りつける佐村。
 両腕を上げて防ぐガゼル。
 ガゼルの両腕から火花が散る。
 佐村は舌打ち。ガゼルは冷や汗をかきながら、ニヤリと笑う。
 攻撃を当てるチャンスというものは、攻防の中に生まれる。一定以上の技量を持つものが防御に徹したら、達人でも中々攻撃を当てるのは難しい。
 ガゼルは思考を巡らす。
 凌げ、今は凌げ。凌いでいればチャンスはある。
 歴戦の強者がもつ粘り強さ、生への執着。
 だが、それも淡く消える。
 佐村は事ここに至って、初めて構えを取った。
 腰を落として右足を引き、切っ先を右斜め後方へ流す、車の構え。
 佐村から放たれる妖しい殺気が、これまでにないほど研ぎ澄まされる。
 ――そして佐村が消えた。
(消え――!?) 
 ガゼルが視界から佐村が消えた事に驚くのと、うなじに冷たい凶器の感触を覚えるのと。
 一体どちらが早かっただろうか。
 ガゼルは悲鳴すら上げる暇を与えられず、首を撥ね飛ばされた。
「…………!」
 そばで見ていたレクター博士にも、何が行われたのか良く分からなかった。ただガゼルが倒されたという結果だけを認識し、無言で青ざめている。
 今の一瞬で何が行われたのか、正確に把握しているのは佐村だけだろう。佐村は義足の脚力を活かし、構えた状態から全力でガゼルの斜め後方に向けて跳んだのだ。
 視界の外へ一瞬で移動した佐村は、ガゼルには消えたように見えただろう。佐村は無防備に晒された首筋へ、身体ごと捻りを加えた水平回転斬りを叩き込んだのである。 
「タイ捨流猿廻が崩し――魔剣『天廻』」
 佐村が呟くの待っていたかのように、ガゼルの首が床に転がる。頭部を失ったガゼルの身体は、痙攣したように数歩前に歩いてからうつ伏せに倒れた。
「ひぃいいいっ!?」
 レクター博士は半狂乱になってみっともなく喚いた。
 頼みの綱のガゼルが、こうもあっさりと負けるとは思ってもいなかった。
 尻餅をつき、ずるずると後退る。
「た、助けてくれ! わ、私はまだ、まだ死にたくはない‼」
 情けなく命乞いをする博士を、佐村は冷めた目で見ていた。
「貴様は本当に、発明以外の能がないな」
 白刃が閃いて、また一つ命が刈り取られた。


第六章 人の強さ


「善弥さんここです!」
 要塞の中を、クリと善弥は全速力でかける。
 やがて二人は制御室の前まで来ていた。
「この部屋です。ここからリゼさんの匂いがします」
 クリの言葉に善弥は頷いた。
「……この部屋には僕だけで入ります。クリちゃんは部屋の外で待っていてください」
「そんな!」
 善弥は困ったように顔を歪めた。
「ここから先は戦場になります。クリちゃんは連れていけません」
 善弥は制御室の扉を睨んだ。
 クリほど鼻が利かなくても分かる。この部屋からは血の匂いがする。そして溢れ出る殺意を感じる。
 待ち受けているのは間違いなく佐村だ。
 あの男を前にして、クリを巻き込まずに戦うのは難しい。
「外の方が安全です。クリちゃんはいつでも逃げられるようにして、待っていてください」
「…………」
 不安そうに見上げるクリの頭に、善弥は手を置いた。
「大丈夫。リゼさんを連れて、必ずこの部屋から出てきます。約束です」
 それは気休めの言葉でしかなかったけれど。
 それでも善弥はそれを口にした。
「はい、待ってます!」
 クリが元気よく頷いた。
 それを見て、善弥も肝が据わった。必ずリゼは助ける。そして生きて戻る、この子を悲しませない為に。
 一度懐に手を入れた。
 御守り代わりに持ってきた写真を強く握りしめる。
(この写真の笑顔を、絶対に取り戻す――!)
 決意を固め、善弥は制御室の扉を開けた。
 


 制御室に入るとまず血の匂いが鼻についた。
 広い部屋だ。
 壁一面の計器とモニター。
 死体が二つ転がっている。一つは初老の学者風の男――レクター博士の死体。もう一つは鋼の義手をした筋骨隆々の巨漢――ガゼルの首が転がっている。
 そして死体の向こう。
 部屋の中央に備え付けられた台座に拘束されたリゼと、その隣に立つ佐村征十郎を見つけた。
「リゼさん!」
 善弥が叫んだ。
 叫ばずにはいられなかった。
 何しろリゼの頭部、側頭部に電極が突き刺さっていたからである。よく見ればそれは、リゼの髪飾りであった。
 黒く光沢を持った髪飾りに見えていたそれは、頭部に突き刺さった電極であったのである。
「リゼさん無事ですか! 返事をしてください‼」
 善弥の呼びかけに、リゼは答えない。
「無駄だ。お前の声など届いていない」
 ぴしゃりと佐村が言い放った。
「この制御回路と接続している間は、この娘に意識はない」
 だから。
「娘を助けたくば、俺を倒すしかないぞ鷹山善弥。俺の野望の為にも、この娘は必要だからな」
 佐村は軍刀の鯉口を切った。
 善弥も左手で鍔元を押さえつつ言った。
「リゼさんは――彼女は何なんだ」
「なんだ? 知らずに守っていたのか?」
 あきれたように佐村は言った。
「この娘はな、世界に一つしかない電脳(ブレインマシンインターフェース)の持ち主なのだ」
「電脳?」
 聞きなれない言葉だ。
「技術の進歩は、人間の理解をより深めた。人が思考を巡らす際、脳が電気信号をやり取りしているということが分かった時、とある技術者が閃いたのだという。人間の脳も計算装置(コンピュータ)になる――とな」
「…………」
「そしてその技術者は、ごく身近な人間を実験材料に選んだ」
 佐村がニヤリと笑い、善弥は驚愕に顔を歪める。
「まさか――」
「そうだ! この娘に電極を突き刺し、生きた装置にしたのだよ! 他ならなぬ、この娘の実の父がな!」
「…………」
 善弥は言葉が出なかった。
 殺された父の遺品を取り戻したいと言っていたリゼ。
 科学は人を幸福にする為にあると、力強く言い張っていたリゼ。
 そのリゼこそが、誰よりも父に虐げられ、科学の犠牲になっていたのだ。
 クリに対して入れ込むのも、善弥に人らしくいてほしいと言ったのも、全てはこれが大元にあった。
 誰よりも彼女が科学の犠牲になっていたから。
 誰よりも人間性をないがしろされ、道具として扱われてきたから。
 彼女は科学の悪用を許さないし、たとえ改造されても、人の心が分からない人斬りでも――彼女はどこまでも人として向き合ってくれるのだ。
 善弥は己の言動を猛烈に悔いていた。
 自分は人でなし。人としては生きられない――甘ったれるな。
 善弥は逃げていただけだ。
 心に蓋をして、目を背けていただけ。
 すぐそばで、こんなにも華奢な少女が、懸命に現実と戦い続けていた。それに気付けなかった。
 ぎゅっと固く拳を握ってから、握り拳を解く。
 恥じているのなら。
 少しでもリゼの力になりたいと思うのなら。
 是が非でもリゼを助け出さなくてはいけない。
 これ以上、彼女を道具扱いして、人間性を剥奪するような真似を許す訳にはいかない。
 大きく息を吸ってから、丹田に力を込め、肩の力を抜く。
 力みがあれば剣は遅くなる。
 調息により精神状態を整え、臨戦態勢に切り替える。
 鯉口を切って、腰の大小にそれぞれ手をかける。
 急激に制御室の室温が下がったかと錯覚するほど、善弥と佐村の放つ殺気が濃度をまし、空気が張り詰める。
「行くぞ」
 佐村の軍刀。
 善弥の二刀。
 三つの刃が白光を描き、交錯した。

 

 先に仕掛けたのは佐村だった。
 義足の脚力を活かした強烈な踏み込み。8メートルは離れていた間合いを、一瞬でゼロにする。
 そしてその突進の勢いを乗せて抜き付け、横一文字の一刀。 
 弧を描いて迫る死の彗星を、善弥は抜き合わせた二刀を交差させて受け止める。
 刃と刃が嚙み合う音がして、火花が散る。
「ぐぅ――!」
 佐村はガゼルほど筋肉はないが、それでも善弥よりは大分骨格が大きい。
 体重乗せた一刀は、善弥に重くのしかかる。 
 佐村の一撃を受けた姿勢のまま、善弥は1メートルほど押された。踵が床を削り、ようやく止まる。
「ほう! これを止めるか」
「――はあぁぁぁ!」
 今度は善弥のターンだ。
 間合いが近い。大刀で佐村の軍刀を制しながら、左の小刀で右小手を狙う。佐村は手元を引いて躱す。
 すると善弥は右の大刀で突きを入れる。
 佐村がそれを払うと、さらに左の小刀で追い打ちをかける善弥。
 右の大刀を防げば左の小刀が、左の小刀を防げば右の大刀が、それぞれが連関して動き、相手に出来た隙を見逃さない。
 続けざま六度斬りつけて、善弥は戦いの主導権を奪いにかかる。
「舐めるな青二才!」
 佐村は善弥の右の突きを下段へ払い落すやいなや、峰を踏みつけて刀の動きを封じた。続く左の袈裟斬りを下段から払いあげて、空いた中段に渾身の横蹴りを放つ。 
「がはっ!」
 佐村の義足の踵――鋼鉄で出来たそれは、もはや凶器に等しい。
 まして人間離れした脚力を内包した義足の蹴りだ。その威力は推して知るべし。
 善弥は5メートルも後方へ吹き飛んだ。 
 さすがの善弥も威力を流し切れなかった。たまらず膝をつく。
 呼吸が苦しい。肺が痙攣する。肋骨は折れていないか――。
 吹き飛ばされて着地するまでの一瞬のうちに、そこまで思考を巡らす善弥。でなければ死ぬと分かっている。
 佐村はここぞとばかりに畳み掛けてくる。
 一流の剣客は、勝負所を逃したりしない。
 一足飛びに踏み込んで、善弥の心臓を狙っての突きを放つ――それを待っていた。
 膝をついた体勢から立ち上がりながら、十字に組んだ二刀で佐村の突きを下方へ抑え込む。そして佐村の軍刀の峰を踏みつける。
 佐村にされたことを、即座にやり返して見せたのだ。
「小癪な!」
 佐村がほぞを噛む。
 膝をついた善弥を狙って突いた為、剣先が下がり気味だった。
 そこを狙われ、十字受けで押さえ込まれた。
 攻撃を食らったあとの体勢の崩れさえ、次の攻撃を誘う伏線として利用する――恐ろしいほどの機転の良さ。
 善弥の剣腕も、決して佐村に劣らない。
 善弥は佐村の首筋へ、大刀の切っ先を走らせる。
「――甘い!」
「ッ!?」
 佐村は軍刀の柄から手を離した。
 予想外の行動に、善弥は虚を突かれる。
 佐村は眼前に迫る大刀に怯むどころか踏み込んできた。斬り付ける大刀を保持した善弥の右腕、その内側にまで踏み込んで、斬撃の範囲から逃れる。
 至近距離。
 踏み込みと同時に、佐村は掌打を繰り出した。
 善弥の脇腹に佐村の掌底が食い込む。
 またも善弥は吹き飛ばされた。
「が――は、ああ――ぐっ」
 胴体に短い間隔で二度も痛打を貰い、流石の善弥もダメージを隠し切れなくなった。
 乱れる息を懸命に抑える。
 佐村は床に転がる軍刀を拾い上げ、悠々と構えなおす。
 そんな佐村の様子を見て、善弥は改めて思った。
(――この男、強い!)
 どれ程追い込まれた状況でも、的確に対応し、反撃を返してくる。
 まさか刀を一時的にとはいえ、手放すとは思わなかった。虚を突いたつもりが、逆に善弥が虚を突かれる形になってしまった。
 善弥は歯噛みする。
 タイ捨流の極意の一つに、水急不流月というものがある。
 どれ程水が急激に流れようとも、水面に映る月影は流れない。どんな状況になっても決して乱れない心を持てという教えで、いわゆる不動心という奴だ。 
 佐村にはそれがある。
 達した境地の差が、立ち合いに現れている。
 やはりこの男――善弥よりも強い。
 だが、それがどうした。
 佐村が善弥よりも強かったとしても、それは逃げ出す理由にも、勝負を諦める理由にもなりはしない。
 リゼを助けると約束した。
 クリと自分自身に。
 圧倒的に不利であると知り、その現実を痛いほど実感してなお、善弥の目から闘志は衰えていなかった。
「フン、気に食わんな」 
 佐村は未だ衰えない善弥の眼光を見て、鼻を鳴らす。
 そして軍刀を構え直した。
 低く腰を落として右足を引き、右斜め後方へ切っ先を流す――車の構え。
(――何だ?)
 善弥は違和感を感じた。
 車の構え――一般的には脇構えと言われる、剣を後方下段に流すようにするこの構えは、誘いの構えだと言われる。
 刀身を自分の後方へ持ってくる――つまり敵に我が身を晒す。それによって敵の攻撃を誘い、カウンターで斬り付けるのに向いている。
 いわば待ちの構えとも言える。
 また刀身を自分の身体の陰に隠すことで、間合いを悟らせない効果もある。
 だが。
 善弥は佐村を注視する。
 この男から溢れる殺気は、微塵も衰えていない。むしろその濃度を増していく。空気がまた張り詰めていくのを感じる。
 これが敵の攻撃を誘っている男の態度か? ――間違いなく仕掛けてくる。
 そこまで読めたのは、善弥の類まれな才能と戦い続けた剣客としての経験によるもの。そこまで読めていたからこそ、
「ッ!?」
(消えた――‼)
 視界から佐村が消えた時、反応が遅れることはなかった。
 善弥本人の思考に先んじて、両腕が跳ね上がった。うなじを庇うように、身体の背面で二刀を交差させる。
 何故そうしたのかは分からない。
 ただ、身体が反応して動いた。 
「むぅ!?」
 善弥の首を撥ね飛ばそうと、身体ごと回転して斬り付けた佐村の一撃。それを善弥の二刀は、寸前で受け止めていた。
 善弥は弾かれたように前方へ自分から転がった。
 転がりながら反転して、即座に二刀を構えなおす。
 佐村は意外そうにしていた。
 必勝を期した魔剣が防がれるなど、考えてもいなかったのである。
「まさか俺の『天廻』が破れるとはな――貴様を見くびり過ぎていたか」
「『天廻』……」
 ――何故、初見で今の絶技が防げたのか。
 ヒントは幾つかあった。
 佐村と戦い、背中を切られた師。
 そして今も制御室の床に転がるガゼルの首。その切断面は、背中側から切られたものだった。
 ヒントならこの二つだけで十分。
 佐村は正面に対峙していながら、背面から斬り付けるという、絶技を持っている――そう判じるには十分だった。
 恐らくはタイ捨流の技を自己流に崩し(アレンジ)したのが、今の絶技なのだろう。
「タイ捨流に伝わる猿廻――跳び違えながら回り込み斬る技を、その義足で強化した剣技――そんなところですかね」
「……一打ちでそこまで見切るか」
 佐村は苦々し気に言う。
「よもやこの脚を使った魔剣で仕留められんとは思わなかったぞ」
 人間の域を超えた脚力を用いた絶技――なるほど、機械の脚と剣術の腕、両方を備える佐村にしかこの技は使えない。魔剣と呼ぶに相応しいだろう。
「魔剣は破った。勝負は――」
「――まだついていない。とでも言うつもりか?」
 佐村は善弥のセリフを遮った。
「その減らず口、いつまで続くかな」
 佐村がまた善弥の視界から消えた――否、消えたように見えるほど速く、視界から脱したのだ。
 今度は見逃さない。
 五感を集中させ佐村の気配を探る。佐村は――上だ。
「なっ!?」
 善弥は瞠目する。
 天地逆転。天井に立つ佐村を、善弥は確かに見た。
 天井を蹴って、佐村が飛ぶ。
「ここから先は本気で行くぞ」
 頭上からした声が、いつの間にか背後から聞こえる。
 床を壁を天井を。
 存在する平面を全て足場に変えて、佐村は跳躍を繰り返す。
「魔剣が一つだけとは言ってはおらんぞ」
(これは――)
 全方位三次元殺法。
 跳躍に跳躍を重ね、善弥を包囲する佐村。
(――来る!)
 左斜め後方から斬撃が迫る。
 それを左の小刀で捌く。と、次の瞬間には、
(右膝!?)
 右下方から切り上げてくる。
 今度は右の大刀を床に突き刺すようにして防ぐ。
 そこから更に、左の脇腹に斬り付けられた。
 防御が一瞬遅れた。
 浅く脇腹が斬られた。
「ぐっ――!」
 善弥は苦悶に顔を歪める。
 佐村は止まらない。
「魔剣――『刃風剣嵐(じんぷうけんらん)』」
 それは一つの剣技と言うよりも、戦法と言い換えて言い。一撃で仕留められぬなら、何度でも斬り続ければいいという考えだ。
 縦横無尽に飛び回りならが、斬撃を放ち続ける。
 それは剣戟の嵐。白刃が死の颶風となって吹き荒れる。善弥はその嵐の真っ只中に囚われていた。 
(マズい――!)
 あまりにも多方向から飛んでくる斬撃に、対応しきれない。
 防御に徹し、何とか致命傷こそ避けているものの、徐々に攻撃が当たり始めていた。左の脇馬の他にも、右肩を裂かれた。
 左太ももと右の脛からも血が流れている。
 左の二の腕を切っ先が掠めた。今はまだ動くが、いずれ左の小刀を掴んでいることさえ出来なくなるだろう。
 多数の刀傷、先日の戦闘での負傷も相まって、善弥はまさしく満身創痍の状態であった。 四肢から流れ出る血の一滴一滴から、生命力がこぼれ落ちるようだった。
 佐村の剣の餌食になって死ぬか、出血多量で倒れて死ぬか。
 どちらが早いか分からない。
 だが、それでも、善弥は抵抗を止めない。
 浅い打ちを喰らいながら、冷静に敵の攻撃の軌道を読み、虎視眈々と斬り返す隙を伺っている。
 指一本でも動くうちは自分の負けはあり得ぬと、不屈の闘志で身体を支えていた。
 それにこの魔剣の弱点を、善弥は既に見切っている。
「くっ……!」
 善弥がもはや立っているだけでやっとという体になって、ようやく佐村は止まった。
 ――止まらざるを得なかった。
(狙い通り……!)
 超高速で跳ね回り、斬り付ける三次元殺法の魔剣技――『刃風剣嵐』
 あれほど高速で動き続ければ、それを支える足腰に相当な負担が来る。いくら機械仕掛けの義足と言えど、強度の限界はあるのだ。
 いつまでも続く嵐など有り得ない。斬撃を受け続けていれば、いつか動けなくなると踏んでいた。
 そしてそれは当りだった。
 これ以上義足を酷使すれば、関節部の部品が壊れる。一定時間の休ませねばならない。
「諦めの悪い男だ」
 佐村が憎々し気に言う。
 それでも善弥は佐村にまだ一太刀も入れられていない。
 両者の実力差は歴然。
 しかしなお、善弥の闘志は萎えていなかった。  
「生き恥を晒すのは、剣客の最後には相応しくないと思うがな」
「武士道とは死ぬことと見つけたり――ですか」
「その通り」 
「なら僕は違います。今死んだら、リゼさんを助けられないんで」
「……そんなにこの娘を助けたいか」
「勿論」
 でなければ、ここにいない。
 佐村を睨みつける善弥。
 そんな善弥を憐れむように見る佐村。
「はじめて貴様と会った時の方が、もっと良い目をしていたぞ」
「……何の事ですか」
「貴様の目には恐れがなかった。悲しみもなかった。怒りもなかった。何もない、どこまでの純粋な目だ。目の前で師を殺されても、それで我を忘れたりはしない。お前は師の容体を確認するよりも先に、俺に斬りかかった」
「…………」
「見事だったぞ。あれこそ、俺のつくる新しい日本に相応しい」
「新しい日本?」
「強い日本国だ。国力の全てを軍事力に集中させ、この国を西洋列強に劣らぬ国にする。和平協定? 通商条約? 下らぬ、下らぬ! 国家の安寧には血と鉄、すなわち兵と砲が不可欠なのだ!」
「……その為の要塞ですか」
「要塞も、機械兵も、人狼も! 全ては国内の戦力を底上げするために開発させた。全てはこのために」
「…………」
 それが佐村の理想か。
 善弥は笑った。
 いつもの穏やかな笑みとは違う。
 挑みかかるような、蔑みを込めた笑顔。
「下らない」
 一言吐き捨てるようにそういった。
 戦うだけが能の者ばかりが増えて、それで何になるというのだ。
 それは確かに強い国なのかもしれない。侵しがたい精強な国家を作るのかもしれない。だが、そんなものに守る価値はあるのか。
 敵に打ち勝つことを目的として、他者を悼むことのない国。
 それは悪鬼羅刹の住まう修羅道をこの世に具現することではないのか。
「お前はここで倒す――必ず!」
 善弥は叫んだ。
「貴様はここで殺す――行くぞ鷹山善弥!」
 佐村は吠えた。
 バネを溜めるように腰を落とす。
 善弥はもう既に死に体も同然。防御も回避も出来ないだろう。出来るとすれば相打ち狙いカウンター。
 ――ならばカウンターを合わせられない程速く一太刀を見舞うのみ。
 佐村は刀身を水平にして切っ先を善弥に向ける――突きの構えをとった。
 対する善弥は、構えなかった。
 両腕をダラリと下げて、ただ立っている。構えをとることさえ難しい状況だった。  
 身体にほとんど力が入らない。
 なので身体を支える力は最小限に抑える。その分、全神経を集中させる。佐村の動きを見逃すまいと、善弥の眼光が鋭さを増す。
 幽鬼のように二刀をダラリとさげて立つ善弥の姿は、意図せずして天下無双を謳われた古の剣豪の肖像画に酷似していた。
 吸い込まれるように、佐村が動いた。
 バネを溜めた脚で全力で床を蹴る。
 弾丸のような速度で佐村は突進。突進の勢いのままに突きを繰り出す。
 鋼鉄さえ貫く神速の突き。
 善弥は避けない。もう脚がほとんど動かないからだ。
 防御はしない。受けたところで、防御ごと串刺しにされると分かっていた。
 故に善弥は前へと一歩踏み込んだ。
 生死の間境でなお一歩踏み込み、佐村の突きを迎え撃つ。刹那のうちに腕が二刀を操り、交差した白刃が閃く。
 
 ガキィン――!

 轟音。
 佐村は踏み込んだ体勢で止まり、善弥は後方へと吹き飛んでいた。
 だが、
「ぐ――ふぅあっ!」
 佐村は血を吐いて膝をつく。
 佐村の胸に、善弥の大刀が突き刺さっていた。
 全力で突き出した軍刀は、刀身の半ばで折れており、折れた刀身が乾いた音を立てて、近くの床に転がった。 
「っはぁ――っはぁ――」 
 善弥は突かれた左胸を抑えながら、上体を起こした。息は乱れているが、血は流れていない。ただ、衝撃で肋にヒビが入ったようだ。
 呼吸のたびに、肺が痛む。
「今……のは……」
「――鉄人流秘剣『合刀截(ごうとうさい)』」
 呆然とする佐村に答えるように、善弥は呟いた。
 俗に日本刀は折れず曲がらずと言われる。
 だがそれは、正しく使った時のみであるというのが実際だ。特に、刃は強固であるものの、側面から力をかけられると脆いという性質を日本刀は持っている。
 秘剣『合刀截』はその性質を突いた技だ。
 交差させた二刀で挟みこむように斬り付けることで、敵の刀を折りつつ切っ先を敵に届かせる。攻防一体の絶技。
 善弥はこの秘剣で佐村の軍刀を斬り折った。
 そして振りぬいた大刀の切っ先に、佐村が自分から突っ込んできた。
 かくて善弥の大刀は深々と佐村の胸郭を抉った。
 だが、それでも佐村の勢いは止まらず、余勢で折れた軍刀で善弥を突いたのだ。折れた軍刀で突かれ、善弥は後方へとまた弾き飛ばされた。
 それが先の一瞬での出来事だった。
「はぁ――はぁ――」
 善弥は乱れる息を懸命に堪えた。
 結果として上手くいったが、際どい――あまりにも際どい、紙一重の勝負だった。
 この技はただ繰り出しても成功しない。人間と同じように、刀にも急所(ウイークポイント)が存在する。刀身にある急所の一点を見切り、正確に当てなくては成功しないのだ。
 超高速で振るわれる敵の剣に正確に当てようと思えば、タイミングは零コンマ数秒を争う、極めてシビアなタイミングになる。
 土壇場で発揮される極限の集中力があって、初めて成功するのだ――肉体的な疲労よりも精神的な疲労感が強い。
 今になって嫌な汗がどっと出た。
「くっ……相打ちには持ち込めたかと……思ったがな」
 佐村は歯噛みして善弥を見る。
 いくら刀身が折られたと言っても、細長い鉄の棒だ。高速で突き込めば、容易く人体に突き刺さる。
 しかし善弥は肋骨に損傷があるものの、致命傷には至っていない。
 何故だ? ――佐村は訝しんだ。
「助けられましたね……」
 善弥は右手を懐に入れた。
 懐から金属製のケース――御守り代わりに拝借した写真を取り出す。金属製のケースはひしゃげていた。このケースに軍刀が当たったお陰で、善弥は胸を貫かれずに済んだのだ。
「時の運に恵まれなかった……か」
 佐村は自嘲気味に苦笑する。 
「まさか……身体の一部を機械にしてまで、強さを求めたこの俺が……敗れるとは」
「あなたが人の強さを甘くみたからですよ」
「人の……強さ……?」
 善弥は頷いた。
「もし僕が以前のままなら、あなたには勝てなかった」
 戦うだけが生き甲斐だと嘯き、死に場所を求めていたままだったら、佐村の剣の前にひれ伏していたかもしれない。
 もっと早く諦めて、斬られていたかもしれない。
 戦って死ぬのなら本望だ――と。
「僕が最後まで立っていられたのは、リゼさんがいてくれたから。彼女に言われた一言があったからだ」
 こんな人を殺すしか能がない男を、リゼは一人の人間として認めてくれた。
 あなたは優しい人なのだと言ってくれた。
 それは他人から見れば、ほんの些細な事かもしれないけれど、善弥の身体を支えるには十分すぎるほどだった。 
 たった一人のたった一言で。
 誰かを思う気持ち一つで。
 人は強くなれるのだと――リゼが教えてくれたのだ。
「よもや俺が……そんなものに……」   
 それが佐村の最後の言葉。
 強さに魅了され、武力で日本の支配という野望を抱いた野心家は、ついに倒れた。



 善弥はボロボロの身体に鞭打って立ち上がる。
 佐村の身体に突き刺さった愛刀を抜き取り、杖替わりにして部屋の中央へ向かう。
 台座に座るリゼの拘束を解いていく。
 そして最頭部の上半分を覆っていたカバーを取り、繋がれたコードを電極から外した。
「リゼさん……しっかりしてください」
「…………ん」
 人形のように血の気の引いたリゼの顔に、徐々に血色が戻る。
 リゼがゆっくりと瞼を開けた。
「善弥……?」
「目が覚めましたか」
 胸の奥から熱い何かが溢れそうになる。
「ここって……私……」
 リゼはとろんとした目で周りを見回す。段々とリゼの目の焦点が合ってきた。
 我に返ったリゼが堰を切ったようにまくし立てる。
「そうだ、私! 連れ去れて! それで――」
「もう大丈夫ですよ。あなたを狙う者はもういません」
「…………」
「無事でよかったです」 
 キョロキョロと当たりを見回しながら、慌てふためくリゼに善弥は明るく笑いかけた。
「善弥――」
 リゼは善弥に答えようとして、目を見開いた。
「――ていうか善弥、血だらけじゃない!」
「いや〜すみません。ちょっと助けに来るのに手間取りまして……まあ大したことはありませんよ」
 満身創痍の姿に不釣り合いなほど間延びした――のほほんとした声で答えて、善弥が頭を掻く。
 それだけで、リゼは多くを察した。
 この男は恩着せがましく、自らの功績を語ったりしない。
 死にそうになるような目にあいながら、何てことのないように。当たり前に誰かに手を差し伸べる。そんな男なのだ、この鷹山善弥という男は。
「――バカ! バカバカバカ‼ そんなにボロボロになって、大したことない訳ないでしょ! 死にそうになってるじゃない‼」
「……リゼさん?」 
 怒鳴りながらポカポカと善弥を殴ったと思えば、背に手を回しリゼは善弥を抱きしめた。ぐっと善弥の胸に頭を押し付けるリゼ。
「死にそうになってまで、何で笑ってるのよ……あなたが死んだら……悲しいじゃない」
「そうですね、それは僕も同じです」
 善弥は静かに言った。
「リゼさんがいなくなったら、僕は悲しい。昔ならそうは思わなかった、でも今はそう思うんです」
「善弥……」
「だからちょっと無茶しちゃいました。すみません」
「何でそこで謝るのよ」
 ホントにそういうとこズレてるんだから――と言って、リゼは顔を上げた。
 善弥の文字通り目と鼻の先に、リゼの顔がある。
 リゼの瞳が熱を帯びて、善弥を見る。
 二人の視線が交差した。
 善弥の目は暖かい慈愛に満ちていた。リゼはその瞳に吸い込まれるような気がした。自然とリゼの顔が、善弥の顔に近づく。
 互いの吐息が分かるほど近く。
 もう少しで、互いの唇が触れる――
「――善弥さん! 無事ですか!?」
「ッ――――‼」
 制御室の扉が開いて、クリが顔を出した。
 リゼが慌てて善弥から離れる。
「ク、クリちゃん!?」
「リゼさん! 無事だったんですね!」
 安堵の表情を見せ、近づいてくるクリ。
「さっき凄い音がして心配だったんですけど、リゼさんの声が聞こえたんで、それでもう大丈夫なのかなって」
「はい、もう心配いりませんよ」
「…………」
 善弥はいたって普通に返事を返すが、リゼは俯いて何も言えないでいた。
「? リゼさんホントに大丈夫なんですか?」
「な、何、クリちゃん!? 私なら別に何ともないわよ!」
「え? でも――」
 クリは首を傾げた。
「リゼさん熱でもあるみたいに、顔真っ赤ですよ?」
「――――――ッ!」
 リゼは声にならない悲鳴を上げて、耳まで赤くなった。  
 赤くなった顔を隠すように、両手で覆うリゼ。
 そんなリゼを不思議そうな顔で見るクリ。
「善弥さん、何かあったんですか?」
「それは――」
 善弥が口を開いた瞬間に、リゼがバネ仕掛けの人形のように顔を上げた。
 全力で善弥の口を塞ぐリゼ。
 羞恥にプルプルと震えながら、物凄い目力で訴えかけてくる――余計なことはしゃべるな、と。
 気圧された善弥はコクコクと頷いた。
「――特に何もありませんでしたよ」
「そそそ、そうよクリちゃん! ほ、本当に、本当に全然何にもなかったから‼」
 回らない口でまくし立てるリゼ。
 そんなリゼを訝しげにクリは見ていた。
 ――と、急に部屋が大きく揺れた。
「な、何ですかこれ!?」
 怯えてクリが善弥にしがみつく。
「マズいわね……」
 ようやく落ち着きを取り戻したリゼが、冷や汗をかく。
「この要塞のコントロールが利かなくなったんだわ」
「どういう事ですか?」
「私がこの要塞のコントロールを、一手に引き受けていた。その私が制御装置から抜けたのよ。今まで通りに動くわけがないわ!」
 考えてみれば当たり前の話ではある。
 新時代の魔導書である『手記』に施された暗号を、生きた超電算機(スーパーコンピュータ)であるリゼが解析し、通常の装置に適応させていた。
 リゼという超高性能な計算装置兼アダプターがなければ、この要塞の制御は成立しないのだ。
「補助用の計算装置や制御装置はいくつも搭載されているけど、全てを使ってもこの要塞の複雑な機動システムは上手く動かせない」
「さっきの揺れはそれですか」
 要塞の脚が上手く連動できず、姿勢制御が出来なくなっているのだろう。
「今はまだバランスを崩してないけど、この要塞が倒れたら大変なことになる」
「大変なこと?」
 重たい物――質量がある物が高い位置から落下する。それだけで非常に大きな破壊力を生む。ましてそれが要塞と呼べるほどの体積と重量になれば、その衝撃は如何ほどか想像もできなかった。
「超高出力の動力炉を、この要塞は搭載してる――転倒の衝撃で動力炉が壊れたら、この要塞は爆発するわ!」
「い、急いで逃げないと!」
 クリは慌てる。
 だが、逃げるといっても簡単ではない。
 この要塞は移動用の脚のため、5階建ての建物と同じくらいの高さがあるのだ。飛び降りて逃げるのはまず不可能。
 しかも、解決すべき問題はそれだけではない。
「ただ逃げるだけじゃダメ! この要塞を何とかしないと、街一つが吹き飛ぶ!」
「そんなのどうすれば!?」
 慌てふためくクリを横目に、善弥は冷静に頭を働かせていた。
「……沈める、というのはどうでしょう」
 善弥が口を挟んだ。
「現在位置は分かりますか」
「ちょっと待って、今モニターに出す」
 リゼが近くのコンソールに座った。
 モニターの一つに、要塞の現在位置が表示される。
「ここです」
 善弥がモニターの一点を指さした。
 地図上に表示された隅田川を。
「何とかここまで要塞を動かして、川に沈めます。ここなら仮に要塞が爆発しても、大きな被害にはならないかと」
 それに――と言って、善弥は隅田川を繋ぐ端を指さす。
「川に踏み入れた状態であれば、この橋に飛び移れます」
「それだわ!」
 リゼがコンソールのキーボードを操作する。
「川に向かって進路を変更しておいたわ。あとは端に飛び移るだけ――でも橋に飛び移るチャンスは一度しかないわ。失敗すれば死ぬ」
 それでもやるしかない。やらなければ確実に死ぬのだから。
「『手記』はどうします?」 
 制御装置に接続された『手記』を見る善弥。
「……このままでいいわ。この要塞が爆発するなら、放っておいても『手記』は無くなる」「良いんですか?」
「もちろん。私の目的は『手記』の回収じゃなくて、破棄だから」
 リゼはそう言って一瞬遠い目をして、『手記』を見た。これで見納めになる。
 この魔導の書に、一体どれだけの人間が狂わされてきたのだろうか。
「時間がありません、行きましょう」 
 三人は制御室を出て、要塞の外郭まで走った。
 もう目の前に川が迫っている。
 橋が見えた。
「今よ!」
 善弥たちは橋へ向かって跳んだ。
 橋の上に何とか着地する三人。
 善弥は背後を振り返った。要塞が川に沈んでいく。数秒後、爆発と共に水柱が上がった。
 水飛沫を大量に浴びて、ずぶ濡れになる三人。
 そんな互いの姿を見て、自然と笑みがこぼれた。
「ふふ、お互い酷い恰好してるわね」
「えへへ、みんなボロボロです」
「ですねぇ――でも」
 善弥は言った。
「みんな生きてます」
 まだ生きてる。
 生きてこうして話せている。
 善弥はそれがたまらなく嬉しかった。


終章 新しい時代を君と


 善弥が目を覚ました時、まず見覚えのない天井が見えた。
「善弥、目が覚めたのね! ……良かった」
 すぐそばにリゼが座っていた。
 目を輝かせ、嬉しそうに善弥を見ている。
 周りを見回す善弥。洋風の病室のベッドに寝かされていたらしい。
「ここは……?」
「外国人居留地のとある病院。ちょっと伝手があって、そこであなたを看てもらったの」
 善弥はゆっくりと身体を起こした。
 身体が重い。
「僕はいったい……」
「覚えてない? 善弥、要塞から脱出したあと、すぐに意識を失って倒れちゃったのよ。一週間眠り続けてたんだから」
「そう……でしたか。クリちゃんは?」
「クリちゃんも無事。交代であなたを見てたの。今は休んでもらってるわ」
 ていうか善弥はしっかり休んでて――そう言って、リゼは善弥に毛布をかけ直す。
「善弥本当にボロボロで、死んでもおかしくなかったんだから」
「…………」
「無茶し過ぎよ――なんて、無茶させた私が言えたことじゃないけど」
 リゼは心底安心した表情を見せる。
「あなたが生きててくれて、本当に良かったわ」
「……そうですね」
 善弥の返答が一瞬遅れた。リゼはそれを見逃さない。
「善弥、何か言おうとしたでしょ」
「何のことですか?」
「とぼけても無駄よ。善弥の作り笑いなんて、とっくにお見通しだから」
「……かないませんね」 
 もうそんな所まで見抜かれている――善弥は降参した。
「つい『また生き延びてしまったな』と思ってしまって――それを言ったら怒るなと思って、言えなかったんですよ」
「怒るわよ、それは」
 案の定リゼは頬を膨らませる。
「何でそんなこと思うの? 要塞から脱出した時の善弥は、生きてることを喜んでいた風に見えたけど」
「そうですね。要塞から脱出した直後は、確かに嬉しかったです。あれは嘘じゃありません」
「なら――」
「でも少し時間が経って、思ってしまったんですよ。死に場所を逃してしまったんじゃないかって」
 思えば善弥はこれまで、ずっと死に場所を求めていたのではないだろうか。
 生きている意味。生の実感を求めながら、自分の命の使いどころを探していた。その使いどころを誤ってしまったのではないか――と。
 誰かの為に戦って死ぬ――それが善弥にとって、一番良い命の使い方だった。
 だが、それを棒に振ってしまった。
 少なくとも今の善弥にはそう思えてしまうのだ。
「せっかく拾っていただいた命ですが、この先どういう風に使いましょうかね――」
「そんな善弥に朗報よ」
 リゼは善弥に微笑みかける。
「今回の件で、私W&S社や大英帝国の政府、諜報機関からも目を付けられちゃって、故郷に戻れなくなっちゃったのよ。だからまだまだ日本にいるんだけど、一人じゃ色々と大変だし物騒じゃない? そこでなんだけど」
 リゼの頬がかすかに赤らむ。
「これからも私の用心棒、続ける気はある?」
 善弥は少し驚いたように目を見開いてから、笑って頷いた。
「願ってもない申し出です……期間はいつまでですか?」
「……その」
「?」
 急にリゼが言いにくそうに、口をもごもごとさせた。
 頬の赤みが増している。
 リゼは何度か逡巡したあと、
「私が死ぬまで……」 
 と蚊の鳴くような声で言った。
(…………ん?)
 善弥は考える。
 ――リゼが死ぬまで。
 それはつまり、一生リゼを守れ――ずっとそばに居ろということで。
 善弥はリゼを見た。
 リゼは善弥から顔を背け、耳まで真っ赤になっている。
「そういうことよ」
 絞り出すようにリゼが言った。その様子があまりにもいじらしかったので、善弥は思わず声を上げて笑ってしまった。
「ちょ、ちょっと! 笑うことないでしょ‼」
「ッはは、すみません――ははははははははは」
「もう!」
 笑う善弥をリゼはジトっとした目で見つめる。
「で? 返事はどうなの?」  
「――勿論お受けしますよ」
 善弥は真っ直ぐにリゼに差し出した。
 リゼは満足げに微笑んでその手を握る。
 以前と同じ挨拶だけれど、その意味合いは大きく違う。
「リーゼリット・アークライトが生きていく為に、あなたにそばに居てほしい」
「あなたの命が尽きるまで、鷹山善弥が死力を尽くしてお守りいたします」
 二人を柔らかな陽射しが照らした。
十二田明日 

2021年03月18日(木)17時36分 公開
■この作品の著作権は十二田明日さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
投稿三作目。
GA文庫大賞に投稿予定です。
それを前提として、忌憚のない意見をお願い致します。
コメントをいただいた方の作品は、必ず読んでコメントを付けさせていただきます。


PS.昨年投稿した『俺は人間ですか?〜』が、第13回GA文庫大賞(後期)三次選考で落選となりました。
力及ばず受賞とはなりませんでしたが、拙作がここまでこれたのも鍛錬投稿室でのコメントを参考に改稿できたのが大きいと考えております。
どのようなコメントでも構いません、色々な方のコメントを頂けたらと思います。


この作品の感想をお寄せください。

2022年01月15日(土)09時02分 十二田明日  作者レス
大中英夫様、感想コメントありがとうございます。
良い感想をいただけて、自分としても嬉しく思います。

さて、ご指摘いただいた件、とくにリゼの正体に関する伏線ですが、確かに張れておりませんでした。彼女には何かあるな感を出したつもりだったんですが、どうにも上手く行きませんでしたね。
今読み返すと、ちょっと唐突に見えてしまうかも。



貴重なご意見ありがとうございます。
それと返信が遅れて申し訳ありません。

大中英夫様の『天眼のソードダンサー』も拝読させていただきます。
今しばらくお待ちください。

pass
2022年01月11日(火)20時20分 大中英夫 CWCkPYJQLQ +30点
はじめまして、大中英夫と申します。
早速ですが、感想を述べさせていただきます。

《良かった点》
しっかりした武侠スチームパンクでした。世界観・作中独自技術の解説が整っていて。
それだけでなく、すき焼きが当時流行していたことや東京各地の落人群のことについても描いていて、歴史ものとしても成立しています。
戦闘シーンに迫力があります。読み応えがありました。

善弥とリーゼリットの出会いで、主人公の人となりが分かりやすく描かれており、話に没入しやすかったです。

次の飯を食うシーンで、オートマタが登場し、時代小説ではなく、和風ファンタジーだと分かりやすく説明なさってました。
物語の展開にスピード感がありました。ハリウッドのアクション映画的というか。
主人公がヒロインを助けて、事件に巻き込まれていく。その中で主人公が腕の立つところをしっかり見せてらっしゃる。

>>「――あなたといれば、戦いの場に事欠かない、と」
僕はひねくれものなので、ここらへんでゾクリとして期待感が高まりました。王道の中の外連味というか。
まっとうなヒロインといい対比関係ですね。

研究棟に忍び込んだ時の戦闘シーン。武術のキモを抑えた描写でした。実際の武道的なリアリティがあるかは分かりませんが、僕には説得力があるように見受けられました。

ヒロインが獣耳の子供をためらいなく助ける選択をするシーンもお約束ですが、憎い展開ですね。
>>そんな誇り高い少女の仲間になれていることが、何より嬉しかった。
サイコな主人公ですが、この一文でまっとうな倫理観をちゃんと持ってる事が示され、読者置いてきぼりの人物像ではないのもいいと思います。

逃げ延びたホテルでの一幕。主人公の過去が薄っすら見えてきて、ヒロインへの興味関心を示しているところに人間ドラマを感じました。

>>それはきっと、彼女たちが純粋だからなのだろうと、善弥は思う。
>>何となく、座席以上の隔たりを、善弥は感じた。
主人公の独白は小説のだいご味ですね。

主人公が過去について語るシーン。自分を剣だと思っている主人公がこの先、ヒロインとの関わりのなかでどんな変化を見せてくれるか楽しみになりました。この時点で佐村がラスボスっぽいなと感じました。

クリちゃんを殺せず戸惑うシーンで、主人公が変化しつつあるのを丹念に描いてらっしゃる。

佐村と因縁の再開。起承転結の『転』ですかね。

自分を責めるクリちゃんを慰めるところに主人公の成長を感じました。攫われたリゼの行方をクリの鼻で探す展開もいい。化け物にされた災いが転じて仲間を救う福になってます。

>>「あの娘を使うことで『手記』の暗号を解読、そのまま要塞の制御システムと連動させる――まさしく私のような天才にしか成しえぬ所業! 私の技術は世界一ィィ!」
しれっとジョジョネタ交えてきましたね笑

要塞での佐村戦前。リゼの正体が分かり、主人公も過去を完全に吹っ切れた時は盛り上がりました。

>>「お前はここで倒す――必ず!」
>>善弥は叫んだ。
>>「貴様はここで殺す――行くぞ鷹山善弥!」
このやり取り、好きです。

ラスボス倒したら要塞が崩れる。脱出。王道を分かっておられる。

最後のやり取りもベタですが、グッときました。

総称して。一つ一つのシーンに無駄がなく、丁寧につづられた物語でした。
作中のテーマを完遂していますし。

《気になった点》
これに関しては、個人的な意見です。
>>(ったく、一体何なんだこのガキは……!)
主人公の視点ではなく、チンピラのボスの視点にいきなり切り替わってますよね?
三人称視点といえど、同じシーン中に視点がコロコロ切り替わるのを好まない読者もいます。
とはいえ、名作の中にも同じシーンで視点が切り替わる作品もありますので、好みの問題かと。
僕は読みにくいとは思いませんでしたが、一応。

見落としていたら、すみません。リゼの正体の伏線ってありました?
もしないのであれば、付け加えた方が説得力が増します。
たとえば、電極を刺されたことで代謝かなにかに変化が生じ、その生理現象が表面化する。それを誤魔化すようなシーンを
実際の科学に基づかずとも、それっぽく描写して構わないと思います。

要塞からの脱出がアッサリしすぎているように感じました。ピンチになったり、要塞を墨田川に向かわせられなくて困ったりなど、もっと盛ってもいいかなと。

以下、細かな指摘です。受賞のポイントとは無関係です。
>>その美しさに、善弥は一瞬目を奪われた。自分でも気が付かないほど、ほんの一瞬だけ。 気付けば善弥はまた一歩、路地へ踏み入れていた。
改行できてません。文と文の間にスペースが入ってます。

>>だがあのわずかな時間で蒸気馬の弱点を見切り、的確にそこを突いて見せたのは、まぎれもなく事実である。 剣術や体術だけではない。
ココも同じです。

>>その場の場で最善手を選ぶ
その場その場で

>>「久しいな。『さか』帝都で会うとは思わなかったぞ」
ま、が抜けています

以上です。長文失礼しました。
55

pass
2021年12月14日(火)19時35分 十二田明日  作者レス
きゃつきゃつお様、コメントありがとうございます。

今作は残念ながら二次落選となってしまいましたが、いただいたご意見を次回作に活かしたいと思います。
またこちらの投稿室に作品をあげていきますので、その時はよろしくお願いします。 


きゃつきゃつお様の作品も、現在拝読中です。
読み終わり次第コメントさせていただきますので、もうしばらくお待ちください。

pass
2021年12月12日(日)17時20分 きゃつきゃつお  +40点
 はじめまして十二田さん。きゃつきゃつおと言います。

 作品読ませていただきました。面白かったので一気に読めてしまいました。

 善哉のようなヒーローっていいですね。私は個人的に凄い好みです。自分も普段は飄々としているが、いざとなったら……というのに憧れがありますので。

 ふとしたことから助けた少女との縁で、どんどんと運命が変わっていく……思いがけない陰謀に巻き込まれて行くさまがテンポよく描写されていたと思います。

 多少の誤字は散見されましたが、十二田さんのことですから再度推敲の際に気づかれると思いますので、そこは割愛したいと思います。

 以下生意気なようですが、私だったらと感じた点を書かせていただきます。

 格闘シーンのところは、臨場感が伝わり読んでいてイメージがわきました。私も格闘シーンを書くことが多いので参考にさせていただきます。
 ただ、実際に接触があった時には、ドスッ! バシッ! 等の擬音を描くようにするのも臨場感を伝えるうえで良いのではないかと思いました。特に主人公が抜刀して拳銃を持っている男の手を目にも止まらぬ速さで切り落とすシーンでは、ブワァーッ! 等の擬音を用いて、主人公が神速で動いた際の風しか感じなかったというような部分を加えると、より主人公の常人離れした能力を表現できるのではと思いました。
 馬車のシーン等、アクションシーン全体に加えると良いと思いました。
 
 私もこの度拙作ではありますが、「長編の間」に投稿させていただきましたので、お時間が許す限りで結構ですので、ぜひご意見、ご感想をお聞かせください。
 私の作品などは冒頭を読んでいただいただけで、ド素人と見抜かれ呆れてしまうとは思いますが、読んでいただいた範囲で構いませんので、よろしくお願いします。

きゃつきゃつお
52

pass
2021年05月07日(金)12時40分 十二田明日  作者レス
ふじたにかなめ様、批評依頼に引き続きコメントありがとうございます。
最後まで読んでいただけて、とても嬉しいです。


個人的には、力を入れて書いていた戦闘シーンを褒めていただけて嬉しく思いました。


指摘されている十二田の文体に関しては、目下皆様のコメントをもとに改稿中です。誤字なども、教えていただいた箇所は、公募前に必ず修正しておきます。

それと世界観に関してですが、
『リゼの事件しか物語が描かれていないので、ずっと忙しない展開のようにも感じる』
という意見には、思わず唸ってしまいましたね。
確かにテンポよくお話を進めようとするあまり、世界観・舞台設定などを掘り下げるような描写が少なかった……枚数的に分量は割けないのですが、何か小さなエピソードか描写を足してみようと思います。


ふじたに様も自分の作品の執筆がある中、こうしてコメントを下さりありがとうございました。
ふじたに様の『実は隣国の密偵ですけど。悪女には向いていません』も、拝読のうえコメントを返させていただきます。


pass
2021年05月06日(木)19時52分 ふじたにかなめ  +20点
自作が完結したので、続きを読ませていただきました。

序盤は、「リゼの父の遺産の破壊」「敵の存在」という物語の目的が分かりやすく提示されているので、読みやすい構成になっていると思いました。

>「それで――娘をどうやって捉える気だ?」
→文脈的に「捕らえる」でしょうか?

第二章 新時代の魔導書

>「今夜はあそこに忍び込んだから」
→文脈的にこれから忍び込むので、「忍び込むんだから」でしょうか?

>でも、今の世界は『手記』を軍事利用の為にしか用いようとはしない
→現状では、軍事利用の為以外にも使うっていう意味になっていませんか?

文脈的には、軍事利用以外には用いようとはしない、もしくは、軍事利用の為にしか用いない、でしょうか?

あと、「〇〇する善弥。」「〇〇するリゼ。」っていう言い回しが多い感じだったので、少し変化が欲しい気がしました。

>追いかけてくる警備員。先頭を走っている警備員が、すぐそばまで迫っていた。

 →警備員を使用しすぎなので、文章がくどい気がしました。

たとえば、「警備員たちが追いかけてくる。先頭にいる者が、すぐそばまで迫っていた。」みたいに変えると、警備員は一回しか使用しないと思いました。

戦闘シーンは良かったです!
十二田明日様は戦闘シーンが上手いですね。自分の得意な点を中心に物語を描かれていると感じました。

世界観についてですが、最初「書生」・「刀(廃刀令?)」などが描かれていて明治時代にちょっとカラクリって印象の世界観だったんですが、ワイヤーや、腕に銃?、手記がある部屋のハイテク具合、キメラ合成と、どんどんテクノロジーが現代と同等かそれ以上のものが出てくるので、違和感のほうが大きくなっていきました。和風の国で科学が発展した世界観なら、もっと丁寧にこの世界の人々がどんな暮らしをしているのかイメージしやすいように描いたほうが良かった気がしました。
ここまでで、リゼの事件しか物語が描かれていないので、ずっと忙しない展開のようにも感じるので、緩急をつける上でも、善弥がどうやって生活していたのか途中で描写を挟んでも良かったのでは?って思いました。

第三章 人狼の幼女と人斬りの過去

善弥がリゼにどうして人を助けるのかって尋ねてましたが、唐突だった気がします。彼がセリフでそういうことを言っているのは覚えていますし、生死をかけた戦いに心地よさを感じているのは、描かれていて分かったんですけど、彼の内面を吐露するだけの関係性がここまでリゼとの間に作られていたかと言われると、まだこういうシーンは早かった気がしました。どちらかというと、クライマックス直前のシーンくらいに心理的な踏み込みに該当しました。また、彼がそう思うだけの背景がほとんど察せられないんで、共感がしづらかった気がしました。これまでにもうちょっと何か彼の過去を想像できる心理的な呟きや描写などあれば良かったです。
リゼの外見描写が魅力的でした。
あと、ポラロイドカメラって、私の記憶では昭和の時代に作られて出てきたものだったと思うので、ここでも明治時代の世界観とは合わない気がしました。

第四章 心

ムカつく敵が出てきて盛り上がってきましたね。
クリちゃん、どうなるのかなってハラドキでした。
戦闘シーン良かったです。

第五章 起動する要塞

バイバイ悪役二人。本当の悪人が登場ですね! 敵キャラが強いって感じの演出がとても良かったです。

第六章 人の強さ

ハラドキの戦闘上手いなぁってしみじみ感じました。みんな良かったですね。
リゼの意外な真実も良かったです。

全体的に、リゼが抱えた問題を善弥が助ける話としては、大まかな流れは良かったと思います。
マイナスに感じた点は、善弥についてよく分からないまま感情移入しづらく中盤まで話が進む点と、世界観のイメージが不安定に感じた点でしょうか。

陰のある主人公は好物でしたよ。リゼも好感のあるキャラとして描かれていました。
敵キャラも、イメージ通り悪党で、やられて良かったと思いました。

文章については、テンポがよく、戦闘シーンの上手さがスゲーって感じで輝いているんですけど、たまにシナリオのようなト書きの書き方が気になる感じでしょうか。

自分のことを棚上げして色々と書きましたが、あくまで個人の意見ですので、合わなければ流していただいて構いませんので。

公募、応援しております。ではでは、失礼しました。

73

pass
2021年05月01日(土)16時13分 十二田明日  作者レス
ツユリ様、感想コメントありがとうございます。

受賞できるまで、こちらの投稿室にドシドシ作品を上げていきますので、これからもよろしくお願いします。



pass
2021年05月01日(土)13時34分 ツユリ  +40点
Twitterの隠れた名作を発掘したい!より来ました。

しっかりとした文章ですね。
スラスラと内容が入って来ました。
登場人物のキャラも引き立っていて面白かったです。
73

pass
2021年04月16日(金)22時03分 十二田明日  作者レス
大野知人様
コメントありがとうございます。

批評依頼に引き続き、投稿室にもコメントをいただけて、とても嬉しいです。


さて、ご指摘のあった点についてですが、まず
1 一部キャラのブレ・キャラが作者の都合で動いてる感
これは設定と描写の粗さが出てしまったのかなと、十二田は捉えています。
特にキャラのブレ(主人公・善弥の性格が冒頭と中盤でかなり違う)事に関して。キャラは成長に合わせて変化していくものですが、その変化を説得力を持たせてシームレスに描けなかった。だから大野様にはそれがブレとして読めたのだと思います。
この辺りはより描写を増やして、違和感をなくすよう改善しますね。


2 各種リアクションの『溜め』の短さ
例文を見てから読み返すと、確かに今作の描写はかなりアッサリ目ですね。(言われると分かるのに、自分だけじゃ気付けない不思議)
これは直すだけで、かなり良くなりそうです。この部分は最優先で改稿したいと思います。


3 同じ単語・文尾・形容詞の連続
これに関しては、もう耳が痛すぎて何も言えません。何とか頑張って直します……。


4 歴史との各種矛盾
自分としては、本物の歴史と違うとこを打ち出す事で、似てるけど違う歴史・ifの世界であると表現したかったんですが(スチームパンクだとよくある)、裏目に出てしまったようです。
どこまで現実に寄せて、どこから空想を描くか――線引きの難しいところですね。



様々なご指摘ありがとうございました。
サイド様の作品を読み終わり次第、大野様の『ゴーレム乗りは荒野を駆ける』を拝読させていだき、コメントを返させていただきます。
今しばらくお待ちください。m(_ _)m


pass
2021年04月16日(金)21時33分 十二田明日  作者レス
サイド様
コメントありがとうございます。


多くの詳細な感想をいただけて非常に嬉しいです。
特に主人公・善弥とヒロイン・リゼの関係性や作品に込めたメッセージを、ちゃんと受け止めてもらえて、『伝わって良かった』と喜びに打ち震えております。


さて、サイド様にご指摘していただいた点として、
『要素は出揃っているのに、心理描写が足りないために出せた面白さが、失われてしまっている』『感情描写などもっと深く書き込まれていれば』
とあり、要約すると
・クリを助ける前の描写(クリに対する思い入れの強さを表す)
・師匠との過去(主人公がどうして今のような思いを抱くようになったのかの補強)
・リゼのバックボーン(ヒロインの感情と、それを思う主人公の感情に深みを出す)
が足りなかったという理解をしております。
これらに関しては『全くもってその通りだな』と納得しました。特にクリを殺さずに倒すと決意するシーンは物語の転換点でもあるので、最優先で改稿したいと思います。


次にラスボスの佐村が安っぽく見えてしまうという点ですが、これはもう単純に十二田の力不足ですね。敵役を大物らしく表現することが出来ていませんでした。自分でもちょっと微妙かなって思ったんですが、どう直せばいいのか分からなかったんですね。
これに関しては、サイド様から面白い改善案をいただけましたので、このアイディアは使わせていただこうと思います。


最後に文体と言葉づかいに関して。
文体に関しての指摘は非常に耳が痛かったですね。実は前作、前々作でも指摘された事の点でして、未だに直せていない十二田の悪癖です。(自分では気づけない所なので、投稿前に教えていただけてホント良かった)
言葉づかいに関しては、あくまでも時代小説ではなくエンタメとして書いた作品なので、現代的な言葉の方が伝わりやすいかと思ったんですが、どうやら裏目に出てしまったようです。
こちらも投稿前に修正しておきます。




サイド様の『君のとなり』を只今拝読中です。
近日中にコメントさせていただきますので、少々お待ちください。

非常に参考になるコメント、本当にありがとうございました。m(_ _)m

pass
2021年04月16日(金)06時46分 十二田明日  作者レス
通りすがりの読者様
コメントありがとうございます。

分かりやすく直ぐに事件を起こそうとするあまり、冒頭のシーンが陳腐になってしまったようです。何かもう少し特徴を出せるように改稿したいと思います。

返信不要とありましたが、貴重なコメントありがとうございました。

pass
2021年04月12日(月)07時36分 大野知人 dEgiDFDIOI +30点
 大野です。
 前回、二章まで読んで『批評依頼!』の方に感想を書きましたが、前回叩いたのは文章の読みにくさだったのですが、そちらにまとめた分で文章自体への指摘は概ね言ったと考えるので、今度はこちらに『内容』への感想を書かせていただきます。

 個人的に問題と感じた点としては――
 1一部キャラのブレ・キャラが作者の都合で動いてる感。
 2各種リアクションの『溜め』の短さ。
 3同じ単語・文尾・形容詞の連続。
 4歴史との各種矛盾。

1 一部キャラのブレ・キャラが作者の都合で動いてる感。『批評依頼』の方にも書いた通りなのですが、レクター博士の詰めが甘かったり、善弥の性格が冒頭〜中盤でかなり違う・描写に極端な差異が見られます。

2 各種リアクションの『溜め』の短さ。救出された後、クリ嬢が目覚めるシーンが分かりやすいですね。『名前を聞かれる』→『体を震わせる』→『どうしたのかと聞かれる』→『記憶が思い出せないと答える』と、言うのが大雑把な流れなのですが、『問われる〜答えられずに震える』の描写が地の文にして『幼女は言いよどみ、身体を震わせた。』であり、些かたんぱくに感じられます。
 例文:
「ねぇ、あなたの名前を教えてくれない?」
 問われた言葉に、少女は一瞬きょとんとした表情を見せる。
 それから、しばし何かを思い悩むように俯いたり、意味もなく首を振ったりした後。
「ええと、その……わからないの」
 ボソリとつぶやいて、ひどく寂し気に体を震わせた。
 寒いというわけではないだろうに、善弥は見当違いの疑問を抱いたが、口を閉ざしてしまった少女に、リゼは問いを発する。
「分から、ない?それは一体、どういう……」
「思い出せないんです! ……さっき目が覚めてからはハッキリしてるのに、その前が、出てこないの」
 激昂したように叫んでから彼女は平静を取り戻し、記憶が無い旨を語る。
 その様はまるで迷子になったかのようで、リゼは共感して顔を悲痛に歪めた。
 
 まあ、これはやや過剰に書きましたが。精神的ショック・気付き・成長・怨敵への叫び声など、キャラクターの感情が大きく動く場面への『シーンの溜め』が短いように感じます。
 ちなみに、このシーン直後の『これでこの子の記憶を頼りに〜』って善弥のセリフは、いかにも空気読めてない感じで好ましいです。

3 同じ単語・文尾・形容詞の連続。文法の注意ですが、『〜のだ』とか『〜である』みたいな文尾が同じ文章、『リーダー格の男』や『ファイヤーウォール』のような長めの単語。などです。また、誰かが怯えているシーンでは『震える』を多用する、外見的特徴について褒める際には『美しい』がやたら出てくるなど、厳しい言い方をすれば『語彙の少ない』文章になっています。
 語彙の少なさへの対応策としては、『国語辞典を引け! 類語のところに書いてある単語を片っ端から調べろ!』と言ってもいいんですが、もっと乱雑に『Google翻訳で英訳した後、再度日本語に戻す』なんて手段もあります。また、英語/和製英語←→和語交じりの言葉←→漢字を使い分けるだけで、語彙は結構増えます。
 また文尾については、日本語では『過去形』(〜した)『完了形』(〜していた・〜しておく)『過去完了形』(〜しておいた)『過去伝聞』(〜したらしい・〜したようだ)の区別があいまいなので、それを使ってある程度コントロールしましょう。『現在形』(〜する)の文章についても『現在進行形』(〜している)『完了形』(〜しておく)『推察』(〜した方が良さそうだ)『倒置』(〜された○ ○ 、〜したのは○ ○ だった)などで、バリエーションを付けましょう。
 書き換えの例:
 『ファイヤーウォール』-『機械側の守り』-『電子防壁』
 『小麦色の肌』-『服から見えるベージュ』-『褐色肌』
 『落人群』-『リゼの言う所のスラム』-『暗黒街』
 『〜たのだ』『とりあえず〜して、それで良しとする』『〜しておく』
 
4 歴史との各種矛盾。史実をネタにした結果として、設定のオリジナリティがわかりにくくなっている。

 作品の良かった部分については、細かく説明せずとも作者さん自身が理解していらっしゃると思いますが、
 1善弥の内面・精神的成長が丁寧かつ分かりやすく描かれていた点。
 2人狼や各種機械など、様々な技術にかかわる謎・ミステリ。
 3リゼというヒロインの描き方。魅力を最大限に生かす活躍。
 などじゃないでしょうか。

 文章の書き方・メインじゃない一部キャラ・主人公以外の内面の表現に問題を感じる部分が多々ありますが、非常に芯がしっかりしていて、良い作品であったと思います。
68

pass
2021年04月11日(日)16時59分 サイド  +20点
続きです。


次にリーゼリット・アークライト、ことリゼ。
明るく快活で、誰にでも好かれる人の良いヒロインという感じでしょうか。
クリを無条件で助けようとしたり、善弥を優しいと言ったり、作品の根を支える人ですね。
最初に余談ですけど、彼女に年齢をうかがわせる描写ってあったかな? と思います。
読み落としかもですが、善弥が確か17とかなので、彼女はどの位なのか書いてあったら、よりイメージが湧いたかと。
個人的には15歳くらいの割りと年端の行かない感じで想像していました。

彼女は善弥と違い、ところどころでポンコツなところがあってよかったですね。
元気印の娘はだいたい無計画が相場ですし、彼女まで完璧無欠だったら息苦しかったかと。
いろいろなことを知ってはいるものの、勢いで突っ走るのはご愛敬でしょうか。

彼女が、「電脳」もちだったことには驚きましたが、唐突な感じはありました。
育ちが良さそうに見えて、辛い環境で育ったというギャップもよかったですが、父親との関係性が見えなかったのが、もったいなかったです。
個人的には割と良好な感じに見える、歪んだ親子愛か? みたいな邪推もあったんですが、父親って根っからの外道だったのかどうかは知りたいところ。
良心の呵責が実はあったのか、全然なかったのか。
リゼはそんな生前の父親を、どう見ていたのか。
まったく気付かず、天真爛漫に信じ切っていたのか、薄っすら気付きつつも、疑うこともできなかったのか。
その辺りがはっきりしていば、善弥の彼女を思う気持ちにも深みが出たかもしれませんね。
今後は、善弥を相棒とし、クリにいじられながら世界を巡って無茶をして欲しいところ。(笑


最後に、クリやその他の人物について。

クリに関してはマスコットキャラという印象です。
メインの二人は定まっているので、これ以上掘り下げても横道へ逸れるだけかもですね。
足りないと言えば足りないんですが、新人賞の尺を考えるとこのくらいの描写量にならざるをえない感じ。
人体実験という悲惨さを持っていますが、そこを深く掘り下げるかどうかも難しいところですね。
読む人によっては、「こんな過去を持ってるのに、トラウマが浅い!」みたいところもありそうですし、でも、そこを突き詰めるとテーマが変わりますし。
何にせよ、善弥とリゼに幼さゆえの無邪気ツッコミを入れ続けるポジを保持して欲しいところ。

レクターについては、もうやられキャラと思うしかないかなーと。
「ヒャッハー」とか言い出したところで、「あ、退場だな」と思いましたが、続く、「無駄無駄ァ」などに関しては修正したほうがいいと思います。
多くのオタクは察してしまうセリフですし、正直、作風から浮いていました。

佐村については、強キャラなのになんか安っぽいような印象があります。
このキャラクターを通して示したいのが、個(侍)としての強さの在り方なのか、全(国)の強さの在り方なのかがブレていたんですよね。

>俺のつくる新しい日本に相応しい

と言っていたんですが、個として支配欲の塊であるなら、日本単体の強さになんて限らず、大英なり世界全体なり、全てを制服してやるぞ! くらいに振り切った方が古い軍人っぽいと思います。(個人的感想
また、サイボーグ要素があるのなら、「最強の人間vs最強のサイボーグ」もできたのかなーとも。
切られても硬直しないで切りかかってくる、いつでも手足の脱着可能、そもそも痛みがないみたいな生身から見ると悪夢みたいな敵と古剣術がどう戦うのも面白かったかなと。
まあ、それはもう別ジャンルのサイバーパンクだよ! と言われたら、それまでなんですが、ところどころに「古剣術」と「近代」の構図が見えたので、つい、そう思ってしまいました。(笑


最後に、文体や使っている言葉についてです。
文体に関しては、
>善弥が口を開いた。間の抜けた声だった。
は、
>善弥は間の抜けた声音で言った。
に。

また、
>慣れない様子で善弥はリゼの手を取った。
>リゼは善弥の手を力強く握り返す。

>慣れない様子で善弥はリゼの手を取り、彼女は善弥の手を力強く握り返す。
のように、二つにまとまられる部分は多くあったので、テンポを取りつつ、直せるところはあるかと思います。
まあ、その辺りは作者様の裁量によるところなので、難しいところではありますが、若干読みづらい点はありました。

もう一つ、言葉づかいについて。
これは、序盤から、
>声のトーン
>ヒステリックに叫ぶ
>スピードは落ちるし
など、時代背景と噛み合わない外来語が使われていて結構、違和感がありました。
トーンなら音調、ヒステリックなら半狂乱、スピードは速さなど、日本語を使った方がいいと思うシーンは多く、特に終盤になると描写が現代異能バトルと変わらないので、横文字は可能な限り変えた方がいいかと。
佐村との最終戦などは、侍の切り結びなのに、カウンター、タイミングなどが出て来ると「あれ?」ってなってしまうので。

以上、いろいろ言いましたが、善弥のたどり着く結論が心地いい作品でした。
ただ、感情描写などもっと深く書き込まれていれば、と感じる部分がかなりあったので、「20点」とさせていただきたいと思います。
執筆、お疲れ様でした!

84

pass
2021年04月11日(日)16時58分 サイド 
こんにちは、サイドです。
作品、読ませていただきました。
感想の形としては、キャラクターの心の移ろいを軸としたいと思います。
文体や視点など、気になる点もありますが、そちらを優先して書くことになります。

まず、メインキャラクターの鷹山善弥について。
感情の流れとしては、「自己を諦観している兵法者」から、「生きる理由、守るものを見つけた血の通う人間」へ変わっていくというものだったと思います。
リゼが「動」なら、彼は「静」の立ち位置でしょうか。
ボーイミーツガールのような形でばったりヒロインと出会い、ピンチを助け、行動を共にしていく中で、自らの感情の在り方を見つめていくという流れができていて、「ああ、こういうことがテーマなんだな」と序盤で理解できたのがとてもよかったと思います。
王道って感じですね。
構成として、最初にピンチを持って来たこと、修羅場をさらっと凌いでしまう腕を見せることで、彼の性格や考え方が上手く見えるものになっていたんじゃないでしょうか。
強さの示し方として、序盤に無類の強さを見せ、雑魚を倒し、手ごわい中ボス(ガゼル)、幹部(レクター)、ラスボス(佐村)と戦うという流れも、よくできていたと思います。
精神的には淡々としているのに、アクションシーンでリゼより動くのはご愛敬といったところでしょうか。(笑

章が進むごとにリゼの快活な心にあてられ、自らの心の在り方について揺らぎを見せていくという展開もよかったです。
先にも上げましたが、リゼが「動(熱)」なら、彼は「静(冷)」の役割なので、このくらい淡々としているのが正解かなって感じもしますが、コミカルなシーンがもっと欲しかった気持ちはありますね。
蒸気馬に小銭を入れるシーンがありますが、成功するには成功するけど、思ったより効果が出るまで時間がかかって、実は内心焦ってた、とか彼の思い通りにならない場面があったら、親近感が出ていたと思います。
まあ、「強い主人公像」を求めると、隙がなくなりますし、無敵のヒーローを見たいという方もいらっしゃると思うので、そこは好き好きですが。

また、特にいいなと思ったのが、第一章の結びでヒロインとヒーローの関係性が見えたことですね。
一章の最後に、

>「リゼさんはこの子を助けたいですか?」
>「もちろん!」
>一切間を置かず、何の躊躇もなく、リゼは言い切った。
>「……ですか」
>善弥は少しだけ頬を緩める。
>素直にこの少女の用心棒で良かったと善弥は思った。

というやり取りがありますが、これがこの作品のテーマの縮図と到達点なんだと思います。
ここで、「ああ、この物語はこんな形で終わるんだろうな」といういい意味での安心感がありました。
同時に、彼がこのシーンに反する行動を取り始めたら、「あれ?」と考えるだろうなとも。
この辺のセリフ回しや構成は多分、計算してやっていたんだろうなあと。
その後もリゼは、クリを助けようとしたり、彼を優しいと言ったりするので、結構、それに救われていたんだろうなとも感じます。
こういう関係性っていいですよね。

そのほかにも、「僕は剣だ」と言っていたり、志や信念がないと言っていたりしても、守るべきものを持った少年誌ヒーローみたいな感じで、見捨てることもできなかったワケですから、その辺り彼自身は物静かでありながら情熱的な一面も持っているんでしょうね。
個人的にはクリがいなくなったイベントで、もっと心の揺らぎを見せて欲しかったです。
戦場で感じる不安や怖れとは質の違う、心配や安堵が生まれ、初めての感覚に戸惑う、みたいな等身大の描写があれば、後のクリと戦う際での葛藤や、リゼ救出のための焦りや達成感に繋げることができたのではないでしょうか。
そういう意味では、要素は出揃っているのに、心理描写が足りないために出せた面白さが、失われてしまっているという感覚は、正直なところありました。
視点が定まりにくかったこともあり、心理描写の差し込み方は難しいものがあったかと思いますが、その辺りの感情描写に多彩さがあればもっと……と思います。
クリに対しても、尺に合わせたイベントの量だったのかもしれませんが、「初めてできた妹みたいな存在」に、戸惑いに似た喜びを覚えるような仕草や行動があったら、もっと彼が最後に出す結論に説得力が出たかと。

>それでもクリを。
>この小さく愛らしい栗毛の幼女を。
>殺したくないと思っている事だけは、間違いなく本当だと言える。

ここに感情移入させるためには、やはりエピソードが足りなかったかなーって思いはやはりありますね。
結論がシンプルで、彼の個性を表すいいものだからこそ、もうひと押しといったところです。

また、「僕は気が付けば人をどう斬り殺すか、そればかり考えてえしまう」と結論へ至るにあたり、師匠の存在があったワケですが、師との関わりが少なかったです。
主人公に対して師匠が存在し(男女問わず)、心の在り方に影響を及ぼすという物語は多くありますが、感情移入させるためのエピソードがほとんどなかった。
師匠は後悔しているような言葉を残していただけに、そこがもうちょっと欲しかったかなーと。
まあ、でも、過去に力を入れ過ぎると、現在進行形の物語に支障が出るので、難しい塩梅ではありますが。(汗

終盤でリゼが、「電脳」持ちであることを知り、それでも信念を持って行動していた彼女に、「力になりたい」と思ったのはすごくよかったです。
彼個人で得た答えではなく、リゼの頑張りを見て、知っているからこそ、心に響く物があったという演出には力がありました。
彼女の言動から自らを恥じ、顧みて、行動を変えていくというのは王道的な展開でしたね。
彼自身には卓越した剣の腕があるワケですが、そこは演出で、この結論へ至らせるために、明治という舞台だったり、自動人形だったり、野心家のライバルだったりが登場したんだと思います。
個人的に、「少しでもリゼの力になりたいと思うのなら」の一言が、この作品の全てではないかと勝手に考えています。
そういう意味で、御作には最後に至る軸があったので、読んだ後に、爽やかで心地いい余韻があったんだろうなと。

最後に彼が、
>「ッはは、すみません――ははははははははは」
と、らしくない笑い方をしたのが、その象徴ですね。
なんか、大いに笑ってたんだろうなーと。(笑


長くなったので一旦、句切ります。



78

pass
2021年04月10日(土)17時18分 通りすがりの読者(返信不要)  0点
冒頭だけ読みました。仮に主人公が悪漢に囲まれたヒロインを救出するという設定自体の陳腐さには目を瞑るとしても、作家の卵が同じ場面を書けと言われたら、十人中九人は似たような描写、似たような台詞になるのではないかと。
プロ志望のようなので多少キツい物言いになりますが、読み続けるのが苦痛というほどではないです。暇だったらもう少し先まで読んでたと思います。頑張ってください。
62

pass
合計 7人 180点


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